メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

全身性硬化症(強皮症)

全身性硬化症は,びまん性線維症,変性変化,ならびに皮膚,関節,および内部臓器(特に食道,下部消化管,肺,心臓,腎臓)の血管異常によって特徴づけられる原因不明の慢性疾患である。一般によくある症状はレイノー現象,多発性関節痛,嚥下障害,胸やけ,腫脹などであり,最終的には皮膚硬結や手指の拘縮が起こる。肺,心臓,腎臓の障害は,ほとんどの死亡の原因である。診断は臨床的であるが,臨床検査は役に立つ。特異的な治療は困難であり,合併症の治療にしばしば重点が置かれる。

全身性硬化症は,男性より女性に4倍多くみられる。全身性硬化症は20〜40代に最も多く,小児にはまれである。全身性硬化症は混合性結合組織の一部として発病することがある。

病因と病態生理

免疫機構と遺伝(特定のHLAサブタイプ)が病因に寄与している。全身性硬化症様症候群は,塩化ビニル,ブレオマイシン,ペンタゾシン,エポキシ樹脂や芳香族炭化水素類,汚染されたナタネ油,またはl-トリプトファンへの暴露から起こりうる。

病態生理には,血管障害と線維芽細胞の活性化が関与し,様々な組織で膠原質とその他の細胞外蛋白質が過剰産生される。

全身性硬化症において,皮膚は真皮網状層に緻密な膠原線維,表皮の薄層化,乳頭間隆起の消失,皮膚付属器官の萎縮を示す。Tリンパ球が蓄積し,皮膚と皮下層に広範囲の線維形成がみられる。爪郭では,毛細血管係蹄が拡張し,一部の微小血管係蹄は消失する。四肢では,滑膜や表面,関節周囲の軟部組織の慢性炎症や線維化が起こる。

食道運動は損なわれ,下部食道括約筋は機能不全となり,食道逆流や二次性の狭窄が起こりうる。腸の粘膜筋板は変性し,結腸および回腸に仮性憩室を生じる原因となる。間質や気管支周囲の線維化または小肺動脈の内膜肥厚が起こることがあり,長期にわたると肺高血圧症が起こる結果となる。びまん性心筋線維症または心臓伝導障害が起こる。小葉間動脈と弓状動脈の内膜肥厚が腎内に生じることがあり,腎虚血や腎性高血圧を起こす。

全身性硬化症の症状の程度および進行は様々であり,急性進行性でしばしば致死的な内臓障害を来す全身的な皮膚の肥厚(広汎性強皮症を伴う全身性硬化症)から,限局性(指や顔だけのこともしばしばである)の皮膚障害や,重篤な内臓疾患を発病する緩徐に進行する(しばしば数十年かかる)場合まである。後者型は,限局性皮膚硬化症またはクレスト(CREST)症候群(Calcinosis cutis:皮膚石灰沈着症,Raynaud's phenomenon:レイノー現象,Esophageal dysmotility:食道運動障害,Sclerodactyly:強指症,Telangiectasias:毛細血管拡張症)と呼ばれる。さらに,全身性硬化症はその他の結合組織疾患,例えば,強皮皮膚筋炎(多発性筋炎と見分けのつかない皮膚硬化と筋力低下)や混合結合組織病と重なりうる。

症状と徴候

全身性硬化症の最も一般的な初期の症状および徴候は,レイノー現象と,指の皮膚の徐々に起こる肥厚の伴う四肢の先端部分に潜行する腫脹である。多発性関節痛も著明である。胃腸障害(例,胸やけや嚥下困難)または呼吸器の愁訴(例,呼吸困難)がときには疾患の最初の症状発現である。

皮膚の腫脹は,通常は対称的で進行して硬化する。それは手指(強指症)と手に限定されるか,または体の大部分もしくは全てを侵すことがある。皮膚は最終的に張って輝き,脱色するか色素過剰となり;顔は仮面様になり;毛細管拡張症が手指,胸部,顔,口唇,舌に現れることがある。皮下のカルシウム沈着が,通常指先(指腹 )と骨の隆起部の上に起こりうる。栄養障害性潰瘍はよくみられ,特に指先に多く,指関節に広がるか,石灰沈着結節の上にみられる。検眼鏡または解剖顕微鏡により,爪に毛細血管と微小血管の係蹄がみられることがある。

多発性関節痛または軽度の関節炎が顕著でありうる。屈曲拘縮が,手指,手関節,肘関節に生じることがある。摩擦音が,関節や,腱鞘,大きな滑液包に生じうる。

食道の機能不全は,最もよくみられる内臓障害でほとんどの患者に起こる。嚥下障害(通常は胸骨後方)が通常最初に起こる。その後,酸逆流が胸やけや狭窄症を起こしうる。バレット食道は,強皮症の患者の13 に起こり,合併症(例,狭窄や腺癌)の素因となる。小腸の運動機能減退は,吸収不良につながりうる嫌気性細菌の過増殖をもたらす。空気は損傷を受けた腸壁を穿通することがあり,X線像で見えることがある(壁内気腫)。腹膜腔への腸内容物の漏出は,腹膜炎を起こしうる。特徴的な口の広く開いた憩室が結腸に生じることがある。胆汁性肝硬変は,CREST症候群の患者に発生することがある。

