メルクマニュアル18版 日本語版
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急性膵炎

急性膵炎は,活性化された膵酵素の遊離分泌に起因する膵臓(と,時に隣接組織)の炎症である。最も頻度の高い誘因は,胆道疾患および長期にわたる大量のアルコール摂取である。症状の程度は軽症(腹痛および嘔吐)から重症(膵臓壊死,ならびにショックおよび多臓器不全を伴う全身性の炎症過程)まで様々である。診断は,臨床所見と,血清アミラーゼおよびリパーゼ値に基づく。治療として,静脈内輸液,鎮痛薬,絶食による支持療法を行う。

病因と病態生理

胆道疾患およびアルコール過飲は,急性膵炎症例の80%以上の原因となっている。残りの20%は無数の原因に由来する(膵炎: 急性膵炎のいくつかの原因表 1: 表を参照)。

表 1

急性膵炎のいくつかの原因

原因

薬物

ACE阻害薬,アスパラギナーゼ,アザチオプリン,2',3'-ジデオキシイノシン,フロセミド,6-メルカプトプリン,ペンタミジン,サルファ剤,バルプロ酸塩

感染性

コクサッキーB群ウイルス,サイトメガロウイルス,流行性耳下腺炎

遺伝性

嚢胞性線維症患者の一部など,多数の既知の遺伝子突然変異

機械的/構造的

胆石,ERCP,外傷,膵または膨大部領域癌,総胆管嚢腫,オディ括約筋狭窄,分割膵

代謝性

高トリグリセリド血症,高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症を含む)

毒素

アルコール,メタノール

その他

妊娠,腎移植後,低血圧またはアテローム塞栓症による虚血,熱帯性膵炎

胆石または微石症(胆泥)によるオディ括約筋の閉塞が膵炎を引き起こす正確な機序は不明であるが,おそらく膵管内圧の上昇が関与している。長期にわたるアルコール摂取(100g/日を越えて3〜5年を越える)によって,膵酵素の蛋白質が小膵管内に沈着することがある。これらの蛋白栓による膵管閉塞は,膵酵素の早期活性化を引き起こすことがある。そのような患者のアルコール過飲は,膵酵素を活性化することによって膵炎を引き起こしうる。

膵炎の素因となる多くの遺伝子突然変異が同定されている。カチオニックトリプシノーゲン遺伝子の常染色体優性突然変異保因者の80%に膵炎が発症し,明らかに家族性に起こる。他の突然変異は浸透度がより低く,遺伝子検査を実施しない限り臨床的に簡単にわからない。嚢胞性線維症の原因となる遺伝的異常は,再発性急性膵炎のリスクを増加させる。

病因にかかわらず,膵酵素(トリプシン,ホスホリパーゼA2,エラスターゼなど)は,分泌腺内で活性化する。活性化膵酵素は組織を損傷し,補体および炎症カスケードを活性化し,その結果サイトカインが産生される。これによって,炎症,浮腫,時に壊死が起こる。軽症膵炎では,炎症は膵臓に限局し,死亡率は5%未満である。重症膵炎では,腺の壊死および出血ならびに全身性炎症反応を伴う著明な炎症が認められ,死亡率は10〜50%である。膵臓の壊死組織は,5〜7日後に腸内細菌に感染することがある。

腹膜腔に入る活性型酵素およびサイトカインは化学的熱傷および体液のサードスペース形成を引き起こす;体循環に入るものは全身性炎症反応を引き起こし,急性呼吸窮迫症候群および腎不全を来すことがある。全身作用は主に毛細血管透過性亢進および血管緊張低下の結果である。ホスホリパーゼA2は,肺胞膜を損傷すると考えられる。

患者の約40%において,酵素に富んだ膵液や組織破片の堆積物が膵内および膵周囲に形成される。この堆積物は,約半数において自然消退する。患者によっては,感染するか,仮性嚢胞を形成する。仮性嚢胞は内面に上皮層を認めない線維性被膜を有する。仮性嚢胞は出血,破裂,または感染することがある。

最初の数日間の死亡は,通常,心血管の不安定性(難治性ショックおよび腎不全を伴う)または呼吸不全(低酸素血症,時に成人呼吸窮迫症候群を伴う)に起因する。時に,未確認の心筋抑制因子に続発する心不全が原因となって死亡することがある。最初の1週間以後の死亡は,通常,膵感染または仮性嚢胞破裂によるものである。

