|
悪心は,嘔吐しそうな不快感で,延髄嘔吐中枢の求心性刺激(副交感神経緊張亢進など)の認識を表す。嘔吐は,胃内容物を強制的に排出させる運動で,胃底部および下部食道括約筋が弛緩しているときに腹筋の不随意収縮によって起こる。嘔吐は逆流,つまり悪心や腹筋の強制的収縮を伴わない胃内容物の吐出と鑑別すべきである。
病因と病態生理
悪心および嘔吐は,嘔吐中枢に影響を及ぼす病態に反応して起こる。一部の病態は消化管に由来する(例,胃または腸閉塞,急性胃腸炎,消化性潰瘍,胃不全麻痺,胆嚢炎,総胆管結石症,内臓穿孔または他の急性腹症,有害物質の摂取);身体の他の部位(例,妊娠,全身性感染,放射線被曝,薬物毒性,糖尿病性ケトアシドーシス,癌)または中枢神経系(例,頭蓋内圧亢進,前庭中枢の刺激,疼痛,髄膜炎,頭部外傷,腫瘍)に由来するものもある。
心因性嘔吐は,ストレスの多い状況または不愉快な状況で,自己誘発的または不随意に起こりうる。嘔吐を引き起こす心理的要因は文化的に決定づけられることがある(例,胸の悪くなるような食物の摂取)。小児が癇癪を起こして吐くときのように,嘔吐は敵意を表すこともあり,転換性障害の症状の場合もある。
周期性嘔吐症候群は,重度の不連続な嘔吐発作または時に悪心だけが様々な間隔で起こるまれな疾患で,発作間の健康状態は正常である。小児期(発症の平均年齢5歳)に最も多く,成人になって軽快する傾向がある。この病態は片頭痛に関連していることがあり,片頭痛等価症である可能性がある。
急性の重度の嘔吐は脱水症状および電解質異常を引き起こしうる。慢性嘔吐は栄養不良,体重減少,および代謝異常を引き起こしうる。
評価
病歴と身体診察:
下痢および発熱は感染性胃腸炎を示唆する。未消化食物の嘔吐は,アカラシアまたはツェンカー憩室を示唆する。食後数時間以上経過してから一部消化された食物を嘔吐した場合は,幽門閉塞または胃不全麻痺が示唆される。頭痛,精神状態の変化,または乳頭浮腫が認められる場合は,病因として中枢神経系疾患が示唆される。耳鳴またはめまいは,迷路障害を示唆する。便秘および腹部膨満は腸閉塞を示唆する。
機能性の悪心および嘔吐の既往歴または家族歴と同様に,食物のことを考えただけで起こる嘔吐または摂食に時間的に関連していない嘔吐は心因性原因を示唆する。患者は嘔吐とストレスの多い出来事との関連を認識していないか,そうしたときに苦痛を感じていることを認めることさえしない可能性があるので,両者の関連について患者に尋ねるべきである。
検査:
妊娠可能年齢の全ての女性に尿検査による妊娠検査を行うべきである。重度の嘔吐患者,嘔吐が1日以上続いている患者,または診察で脱水の徴候が認められる患者については,他の臨床検査(例,電解質,BUN,クレアチニン,グルコース,尿検査,場合によっては肝機能検査)を行うべきである。閉塞または穿孔の症状または徴候が認められる患者については,臥位および立位腹部X線検査を行うべきである。慢性嘔吐の精密検査は,通常,上部消化管内視鏡検査,小腸X線検査,ならびに胃内容排出および前庭部-十二指腸の運動性を評価するための検査などである。
治療
脱水などの特異的症状を治療する。著明な脱水が認められなくても,静脈内輸液療法(0.9%生理食塩液1L,小児に対しては20mL/kg)によってしばしば症状が緩和する。制吐薬(例,プロクロルペラジン5〜10mg静脈内投与または25mg経直腸投与)は,成人における大部分の急性嘔吐に有効である。他の有用な薬物としては,メトクロプラミド5〜20mg,1日3回から1日4回経口投与または静脈内投与,およびスコポラミン貼付剤(1mg,72時間以上)などがある。副作用があるため,通常,小児に対する薬物の投与は避ける。抗ヒスタミン薬(例,ジメンヒドリナート50mgを4〜6時間毎に経口投与,およびメクリジン25mgを8時間毎に経口投与)は,迷路障害による嘔吐の治療に有用である。化学療法薬投与に続発する嘔吐には,5‑HT3拮抗薬(例,オンダンセトロン,グラニセトロン)が必要となることがある;催吐性の高い化学療法薬には,新規サブスタンスPニューロキニン1阻害薬アプレピタントを追加できる。
心因性嘔吐については,原因にかかわらず,患者の不快感を認識していること,症状の緩和を目指して努力したいという願望を示して患者を安心させる。「異常はありません」または「気の病です」というコメントは避けるべきである。制吐薬による対症療法を短期間試してもよい。長期管理が必要である場合は,援助を受けるための定期的な来院が根本的な問題の解決に有用なことがある。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
|