メルクマニュアル18版 日本語版
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食道癌

最も一般的な食道の悪性腫瘍は扁平上皮癌で,次に腺癌が続く。症状は進行性の嚥下障害および体重減少である。診断は内視鏡検査によるが,続いて病期分類のためにCTおよび超音波内視鏡検査を行う。治療は病期によって異なり,一般に化学療法および放射線療法を伴うまたは伴わない外科手術である。限局性の場合を除いて,長期生存率は不良である。

米国では食道癌の年間症例数は約13,500例,年間死亡数は約12,500例である。

扁平上皮癌: 米国では年間,約8000例が発症している。アジアの一部と南アフリカではより多くみられる。米国では白人に比べて黒人に4〜5倍多く,女性に比べて男性に2〜3倍多い。

主な危険因子は,アルコール摂取および喫煙(どのような種類のものでも)である。他の因子として,アカラシア,ヒトパピローマウイルス,アルカリ溶液の摂取(狭窄を起こす),硬化療法,プランマー-ビンソン症候群,食道へのX線照射,および食道ウエブなどがある。遺伝的原因は不明であるが,常染色体優性疾患である胼胝形成(掌蹠角化症)患者の50%が45歳までに,95%が55歳までに食道癌を発症する。

腺癌: 腺癌は下部食道に発生する。発生率は増加しつつある;白人では食道癌の50%を占める。腺癌は,黒人に比べて白人に4倍多い。アルコールは重要な危険因子ではないが,喫煙は危険因子である。下部食道の腺癌は,下部食道まで浸潤している胃噴門部の腺癌との鑑別が難しい。

バレット食道は慢性的な胃食道逆流症と逆流性食道炎から生じるが,ほとんどの腺癌がこのバレット食道に発生する。バレット食道では,急性食道炎が治癒する過程で,下部食道の重層扁平上皮が,化生性,円柱状,腺性の,腸管に類似した粘膜に置き換わる。

その他の悪性腫瘍: より頻度の低い食道の悪性腫瘍には,紡錘細胞癌(低分化型扁平上皮癌),疣贅癌(高分化型扁平上皮癌),偽肉腫,粘表皮癌,腺扁平上皮癌,円柱腫(腺様嚢胞癌),原発性エンバク細胞癌,絨毛癌,カルチノイド腫瘍,肉腫,原発性悪性黒色腫などがある。

転移癌は食道癌の3%である。黒色腫および乳癌は食道に転移する可能性が最も高い;他の転移癌として,頭頸部,肺,胃,肝臓,腎臓,前立腺,睾丸,骨の癌がある。これらの腫瘍は通常,食道周囲の疎性結合組織間質に播種するのに対して,原発性食道癌は粘膜または粘膜下に発生する。

症状と徴候

早期の食道癌は無症状の傾向がある。食道の内腔が14mm未満に狭窄すると,一般に嚥下障害が起こる。患者は最初に固形食,次に半固形食,最後に流動食および唾液を飲み込むのが困難になる;このような着実な進行は,痙攣,良性食道輪,または消化性狭窄ではなく進行性の悪性疾患を示唆する。胸痛を認めることがあり,通常,背部に放散する。

食欲が良好でも,ほぼ全ての患者に体重減少がみられる。反回神経の圧迫は,声帯麻痺と嗄声を引き起こすことがある。交感神経の圧迫はホルネル症候群を引き起こすことがあり,他の神経圧迫は,脊髄痛,吃逆,または横隔膜の麻痺を引き起こすことがある。悪性胸水または肺転移は,呼吸困難を引き起こすことがある。食道内腫瘍病変は,嚥下痛,嘔吐,吐血,下血,鉄欠乏性貧血,誤嚥,および咳を引き起こすことがある。食道と気管気管支樹の間の瘻孔は,肺膿瘍および肺炎を引き起こすことがある。他の所見として,上大静脈症候群,悪性腹水,骨痛を認めることがある。