肺障害は一般に無痛性に進行し,個人的なばらつきがかなりあるとはいえ,よくある死因である。肺線維症はガス交換に障害を起こし,最終的には呼吸不全で労作性呼吸困難と拘束性疾患をもたらす。急性の肺胞炎(治療に反応する可能性がある)が発生しうる。食道機能不全は,誤嚥性肺炎をまねきうる。肺高血圧症を発症することがあり,心不全を起こすこともあり,いずれも予後所見は不良である。貯留性心外膜炎または胸膜炎を発症しうる。心不整脈は一般によくある。

重症の,しばしば突然に発生する腎疾患(腎クリーゼ)は,最初の4〜5年のうちに,全身性強皮症の患者に最もよくみられる。それは通常,突然の重度の高血圧によって予告される。

診断

全身性硬化症は,レイノー現象,典型的な筋骨格や皮膚の症状,説明されない嚥下障害,吸収不良,肺線維症,肺高血圧症,心筋症,伝導障害の患者に考慮すべきである。診断は,レイノー現象,嚥下障害,皮膚硬結のような典型的な症状の組み合わせを有する患者では明らかでありうる。しかし,一部の患者では,臨床的に診断が不可能であり,確証的な臨床検査によりその疾患である確率を増すことができるが,それを除外はしない。

血清の抗核抗体(ANA)とSCL-70抗体(トポイソメラーゼⅠ)を測定すべきである。ANAは,全身性硬化症の患者の90%以上に存在し,しばしば抗核小体のパターンを有する。セントロメリック蛋白に対する抗体(抗セントロメア抗体)は,CREST症候群の患者の血清に高率で生じ,ANA上で検出可能である。SCL-70抗原は,核酸分解酵素に感受性のあるDNA結合蛋白質である。全身性強皮症の患者はCREST症候群の患者よりも抗SCL-70抗体を有する可能性が高い。リウマチ因子はさらに患者の33%で陽性である。

肺障害の疑いがある場合,肺機能検査,胸部CT,心エコー検査を開始し,その重症度を明らかにしうる。急性肺胞炎は,胸部の高解像度CTによってしばしば検出される。

予後

経過は,全身性硬化症の病型によって決まるが,しばしば予測不可能である。典型的には進行は遅い。全体の10年生存率は約65%である。びまん性皮膚疾患のほとんどの患者は最終的には内臓合併症を発症し,それは通常の死因である。心臓,肺,または腎臓の症状が早期に出現すると予後は不良である。心不全は難治性でありうる。心室性異所性収縮は,たとえ無症状であるとしても突然死のリスクを増す。未治療であれば,急性腎不全は急速に進行して,数カ月以内に死に至る。CREST症候群を有する患者では,この疾患は長期間にわたって限局的で非進行性であり,内臓変化(例,肺の血管疾患に起因する肺高血圧症,胆汁性肝硬変の特異型)が最終的に起こるが,経過はしばしば著しく良性である。

治療

全身性硬化症の自然経過に全体的に有意な影響を及ぼす薬物はないが,様々な薬物は特定の症状や器官系の治療に価値がある。NSAIDは,関節炎に有用である。顕性の筋炎または混合性結合組織病があれば,コルチコステロイドは有用でありうる。皮膚の肥厚の治療に長く使用されているペニシラミンは,最近の試験で効果がないことが示されている。

メトトレキサート,アザチオプリン,シクロホスファミドなどの様々な免疫抑制薬は,肺胞炎に有用でありうる。肺移植の成功例が報告されている。エポプロステノール(プロスタサイクリン)やボセンタンは,肺高血圧症に有用でありうる。ニフェジピン20mg,1日3回経口投与のような徐放剤としてのカルシウムチャンネル拮抗薬,あるいはロサルタン50mg,1日1回経口投与のようなアンギオテンシン受容体遮断薬は,レイノー現象に有用でありうる。患者は暖かい服装をすべきである。プロスタグランジンE1(アルプロスタジル)またはエポプロステノールまたは交感神経遮断薬の静注が,指の虚血に使用しうる。逆流性食道炎は,少量の食事の頻回摂取,高用量プロトンポンプ阻害薬の投与,頭部側を高くして寝ることにより軽減する。食道狭窄症には定期的な拡張術が必要であることがあり,胃食道逆流は,胃形成術を必要とする可能性がある。テトラサイクリン500mg,1日2回の経口投与または別の広域スペクトル抗生物質は,腸内菌叢の異常増殖を抑制し,吸収不良症状を軽減する可能性がある。理学療法は筋力の維持に有用でありうるが,関節性拘縮の予防には効果がない。石灰沈着症に効果を示す治療はない。

急性の腎クリーゼには,ACE阻害薬による迅速な治療により生存を劇的に長引かせることができる。血圧は,常にではないが通常はコントロールされる。末期腎疾患に進行した場合,透析と移植を適用しうるが,死亡率は高いままである。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ

前へ: 全身性エリテマトーデス

イラスト
個人情報の取扱いご利用条件