メルクマニュアル18版 日本語版
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運動障害

アカラシア

(噴門痙攣;食道無蠕動;巨大食道)

アカラシアは,食道の蠕動障害および嚥下時の下部食道括約筋の弛緩不全を特徴とする神経原性食道運動障害である。症状は,緩徐進行性嚥下障害(通常,液体と固形物の両方)および未消化の食物の逆流である。評価として,通常,バリウム嚥下検査,内視鏡検査,時に内圧検査を行う。治療には,拡張術,化学的除神経,外科的筋切開術がある。

(See also the American College of Gastroenterology's practice guidelines on the diagnosis and management of achalasia.)

アカラシアは,食道筋層間神経叢の神経節細胞消失による食道筋の除神経に起因すると考えられる。除神経の病因は不明であるが,ウイルス性の原因が疑われ,また,特定の腫瘍は直接閉塞によってまたは腫瘍随伴症の過程としてアカラシアを引き起こすことがある。シャーガス病は,自律神経節を破壊する疾患であるが,アカラシアを引き起こすことがある。

下部食道括約筋(LES)圧上昇によって食道の二次性拡張を伴う閉塞が起こる。未消化の食物の食道内停滞がよくみられる。

症状と徴候

アカラシアは全ての年齢で起こるが,通常は20〜40歳の間に発症する。潜行性に発症し,数カ月または数年にわたって徐々に進行する。主症状は固形物と液体の両方の嚥下障害である。未消化の食物の夜間逆流は,患者の約33%に起こり,咳および肺内誤嚥を引き起こすことがある。胸痛はそれほど一般的ではないが,嚥下時または自発的に起こることがある。軽度から中等度の体重減少が起こる;体重減少が著明な場合,特に嚥下障害の症状が急速に進行した高齢者では,胃食道接合部の腫瘍に続発するアカラシアを考慮すべきである。

診断

バリウムX線検査が望ましく,この検査では嚥下時の進行性蠕動収縮の消失が実証される。食道は拡張し,しばしば巨大化しているが,LESの部分ではくちばし状に狭窄している。食道鏡検査では,拡張が認められるが,閉塞性病変は認められない。食道鏡は通常,胃に容易に到達するので,抵抗がある場合は不顕性の悪性腫瘍または狭窄の可能性がある。悪性腫瘍を除外するために,胃噴門の反転観察,生検,ブラシ擦過細胞診を行うべきである。食道内圧検査は通常行われないが,この検査では,無蠕動,LES圧上昇,嚥下時の括約筋の弛緩不全が典型的に認められる。

食道内圧検査で無蠕動が認められることがある全身性硬化症(自己免疫リウマチ性疾患: 全身性硬化症を参照 )患者においては特に,アカラシアを遠位部の癌性狭窄および消化性狭窄と鑑別する必要がある。全身性硬化症は通常,レイノー現象の既往および胃食道逆流症(GERD)の症状を伴う。

胃食道接合部の癌によるアカラシアは,胸部および腹部CTまたは超音波内視鏡検査で診断できる。

予後

肺内誤嚥および癌の存在は決定的な予後因子である。夜間逆流および咳は誤嚥を示唆する。誤嚥に続発する肺合併症は管理が困難である。アカラシア患者の食道癌の発生率は増加していると考えられているが,この点に関しては議論の余地がある。

治療

蠕動を回復させる治療はない;治療はLES圧(したがって閉塞)の低下を目的として行う。最初にLESに対する気圧式バルーン拡張術を行う。約85%の患者で満足な結果が得られるが,繰り返し拡張することが必要であろう。外科手術を要する食道破裂および続発性縦隔炎が患者の2%未満に発生する。硝酸薬(例,硝酸イソソルビド5〜10mg,食前に舌下投与)またはカルシウムチャネル遮断薬(例,ニフェジピン10mg,経口にて1日3回)の有効性は限られたものであるが,拡張術の間隔を延長するのに十分なLES圧低下をもたらすであろう。

アカラシアは,ボツリヌス毒素のLES内直接注射による下部食道コリン作動性神経の化学的除神経によっても治療できる。患者の70〜80%に臨床的改善が認められるが,効果は6カ月から1年しか持続しないことがある。

ヘラーの筋切開術は,LESの筋線維を切断する手術で,通常は拡張術が奏効しない患者にのみ用いられ,成功率は約85%である。腹腔鏡または胸腔鏡を用いて施行でき,初期療法として拡張術に代わる実行可能な治療法であろう。患者の約15%において術後に症候性GERDが起こる。

症候性びまん性食道痙攣

(痙攣性偽憩室症;数珠状または栓抜き状食道)

症候性びまん性食道痙攣は,推進力のない収縮,収縮亢進,または下部食道括約筋圧上昇によって様々に特徴づけられる多種多様の運動障害の一部である。症状として,胸痛,時に嚥下障害がみられる。診断はバリウム嚥下検査または内圧検査によって行う。治療は困難であるが,硝酸薬,カルシウムチャネル遮断薬,ボツリヌス毒素の注射,逆流防止療法がある。

食道運動の異常は患者の症状とあまり相関していない;同じような異常が人によって様々な症状を引き起こしたり,何も症状を引き起こさなかったりする。さらに,症状も異常収縮も食道の組織病理学的異常に明確に関連しているわけではない。

症状と徴候

びまん性食道痙攣では液体と固形物の両方の嚥下障害を伴う胸骨下胸痛が典型的に起こる。患者は疼痛のため睡眠から目覚めることがある。非常に熱いまたは冷たい飲物が疼痛を悪化させることがある。何年も経て,この障害はアカラシアに進行することがある。

食道痙攣では,嚥下障害がなくても重度の疼痛が起こりうる。この疼痛はしばしば胸骨下の絞扼痛と表現され,労作に伴って起こることがある。そのような疼痛は狭心症と鑑別できないことがある。

アカラシアとびまん性痙攣の症状を併せもつ患者もいる。これらの症候群のいくつかは,アカラシアの食物停滞および誤嚥に加えて,びまん性痙攣の重度の疼痛および痙攣も特徴としているので,活動性アカラシアと呼ばれている。

診断

別の診断として冠虚血がある。症状が食道に由来するということを確認するのは困難である。バリウム嚥下検査では,バリウム塊の緩徐な通過および不規則な同期性収縮または非蠕動性収縮を認めることがある。重度の痙攣は,憩室のX線像に類似することがあるが,大きさおよび位置が異なる。食道内圧検査(消化管の診断と治療に関する手技: 内圧検査を参照 )は痙攣に対する特異度が最も高い。収縮は通常,同期性で,遷延性または多相性で,おそらく非常に高振幅である(“クルミ割り食道”)。しかしながら,痙攣は検査時に起こらないことがある。患者の30%において下部食道括約筋(LES)圧上昇または弛緩障害が認められる。食道シンチグラフィおよび薬物(例,塩化エドロホニウム10mg静脈内投与)による誘発検査の有用性は証明されていない。

治療

食道痙攣はしばしば治療が困難で,治療法に関する対照試験はない。抗コリン薬,ニトログリセリン,長時間作用性硝酸薬はほとんど成功していない。LESへのボツリヌス毒素注射と同様に,カルシウム拮抗薬の経口投与(例,ベラパミル80mg,1日3回,ニフェジピン10mg,1日3回)も有用なことがある。

通常は薬物療法で十分であるが,難治例に対しては,気圧式拡張術およびブジー挿入術,場合によっては食道全長にわたる外科的筋切開術を試みてもよい。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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