メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

はじめに

David B. Sachar, MD

Aaron E. Walfish, MD

炎症性腸疾患(IBD)は,クローン病および潰瘍性大腸炎(UC)を含み,下痢および腹痛をもたらす消化管各部の慢性炎症を特徴とする,再発と寛解を繰り返す病態である。

炎症は,消化管粘膜における細胞性免疫反応により生じる。正確な病因は不明である;証拠が示唆するところによると,多因子性の遺伝的素因(おそらく,異常な上皮性関門および粘膜の免疫防御が関与)を有する患者において,正常腸内細菌叢が免疫反応を引き起こすということである。特異的な環境的,食事性,感染性の原因は同定されていない。免疫反応には,サイトカイン,インターロイキン,および腫瘍壊死因子(TNF)などの炎症メディエーターの放出が関与している。

クローン病とUCは似ているが,両者はほとんどの症例で鑑別できる(炎症性腸疾患: クローン病と潰瘍性大腸炎の鑑別表 1: 表を参照)。大腸炎症例の約10%は中間型と考えられる。大腸炎という用語は,大腸の炎症性疾患に対してのみ適用される(例,潰瘍性,肉芽腫性,虚血性,放射性,感染性)。 痙攣性(粘液性)大腸炎というのは,機能障害である過敏性腸症候群(下部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 過敏性腸症候群(IBS)を参照 )に対してときどき用いられる誤称である。

表 1

クローン病と潰瘍性大腸炎の鑑別

クローン病

潰瘍性大腸炎

80%の症例で小腸も侵される

疾患は大腸に限局している

直腸S状結腸はしばしば侵されない;大腸病変は通常,右側にある

直腸S状結腸は必ず侵される;大腸病変は通常,左側にある

75〜85%のクローン結腸炎症例を除いて,肉眼的直腸出血はまれである

肉眼的直腸出血は常にみられる

瘻孔,腫瘤,および膿瘍が高頻度に発生する

瘻孔は発生しない

症例の25〜35%において著明な肛門周囲病変が認められる

著明な肛門周囲病変は決して生じない

X線上,腸壁に非対称性かつ域性病変を認め,病変部と病変部の間に“スキップエリア”を認める

腸壁は直腸から近位結腸にかけて対称的かつ連続的に侵される

内視鏡像は斑状で,正常な外観の粘膜に隔てられた不連続の潰瘍を認める

炎症は均一でびまん性である

顕微鏡的に,炎症および裂溝は粘膜層を越えて広がる;病変の分布はしばしば非常に限局している

重症例を除いて,炎症は粘膜に限局している

25〜50%の症例で,腸壁またはリンパ節に類上皮(サルコイド様)肉芽腫が検出される(疾病特徴的)

典型的な類上皮肉芽腫は生じない

疫学

IBDは全ての年齢で起こるが,通常,30歳未満に始まり,発生率のピークは14〜24歳である。UCは50〜70歳に1回目よりは小さい2回目のピークがあることがある;しかしながら,この後のピークには一部の虚血性大腸炎症例が含まれている可能性がある。

IBDは北欧人およびアングロサクソン系の人に最も多く,ユダヤ人では数倍多い。中欧および南欧において,発生率はより低く,南米,アジアおよびアフリカにおいてはさらに低くなる。しかしながら,北米に居住する黒人およびラテンアメリカ人における発生率は増加している。罹患率に男女差はみられない。IBD患者の第1度近親者は,リスクが4〜20倍高い;その絶対リスクは7%にまで達することがある。家族性の傾向は,UCよりもクローン病においてずっと高い。クローン病(UCではない)のリスクを増大させる特定の遺伝子突然変異が同定されている。

喫煙はクローン病の発症または増悪の一因となるようであるが,UCのリスクを低下させる。非ステロイド性抗炎症薬はIBDを悪化させることがある。

腸管外発現

クローン病およびUCは双方とも腸以外の器官を侵す。腸管外発現のほとんどは,小腸に限局するクローン病よりも,UCおよびクローン結腸炎で起こることが多い。腸管外発現は次の3つのカテゴリーに分類される:

1.通常,IBDの急性増悪に平行する(すなわち,それとともに再燃と寛解を繰り返す)障害。これらには,末梢関節炎,上強膜炎,アフタ性口内炎,結節性紅斑,および壊疽性膿皮症などがある。関節炎は大関節を侵す傾向があり,また,移動性および一過性の傾向がある。IBDで入院している患者の3分の1以上で,これらの平行する障害のうち1つ以上が発現する。

2.おそらくIBDから生じるが,IBDの急性増悪とは無関係のように思われる障害。これらには強直性脊椎炎,仙腸骨炎,ぶどう膜炎,および原発性硬化性胆管炎などがある。強直性脊椎炎は,HLA-B27抗原を有するIBD患者に好発する。脊椎または仙腸骨病変のある患者の大多数は,ぶどう膜炎の所見を有し,逆のこともいえる。原発性硬化性胆管炎は胆道癌の危険因子であり,胆道癌は結腸切除から20年後でも発症することがある。患者の3〜5%に肝疾患(例,脂肪肝,自己免疫性肝炎,胆管周囲炎,肝硬変)が起こるが,軽度の肝機能検査値異常はより高頻度にみられる。これらの病態の一部(例,原発性硬化性胆管炎)はIBDの発症よりも何年も前に起こることがあり,診断時にIBDの評価を行うべきである。

3.腸の生理機能の障害が原因して生じた結果である疾患。これらは主に,重度の小腸クローン病において起こる。吸収不良は,広範な回腸切除により生じ,ビタミンB12およびミネラルの欠乏を引き起こすことがあり,結果として貧血,低カルシウム血症,低マグネシウム血症,凝固障害,骨の無機質減少,小児では成長および発達の遅延が起こる。他の障害には,食事性シュウ酸の過剰吸収に起因する腎結石,腸の炎症過程による尿管圧迫から生じる水尿管症および水腎症,胆汁酸塩の回腸での再吸収障害による胆石,および長期間続く炎症や化膿性疾患に続発するアミロイドーシスなどがある。

3つの全てのカテゴリーの多数の因子が原因で血栓塞栓症が起こることがある。

治療

数種類のクラスの薬物がIBDに有用である。それらの選択および使用の詳細については,各疾患の項目で述べる。

5-アミノサリチル酸(5-ASA,メサラミン): 5-ASAはプロスタグランジンおよびロイコトリエンの産生を阻害し,炎症カスケードに他の有益な効果をもたらす。5-ASAは腸管内でのみ活性を有し,近位小腸で急速に吸収されるので,経口投与時に吸収が遅延するよう配合する必要がある。このクラスの最初の薬剤であるスルファサラジンは,5-ASAの吸収を遅延させるためにサルファ剤の構造を有するスルファピリジンを結合させた化合物である。この化合物は,下部回腸および大腸の腸内細菌叢によって分解され,5-ASAを放出する。しかしながら,サルファ成分は数多くの副作用(例,悪心,消化不良,頭痛)を引き起こし,葉酸の吸収を阻害し,また,時として重篤な副作用(例,溶血性貧血または顆粒球減少症および,まれに,肝炎または肺炎)を引き起こす。可逆性の精子数減少と精子運動性低下が最大80%の男性で生じる。スルファサラジンを使用する場合は,食事とともに,最初は低用量(例,0.5g経口で1日2回)で投与し,数日かけて1〜2g,1日2〜3回に徐々に増量すべきである。患者は,葉酸サプリメント1mg/日,経口にて服用し,CBCおよび肝機能検査を6〜12カ月毎に受けるべきである。

5-ASAと他の賦形剤を結合させた新しい薬物は,ほぼ同等に有効であると思われるが,副作用がより少ない。オルサラジン(5-ASAの二量体)およびバルサラジド(不活性化合物に結合した5-ASA)は細菌のアゾ還元酵素によって分解される(スルファサラジンと同様)。これらの薬物は主に結腸で活性化され,近位小腸疾患に対しては有効性が低い。オルサラジンの用量は500〜1500mg,1日2回,バルサラジドは2.25g,1日3回である。時にオルサラジンは,特に全大腸炎型の患者において,下痢を引き起こすことがある。用量漸増および食事との同時投与によって,この問題を最小限に抑える。