症状と徴候

急性発作は,持続性の上腹部穿刺痛を引き起こし,疼痛は通常大量のオピオイドの非経口投与を必要とするほど重度である。約50%において,疼痛は背部に放散する;まれに,最初に下腹部に疼痛を感じる。胆石性膵炎では,疼痛は通常突然に発生するが,アルコール性膵炎では数日間かけて徐々に現れる。疼痛は通常,数日間持続する。疼痛は座位および前傾姿勢で軽減しうるが,咳,活発な動作,深呼吸で強まることがある。悪心および嘔吐が起こることが多い。

患者は重症で発汗がみられる。脈拍数は通常,100〜140拍/分である。呼吸は浅く速い。一過性の血圧上昇または低下を認め,著明な起立性低血圧を伴う。体温は,最初正常で,場合によっては正常以下であることもあるが,数時間以内に37.7〜38.3°C(100〜101°F)まで上昇しうる。意識は半昏睡まで鈍ることがある。時に,強膜黄疸を認める。肺の診察では,横隔膜運動制限および無気肺の所見を認めることがある。

約20%の患者に膵臓の炎症性腫瘤による胃変位または胃拡張に起因する上腹部膨満が認められる。膵管断裂によって腹水(膵性腹水)が生じることがある。著明な腹部圧痛が認められるが,ほとんどの場合上腹部の圧痛である。下腹部に軽度の圧痛を認めることがあるが,直腸の圧痛はなく,通常,便潜血陰性である。上腹部に軽度から中等度の筋性防御を認めることがあるが,下腹部に認めることはめったにない。まれに,激しい腹膜刺激の結果として,硬直した板状硬の腹部となる。腸音の減弱を認めることがある。グレイターナー徴候およびカレン徴候は,それぞれ側腹部および臍部の斑状出血で,出血性滲出物の管外遊出を示す。

体温上昇および白血球数増加を伴う全身性中毒症状を認める場合または最初の安定期の後に悪化した場合には,膵内または隣接液体貯留部での感染を疑うべきである。

診断

重度の腹痛が起こった場合,特にアルコール過飲者または胆石患者では,常に膵炎が疑われる。同様の症状を引き起こす疾患として,穿孔性胃または十二指腸潰瘍,腸間膜梗塞,絞扼性腸閉塞,解離性動脈瘤,胆石疝痛,虫垂炎,憩室炎,下壁心筋梗塞,腹筋または脾臓の血腫がある。

臨床上の疑い,血清マーカー(アミラーゼおよびリパーゼ),症状の原因が他にないことに基づいて診断を下す。したがって,通常,CBC,電解質,Ca,Mg,ブドウ糖,BUN,クレアチニン,アミラーゼ,リパーゼなど,広範な検査を行う。他のルーチン検査として,心電図および腹部X線検査(胸部,臥位,立位腹部)がある。急性膵炎に対する尿中トリプシノーゲン-2ディップスティック検査の感度および特異度は90%を越える。超音波検査やCTは一般に,特に膵炎の診断を目的として実施されないが,しばしば急性腹痛を評価するために使用され(急性腹症と消化器外科: 検査を参照 ),膵炎が診断された時点で適応となる。

臨床検査: 血清アミラーゼおよびリパーゼ値は,急性膵炎の初日に上昇して3〜7日で正常に戻る。リパーゼの方が膵炎に対して特異的であるが,両酵素とも腎不全および様々な腹部疾患(例,穿孔性潰瘍,腸間膜血管閉塞,腸閉塞)において上昇することがある。血清アミラーゼ上昇の他の原因として,唾液腺機能不全,マクロアミラーゼ血症,およびアミラーゼ産生腫瘍がある。過去の発作時の腺房組織の破壊によって十分な量の酵素の分泌が妨げられている場合,アミラーゼとリパーゼはいずれも正常値を示すことがある。高トリグリセリド血症患者の血清中には,血清アミラーゼ上昇が検出される前に希釈される阻害物質が含まれている可能性がある。

