|
便秘は,排便しにくい,排便回数が少ない,便が硬い,残便感がある状態である。
多くの人が,毎日排便がなければならないと誤解し,排便回数がそれよりも少なければ便秘を訴える。便の外観(大きさ,形状,色)または硬さを気にしている人もいる。時に,主訴は排便行為に対する不満である。便秘は,実際には基礎疾患(例,過敏性腸症候群,うつ病)の症状である多くの愁訴(腹痛,悪心,疲労,食欲不振)の原因とされている。患者は,毎日排便することによって全ての症状が緩和するものと期待してはならない。
こうした懸念から,多くの人が緩下剤,坐薬,浣腸を乱用し結腸を痛める。この結果,結腸無力症に加えて,下剤性結腸症(バリウム注腸検査上,ハウストラが消失した“パイプ軸”結腸が認められ,潰瘍性大腸炎に似ている)および大腸メラノーシス(内視鏡検査および結腸生検で粘膜に褐色色素の沈着が認められる)をはじめとする結腸の物理的変化が生じうる。
強迫神経症患者は,身体から毎日“不潔な”廃棄物を取り除く必要があるとしばしば感じている。毎日排便がないことが,抑うつの原因になることもある。抑うつによって排便回数が減少し,排便がないことで抑うつが悪化するという悪循環が生じる可能性がある。そのような患者は,しばしばトイレに過剰な時間を費やしたり,下剤常習者になったりする。
病因
急性便秘は生理学的原因を示唆する;慢性便秘は生理学的または機能的である(下部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 便秘の原因表 1: を参照)。
|
表 1
|
 |  |  |
|
便秘の原因
|
|
原因
|
例
|
|
急性便秘
|
|
|
|
腸捻転,ヘルニア,癒着,宿便
|
|
|
腹膜炎,頭部または脊髄外傷,臥床
|
|
|
抗コリン薬(抗精神病薬,抗パーキンソン薬,鎮痙薬),陽イオン(鉄,アルミニウム,カルシウム,バリウム,ビスマス),オピオイド,全身麻酔
|
|
慢性便秘
|
|
|
|
|
|
|
糖尿病,甲状腺機能低下症,高カルシウム血症,尿毒症,ポルフィリン症
|
|
|
パーキンソン病,多発性硬化症,脳卒中,脊髄病変
|
|
|
ヒルシュスプルング病,神経線維腫症,自律神経障害
|
|
|
全身性硬化症,アミロイドーシス,皮膚筋炎,筋緊張性ジストロフィ
|
|
|
結腸無力症,過敏性腸症候群
|
|
結腸無力症では,結腸が排便を促す日常の刺激(摂食および身体活動)に反応しないか,それらの刺激がない。患者は,排便回数が少ないが,便意を感じない。無力症は通常,排便したいという衝動を習慣的に無視すること,または緩下剤や浣腸を長期にわたり使用することによって,便塊に対する直腸の感受性が鈍った場合に発症する。加齢に伴う内因性結腸反射の低下,低繊維食,運動不足,便秘の原因となる薬物の使用のため,高齢者に多い。
宿便は,便秘を引き起こしたり,便秘によって生じたりすることがあり,特に高齢患者に多い。加齢とともに,特に長期臥床時または身体活動低下時に,直腸の容量増加および結腸の運動低下が認められる。バリウム経口投与後または注腸後にもよくみられる。患者は直腸痛としぶりを訴え,繰り返し排便を試みるがうまくいかない。患者は腸痙攣を起こして宿便周囲の水様粘液または便を排出することがあり,下痢に似た症状を呈する(逆説的下痢)。直腸診では,時に岩のようであるが,しばしばパテ状の硬便を認める。
評価
病歴:
緩下剤や浣腸の使用を含めて,患者の排便回数,便の硬さ,便の色について病歴聴取を行うべきである。一部の患者は,便秘歴を否定するが,具体的に尋ねると,1回の排便に15〜20分かかることを認める。代謝疾患または神経疾患の症状を調べるべきである。処方薬および非処方薬の使用について尋ねるべきである。
緩下剤を頻繁に使用している慢性便秘は結腸無力症を示唆する。便意を感じない慢性便秘は神経疾患を示唆する。下痢と交互に起こり,間欠的な腹痛を伴う慢性便秘は,過敏性腸症候群(下部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 過敏性腸症候群(IBS)を参照 )を示唆する。初発便秘が数週間持続するか,頻度または重症度の増加を伴って間欠的に起こる場合,結腸腫瘍または部分的閉塞の他の原因が示唆される。便の量の減少は,遠位結腸の閉塞病変または過敏性腸症候群を示唆する。
