メルクマニュアル18版 日本語版
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チアミン

Larry E. Johnson, MD, PhD

チアミン(ビタミンB1)は,食物中に幅広く含まれる。チアミンは,炭水化物,脂肪,アミノ酸,ブドウ糖,およびアルコールの代謝に関与する。チアミンには,本質的に毒性はない。

チアミン欠乏症

チアミン欠乏症(脚気を引き起こす)が最も一般的にみられるのは,高度に精製された米,または他の炭水化物を常食とする発展途上国の人々やアルコール中毒患者である。症状には,びまん性の多発性神経障害,高拍出性心不全,およびウェルニッケ-コルサコフ症候群が含まれる。診断を補助し,欠乏症を治療するために,チアミンが投与される。

病因

原発性チアミン欠乏症は,チアミンの不十分な摂取によって生じる。これは一般的に,高度に精製された炭水化物の食事(例,精製米,白小麦粉,白砂糖)が原因である。チアミン欠乏症は他の栄養素の摂取が不十分になっている場合にも生じ,しばしば他の各種ビタミンB欠乏症を伴う。

二次性チアミン欠乏症は,需要の増加(例,甲状腺機能亢進症,妊娠,授乳,激しい運動,または発熱などによる),吸収障害(例,長引く下痢などにおいて),または代謝障害(例,肝不全などによる)によって起こる。アルコール中毒患者におけるチアミン欠乏症には,摂取減少,吸収および利用障害や需要増加,おそらくはアポ酵素欠損など多くのメカニズムが寄与している。

病態生理

欠乏症により,末梢神経の変性が起こる。脊髄,特に後柱や前方および後方神経根中のニューロンも変性することがある。重度の欠乏症は,脳病変に至る。脳血流が著しく減少し,血管抵抗が増す。

心臓は拡張することがあり,組織液により拡張した間質腔を伴って,筋線維が膨張,断片化し,空胞化する。血管拡張が生じると,手足に浮腫を引き起こすことがある。血液の動静脈シャントは増加する。やがて,高拍出性心不全が起こることがある。

症状と徴候

欠乏症の初期症状は非特異的である:疲労,いらだち,記憶力の低下,睡眠障害,前胸部の痛み,食欲不振,腹部不快感などが起こる。

乾性脚気は,チアミン欠乏による末梢神経障害のことを指す。これらの障害は,両側性かつほぼ対称性で,靴下・手袋型に分布して起こる。これらの変化は,下肢に優位に発症し,足指の異常感覚,足の灼熱感(夜間,特に重度となる),ふくらはぎのこむらがえり,下腿の痛み,および足底の感覚異常で始まる。ふくらはぎの圧痛,しゃがんだ状態からの立ち上がり困難,および足指の振動覚の減少などが初期徴候である。筋肉は消耗する。欠乏状態が続くと,多発性神経障害が悪化し,やがて腕にも広がる。

脳性脚気(ウェルニッケ-コルサコフ症候群)は,ウェルニッケ脳症(薬物使用と薬物依存: ウェルニッケ脳症を参照 )とコルサコフ精神病(薬物使用と薬物依存: コルサコフ精神病を参照 )が組み合わさったもので,チアミンを強化した食事を摂取しないアルコール中毒患者に起こる。ウェルニッケ脳症では,眼振,運動失調,眼筋麻痺,意識障害がみられ,治療しなければ昏睡や死に至る。ウェルニッケ脳症は,慢性的な欠乏に重度の急性欠乏症が重なって発症すると思われる。コルサコフ精神病は,最近の出来事に対する記憶障害を伴った,精神的混乱,けん怠,発声障害,作話症などの症状からなる。慢性欠乏症からコルサコフ精神病を発症すると思われるが,ウェルニッケ脳症の発症を繰り返した後にコルサコフ精神病に至ることもある。

心血管(湿性)脚気は,チアミン欠乏症による心筋の疾病である。最初に,血管拡張,頻脈,脈圧の大きな変動,発汗,皮膚のほてり,乳酸アシドーシスを生じる。後に心不全が起こり,起座呼吸,肺および末梢の浮腫が生じる。血管拡張が続き,ときにはショックへと至る。

幼児性脚気は,チアミン欠乏症の母親から授乳を受けている乳児(通常,生後3〜4週間まで)に発症する。心不全(突然起こる場合がある),失声症,深部腱反射の消失が特徴的である。

チアミンはブドウ糖の代謝に必要であるため,チアミン欠乏を呈する患者にブドウ糖を注射すると,欠乏症の症状を促進するか,または悪化させることがある。

診断

診断は通常,欠乏症の症状,または徴候のある患者にチアミン投与による治療を行い,その好ましい反応に基づいて行う。他の疾患(例,糖尿病,アルコール中毒,ビタミンB12欠乏症,重金属中毒)によっても,同様の両側性多発性神経障害が下肢に起こるが,これはチアミン投与に反応しない。単一神経炎(単神経障害—例,座骨神経痛)や,多発性単神経障害(多発性単神経炎)は,チアミン欠乏症が原因である可能性は低い。

他の原因を除外するため,マグネシウムなどの電解質値を測定するべきである。診断が紛らわしいケースでは,赤血球のトランスケトラーゼ活性,および24時間尿中チアミン排泄量を測定する。

心不全を引き起こす他の疾患がみられる場合には,心血管性脚気の診断は困難となる。試験的なチアミン投与は有用である。

治療と予後

症状にかかわらず,確実に食事からチアミンを十分補給することが重要である。ブドウ糖の静注投与は,チアミン欠乏症を悪化させかねないので,チアミン欠乏症のリスクのあるアルコール中毒患者やその他の人々は,ブドウ糖溶液の静注投与を受ける前にチアミン100mgの静注投与を受けるべきである。

軽度の多発性神経障害には,チアミン10〜20mgを1日1回経口にて2週間投与する。中等度または進行した神経障害には,20〜30mg/日を投与し,症状が消えた後も数週間の投与を続けるべきである。心血管性脚気による浮腫やうっ血には,チアミン100mgを1日1回,数日間静注投与する。心不全も治療する。

ウェルニッケ-コルサコフ症候群には,通常50〜100mgのチアミンを1日2回,数日間筋肉内または静脈内投与し,その後治療の効果が得られるまで1日1回10〜20mgを投与すべきである。チアミン静注に対するアナフィラキシー反応はまれである。眼筋麻痺の症状は,1日のうちに消失し,コルサコフ精神病の患者が軽快するには,1〜3カ月を要するだろう。ウェルニッケ-コルサコフ症候群,および他の形態のチアミン欠乏症では,神経障害からの回復は,しばしば不完全である。

チアミン欠乏症は,しばしば他の各種ビタミンB欠乏症とともに起こるので,水溶性総合ビタミン剤を,通常数週間にわたって投与する。患者は続けて栄養価の高い食事を摂り,1日当たりの推奨摂取量(DRI)に基づく量のビタミンを毎日1〜2回摂取する必要があり,またアルコールの摂取は一切やめるべきである。

最終改訂月 2007年4月

最終更新月 2005年11月

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