メルクマニュアル18版 日本語版
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摂取した銅の約半量は吸収される。代謝必要量よりも過剰に吸収された銅は,胆汁を介して排泄される。銅は体内の多数の蛋白の構成要素であり,体内の銅のほとんどが,銅蛋白内で結合している。結合していない(遊離)銅イオンには毒性がある。遺伝的メカニズムにより,銅のアポ蛋白への組み込みおよび体内への有毒な蓄積を防ぐプロセスが制御される。

後天性銅欠乏症

銅の代謝を制御する遺伝的メカニズムが正常であれば,食事の不足から臨床的に重要な銅欠乏症が生じることはまれである。現在報告されている原因は,クワシオルコル,持続性の乳児の下痢(通常,ミルクのみの食事によるものである),重度の吸収不良(スプルーなど)および亜鉛の過剰摂取だけである。銅欠乏により,好中球減少,骨石灰化障害および鉄補給に反応しない低色素性貧血を来す。診断は,銅およびセルロプラスミンの血清濃度が低値であることによって下される。治療は欠乏症の原因に向けられ,銅1.5〜3mg/日(通常,硫酸銅を用いて)を経口投与するというものである。

先天性銅欠乏症

先天性銅欠乏症(メンケス病)は,突然変異のX連鎖遺伝子を受け継いだ男児に発症する。発生率は,出生男児のおよそ50,000人に1人の割合である。銅欠乏は肝および血清中でみられるほか,チトクロムC酸化酵素やセルロプラスミン,リシルオキシダーゼといった必須銅蛋白においてみられる。症状には,重度の精神遅滞,嘔吐,下痢,蛋白漏出性腸症,色素脱失,骨変化,動脈の断裂およびまばらでごわごわした毛髪,または縮れ毛がある。診断は,通常,2週未満の乳児で,銅およびセルロプラスミン濃度が低値であることにより下されるものとする。非経口銅(硫酸銅として投与)20〜30mg/kg,静注投与,1日1回が通常の治療法である。しかし,非経口銅は銅酵素には入っていかない。銅ヒスチジン100〜600mg,皮下投与,1日1回の方が効果的であり,治療中はモニタリングが必須である。

後天性銅中毒症

後天性銅中毒症は,過剰な銅の摂取または吸収(例,銅の容器に長期間接触した酸性食品や酸性飲料の摂取)から生じる。悪心,嘔吐および下痢を伴う自己限定性の胃腸炎が起きることがある。より重度の中毒症は,銅塩(例,硫酸銅)のグラム単位での摂取(通常は自殺企図による)や,皮膚からの大量吸収(例,銅塩溶液に浸した湿布を広範囲の皮膚熱傷部分に貼付)に起因する。溶血性貧血および無尿を来し,死に至ることもある。

インディアン小児肝硬変,非インディアン小児肝硬変,および突発的な銅中毒症は,いずれもおそらく銅の過剰により肝硬変を来す同一の障害である。いずれも,腐食した銅または真鍮の容器で沸かすか,貯蔵しておいたミルクを飲むことにより発症すると思われる。最近の研究では,突発性銅中毒症が,ある不明な遺伝的欠陥をもつ乳児だけに発症することを示唆している。診断には通常,肝生検によってマロリー硝子体を認めることが求められる。

治療

グラム単位で摂取したことによる銅中毒症では,即座に胃洗浄を実施し,その後,少なくとも300mgのジメルカプロールを毎日筋注投与することによって,救命できる。キレート化剤ペニシラミンは銅に結合し,排泄を促す。1〜4g/日の経口投与により,皮膚熱傷部分から吸収された銅の排出を促進する(中毒: キレート療法に関する指針表 4: 表および中毒: 特定の毒物の症状と治療法表 8: 表の銅塩類も参照)。早期であれば,血液透析も有効である。銅中毒症は,治療のかいなく死に至ることがある。

インディアン小児肝硬変は,ペニシラミンによる治療により治癒することがある。

先天性銅中毒症

先天性銅中毒症(ウィルソン病)では,肝および他の臓器に銅が蓄積する。肝または神経の症状がみられる。診断は,セルロプラスミン血清中濃度の低下および尿中への銅排泄量の増大,またときに肝生検の結果に基づいて下される。治療は,通常ペニシラミンによるキレート療法である。

ウィルソン病は30,000人に1人にみられる進行性の銅代謝疾患である。罹患者は,第13染色体に位置する劣性遺伝子変異体のホモ接合型である。人口の約1.1%を占めるヘテロ接合保因者は無症候性である。

病態生理

誕生したときから,銅は肝に蓄積する。銅蛋白セルロプラスミンの血清中濃度は低下する。肝線維症が生じ,最終的に肝硬変を来す。銅は肝から血中に,さらに他の組織へと拡散する。脳に最も打撃を与えるが,腎および生殖器にも損傷を与え,溶血性貧血を引き起こす。角膜のデスメ膜に銅がいくらか沈着する。

症状と徴候

症状は通常,6〜30歳の間に現れる。患者のほぼ半数,特に思春期の患者では,最初の症状は,急性肝炎,慢性活動性肝炎,劇症肝炎のうちのいずれかの肝炎である。しかし,肝炎は時期を問わず発症する。患者の約40%,特に若年成人患者において,最初の症状は中枢神経系の関与を示すものである。運動障害が一般的にみられ,振戦,ジストニア,構音障害,嚥下障害,舞踏病,流涎および協調運動障害などがあらゆる組み合わせで認められる。感覚障害は生じない。ときに最初の症状は,行動の異常や認知異常となる。患者の5〜10%では,最初の症状は,たまたま気づいた金色または金緑色のカイザー-フライシャー輪や三日月(角膜の銅沈着による),無月経,流産の繰り返し,血尿が最初の症状となる。