身体診察:
発熱および悪液質などの全身性疾患の徴候を調べるために全身の診察を行う。腹部の緊張,膨満,鼓音を認める場合は,機械的閉塞が示唆される。触診で腹部腫瘤を調べ,直腸診で緊張状態;感覚;裂傷,狭窄,血液,塊(宿便を含む)の存在を評価すべきである。
検査:
病因(薬物,外傷,臥床)が明らかな便秘については,詳細な検討を行わずに対症療法を行ってもよい。腸閉塞の症状を有する患者については,臥位および立位腹部X線のほか,おそらくCT検査を行う必要がある(急性腹症と消化器外科: 診断も参照 )。明らかな病因のない患者の大部分に,S状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査のほか,臨床検査(CBC,甲状腺刺激ホルモン,空腹時血糖,電解質,カルシウム)を行うべきである。
通常,上記の検査で異常所見が認められる患者または対症療法が奏効しない患者にのみ追加検査を行う。排便回数が少ないことが主訴であれば,放射線不透過性マーカーを用いて結腸通過時間を測定すべきである。排便時のいきみが主訴である場合は,肛門直腸内圧検査が最もよい。
治療
同定された疾患は全て治療すべきである。できれば,便秘の原因となる薬物を中止すべきである。
便秘の治療に用いる薬剤を下部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 便秘の治療に用いる薬剤表 2: に要約する。十分に水分を摂取する必要がある(一般に2L/日以上)。
|
表 2
|
 |  |  |
|
便秘の治療に用いる薬剤
|
|
種類
|
薬剤
|
用量
|
副作用
|
|
食物繊維
|
ふすま
|
最大1カップ(240mL)/日
|
鼓腸,放屁,鉄およびカルシウム吸収不良
|
|
オオバコ
|
最大30g/日を2.5-7.5gずつ分割投与
|
鼓腸,放屁
|
|
メチルセルロース
|
最大9g/日を0.45-3gずつ分割投与
|
鼓腸は他の食物繊維よりも軽度
|
|
カルシウムポリカルボフィル
|
2-6錠/日
|
鼓腸,放屁
|
|
便軟化剤
|
ドクセートナトリウム
|
100mg,1日2回または1日3回
|
重度の便秘には無効
|
|
|
グリセリン
|
2-3gを坐薬として1日1回
|
直腸過敏
|
|
|
鉱油
|
15-45mL,経口にて1日1回
|
脂肪肺炎,脂溶性ビタミンの吸収不良,脱水,便失禁
|
|
浸潤性下剤
|
ソルビトール
|
70%溶液15-30mL,経口にて1日1回または1日2回;25-30%溶液120mL,経直腸投与
|
一過性腹部痙攣,放屁
|
|
ラクツロース
|
10-20g(15-30mL),1日1回から1日4回まで
|
ソルビトールと同じ
|
|
ポリエチレングリコール
|
4時間の間に最大3.8L
|
便失禁(用量に関連)
|
|
刺激性下剤
|
アントラキノン
|
商品によって異なる
|
マイスナー神経叢およびアウエルバッハ神経叢の変性,吸収不良,腹部痙攣,脱水,結腸メラノーシス
|
|
|
ビサコジル
|
10mgを坐薬として最大3回/週;5-15mg/日,経口投与
|
便失禁,低カリウム血症,腹部痙攣,坐薬常用による直腸の灼熱感
|
|
塩類下剤
|
マグネシウム
|
硫酸マグネシウム15-30g/日または1日2回;マグネシウム乳30-60mL/日;クエン酸マグネシウム150-300mL/日(最大360mL)
|
マグネシウム中毒,脱水,腹部痙攣,便失禁
|
|
浣腸剤
|
鉱油/オリーブ油の滞留
|
100-250mL/日,経直腸投与
|
便失禁,機械的外傷
|
|
水道水
|
500mL,経直腸投与
|
機械的外傷
|
|
リン酸塩
|
60mL,経直腸投与
|
直腸粘膜損傷の蓄積,高リン酸血症,機械的外傷
|
|
石鹸水
|
1500mL,経直腸投与
|
直腸粘膜損傷の蓄積,機械的外傷
|
|
Adapted from Romero Y, Evans JM,
Fleming KC, Phillips SF: Constipation and fecal incontinence in
the elderly population. Mayo Clinic Proceedings 71:81-92, 1996;
by permission.