内頸静脈,頸部,鎖骨上,縦隔および腹腔リンパ節へのリンパ行性転移が起こることが多い。腫瘍は通常,肺および肝臓,時に遠隔部位(例,骨,心臓,脳,副腎,腎臓,腹膜)に転移する。

診断

スクリーニング検査はない。食道癌の疑いのある患者に対して,細胞診と生検を伴う内視鏡検査を行うべきである。バリウムX線検査で閉塞病変が示されることがあるが,生検および組織診断には内視鏡検査が必要となる。

癌が確認された患者については腫瘍の進展範囲を判定するために,胸部および腹部CTを行う必要がある。結果が転移陰性の場合は,食道壁内の腫瘍の深達度および所属リンパ節転移を判定するために,超音波内視鏡検査を行うべきである。所見は,治療方針を決定し,予後の判定に役立つ。

CBC,電解質および肝機能などの基本的な血液検査を行うべきである。

予後と治療

予後は病期によって大きく異なるが,多くの患者が進行癌として発見されるので,全般的に不良である(5年生存率:5%未満)。癌が粘膜に限局している患者の生存率は約80%であるが,粘膜下層浸潤例では50%未満,固有筋層浸潤例では20%,隣接臓器浸潤例では7%,遠隔転移例では3%未満に低下する。

治療法の決定は,腫瘍の病期分類,大きさ,部位,および患者の希望(多くは積極的な治療を見合わせる)によってなされる。

一般原則: 0期,Ⅰ期またはⅡa期食道癌の患者(消化管の腫瘍: 食道癌の病期分類表 1: 表を参照)は外科的切除によく反応する;化学療法および放射線療法による上乗せ効果はない。手術単独施行Ⅱb期およびⅢ期癌患者の生存率は低い;手術に先立って腫瘍縮小を目的とした術前(ネオアジュバント)放射線療法および化学療法を施行することによって,奏効率と生存率が改善する。手術が不可能な,または手術を希望しない患者は,放射線療法と化学療法の併用である程度の効果が得られることがある。放射線療法または化学療法単独ではほとんど効果がない。Ⅳ期癌の患者は緩和療法を必要とし,手術を行うべきではない。

表 1

食道癌の病期分類

病期

腫瘍 (最大深達度)

所属リンパ節転移

遠隔転移

0

Tis

N0

M0

I

T1

N0

M0

II

T2またはT3

N0

M0

III

T3またはT4

N1

M0

IV

全てのT

全てのN

M1

TNM分類:Tis=上皮内癌;T1 =粘膜固有層または粘膜下層;T2 =固有筋層;T3= 食道外膜;T4 =隣接臓器。

N0=ない;N1=ある。

M0=ない;M1=ある。

治療後,再発がないかどうかを確かめるため,最初の3年間は6カ月毎,その後は年1回,内視鏡検査および頸部,胸部,腹部CTによるスクリーニング検査を行う。

バレット食道患者に対しては,胃食道逆流症(食道および嚥下の障害: 胃食道逆流症(GERD)を参照 )の治療を長期間にわたって集中的に行い,悪性化を監視する内視鏡サーベイランスを異型度に応じて3〜12カ月おきに実施する必要がある。

手術: 治癒のための一括切除は,腫瘍全体の切除,近位縁と遠位縁の正常組織の切除,転移や浸潤の可能性のある全てのリンパ節の郭清,および遠位流入領域リンパ節を含む噴門側胃部分切除を必要とする。この手技は,食道胃吻合術を伴う胃挙上,小腸間置術,または結腸間置術を必要とする。食道切除によって必然的に,両側の迷走神経が切断されるので,適切な胃の排出を確保するために幽門形成術を行う必要がある。このような広範囲にわたる手術は,75歳を越える患者,特に心臓または肺に基礎疾患のある患者(駆出率40%未満,またはFEV1が1.5L/分未満)には耐えられないことがある。手術による全死亡率は約5%である。

