メルクマニュアル18版 日本語版
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胃酸に対する薬物療法

Sidney Cohen, MD

酸度を低下させるための薬物は,消化性潰瘍,胃食道逆流症(GERD―食道および嚥下の障害: 胃食道逆流症(GERD)を参照 )および多くの種類の胃炎に使用される。一部の薬物は,ヘリコバクター-ピロリ感染を治療するためのレジメンに使用される。薬物として,プロトンポンプ阻害薬,H2ブロッカー,制酸薬,およびプロスタグランジンがある。

プロトンポンプ阻害薬: これらの薬物は,H+,K+‑ATPaseの強力な阻害薬である。この酵素は,壁細胞の先端の分泌膜に存在し,H+(プロトン)分泌において重要な役割を果たしている。これらの薬物は,酸分泌を完全に阻害し,作用持続時間も長い。潰瘍治癒を促進するほか,ヘリコバクター-ピロリ除菌療法の重要な成分でもある。プロトンポンプ阻害薬は,H2ブロッカーよりも作用発現が速やかで有効性が高いので,ほとんどの臨床状況においてH2ブロッカーの代わりに使用されるようになった。

現在使用できるプロトンポンプ阻害薬は,オメプラゾール,ランソプラゾール,ラベプラゾール,エソメプラゾールの経口剤,パントプラゾールの経口剤と静注剤である((胃炎および消化性潰瘍: プロトンポンプ阻害薬表 1: 表)。合併症のない十二指腸潰瘍に対しては,オメプラゾール20mgまたはランソプラゾール30mgを1日1回4週間経口投与する。合併症のある十二指腸潰瘍(すなわち,多発性潰瘍,出血性潰瘍,1.5cm以上の潰瘍,重篤な基礎疾患を有する患者に発生した潰瘍)に対しては,より高用量(オメプラゾール40mg,1日1回,ランソプラゾール60mg,1日1回または30mg,1日2回)が有効である。胃潰瘍は6〜8週間の治療を要する。胃炎およびGERDは8〜12週間の治療を要する;GERDはさらに長期維持療法を行う必要がある。

表 1

プロトンポンプ阻害薬

薬物

大部分の疾患*

合併症のある十二指腸潰瘍

エソメプラゾール

40mg 1日1回

40mg 1日2回

ランソプラゾール

30mg 1日1回

(小児用量:10kg未満7.5mg 1日1回,

10–20kg 15mg 1日1回,

20kg以上 30mg 1日1回)†

30mg 1日2回

オメプラゾール

20mg 1日1回

(小児用量:1mg/kg/日単回投与または1日2回分割投与)†

40mg 1日1回

パントプラゾール

40mg 1日1回

40mg 1日2回

ラベプラゾール

20mg 1日1回

20mg 1日2回

*胃炎,胃食道逆流症,合併症のない十二指腸潰瘍。

†代表的用量。小児に対するプロトンポンプ阻害薬使用に関するデータは限られている。

プロトンポンプ阻害薬による長期治療でガストリン濃度が上昇し,腸クロム親和性様細胞過形成が生じる。しかしながら,本剤投与患者に異形成や悪性化を示す所見は認められない。患者によっては,ビタミンB12吸収不良が起こることがある。

H2ブロッカー: これらの薬物(シメチジン,ラニチジン,ファモチジンの静注剤および経口剤ならびにニザチジンの経口剤)は,H2受容体へのヒスタミンの結合を競合的に阻害するため,ガストリン刺激酸分泌が抑制され,これに比例して胃液量が減少する。ヒスタミンを介するペプシン分泌も減少する。

H2ブロッカーは,消化管からの吸収が良好で,摂取後30〜60分で作用が発現し,1〜2時間後に最大の効果が得られる。静脈内投与した場合,作用はさらに速やかに発現する。作用持続時間は用量に比例し,6〜20時間である。高齢患者ではしばしば用量を減量すべきである。

十二指腸潰瘍には,シメチジン800mg,ラニチジン300mg,ファモチジン40mg,またはニザチジン300mg,1日1回就寝前または夕食後,6〜8週間経口投与が有効である。胃潰瘍は8〜12週間の同じレジメンが奏効することがあるが,夜間酸分泌はそれほど重要でないので,朝投与が同等以上の有効性を有する可能性がある。40kg以上の小児には成人用量を投与してもよい。40kg未満の小児の経口投与量は,ラニチジン2mg/kg,12時間毎,シメチジン10mg/kg,12時間毎である。GERDに対して,H2ブロッカーは現在,主に疼痛管理のために使用されている。胃炎は,ファモチジンまたはラニチジン1日2回,8〜12週間投与で治癒する。

