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腹痛はよくみられ,しばしば重要ではない。しかしながら,急性および重度の腹痛は,ほとんどの場合,腹部疾患の症状である。手術が必要かどうかの唯一の指標であることがあり,迅速に治療する必要がある:特定の疾患では症状の発現から6時間未満で腸の壊疽および穿孔が起こりうる(例,絞扼性閉塞または動脈塞栓による腸への血液供給阻害)。非常に若い患者,非常に高齢の患者,HIV感染患者,免疫抑制薬使用患者において,腹痛は特に懸念される。
疼痛に対する反応は個人差があるので,腹痛に関する教科書の説明には限界がある。一部の人,特に高齢者は冷静であるが,症状を誇張する人もいる。乳児,幼児,一部の高齢者は疼痛部位を特定するのが困難なことがある。
病態生理
内臓痛は,腹部臓器に由来する痛みであるが,腹部臓器は自律神経線維に支配され,主に拡張および筋収縮の感覚に反応し,切傷,断裂,局所刺激には反応しない。内臓痛は通常,漠然とした気分が悪くなるような鈍痛である。局在のはっきりしない痛みで,罹患臓器の原基に相当する領域に感知される傾向がある。前腹部由来の臓器(胃,十二指腸,肝臓,膵臓)は上腹部痛を引き起こす。中腹部由来の臓器(小腸,近位結腸,虫垂)は臍部痛を引き起こす。後腹部由来の臓器(遠位結腸および尿生殖路)は下腹部痛を引き起こす。
体性痛は壁側腹膜に由来する痛みであるが,この壁側腹膜は体性神経(感染過程,化学過程,他の炎症過程による刺激に反応)の支配を受けている。体性痛は鋭く痛みの局在が明確である。
関連痛は,原因のある部位から離れたところに感ずる痛みで,脊髄における神経線維の収束に起因する。関連痛の一般的な例として,胆石疝痛による肩甲骨痛,腎疝痛による鼠径部痛,横隔膜を刺激する血液または感染による肩痛がある。
腹膜炎は腹腔の炎症性疾患である。最も重篤な原因は,消化管穿孔(急性腹症と消化器外科: 急性穿孔を参照 )で,消化管穿孔は即時化学的炎症を引き起こし,その直後に腸内細菌による感染が起こる。腹膜炎はまた著明な炎症を引き起こすあらゆる腹症(例,虫垂炎,憩室炎,絞扼性腸閉塞,膵炎,骨盤内炎症性疾患,腸間膜虚血)が原因となって起こりうる。いかなる原因(例,動脈瘤破裂,外傷,外科手術,子宮外妊娠)による腹腔内血液も刺激性で,腹膜炎を引き起こす。バリウムは重症の腹膜炎を引き起こすため,消化管穿孔の疑いがある患者に対して使用してはならない。腹水と同様に,腹腔内の腹腔体循環シャント,排液管,透析カテーテルは,感染性腹膜炎の素因となる。まれに,特発性細菌性腹膜炎が発生し,腹腔は血行性に運ばれてきた細菌に感染する。腹膜炎は腹腔および腸管内への体液の移動を引き起こし,重度の脱水および電解質平衡異常を引き起こす。成人呼吸促迫症候群が急激に発症することがある。引き続き腎不全,肝不全,汎発性血管内凝固が起こる。患者の顔はヒポクラテス顔貌に特有の仮面様顔貌となる。数日以内に死に至る。
病因
多くの腹腔内疾患が腹痛を引き起こし(急性腹症と消化器外科: 腹痛の部位および考えられる原因。図 1: を参照),問題にならないものもあるが,たちまち生命を脅かすものもあり,迅速な診断および外科手術を要する。これらには,腹部大動脈瘤(AAA)破裂,内臓穿孔,腸間膜虚血,子宮外妊娠破裂などがある。他の疾患(例,腸閉塞,虫垂炎,重症急性膵炎)も重篤で同じくらい緊急を要する。複数の腹腔外疾患も腹痛を引き起こす(急性腹症と消化器外科: 腹痛の腹腔外原因表 1: を参照)。
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表 1
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腹痛の腹腔外原因
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腹壁
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泌尿生殖器
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感染性
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代謝性
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胸部
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中毒性