|
|
十分な便の量を確保するために十分な食物繊維(通常20〜30g/日)を含む食事を摂取すべきである。食物繊維は,一般に消化吸収されないので,便の量が増加する。食物繊維の特定成分はまた,水分を吸収し,便を軟化して排便を容易にする。ふすまを含むシリアルと同様に,果物および野菜も供給源として推奨される。
緩下剤は慎重に使用すべきである。薬物と結合し,吸収を妨げるものもある(例,リン酸塩,ふすま,セルロース)。急速な便の通過によって,薬物および栄養素は最適な吸収部位を急速に通り過ぎてしまう可能性がある。緩下剤および下剤の使用禁忌として,原因不明の急性腹痛,炎症性腸疾患,腸閉塞,消化管出血,宿便が挙げられる。
行動の是正が有用なことがある。食物の摂取は結腸の運動を刺激するため,患者は毎日同じ時刻,できれば朝食後15〜45分のうちに,排便を試みるべきである。規則正しい急がない排便のために最初はグリセリン坐薬を用いてもよい。
説明は重要であるが,強迫神経症患者を排便に対する態度が異常であると納得させるのは困難である。医師は,毎日排便がある必要はないこと,腸に機能する機会を与える必要があること,緩下剤または浣腸を頻繁に使用すると(3日に1回を越える使用)腸が機能する機会がなくなることを説明する必要がある。
緩下剤の種類:
膨張性下剤(例,オオバコ,カルシウムポリカルボフィル,メチルセルロース)は,長期間使用できる唯一の緩下剤である。未精製の小麦ふすま16〜20g(茶さじ2〜3杯(10〜15mL))を果物またはシリアルの上にかけて摂取するのを好む患者もいる。膨張性下剤は,ゆっくりと穏やかに作用し,排便を促進するための最も安全な下剤である。適正使用のために,便が軟化膨張するまで,徐々に用量を増量する必要があり,理想的には,詰まりを予防するために,十分な水分(例,500mL/日の水分を追加)とともに1日3回または1日4回服用する。膨張性下剤は,自然に作用し,他の緩下剤と異なり,結腸無力症を来さない。
便軟化剤(例,ドクセート,鉱油,グリセリン坐薬)は緩やかに作用し,便を軟化して排便を容易にする。しかしながら,強力な便通促進効果はない。ドクセートは界面活性剤の一種であり,水分が便塊に入るのを可能にし,便が軟化膨張する。容量の増加によって蠕動が刺激されることがあり,軟化した便の排泄が促進される。鉱油は便を軟化させるが,脂溶性ビタミンの吸収を減少させることがある。便軟化剤は,心筋梗塞または肛門直腸手術後,および長期臥床を必要とする場合に有用なことがある。
浸潤性下剤は腸の診断的手技の前処置のほか,時に寄生虫症の治療に使用される。便秘にも有効である。浸潤性下剤は,吸収されにくい多価イオン(例,マグネシウム,リン酸塩,硫酸塩)または炭水化物(例,ラクツロース,ソルビトール)を含有し,これが腸内にとどまるので,腸内の浸透圧が上昇し,水分が腸内に引き込まれる。容量の増加によって蠕動が刺激される。これらの薬剤は通常3時間以内に作用する。
浸潤性下剤の随時使用は無害である。しかしながら,マグネシウムおよびリン酸塩は一部吸収されるので,一部の疾患(例,腎不全)では有害であろう。ナトリウム(一部の製剤中)は心不全を悪化させることがある。これらの薬物は,大量または頻回に投与すると,体液および電解質バランスを乱しうる。診断検査または外科手術のために腸を洗浄する別の方法として,大量の平衡浸透圧性下剤(例,ポリエチレングリコール電解質溶液)を経口または経鼻胃管にて投与する。
