メルクマニュアル18版 日本語版
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ヘリコバクター-ピロリ感染

Sidney Cohen, MD

ヘリコバクター-ピロリは,胃炎,消化性潰瘍,胃腺癌,低悪性度胃リンパ腫を引き起こす一般的な胃病原菌である。感染は無症候性であったり,様々な程度の消化不良を引き起こしたりする。尿素呼気試験および内視鏡生検標本の検査によって診断する。治療として,プロトンポンプ阻害薬と2種類の抗生物質を併用する。(See also the American College of Gastroenterology's guidelines for the management of Helicobacter pylori infection.)

ヘリコバクター-ピロリは,酸性環境で発育するようになったらせん状のグラム陰性菌である。開発途上国において,慢性感染を引き起こすことが多く,感染は通常小児期に起こる。米国では,小児の感染はそれほど多くないが,年齢とともに増加する:60歳までに約50%が感染する。黒人およびヒスパニックの感染率が最も高い。

本菌は糞便,唾液および歯垢から培養されており,このことは,経口感染または糞口感染を示唆している。感染は家族内および介護施設の入居者にまとまって発生する傾向がある。看護師および消化器専門医はリスクが高いようである:適切な消毒が行われていない内視鏡を介して細菌が感染しうる。

病態生理

ヘリコバクター-ピロリ感染の影響は,胃内の感染部位によって異なる。前庭部優勢感染では,おそらく前庭部のソマトスタチン分泌低下により,ガストリン分泌が亢進する。結果として起こる酸過剰分泌は,幽門前部および十二指腸潰瘍の素因となる。体部優勢感染では,おそらく胃体部のインターロイキン-1β産生亢進により,胃の萎縮および酸分泌低下が起こる。体部優勢感染患者は,胃潰瘍および腺癌を発症する傾向がある。様々な臨床症状を伴う前庭部および体部の混合感染患者もいる。多くのヘリコバクター-ピロリ感染患者は顕著な臨床症状がない。

ヘリコバクター-ピロリが産生するアンモニアによって,菌が胃内の酸性環境の中で生存できるようになり,粘液バリアが侵食されることがある。ヘリコバクター-ピロリが産生するサイトトキシンおよび粘液溶解酵素(例,細菌プロテアーゼ,リパーゼ)は,粘膜損傷とそれに続く潰瘍発生に関与していると考えられる。

感染者は,胃癌発生の可能性が3〜6倍高い。ヘリコバクター-ピロリ 感染は,胃体部および前庭部の腸型腺癌に関連しているが,胃噴門部の癌には関連していない。他の関連悪性腫瘍として,胃リンパ腫,および単クローン性B細胞腫瘍である粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫がある。

診断

無症候性患者のスクリーニングは必要でない。検査は消化性潰瘍および胃炎の評価時に行う。除菌を確認するために通常除菌治療後検査を行う。初期診断と除菌治療後では異なる検査を行うのが望ましい。

非侵襲的検査: ヘリコバクター-ピロリに対する抗体の検査室および診療所ベースの血清学的検査の感度および特異度は85%以上で,ヘリコバクター-ピロリ感染に関する最初の実証のための第1選択非侵襲的検査と考えられる。しかしながら,定性分析は除菌治療成功後,最大3年間陽性を示し,抗体価は除菌治療後6〜12カ月間有意に低下しないので,通常,血清学的検査は除菌判定に使用しない。

尿素呼気試験では,13Cまたは14C標識尿素を経口投与する。感染患者では,菌により尿素が代謝され,標識CO2が発生し,発生したCO2は呼気中に排泄され,尿素摂取から20〜30分後に採取した呼気サンプルで測定できる。感度および特異度は90%以上である。尿素呼気試験は,除菌治療後の除菌の確認に適している。最近の抗生物質使用またはプロトンポンプ阻害薬併用は偽陰性結果をもたらす可能性があるため,フオローアップ検査は抗生物質療法後4週間以上,プロトンポンプ阻害薬療法後1週間経過してから行うべきである。H2ブロッカーは検査に影響を及ぼさない。

侵襲的検査: 迅速ウレアーゼ試験(RUT)用または組織染色用の粘膜生検標本を採取するために上部消化管内視鏡検査を行う。培養条件が面倒なため,細菌培養の有用性は限られている。

RUTでは,生検標本中に細菌ウレアーゼが存在すると特殊な培地上で色の変化が起こるが,この方法が組織標本の第1選択診断法である。RUTの結果が陰性であっても,疑わしい臨床所見を有する患者,最近の抗生物質使用患者,またはプロトンポンプ阻害薬投与患者については生検標本の組織染色を行うべきである。RUTおよび組織染色の感度および特異度は90%以上である。

治療

合併症(例,胃炎,潰瘍,悪性腫瘍)のある患者には除菌を行うべきである。ヘリコバクター-ピロリ除菌によって,MALTリンパ腫が治癒することさえある(しかし,他の感染関連悪性腫瘍は治癒しない)。無症候性感染の治療に関しては議論の余地があるが,癌におけるヘリコバクター-ピロリの役割は認識されており,治療が推奨されている。

ヘリコバクター-ピロリ 除菌には,多剤併用療法を行う必要があり,通常抗生物質と酸分泌抑制薬を併用する。プロトンポンプ阻害薬は,ヘリコバクター-ピロリに対し抗菌作用を有し,使用に伴う胃液pH上昇によって抗生物質の組織中濃度および効果が高まり,ヘリコバクター-ピロリ.にとって苛酷な環境となる。

3剤併用療法が推奨される。オメプラゾール20mg,1日2回またはランソプラゾール30mg,1日2回+クラリスロマイシン500mg,1日2回+メトロニダゾール500mg,1日2回またはアモキシシリン1g,1日2回を14日間経口投与したときの除菌率は95%以上である。このレジメンは優れた忍容性を有する。プロトンポンプ阻害薬の代わりにラニチジンビスマスクエン酸塩400mg,経口にて1日2回を使用してもよい。

プロトンポンプ阻害薬1日2回+テトラサイクリン500mg,1日4回+次サリチル酸または次クエン酸ビスマス525mg,1日4回+メトロニダゾール500mg,1日3回の4剤併用療法も有効であるが,より煩雑である。

十二指腸または胃潰瘍のある感染患者は,酸分泌抑制を4週間以上継続する必要がある。

ヘリコバクター-ピロリ除菌不成功の場合は,治療を繰り返す。2コース失敗した場合,感受性検査用の培養を行うために内視鏡検査を行うよう勧めている専門家もいる。

最終改訂月 2007年1月

最終更新月 2005年11月

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