他の剤形の5-ASAは,遅延放出コーティングを使用している。アサコール(典型的な用量は800〜1200mg,1日3回)は,アクリルポリマーでコーティングされた5-ASAで,アクリルポリマーのpHに対する溶解度によって遠位回腸や結腸に入るまで薬物の放出が遅延する。ペンタサ(1g,1日4回)はエチルセルロースの微小顆粒でコーティングされた5-ASAで,薬物の35%を小腸で放出する。メサラミン投与に続発する急性間質性腎炎がまれに起こる;早期に確認されれば,ほとんどの症例が可逆的であるので,腎機能の定期的なモニタリングが望ましい。

5-ASAはまた,坐薬(500mg,1日2回または3回)または浣腸(4g,就寝時または1日2回)として直腸炎型および左側結腸型に利用できる。これらの直腸製剤は,急性治療および長期間の維持療法に有効であり,経口5-ASAとの併用で効果が増大することがある。

コルチコステロイド: コルチコステロイドは,5-ASA化合物が不十分である場合,ほとんどの型のIBDの急性増悪に有用であるが,維持療法としては適していない。重度の疾患に対して,ヒドロコルチゾン300mg/日を静脈内投与またはメチルプレドニゾロン60〜80mg/日を持続点滴もしくは分割投与する;中等度の疾患には,経口プレドニゾンまたはプレドニゾロン40〜60mgを1日1回投与してもよい。治療は症状が寛解するまで継続し(通常7〜28日),1週間に5〜10mgの割合で,20mg,1日1回まで漸減し,次に5-ASAまたは免疫調節薬による維持療法を行いながら,1週間に2.5〜5mgの割合でさらに漸減する。短期間の高用量コルチコステロイドの副作用には,高血糖,高血圧,不眠,多動,および急性の精神病エピソードなどがある。

ヒドロコルチゾン注腸または泡沫を直腸炎型および左側結腸型に用いることがある;浣腸として,100mgを60mLの等張液に溶かして1日1回または2回投与する。できるだけ長時間腸内に留めるべきである;患者は左側臥位で,殿部を挙上し,夜間に点滴注入することによって保留時間が延長し分布が拡大しうる。有効であれば,約2〜4週間は毎日,その後1〜2週間は隔日で治療を継続し,それから1〜2週間かけて徐々に中止すべきである。

ブデソニドは肝代謝初回通過が大きい(90%以上)コルチコステロイドである;したがって,経口投与は消化管疾患に著明な効果をもたらす可能性があるが,副腎抑制は最小限に抑えられる。経口ブデソニドはプレドニゾロンよりも副作用が少ないが,効果はそれほど迅速でなく,重症度の低い疾患に典型的に用いられる。用量は9mg,1日1回である。また,米国以外では浣腸として利用可能である。他のコルチコステロイドと同じく,ブデソニドは長期維持には無効である。

免疫調節薬: アザチオプリンおよびその代謝産物である6-メルカプトプリンはT細胞機能を阻害する。それらは長期間有効であるため,コルチコステロイドの必要性が減少し,何年も寛解が維持される可能性がある。これらの薬物が臨床効果を現すにはしばしば1〜3カ月を要するので,コルチコステロイドは少なくとも2カ月目までは中止できない。アザチオプリンの用量は通常,2.5〜3.0mg/kg,経口にて1日1回,6-メルカプトプリンは1.5〜2.5mg/kg,経口にて1日1回であるが,用量は個々の代謝により異なる。定期的に白血球数を測定することによって骨髄抑制の徴候をモニタリングする必要がある(1カ月間は隔週,その後は1〜2カ月毎)。患者の約3〜5%において膵炎または高熱が起こる;いずれの場合にも再投与の絶対的禁忌となる。肝毒性はよりまれで,6〜12カ月毎に血液検査でスクリーニングできる。