シメチジンは弱い抗アンドロゲン作用を有し,長期使用によって可逆性の女性化乳房のほか,頻度は低いが,勃起不全が起こる。急速静注後の精神状態の変化,下痢,湿疹,薬剤熱,筋肉痛,血小板減少,洞徐脈および低血圧は,全てのH2ブロッカーで報告されており,一般に治療患者の1%未満であるが,高齢患者ではより頻度が高い。

シメチジンと,より程度は低いが,他のH2ブロッカーは,P-450ミクロソーム酵素と相互作用し,この酵素系を介する他の薬(例,フェニトイン,ワルファリン,テオフィリン,ジアゼパム,リドカイン)の代謝を遅延させることがある。

制酸薬: これらの薬剤は胃酸を中和し,ペプシンの活性(胃液pHが4.0以上に上昇すると減弱する)を低下させる。さらに,一部の制酸薬はペプシンを吸収する。制酸薬は,他の薬物(例,テトラサイクリン,ジゴキシン,鉄)の吸収を阻害しうる。

制酸薬は,症状を軽減し,潰瘍治癒を促進し,再発を減少させる。比較的安価であるが,5〜7回/日服用する必要がある。潰瘍治癒のための最適の制酸薬療法は,液体15〜30mLまたは錠剤2〜4錠,毎食後1時間と3時間および就寝前服用であるように思われる。1日総投与量の制酸薬は200〜400mEqの中和能を有するはずである。しかしながら,消化性潰瘍の治療において,制酸薬は酸分泌抑制療法に取って代わられてしまい,短期的な症状緩和のためだけに使用されている。

一般に,次の2種類の制酸薬がある:吸収性および非吸収性。吸収性制酸薬(例,炭酸水素ナトリウム,炭酸カルシウム)は,迅速かつ完全な中和作用を有するが,アルカローシスを起こしうるので短期間(1日または2日間)の使用に限るべきである。非吸収性制酸薬(例,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム)の方が全身性副作用を引き起こすことが少ないので望ましい。

水酸化アルミニウムは比較的安全でよく使用される制酸薬である。消化管でアルミニウムはリン酸と結合するため,長期使用によってリン酸欠乏が生じることがある。リン酸欠乏のリスクは,アルコール依存患者,栄養不良患者,および腎疾患患者(血液透析患者を含む)で増加する。水酸化アルミニウムは便秘の原因となる。

水酸化マグネシウムはアルミニウムよりも有効な制酸薬であるが,下痢を来すことがある。下痢を最小限に抑えるために,多くの市販の制酸薬はマグネシウム制酸薬とアルミニウム制酸薬を配合している。少量のマグネシウムが吸収されるので,腎疾患患者に対してマグネシウム製剤は慎重に使用すべきである。

プロスタグランジン: 特定のプロスタグランジン(特に,ミソプロストール)は,酸分泌を抑制し,粘膜防御を増強する。合成プロスタグランジン誘導体は主にNSAIDによる粘膜損傷のリスクを減少させるために用いられる。NSAIDによる潰瘍のリスクが高い患者(すなわち,高齢患者,潰瘍または潰瘍合併症の既往がある患者,コルチコステロイド併用患者)は,NSAID服用時に食事とともにミソプロストール200 μg,1日4回を経口投与する対象となる。ミソプロストールの一般的な副作用は腹部痙攣および下痢で,30%の患者に発症する。ミソプロストールは強力な堕胎薬で,避妊法を使用していない妊娠可能年齢の女性には絶対的禁忌である。

スクラルファート: この薬物は,胃酸中で解離し,炎症部位に物理的バリアを形成して酸,ペプシン,胆汁酸塩から保護するショ糖-アルミニウム複合体である。この薬物はまた,ペプシン基質相互作用を阻害し,粘膜プロスタグランジン産生を促進し,胆汁酸塩と結合する。酸分泌やガストリン分泌には影響を及ぼさない。スクラルファートは,おそらく成長因子と結合し,潰瘍部位に集結させることによって,潰瘍粘膜に栄養効果をもたらすようである。スクラルファートの全身吸収はごくわずかである。3〜5%の患者に便秘が起こる。スクラルファートは他の薬物に結合し,その吸収を妨げることがある。

最終改訂月 2007年1月

最終更新月 2005年11月

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