分泌性または刺激性下剤(例,センナおよびその誘導体,カスカラの樹皮,フェノールフタレイン,ビサコジル,ヒマシ油,アントラキノン)は,腸粘膜を刺激することによって,または粘膜下神経叢および腸筋層間神経叢を直接刺激することによって作用する。一部は吸収され,肝臓で代謝を受けた後,胆汁中に排泄され腸管に戻る。腸蠕動が亢進し,腸管内の水分が増加し,6〜8時間で腹部の痙攣痛とともに半固形便の排泄が起こる。これらの薬剤は,便秘の治療に使用されるほか,しばしば診断検査用腸管洗浄薬として用いられる。連用により,大腸メラノーシス,結腸の神経変性,“怠惰な腸”症候群,重篤な体液および電解質平衡異常が起こることがある。フェノールフタレインは,動物で催奇形性が認められたため,米国市場から撤去された。
浣腸剤として,水道水および市販の高張液などを使用できる。
宿便:
宿便の治療には,浣腸剤としてまず水道水を使用し,その後,少量(100mL)の市販高張液(例,リン酸ナトリウム)を使用する。これらが奏効しない場合,指で便塊を崩し宿便を取り除く必要がある。この処置は痛みを伴うため,局所麻酔薬(例,リドカイン5%軟膏またはジブカイン1%軟膏)を直腸周囲および直腸内に塗布するのが望ましい。鎮静薬を必要とする患者もいる。
排便困難
(排便障害;骨盤底筋または肛門括約筋の機能障害)
排便困難は排便が困難となった状態である。患者は,便の存在および便意を感じるが,排便できない。骨盤底筋および肛門括約筋の協調が欠けているために起こる。肛門直腸内圧検査にて診断を行う。治療は困難であるが,バイオフィードバックが有効なことがある。
病因
正常では,排便しようとすると,外肛門括約筋の弛緩と協調して直腸圧は上昇する。この過程は,直腸の収縮障害,肛門の奇異性収縮,または肛門の弛緩不全によって変化しうる。生理学的原因として,直腸脱およびヒルシュスプルング病などがある。しかしながら,大部分の患者において,この障害は,後天性の習慣上の問題または過敏性腸症候群の症状であると思われる;これらの患者の3分の1では,小児期に習慣上の問題が始まった。
症状,徴候,診断
患者は便の存在を感じ,便意を催すが,長時間いきんでも,用手摘便を行っても,排便できない。軟便でも排泄するのが困難である。実際の排便回数は減少することも減少しないこともある。
直腸診および内診によって,骨盤底筋および肛門括約筋の緊張亢進が認められることがある。いきむことによって,患者は予測される肛門弛緩および会陰下垂を示さないことがある。直腸瘤または腸瘤が存在することがあるが,通常,最も重要な病因ではない。常にいきみを伴う慢性的な排便困難は孤立性直腸潰瘍または様々な程度の直腸脱を引き起こすことがある。特殊X線検査(排泄性直腸造影),肛門直腸内圧検査,バルーン拡張は疾患の診断に有用である。
治療
緩下剤による治療は満足の行くものではない。弛緩訓練およびバイオフィードバックは有用であるが,グループによるアプローチ(理学療法士,栄養士,行動療法士,消化器専門医)が必要なことがある。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
|