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新生児,乳児,幼児の腹痛には,胎便性腹膜炎,幽門狭窄,食道ウエブ,総腸間膜症を伴う腸捻転,鎖肛,腸重積,先天性閉鎖症による腸閉塞など,成人の腹痛にはない無数の原因がある。
評価
軽度および重度の疼痛の評価は同じプロセスに従うが,重度の腹痛では,治療は時に同時に進められ,早期に外科医の診察を受ける必要がある。病歴聴取および身体診察で通常少数の原因以外は全て除外され,最終診断は臨床検査および画像検査を賢明に行うことによって確定される。それほど重篤でない疾患の診断に的を絞る前に必ず生命を脅かす疾患を除外すべきである。重度の腹痛を訴える重篤な患者における最も重要な診断法は迅速な試験開腹であろう。軽症患者については,経過観察が最もよいであろう。
病歴:
通常,詳細な病歴聴取によって診断が示唆される(急性腹症と消化器外科: 急性腹痛患者の病歴表 2: を参照)。疼痛の部位(急性腹症と消化器外科: 腹痛の部位および考えられる原因。図 1: を参照)および特徴,類似した症状の既往,関連症状は,特に重要である。胃食道逆流,下痢,便秘,黄疸,下血,血尿,吐血,体重減少,粘液便,血便などの随伴症状は,その後の評価の方向づけに有用である。
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表 2
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急性腹痛患者の病歴
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質問
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考えられる回答と適応症
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どこが痛みますか。
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急性腹症と消化器外科: 腹痛の部位および考えられる原因。図 1: 参照。
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どんな痛みですか。
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“息ができない”ような収縮性の激痛の急激な波(腎疝痛または胆石疝痛)
嘔吐を伴う鈍痛の波(腸閉塞)
持続性の疝痛(虫垂炎,絞扼性腸閉塞,腸間膜虚血)
体動で悪化する持続性の激痛(腹膜炎)
引き裂かれるような痛み(解離性動脈瘤)
鈍痛(虫垂炎,憩室炎,腎盂腎炎)
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以前にありましたか。
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「はい」という回答は,潰瘍性疾患,胆石疝痛,憩室炎,排卵時下腹部症などの反復する障害を示唆する
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突然に発症しましたか。
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突然:“ライトのスイッチを入れたように”(穿孔性潰瘍,腎結石,子宮外妊娠破裂,卵巣または精巣捻転,動脈瘤破裂)
それほど突然ではない:ほぼ他の原因
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痛みの激しさは。
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重度の痛み(内臓穿孔,腎結石,腹膜炎,膵炎)
身体所見と不釣り合いな痛み(腸間膜虚血)
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痛みは移動しますか。
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右肩甲骨(胆嚢の痛み)
左肩領域(脾臓破裂,膵炎)
恥骨または腟(腎臓の痛み)
背部(大動脈瘤破裂)
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どうすると痛みが楽になりますか。
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制酸薬(消化性潰瘍)