手術の合併症には,吻合部縫合不全,瘻孔,および狭窄,胆汁の胃食道逆流,ダンピング症候群などがある。下部食道切除術後の胆汁逆流による胸部灼熱痛は,最初の嚥下障害の症状より厄介なことがあり,その後に,胆汁を迂回させるためのルーY空腸吻合術が必要なことがある。胸部の間置小腸または結腸への血液供給は不十分であるため,この間置腸管の捻転,虚血または壊疽が起こることがある。

放射線外照射療法: 放射線療法は通常,進行癌患者など,根治手術の適応とならない患者に対して化学療法と併用して行う。腫瘍の縮小によって瘻孔が拡大するので,放射線療法は気管食道瘻患者には禁忌である。同じように,腫瘍に囲まれた血管をもつ患者は,腫瘍の縮小とともに大量出血が起こることがある。放射線療法の初期の段階では,浮腫によって食道閉塞,嚥下障害,および嚥下痛が悪化することがある。このため,食道の拡張,または照射前の胃瘻チューブ留置を必要とすることがある。放射線療法の他の副作用には,悪心,嘔吐,食欲不振,疲労,食道炎,食道粘液過剰産生,口内乾燥症,狭窄,放射線肺臓炎,放射線心外膜炎,心筋炎,脊髄炎(脊髄の炎症)などがある。

化学療法: 腫瘍は化学療法のみの単独治療にはあまり反応しない。奏効率(全ての測定可能病変の縮小率が50%以上と定義)は10〜40%であるが,一般に一時的な不完全奏効(腫瘍のわずかな縮小)である。他のどの薬物よりも顕著に有効な薬物はない。

シスプラチンと5-フルオロウラシルの併用療法が最も一般的に用いられる。しかしながら,マイトマイシン,ドキソルビシン,ビンデシン,ブレオマイシンおよびメトトレキサートなどのいくつかの他の薬物も扁平上皮癌に有効である。

緩和療法: 緩和療法は,経口摂取が可能になるくらい十分に食道閉塞を解除することを目的とする。食道閉塞による苦痛が著明なことがあり,唾液分泌過多および誤嚥の繰り返しを伴う。選択肢として,用手拡張術(ブジー拡張術),経口ステント挿入術,放射線療法,レーザー光凝固術および光線力学療法などが挙げられる。一部の症例において,空腸瘻チューブ留置を伴う頸部食道瘻造設術が必要である。

食道拡張によって得られる効果が数日間以上続くことはまれである。柔軟性のある金属メッシュステントは食道の開存を維持するのにより効果的である。一部のプラスチックコーティングを施したステントは,気管食道瘻を閉鎖するためにも使用でき,また,逆流防止弁付きステントもあり,ステントを下部食道括約筋付近に留置する必要がある場合に,逆流を防止できる。

内視鏡的レーザー療法は,熱で腫瘍の中央に穴を開けることによって嚥下障害を緩和でき,必要であれば繰り返し行ってもよい。光線力学療法ではポルフィマーナトリウム注射剤を投与するが,これはヘマトポルフィリン誘導体で,組織に取り込まれ,光感作物質として作用する。この物質は,腫瘍に照射されたレーザー光線によって活性化されると,細胞傷害性酸素単重線を発生し,腫瘍細胞を破壊する。この治療を受ける患者は,皮膚も光に感作されるので,治療後6週間は日光暴露を避けねばならない。

支持療法: 経腸または経静脈栄養補給によって,全ての治療の忍容性および実行可能性が向上する。食道閉塞時,内視鏡的または外科的に留置した栄養チューブが,より遠位側の栄養補給経路となる。

ほぼ全ての食道癌症例が致死的な経過をたどるので,終末期医療は常に症状,特に疼痛および分泌物嚥下困難のコントロールを目指すべきである(臨死患者: 臨死における症状管理も参照 )。ある時点で,多くの患者は相当量のオピオイドが必要となる。患者には,病初期に終末期医療の決定を下し,事前指示書に希望を記録するよう,忠告すべきである。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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