アミラーゼ:クレアチニンクリアランス比は,膵炎を診断するのに十分な感度や特異度を有していない。これは一般に膵炎が存在しない場合にマクロアミラーゼ血症を診断するために使われる。マクロアミラーゼ血症では,血清免疫グロブリンに結合したアミラーゼが血清アミラーゼ値を見かけ上上昇させる。

血清総アミラーゼを膵型(p型)と唾液腺型(s型)アイソアミラーゼに分画することにより,血清アミラーゼの精度が上昇する。しかしながら,p型アミラーゼはアミラーゼクリアランスが変化する腎不全および他の重症の腹部疾患でも上昇する。

白血球数は通常,1万2000〜2万/μLに増加する。サードスペースへの体液喪失によってヘマトクリットが50〜55%にまで上昇することがあるが,これは重度の炎症を示している。高血糖が起こることもある。特に膵リパーゼによって過剰発生した遊離脂肪酸は,2次的にカルシウム“石鹸”を形成するため,血清カルシウム濃度は早ければ初日に低下する。膵浮腫によって総胆管が圧迫されるため,15〜25%の患者に血清ビリルビン値の上昇がみられる。

画像診断: 腹部単純X線では,膵管内石灰化(過去の炎症とそれによる慢性膵炎の証拠),石灰化した胆石,左上腹部または腹部中央の限局性イレウス(小腸の“センチネルループ”,横行結腸の拡張,十二指腸イレウス)が認められることがある。胸部X線では,無気肺または胸水(通常は左胸水または両側胸水であるが,まれに右胸膜腔に限局)が認められることがある。

超音波検査を最初に実施していなければ,胆石または総胆管の拡張(胆道閉塞を示す)を検出するために実施すべきである。膵臓の浮腫が観察されることがあるが,上を覆っているガスで膵臓が不明瞭となることが多い。

静注造影剤使用によるCT検査は一般に,膵炎が診断された時点で,壊死,液体貯留,仮性嚢胞を同定するために実施される。重症の膵炎に対してまたは合併症(例,低血圧または進行性白血球増加および体温上昇)が続いて起こる場合に特に推奨される。静注造影剤は膵壊死の確認を容易にするが,低灌流(すなわち,虚血)領域では膵壊死を引き起こすことがある。したがって,造影CTは患者に十分に水分を補給した上でのみ行うべきである。

膵感染が疑われる場合には,液体貯留もしくは壊死領域または嚢胞のCTガイド下経皮的吸引針生検で採取される体液のグラム染色または培養で微生物の有無が判明することがある。診断は,血液培養陽性と,特に腹部CT上の後腹膜腔気泡像によって裏づけられる。MRI胆管膵管造影(MRCP)の出現によって,膵臓の画像診断の選択がより簡単になるであろう。

予後

浮腫性膵炎の死亡率は5%未満である。壊死および出血を伴う膵炎の死亡率は10〜50%である。膵感染では,広範な外科的壊死組織切除または感染部位のドレナージを行わなければ,死亡率は通常100%である。

CT所見は予後と相関する。CTで正常像を呈する場合または軽度の膵浮腫だけを認める場合(Balthazarの重度指数クラスAまたはB)は,予後は良好である。膵周囲の炎症または1カ所の液体貯留を認める患者(クラスCおよびD)では,膿瘍形成の発生率は10〜15%であるが,2カ所以上の液体貯留を認める患者(クラスE)では,発生率は60%を越える。

ランソンの予後徴候は,急性膵炎の予後を予測するのに有用である。入院時に5つのランソンの徴候を確認できる:年齢55歳以上,血糖値200mg/dL以上(11.1mmol/L以上),血清LDH 350IU/L以上,AST 250U以上,白血球数16,000/μL以上。残りは入院後48時間以内に確認される:ヘマトクリットが10%以上減少,BUNが5mg/dL以上(1.78mmol/L以上)上昇,血清Caが8mg/dL未満(2mmol/L未満),Pao2が60mmHg未満(7.98kPa未満),塩基欠乏4mEq/L以上(4mmol/L以上),予測体液喪失が6L以上。死亡率は陽性徴候数とともに上昇する:陽性徴候数が3未満の場合,死亡率は5%未満,陽性徴候数が3または4の場合,死亡率は15〜20%である。

