メルクマニュアル18版 日本語版
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肝疾患における全身性異常

肝疾患はしばしば全身性の症状および異常を引き起こす(肝疾患がある患者へのアプローチ: 門脈-体循環性脳症を参照 )。

循環異常

進行した肝不全でみられる低血圧により,腎機能不全が生じることがある。進行した肝不全または肝硬変で生じる血流亢進(心拍出量および心拍数の増加)および低血圧の病因はほとんど分かっていない。しかしながら,おそらく末梢動脈の拡張が両者に関わっていると考えられている。

肝循環に特異的な疾患(例,バッド-キアリ症候群)については血管障害を参照 のこと。

内分泌異常

グルコース不耐性,高インスリン血症,インスリン抵抗性,および高グルカゴン血症は肝硬変の患者でしばしば認められる;インスリン値の上昇は分泌量の増加というよりも肝臓での分解量の減少を反映するもので,グルカゴンはその逆がいえる。甲状腺機能検査上の異常は,甲状腺の異常というよりはむしろ肝での甲状腺ホルモン処理の変化および血漿結合蛋白の変化によるものと考えられる。

慢性肝疾患は一般に,月経および受胎能力を障害する。肝硬変がある男性(特にアルコール依存症患者)はしばしば性腺機能低下(精巣萎縮,勃起機能不全,精子形成能低下)および女性化(女性化乳房,女性体型)の両方をもつことが多い。生化学的基盤については十分に分かっていない。視床下部-下垂体軸のゴナドトロピン予備能はしばしば鈍化している。循環血中のテストステロン濃度は低く,原因は主に合成低下であるが,末梢におけるエストロゲンへの転換増加も一因となっている。エストラジオール以外のエストロゲン濃度は通常増加するが,エストロゲンと女性化との関連性は複雑である。これらの変化は,他の病因による肝硬変よりもアルコール性肝疾患に多くみられるため,原因として肝疾患よりもアルコールが示唆される。実際,アルコール自体に精巣毒性があることを示唆する証拠がある。

血液学的異常

貧血は肝疾患で一般的に認められる。原因としては出血,葉酸欠乏,溶血,アルコールによる骨髄抑制,慢性肝疾患の直接的な影響がある。白血球減少症および血小板減少症は,しばしば進行した門脈圧亢進症における脾腫に伴う。

凝固障害も一般的であり,複雑である。肝細胞機能不全やビタミンKの吸収が不十分な場合,肝臓における凝固因子の合成が障害される。肝細胞機能不全の重症度に依存するPTまたはINRの異常な結果は,非経口的にフィトナジオン(ビタミンK1)5〜10mg/日,1日1回を2〜3日間投与すると改善することがある。血小板減少症,播種性血管内凝固,フィブリノーゲンの異常も多くの患者の凝固障害に寄与する。

腎臓と電解質異常

腎臓と電解質の異常は一般的だが,特に腹水を伴う患者で多い。

低カリウム血症の原因としては,循環血中のアルドステロンが上昇することによるカリウムの尿中への排泄過剰,カリウムとの交換によるアンモニウムイオンの腎臓での保持,二次性尿細管アシドーシス,利尿薬療法などがある。管理としては,塩化カリウムを経口投与で補い,カリウム喪失性利尿薬の投与を控える。

低ナトリウム血症は腎による強力なナトリウム保持下でも一般的によくみられる(肝疾患がある患者へのアプローチ: 腹水を参照 );進行した肝細胞疾患で生じることが多く,補正が難しい。全身性のナトリウム喪失よりも,相対的な水分の過負荷が最もしばしば原因となる;カリウムの減少が促進することもある。水分制限およびカリウムの補充が有用な場合もある;自由水クリアランスを増加させる利尿薬の使用については議論されている。生理食塩水の静注は,顕著な低ナトリウム血症が発作を起こした場合や全身性のナトリウム喪失が疑われる場合にのみ適応となる;体液貯留を伴う肝硬変患者では,腹水を悪化させ血清ナトリウム濃度の改善も一時的でしかないため,避けるべきである。

進行した肝不全は酸塩基平衡の変化をもたらし,通常,代謝性アルカローシスを引き起こす。肝臓での合成が障害されるため,血中尿素濃度はしばしば低い;胃消化管出血は腎障害よりも腸内負荷を増強させるため,値を上昇させる。後者では,クレアチニン値が正常であれば腎機能も正常な傾向にある。

肝疾患における 腎不全 は,腎と肝の両者に直接影響を与えるまれな疾患(例,四塩化炭素中毒);明らかな急性尿細管壊死を伴うまたは伴わない,腎の灌流低下を伴う循環不全;またはしばしば肝腎症候群とよばれる機能的腎不全などを反映する場合がある。肝腎症候群では,腎臓の構造損傷はないものの進行性の乏尿と高窒素血症を伴う;通常,腹水を伴う劇症肝炎または進行した肝硬変の患者で起こる。この病因は不明であるが,おそらく内臓の動脈循環における極度の血管拡張による中心動脈量の減少が関連すると思われる。腎皮質血流において神経性あるいは体液性因子の減少がみられ,その結果糸球体ろ過率が減少する。尿中ナトリウム濃度が低く沈渣所見が正常であれば,通常これを尿細管壊死と区別できるが,腎前性高窒素血症との鑑別はより難しい;疑わしい症例では水分負荷に対する反応を評価するべきである。一度確立してしまうと,肝腎症候群による腎不全は通常急速に進行し致死的であるが(1型肝腎症候群),その他の例ではさほど重症ではなく,腎機能不全は軽度で安定している(2型)。肝移植は1型肝腎症候群で受け入れられている唯一の治療法である;経頸静脈的肝内門脈大循環シャント術(TIPS)および血管収縮薬は一部有望な効果を示すが,さらなる研究を要する。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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