診断

40歳未満の患者に,次のような現象が当てはまるような場合には,ウィルソン病を疑う必要がある:他に原因が見当たらない肝障害,神経障害または精神障害,他に原因が見当たらない肝トランスアミナーゼの持続的な上昇,兄弟,両親またはいとこにウィルソン病患者がいる,劇症肝炎およびクームズ陰性溶血性貧血(溶血による貧血: 診断を参照 )。

ウィルソン病を疑う場合,細隙灯顕微鏡検査によるカイザー-フライシャー輪の検査が必要であり,セルロプラスミンおよび銅の血清中濃度を測定するほか,24時間尿中銅排泄量を測定する。

ウィルソン病では,血清中セルロプラスミン(正常値は20〜35mg/dL)は通常低いが,正常のこともある。また,特にヘテロ接合保因者で,擬似的に低値を示すことがある。血清中セルロプラスミンが低値であり,尿中銅排泄量が高値であれば,診断は明らかである。値がどちらともいえない場合,ペニシラミンを投与した後に尿中銅排泄量を測定することにより(ペニシラミン誘発試験),診断を確定する。診断が確定しなければ,肝中銅濃度を測定する生検が必要である。

セルロプラスミンが低濃度であれば,通常,血清銅の総濃度が低いことを意味する。しかし,遊離(非結合)銅の濃度は通常,上昇している。遊離銅は血清中の総銅量からセルロプラスミン中の銅量を差し引いて算出できるほか,直接にも遊離銅を測定できる。

カイザー-フライシャー輪は,他の肝疾患(例,胆道閉鎖症,原発性胆汁性肝硬変)ではごくまれに起こる。しかしながら,カイザー-フライシャー輪と典型的な運動神経性の異常またはセルロプラスミン値の低下とが組み合わされば,ほぼウィルソン病特有の症候といえる。

ウィルソン病では,尿中銅排泄量(正常値は30μg/日以下)は通常,100μg/日超である。ペニシラミン500mg,1日3回または1日4回,経口投与することにより,ウィルソン病患者では,排泄量が1200μg/日超まで上昇するが,ウィルソン病患者ではない場合,500μg/日未満となる。境界例では,放射性銅のセルロプラスミンへの取り込み低下を検出することにより,診断を下すものとする。

ウィルソン病の患者では,肝の銅濃度(正常であれば乾燥重量で50μg/g未満)は通常,乾燥重量で250μg/g超である。しかし,標本誤差(肝中の銅濃度に大きな幅があることによる)または劇症肝炎(壊死により大量の銅を放出)により,偽陰性の結果になることがある。

血清中尿酸濃度は,尿への排泄が増大するため,低くなることがある。

治療

症状の有無にかかわらず,生涯,治療を継続する必要がある。蓄積された銅はキレート剤で取り除く必要がある。銅含有量の低い食事(例,牛レバー,カシューナッツ,ササゲ,野菜ジュース,甲殻類,マッシュルームおよびココアを避ける)のほか,低用量のキレート剤療法または経口亜鉛のいずれかにより,銅の蓄積を防ぐ。

ペニシラミンはキレート剤の選択薬である。5歳を超える患者には,500mg,1日3回または1日4回,空腹時(食事および就寝の1時間以上前)に経口投与する。幼児には50mg/kg,1日4回,経口投与する。時として,ペニシラミンの使用により神経症状が悪化することがある。ペニシラミンとの併用で,ピリドキシン25mg,1日1回,経口投与する。

塩酸トリエンチンはペニシラミンより効力が小さい。副作用のためペニシラミンを中止するときは,直ちに,塩酸トリエンチン500mg,1日2回,空腹時の経口投与を開始する。

ペニシラミンもしくは塩酸トリエンチンを受けつけない患者,または他の薬剤では反応しない神経症状がみられる患者には,酢酸亜鉛50mg,1日3回,経口投与することにより,銅の再蓄積を防ぐことができる。注意: ペニシラミンまたはトリエンチンは,亜鉛と結合して治療効果のない化合物を生成するため,いずれも亜鉛と併用してはならない。

テトラチオモリブデン酸アンモニウムには画期的な役割がある。この薬剤は銅の吸収を減少させ,血漿中の銅と結合し,しかも比較的毒性がない。ペニシラミンと異なり,治療時に神経症状を悪化させることがないように思われるため,特に神経症状に有用である。

肝移植は,薬剤に反応しない劇症肝炎または重度の肝不全を伴うウィルソン病患者の救命法である。

予後とスクリーニング

疾患が悪化してから治療を開始した場合を除き,予後は通常良好である。ウィルソン病は治療しなければ,通常,30歳までに致死的になる。

早期治療が最も効果的であるため,兄弟やいとこ,両親にウィルソン病患者がいる場合はいずれも,スクリーニングが適応とされる。スクリーニングでは,細隙灯顕微鏡検査,肝機能検査を実施するほか,血清銅,セルロプラスミンおよび24時間尿中銅排泄量を測定する。いずれかの検査結果に異常があれば,肝生検により肝の銅濃度を測定する。乳児は,生後数カ月間はセルロプラスミン濃度が低いため,1歳になるまで検査しないものとする。検査結果が正常であった6歳未満の小児も,5〜10年後に再検査しなければならない。遺伝子診断は難しい。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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