一部のコルチコステロイド抵抗性重症患者(アザチオプリンや6-メルカプトプリンが奏効しなかった患者でも)に対して,メトトレキサート15〜25mg,週1回,経口,筋肉内または皮下投与が有効である。悪心,嘔吐,および無症候性肝機能検査異常がよくみられる。一部の副作用は,葉酸1mg,1日1回経口投与で軽減することがある。飲酒,肥満,および糖尿病は肝毒性の危険因子である。これらの病態を有する患者については,総量1.5g投与後に肝生検を行うべきである。

シクロスポリンはリンパ球の活性化を阻害し,シクロスポリンを投与しなければ大腸切除術が必要となるであろうコルチコステロイド抵抗性重症UC患者に有効なことがある。クローン病に対する有用性は難治性の瘻孔または膿皮症患者においてのみ十分に立証されている。初回量は4mg/kg,静注,1日1回である;奏効した場合には,6〜8mg/kg,経口にて1日1回に切り替え,すぐにアザチオプリンまたは6-メルカプトプリンに切り替える。複数の副作用(例,腎毒性,てんかん発作,日和見感染)が認められる場合には長期使用(6カ月以上)は禁忌である。一般に,より安全な根治療法である大腸切除術を避ける理由がなければ,シクロスポリン投与は行わない。この薬物を使用する場合,血中溝槽濃度を200〜400ng/mLに保つべきであり,ニューモシスチスジロベジ(以前はニューモシスチス-カリニと呼ばれた)の予防を考慮すべきである。移植患者において使用される免疫抑制薬 タクロリムスは,シクロスポリンと同程度の効果があると思われる。

抗サイトカイン薬: インフリキシマブ,CDP571,CDP870,およびアダリムマブはTNFに対する抗体である。ナタリズマブは白血球接着分子に対する抗体である。これらの薬剤はクローン病に対して有用なことがあるが,UCに対する効果は不明である。

インフリキシマブは5mg/kgを2時間かけて1回静脈内注入する。一部の臨床医は6-メルカプトプリンを同時に開始し,インフリキシマブをこの遅効性薬物の効果が発現するまでの橋渡しとして使用する。2週間後にコルチコステロイドの漸減を開始してもよい。必要に応じて,インフリキシマブを8週間毎に繰り返す。副作用には遅延型過敏反応,頭痛,および悪心などがある。数人の患者がインフリキシマブの使用後に敗血症で死亡しているので,コントロール不良の細菌感染が存在するときは禁忌である。さらに,結核の再活性化は本剤に起因している;したがって,使用前にPPDおよび胸部X線によるスクリーニングが必要である。

サリドマイドはTNF-αおよびインターロイキン-12の産生を減少させ,ある程度の抗血管新生作用を有する。一部のクローン病患者に有効なことがあるが,催奇形性および他の副作用(例,発赤,高血圧,神経毒性)によって,使用が調査研究に限定されている。他の抗サイトカイン,抗インテグリン,および成長因子は研究の途上にある。

抗生物質およびプロバイオティクス: 抗生物質はクローン病には有用であるが,UCに対する有用性は限られている。メトロニダゾール500〜750mg,1日3回,4〜8週間経口投与で軽度の疾患がコントロールされ,瘻孔の治癒が促進することがある。しかしながら,副作用(特に神経毒性)のため治療を終了できないことがある。シプロフロキサシン500〜750mg,経口にて1日2回はより毒性が低い可能性がある。メトロニダゾールとシプロフロキサシンの併用を推奨する専門家もいる。

毎日投与される様々な非病原性微生物(例,大腸菌i,,ラクトバシラス属s,,サッカロミセスス)はプロバイオティクスとして働き,嚢炎(see also the Cochrane review abstract: pharmacotherapy for induction and maintenance of remission in pouchitis)(炎症性腸疾患: 手術を参照 )の予防に有効なことがあるが,他の治療上の役割はまだ明確に定義されていない。

支持療法: ほとんどの患者とその家族は食事とストレス管理に関心を持っている。厳格な炭水化物の制限を伴うものも含めて,特定の食事による臨床的改善に関する症例報告はあるが,対照試験では何の効果も示されていない。ストレス管理が有用なことがある。

最終改訂月 2007年1月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ

次へ: クローン病

イラスト
個人情報の取扱いご利用条件