できるだけ静かに横になる(腹膜炎)
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痛みに伴って起こる他の症状は。
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痛みの前に嘔吐が起こり,後に下痢が起こる(胃腸炎)
痛みの後に嘔吐が起こり,排便および放屁はない(急性腸閉塞;閉塞部位が下方であるほど遅延する)
強い心窩部,左胸部,または肩の痛みの前に重度の嘔吐が起こる(腹腔内食道の催吐性穿孔)
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薬歴については,アルコール使用に加えて処方薬および違法薬物使用に関する詳細も聴取すべきである。多くの薬物が胃腸障害を引き起こす。プレドニゾンや免疫抑制薬によって,穿孔または腹膜炎に対する炎症反応が抑制され,それらの薬剤を使用しなかった場合に予測されるよりも疼痛および白血球増加が軽減することがある。抗凝固薬は出血および血腫形成の可能性を増加させる。アルコールは膵炎の素因となる。
既知の医学所見は重要である。腹部手術の既往があれば癒着による閉塞の可能性が高い。全身性粥状動脈硬化症は,心筋梗塞,AAA,腸間膜虚血の可能性を増大させる。HIV感染症があれば,感染性の原因および薬物の副作用の可能性がある。
身体診察:
全体的な様子は重要である。不安を抱いた,顔色の悪い,発汗した,または明らかな痛みのある患者と異なり,幸せで快適に見える患者にはめったに深刻な問題はない。血圧,脈拍,意識状態,末梢循環の他の徴候を評価する必要がある。しかしながら,診察の中心は腹部で,視診および聴診から始める。膨満は,特に手術の瘢痕がある場合,腸閉塞を示唆する。肋骨脊椎角の斑状出血(グレイターナー徴候)または臍周囲の斑状出血(カレン徴候)は,出血性膵炎において現れることがある。正常なピッチの活発な蠕動は,手術を必要としない疾患(例,胃腸炎)を示唆する。高ピッチの蠕動または急速で長い腹鳴は,腸閉塞を示唆する。腸雑音消失を伴う重度の疼痛は腹膜炎を示唆する。ショックを伴う背部痛はAAA破裂を示唆する。
最も痛みが激しい部位から離れたところからやさしい触診を始め,筋性防御,筋硬直,反跳圧痛の存在(全て腹膜刺激を示唆)および腫瘤に加えて,特に圧痛のある部位を特定する。筋性防御は,神経過敏または不安な患者でみられる急速な随意収縮よりもわずかに遅く持続的な,腹筋の不随意収縮である。鼠径部および全ての手術瘢痕の触診を行ってヘルニアを確認する。直腸診および内診は不可欠である。
検査:
標準検査(例,CBC,化学的検査,尿検査)は,しばしば実施されるが,感度が低いためほとんど価値がない:重大な疾患を有する患者において結果が正常であることがある。結果が異常でも特異的な診断は得られず(特に,尿検査は,様々な疾患における膿尿や血尿を示しうる),また,重大な疾患がなくても結果が異常となることがある。血清リパーゼは例外で,急性膵炎の診断を強く示唆する。尿妊娠反応陰性であれば効果的に子宮外妊娠破裂を除外できるので,妊娠可能年齢の全ての女性に対してこのベッドサイド検査を実施すべきである。
穿孔または閉塞が疑われる場合は,臥位および立位腹部X線ならびに立位胸部X線から成る腹部造影(立てない患者については,左側臥位腹部X線および前後の胸部X線)を行うべきである。しかしながら,これらの単純X線検査が他の疾患の診断となることはめったにないので,機械的に行う必要はない。胆道疾患または子宮外妊娠(経腟プローブ)が疑われる場合には,超音波検査を行うべきである。超音波検査でAAAも検出できるが,破裂を確実に同定することはできない。非造影らせんCTは,腎結石の疑いがある患者に対して第1選択である。
重度の腹痛患者の約95%において経口造影剤CTが診断となり,この検査によって陰性開腹率が著明に低下している。しかしながら,決定的な症状および徴候がある患者に対する外科手術を先端画像診断が遅らせてはならない。
治療
一部の臨床医は,診断前の疼痛緩和によって評価が妨げられると感じている。しかしながら,中等量の鎮痛薬の静脈内投与(例,フェンタニル50〜100μg,モルヒネ4〜6mg)では腹膜炎の徴候は隠蔽されず,不安および不快感が軽減されることによって,しばしば診察が容易になる。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
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