入院2日目に計算されるAPACHEⅡ指数(重症患者へのアプローチ: APACHE Ⅱスコアリングシステム*を参照 表 4: 表)も予後と相関する。

治療

十分な輸液蘇生が極めて重要であり,適切な電解質を含む輸液を6〜8L/日投与する必要があろう。不十分な輸液療法によって,膵壊死のリスクが増加する。

急性炎症が消失するまで(すなわち,腹部圧痛および疼痛消失,血清アミラーゼ正常化,食欲回復,気分回復)絶食する。数日間(軽症膵炎)から数週間の絶食が必要なことがある。栄養不良を予防するために,重症例では最初の数日以内にTPNを開始すべきである。

疼痛緩和には非経口オピオイドが必要であり,適量を投与すべきである。モルヒネはオディ括約筋を収縮させることがあるが,臨床的意義はないであろう。嘔吐を軽減するために,制吐薬(例,プロクロルペラジン5〜10mg,6時間毎に静脈内投与)を投与すべきである。激しい嘔吐が持続する場合またはイレウスがある場合に限り経鼻胃管が必要である。

非経口H2ブロッカーまたはプロトンポンプ阻害薬を投与する。薬剤(例,抗コリン薬,グルカゴン,ソマトスタチン,オクトレオチド)による膵分泌抑制の有効性は証明されていない。

特に低血圧,乏尿,ランソンのスコアが3以上,APACHEⅡが8以上,またはCTスキャン上の膵壊死が30%を超える患者における重症の急性膵炎は,ICUで治療すべきである。ICUでは,バイタルサインおよび尿量を1時間毎にモニタリングする;代謝パラメータ(ヘマトクリット,ブドウ糖,電解質)を8時間毎に再評価する;動脈血ガスを必要に応じて測定する;患者が血行力学的に不安定である場合または水分必要量が不明である場合には,中心静脈圧ラインまたはスワン-ガンツカテーテル測定を6時間毎に行う。CBC,血小板数,凝固パラメータ,総蛋白とアルブミン,BUN,クレアチニン,Ca,Mgを毎日測定する。

低酸素血症にはマスクまたは鼻カニューレを通して加湿酸素を投与する。低酸素血症が持続する場合または成人呼吸窮迫症候群が発症した場合は,補助換気が必要であろう。血糖値が170〜200mg/dL(9.4〜11.1mmol/L)以上の場合は,インスリンの皮下または静脈内投与により慎重に治療し,注意深くモニタリングすべきである。神経筋の易興奮性が出現しない限り一般に低カルシウム血症の治療は行わない;静脈内輸液1Lに10%グルコン酸カルシウムを10〜20mL入れ,4〜6時間かけて投与する。慢性アルコール中毒患者および低マグネシウム血症が証明されている患者に1g/L補正用硫酸マグネシウム液を合計2〜4gまでまたは正常値になるまで投与すべきである。腎不全が起こった場合は,血清マグネシウム濃度をモニタリングし,マグネシウムの静脈内投与を慎重に行う。マグネシウム濃度が正常に戻ると,通常血清カルシウム濃度は正常に戻る。

心不全を治療すべきである(心不全および心筋症: 治療を参照 を参照)。腎前性高窒素血症は,補液増量により治療すべきである。腎不全には透析(通常,腹膜透析)が必要なことがある。

抗生物質イミペネムの予防的投与によって無菌性膵壊死の感染が予防できるが,死亡率低下に対する効果は不明である。感染した膵壊死部に対しては外科的壊死組織切除術を施行する必要があるが,感染を伴う膵外の液体貯留には経皮的ドレナージを行ってもよい。急速な増大,感染,出血を認め,破裂の可能性が高い仮性嚢胞はドレナージを要する。経皮的,外科的,内視鏡的ドレナージのいずれを行うかは,仮性嚢胞の部位および医療機関の技術力による。活性化した膵酵素および炎症性メディエーターを洗い流すことを目的とした腹腔洗浄の有効性は証明されていない。

最初の数日間の外科的介入は,重度の鈍的もしくは穿孔性外傷,またはコントロール不良の胆管敗血症に対しては妥当である。80%以上の胆石性膵炎患者において,石は自然に通過するが,治療の24時間後に改善が認められない患者については,括約筋切除および胆石除去を伴うERCPの適応となる。自然に改善する患者には一般に,待機的腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う。待機的胆道造影に関しては依然として議論の余地がある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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