メルクマニュアル18版 日本語版
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ナイアシン

Larry E. Johnson, MD, PhD

ナイアシン(ニコチン酸)誘導体にはニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD,補酵素Ⅰ)およびニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP,補酵素Ⅱ)が含まれるが,これらは酸化還元反応における補酵素である。これらは細胞内代謝においてきわめて重要である。食物中のトリプトファンはナイアシンに代謝されるので,トリプトファンが豊富な食品(例,乳製品)を摂取することより,食事によるナイアシン不足を補うことができる。

ナイアシン欠乏症

食事によるナイアシン欠乏症(ペラグラを引き起こす)は,先進国では一般的ではない。臨床所見には「3つのD」がある:びまん性および色素沈着性発疹(皮膚炎のdermatitis),胃腸炎(下痢のdiarrhea),および認知力低下(認知症のdementia)を含む広範囲の神経障害である。しかしながら,下痢よりも便秘の方が一般的にみられる。診断は通常臨床的であり,食事による補給が通常奏効する。

病因

原発性欠乏症は,ナイアシンおよびトリプトファンの摂取がきわめて不十分な場合に起こり,通常,トウモロコシ(インディアンコーン)を主食とする地域に起こる。トウモロコシに含まれる結合性ナイアシンは,トルティーヤが調整される場合と同様に,あらかじめアルカリ処理しないと消化管で吸収消化されない。トウモロコシの蛋白はトリプトファンも欠乏している。インドでロイシンを多く含んだ粟を食べる人々にペラグラがよく発生することから,アミノ酸不均衡が欠乏症に関与しているという仮説に至った。蛋白質や何種類かのビタミンBの不足は,一般に原発性ナイアシン欠乏症を伴う。

二次性欠乏症は,下痢,硬変症,またはアルコール中毒により起こりうる。ペラグラは,長期のイソニアジド治療中や,カルチノイド症候群(トリプトファンが,5-ヒドロキシトリプトファンに変化する),ハルトナップ病においても起こることがある。

症状と徴候

ペラグラは,皮膚,粘膜,中枢神経系,および胃腸症状を特徴とする。進行したペラグラでは,対称性光線過敏性皮膚炎,口内炎,舌炎,下痢,および精神異常が起こりうる。症状は単独で,またはこれらが組み合わさって現れる。

皮膚症状にはいくつかのタイプの病変があり,通常両側対照的に認められる。圧迫点または日光に暴露した皮膚に生じる皮膚病変の分布は,病変の形状より疾病特徴的である。病変は両手に手袋様(pellagrous glove),または両下腿と足にブーツを履いたような(pellagrous boot)分布を呈する。太陽光線を浴びると,首の回りにカサールの首飾り様の,また顔には蝶形の病変ができる。

粘膜の症状は主に口腔内に起こるが,腟や尿道にも起こることがある。舌炎および口内炎は,急性欠乏症に特徴的である。病状が進行するにつれて,舌や口の粘膜全体が明るい深紅色になり(scarlet glossitis),ついで口腔内の疼痛,唾液増加,舌の浮腫が起こる。潰瘍化が特に舌の下側,下口唇の粘膜,臼歯に向きあったところに起こることがある。

欠乏症の初期段階では,消化管症状として,咽頭および食道の焼けるような痛み,また腹部不快感および腹部膨満感が起こる。便秘はよくみられる。後に,悪心,嘔吐,下痢が起こることもある。下痢は,腸の充血および潰瘍化によりしばしば血便となる。

中枢神経系症状には,精神異常(記憶障害,見当識障害,錯乱,および作話症を特徴とし,興奮,うつ状態,躁状態,せん妄,またはパラノイアが優勢な症状である),脳症(意識障害を特徴とする),および認知力低下(認知症)が含まれる。

診断と治療

診断は臨床的に行い,皮膚と口の病変,下痢,せん妄,および認知症が同時にみられる場合,診断の確定は容易である。多くの場合,症状の発現はあまり特異的ではない。これらの中枢神経系の変化と,チアミン欠乏による変化とを鑑別するのは困難である。ナイアシンやトリプトファンの欠乏した食事歴があれば,診断の確定に役立つ。ナイアシン投与による治療によく反応すれば,通常,診断が確定できる。特に臨床検査によらなければ診断がはっきりしない場合は,可能であれば,臨床検査を診断の確定に役立てることができる。N′-メチルニコチンアミド(NMN)の尿排泄が減少し,0.8mg/日(5.8μmol/日)を下回ると,ナイアシン欠乏症が示唆される。

各種ビタミンが同時に欠乏することはよくみられるので,他のビタミンB群(特にリボフラビンやピリドキシン)を含むバランスのとれた食事が必要である。通常,ニコチンアミドが欠乏症の治療に使われるが,これはニコチン酸と違って(最も一般的なナイアシンの形),その摂取により,紅潮,かゆみ感,灼熱感,またはチクチクする感じが起こらないからである。ニコチンアミド40〜250mg/日は経口で分割投与すべきである(1日3回から4回)。下痢があるか,または患者の協力が得られず経口治療できない場合は,100〜250mgを1日2回または3回筋注投与する。

ナイアシン中毒性

大量のナイアシン(ニコチン酸)は,LDLコレステロールやトリグリセリドのレベルを下げ,またHDLコレステロールのレベルを上げるために用いられることがある。症状としては紅潮が現れることがあり,まれに肝毒性を示す。

即時放出型および除放性のナイアシン製剤(ニコチンアミドではない)の投与は,脂質レベルを改善することがある。即時放出型製剤の投与では,プロスタグランジンを介する紅潮がより一般的にみられる。紅潮は,アルコール摂取,有酸素運動,日光への暴露,および香辛料の入った料理の飲食後に,より強くなることがある。食事の後にナイアシンを摂取するか,ナイアシン摂取の30〜45分前にアスピリン325mgを摂取すると,紅潮を最小限に抑えられる。即時放出型のナイアシン製剤による投与を低用量(例,50mg を1日3回)から始め,用量を徐々に増やすと,重度の紅潮が起こる可能性は低くなる。中間用量(1000mg/日)の投与により,トリグリセリドのレベルは15〜20%下がり,HDLコレステロールのレベルは15〜30%上昇する。LDLコレステロールの低下は軽度である(10%未満)。LDLコレステロールは,より高用量のナイアシン(3000mg/日)投与によって15〜20%低下する。より高用量の投与は,黄疸,腹部不快感,視力障害(霧視,かすみ目),高血糖の悪化,および先在する痛風の増悪と関連する場合がある。肝障害がある場合,高用量のナイアシンはおそらく摂取すべきではない。

徐放性製剤の使用においてより一般的にみえる肝毒性は,用量依存性と思われる(例,3g/日を超えて摂取した場合)。専門家によっては,ナイアシン投与量が安定するまで,6〜8週間毎に尿酸,血糖,および血漿トランスアミナーゼの濃度をチェックすることが推奨されている。

最終改訂月 2007年4月

最終更新月 2005年11月

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