|
急性腸間膜虚血は,塞栓症,血栓症,または循環血流量減少により腸管血流が阻害された状態である。メディエーター放出,炎症,最終的に梗塞に至る。腹痛は身体所見と釣り合いが取れていない。早期診断は困難であるが,血管造影法および試験開腹術が最も感度が高い;他の画像診断法はしばしば疾患が進行して初めて陽性となる。治療は,塞栓摘除術,壊死に陥っていない腸管の血行再建術,または切除術による;血管拡張療法が成功することもある。死亡率は高い。
病因と病態生理
腸粘膜は代謝率が高く,それに応じて,多くの血液を必要とするため(正常では,心拍出量の20〜25%の供給を受ける),血流低下の影響に非常に敏感である。虚血は粘膜バリアに障害を与え,これにより細菌,毒素,血管作動性メディエーターが放出され,引き続いて心筋抑制,全身性炎症反応症候群(敗血症および敗血症性ショックを参照 ),多臓器不全,死亡が起こる。メディエーター放出は完全梗塞に至る前でも起こりうる。壊死は症状発現後10〜12時間で起こりうる。
次の3本の主要血管が腹部臓器に血液を供給している:腹腔動脈,上腸間膜動脈(SMA),下腸間膜動脈(IMA)。腹腔動脈は,食道,胃,近位十二指腸,肝臓,胆嚢,膵臓,脾臓に供給している。SMAは,遠位十二指腸,空腸,回腸,脾弯曲部までの結腸に供給している。IMAは,下行結腸,S状結腸,直腸に供給している。胃,十二指腸,直腸には側副血管が豊富に存在するため,これらの部位で虚血が起こることはまれである。脾弯曲部はSMAとIMAの間の分水界で,特に虚血のリスクがある。
静脈または動脈側の腸間膜血流が阻害されることがある。一般に,50歳以上の患者は最もリスクが高く,次のような閉塞の種類と危険因子を有する。(1)動脈塞栓症(50%),危険因子:冠動脈疾患,心不全,心臓弁膜症,心房細動,動脈塞栓の既往。(2)動脈血栓症(10%),危険因子:全身性粥状動脈硬化症。(3)静脈血栓症(10%),危険因子:凝固亢進状態,炎症性疾患(例,膵炎,憩室炎),外傷,心不全,腎不全,門脈圧亢進,潜函病。(4)非閉塞性虚血(25%),危険因子:血流の少ない状態(心不全,ショック,心肺バイパス)および内臓血管収縮(血管収縮薬,コカイン)。しかしながら,多くの患者で危険因子を同定できない。
症状と徴候
腸間膜虚血の早期の特徴は,重度の疼痛であるが,身体所見に乏しい。腹部は依然として軟らかく,圧痛はほとんどないか,全くない。軽度の頻脈を認めることがある。その後,壊死が起こるとともに,著明な腹部圧痛,筋性防御,筋硬直,腸雑音消失など,腹膜炎の徴候が現れる。便は潜血陽性となることがある(虚血の進行とともに可能性が高まる)。ショックの通常の徴候が発現し,その後しばしば死亡する。
突然の疼痛発現は,動脈塞栓症を示唆するが,同疾患の診断とはならず,一方,徐々に発現する疼痛は静脈性血栓症に特有である。食後腹部不快感(腸管アンギナを示唆する)の既往を有する患者では動脈血栓症が認められることがある。
診断
いったん腸梗塞が起こると死亡率が有意に上昇するため,早期診断は特に重要である。既知の危険因子または素因となる疾患を有する50歳以上の患者が重度の腹痛を突然発症した場合には,腸間膜虚血を検討する必要がある。
明らかな腹膜炎の徴候を認める患者には,直ちに診断的および治療的開腹術を行うべきである。他の患者については,選択的腸間膜動脈造影を診断手技の第1選択とする。他の画像診断および血清マーカーは異常を証明できるが,診断が最も重要な疾患の早い段階では感度および特異度に欠けている。単純腹部X線は主に疼痛の他の原因(例,内臓穿孔)を除外するのに有用であるが,疾患の後期には門脈内ガスまたは腸管気腫症が認められることがある。これらの所見はCTでも認められるが,CTでは血管閉塞が直接描出されることもある(静脈側の閉塞がより正確に描出される)。ドプラ超音波検査で動脈閉塞を同定できることもあるが,この検査は感度が低い。MRIでは近位血管閉塞は非常に正確に描出されるが,遠位血管閉塞はそれほど正確に描出されない。血清マーカー(例,クレアチンホスホキナーゼおよび乳酸)は壊死とともに上昇するが,非特異的で後期の所見である。血清中腸型脂肪酸結合蛋白は,将来早期マーカーとして役立つであろう。
予後と治療
腸梗塞が起こる前に診断および治療を行えば,死亡率は低いが,腸梗塞が起こった後に行えば,死亡率は70〜90%に達する。
試験開腹時に診断が下された場合,治療選択肢は外科的塞栓摘除術,血行再建術,切除術である。血管造影で診断が下された場合は,血管造影用カテーテルを通して血管拡張薬パパベリンを注入することによって閉塞性および非閉塞性虚血の生存率が改善することがある。60mg,2分間のボーラス投与後,30〜60mg/時間で注入する。パパベリンは外科的介入を予定している場合でも有用で,手術中および手術後にも投与されることがある。さらに,動脈閉塞症の場合は,血栓溶解療法または外科的塞栓摘除術を行うとよい。評価期間のいかなる時点でも腹膜炎の徴候の発現は,即時手術の必要性を示唆する。腹膜炎の徴候が認められない腸間膜静脈血栓症は,パパベリンによる治療後,ヘパリンによる抗凝固療法とその後のワルファリンによる抗凝固療法で治療できる。
動脈塞栓症または静脈血栓症患者には,ワルファリンによる長期抗凝固療法を行う必要がある。非閉塞性虚血患者は抗血小板療法で治療してもよい。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
|