メルクマニュアル18版 日本語版
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ガスに関係する訴え

正常では,ガスは,嚥下された空気(空気嚥下),腸管腔における産生,または血液から腸管腔内への拡散の結果として腸内に存在している。ガスは,腸管腔と血液の間を分圧差によって決まる方向に拡散する。したがって,腸管腔内の大部分の窒素(N2)は循環血に由来し,循環血中の大部分の水素(H2)は腸管腔に由来する。

病因と生理

“ガス”に関連する訴えとしては主に次の3つがある:過度のげっぷ,腹部膨満(鼓腸),過度の放屁。ひとしきり泣くことを繰り返す2〜4カ月の乳児は,しばしば苦痛であるように見え,これまで原因は腹部痙攣またはガスにあるとされ,“コリック”と称されてきた。しかしながら,研究では,疝痛がある乳児におけるH2産生の増加や口-盲腸通過時間の延長は示されていない。したがって,乳児疝痛の原因は依然として不明である(正常な乳幼児や小児の治療へのアプローチ: コリックを参照 )。

過度のげっぷ: げっぷは嚥下された空気または炭酸飲料によって発生したガスが原因で生じる。正常では,飲食時に少量の空気を嚥下するが,人によっては,特に不安なときに,摂食時や喫煙時などに,空気を無意識に繰り返し飲み込む。唾液分泌過多は空気嚥下を増加させ,種々の消化器疾患(胃食道逆流症),義歯不適合,特定の薬物,ガムの咀嚼,あらゆる原因の悪心に関連している可能性がある。

嚥下された空気の大部分はげっぷとして排出される。嚥下された空気のうち小腸に移行するのは少量だけで,その量は体位に左右されるようである。立位では,空気は直ちにげっぷとして排出されるが,仰臥位では,胃液上に取り込まれた空気は十二指腸に送り込まれる傾向がある。過度のげっぷはまた随意であることもある;制酸薬服用後にげっぷを出す患者は,症状の緩和を制酸薬ではなくげっぷによるものと考え,苦痛を和らげるために意識的にげっぷを出すことがある。

腹部膨満(鼓腸): 腹部膨満感は多くの消化器疾患(例,呑気症,非潰瘍性消化不良,胃不全麻痺,過敏性腸症候群)および非消化器疾患(例,心筋虚血)に起因しうる。しかしながら,過剰な腸内ガスはこれらの愁訴と明確には関連していない。大部分の健常者において,1時間当たり1Lのガスが腸に送り込まれ,症状はほとんどない。多くの症状は間違って“過剰なガス”によるものとされているようである。

一方,一部の反復性消化管症状患者はしばしば少量のガスに耐えられない:患者(例,過敏性腸症候群患者)によっては,大腸内視鏡検査時のバルーン拡張または空気注入による逆行性結腸拡張でしばしば強い不快感が起こるが,症状がほとんど起こらない患者もいる。同様に,摂食障害(例,拒食症,過食症)患者も,鼓腸などの症状をしばしば誤って知覚し,特にストレスと感じる。したがって,“ガス”に関連する症状を有する患者の基本的な異常は過敏な腸であろう。運動異常も症状の一因となることがある。

過度の放屁: 直腸のガス排出量および排出頻度には大きなばらつきがある。排便回数と同様に,放屁を訴える人は何が正常かということについて誤解していることが多い。放屁の平均回数は約13〜21回/日である。放屁回数を客観的に記録すること(患者がつけた日記を使用)が評価する上での第一歩である。

屁は腸内細菌の代謝副産物であり,嚥下された空気,循環血からのガス(主にN2)の逆拡散に由来するものはほとんどない。細菌代謝によって,大量のH2,メタン(CH4),CO2が産生される。

H2は,消化の悪い炭水化物を含む特定の果物および野菜(例,焼いた豆)を摂取した後に大量に産生されるほか,吸収不良症候群患者においても大量に産生される。二糖類分解酵素欠損症(最も一般的にはラクターゼ欠損症)患者では,大量の二糖類が結腸に移行し,発酵されてH2が発生する。過剰な結腸ガスがある場合は,セリアック病,熱帯性スプルー,膵機能不全,炭水化物吸収不良の他の原因についても考慮すべきである。

CH4は,結腸内の外因性物質(食物繊維)および内因性物質(腸粘液)の細菌代謝により産生される;発生率は食物摂取の影響を受ける。常に大量のCH4を排出する人もいる。大量に排出する傾向は家族性で,乳児期に現れ,生涯続く。

CO2も細菌代謝により産生され,HCO3 とH+の反応で発生する。H+は,胃のHClまたは脂肪の消化過程で生じる脂肪酸に由来することがあり,脂肪酸はときに数百mEqのH+を生成する。結腸内で非吸収性炭水化物の細菌発酵により産生される酸生成物もHCO3 と反応してCO2を生成しうる。時に鼓腸が起こるが,一般にCO2の血中への急速な拡散によって膨満は予防される。

放屁の個人差の大部分は食事が原因となっているが,ほとんど理解されていない因子(例,結腸内細菌叢および結腸運動の差)も一因となっている可能性がある。

放屁中のH2およびCH4の可燃性にもかかわらず,裸火付近での放屁は危険ではない。しかしながら,腸管洗浄が不十分な患者に対して,空腸手術,結腸手術,および大腸内視鏡検査時に,ジアテルミーを使用し,ガス爆発が起こったとの報告があり,致死的な結果をもたらしたものさえある。

囲み解説 1

放屁に関するエッセイ (第14版メルクマニュアルに初掲載)

放屁は,心理社会的苦痛を引き起こしうるもので,顕著な特徴によって非公式に次のように分類されている:(1)ゆっくり音を立てずに放出され,時に壊滅的な影響を及ぼす“スー”(込み合ったエレベーター型);(2)より温度が高くにおいがあるとされている開放性括約筋または“プー”型;(3)誰もいなければ心地よく出されるスタッカートまたはドラムビート型;(4)“ブー”型(個人のコミュニケーションで説明)は効果的に会話に割り込む(しばしば会話を終結させる)鋭い絶叫型の噴出を特徴とする。においは著明な特徴ではない。ムーラン・ルージュの舞台で直腸からのガスで曲を演奏し,ガス役者として裕福になった“Le Petomane”と呼ばれるフランス人のように,まれに,通常苦痛を伴うこの症状が有利な点となる。

評価

病歴: げっぷ患者では,呑気症の原因,特に食事要因の発見に重点を置くべきである。ガスまたは鼓腸を訴える患者では,生理学的原因(特に,リスクのある患者の心疾患)の発見に重点を置く必要がある。他の点では健康な体重減少のない若年者の長期にわたる症状が重篤な生理学的疾患に起因する可能性は低いが,特に若年女性については摂食障害を検討すべきである。高齢患者,特に新たな症状が発現した患者では,本当のガスか想像によるガスかにかかわらず,過剰なガスを治療する前に精密検査を行う価値がある。

身体診察: げっぷまたは放屁患者における身体診察はめったに報われない。鼓腸およびガスのある患者では,消化管または他の病変の客観的な徴候を調べる精密検査を行う必要がある。

検査: 特定の生理学的病因の疑いがない限り,検査はそれほど有用でない。まれに予想外の小腸内細菌異常増殖が水素呼気検査によって診断されることがあるくらいである。

治療

げっぷおよび鼓腸は,通常,無意識の空気嚥下または正常量のガスに対する感受性亢進が原因となって生じるため,それらを軽減するのは困難である。呑気症を軽減するために,患者はガムの咀嚼または喫煙などの習慣を避けるべきである。反射性唾液分泌過多を起こしうる上部消化器疾患(例,消化性潰瘍)を治療すべきである。炭酸飲料または制酸薬は,げっぷに関連している場合は避けるべきである。非吸収性炭水化物を含む食物は避けるべきである。乳糖不耐症患者の食事から乳製品を除外すべきである。

繰り返されるげっぷの機序を明らかにし,証明すべきである。呑気症が問題となる場合は,バイオフィードバックおよび弛緩療法によって,より効果的に嚥下および咀嚼を行うよう患者を再教育し,呑気-不快感-げっぷ-軽減の悪循環を断ち切ることができる。

薬物はほとんど効果がない。小さな気泡を分解する薬剤ジメチコンおよび様々な抗コリン薬による治療成績は不良である。消化不良および食後上腹部膨満のある患者の中には制酸薬が有益な患者もいる。

過度の放屁の訴えを誘因物質の回避によって治療する。結腸通過を増加させることを目的として食物繊維(例,ふすま,オオバコ種子)を食事に加えてもよいが,患者によっては症状の悪化が生じることがある。活性炭は時にガスおよび不快臭の軽減に役立つが,衣類および口腔粘膜に染みをつける傾向があるため望ましくない。クロロフィル錠は臭気を軽減することがあり,患者に比較的よく受け入れられている。

一般に,機能性の鼓腸,膨満,および放屁は,間欠性で慢性の経過をとり,治療で軽減するのは一部に過ぎない。これらの問題が健康に有害ではないと安心させることが重要である。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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