メルクマニュアル18版 日本語版
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ガス交換の測定

一酸化炭素拡散能(DLco)とは,肺胞上皮および毛細血管内皮を横断して肺胞から赤血球へガスを運搬する能力を測定するものである。DLcoは血液-ガス関門の領域および厚さだけではなく,肺毛細血管内の血液量によっても左右される。肺胞換気量の分布もまた,測定に影響を及ぼす。DLcoは,患者がCOを少量吸入し,そのまま息を止め,そして呼出した後に,一酸化炭素(CO)の終末呼気ガスのサンプリングを行うことにより測定する。測定されたDLcoは肺容量(ヘリウム希釈から推定)および患者のヘマトクリットに応じて調整すべきである。DLcoは,mL/分/mm Hgおよび予測値の百分率で報告される。

原発性肺高血圧および肺塞栓など,主に肺の脈管構造に影響を及ぼす疾患は,DLcoを低下させる。気腫や肺線維症のように肺をびまん性に侵す疾患は,DLcoおよび肺容量(VA)をともに低下させる。過去に肺切除を受けた患者においても全肺気量がより少なくなることからDLcoの低下がみられるものの,増大し付加された血管の表面積が残存する肺の中に形成されるため,VAに応じて調整すると,DLcoは正常に補正されるか,または正常を超えることもある。貧血患者では,DLco値の低下が認められるがヘモグロビン補正を行うと正常値となる。DLcoは心不全患者において予測値よりも高くなるが,これはおそらく肺静脈圧と動脈圧の上昇が追加の肺微小血管形成をまねくためである。DLcoは赤血球増加症患者においても増加し,これは一部にはヘマトクリットの増加が原因であるが,粘稠性増加による肺動脈圧の上昇に伴って生じる血管床の増大が原因である。DLcoは肺胞出血を呈する患者において増加するが,これは肺胞腔内の赤血球がCOを結合するためである。DLcoはまた喘息患者においても増加する。この増加は血管床の増大の結果であると考えられるが,実際のメカニズムについては不明である。

パルス オキシメトリー

経皮的パルスオキシメトリーとは,指先クリップまたは粘着ストリッププローブ内に配置された発光ダイオードからの光の吸収に基づき,毛細血管血のO2飽和度(SpO2)を推定するものである。一般にこの推定値はきわめて正確であり,測定した動脈血O2飽和度(SpO2)の5%以内の誤差で相関関係にある。結果は,皮膚の色素沈着度が高い患者や,マニキュアを塗っている患者,不整脈または低血圧の患者の場合,正確性に欠けることがあり,これらの患者においては信号の振幅が減衰される場合がある。またパルスオキシメトリーは,オキシヘモグロビンか還元したヘモグロビンの検出のみが可能であり,その他のヘモグロビンのタイプ(例,一酸化炭素ヘモグロビン,メトヘモグロビン)はオキシヘモグロビンとみなされてしまい,見かけ上SpO2測定値を上昇させる。

動脈血ガス(Arterial Blood Gas)サンプリング

ABGサンプリングはPaO2,PaCO2,および血液pHの正確な測定値を得るために実施され,患者の体温と併用してこれらの変数から,HCO3値(静脈血から直接測定することも可能)およびSaO2を算出できる。ABGサンプリングは,一酸化炭素ヘモグロビンおよびメトヘモグロビンを正確に測定することもできる。

通常,橈骨動脈が用いられる。動脈穿刺はまれに血栓症および遠位組織の灌流障害をもたらすため,まずアレン試験を実施して側副循環が正常であることを確認する。この手技を用いて,手が蒼白になるまで橈側および尺側の脈を同時に閉塞する。その後,尺側の脈を解放する一方で橈側の脈は圧迫した状態を維持する。尺側の脈を解放すると7秒以内に手全体が紅潮するのは,尺骨動脈の流量が適切であることを示唆する。

無菌状態下で,ヘパリン化シリンジに装着された22〜25ゲージの針を橈骨動脈の脈拍の最強刺激部位のすぐ近位に挿入し,拍動する血液が戻るまで動脈内の遠位部に向かって少し針を進める。収縮期血圧はシリンジのプランジャーをしばしば押し戻すことがある。3〜5mLの血液が採取された後は針をすばやく引き抜き,止血を促進するため穿刺部位を強く圧迫する。同時に,ABG検体は白血球によるO2の消費とCO2の生成を減らすため氷の上に置き,検査室に送られる。

酸素化

低酸素血症は動脈血内のPO2 の低下であり,低酸素症は組織内のPO2 の低下である。ABGは低酸素血症の有無を正確に評価するもので,低酸素血症は一般にSaO2を90%未満に低下させるほど低いPaO2として定義される(すなわち,PaO2 < 60mm Hg) 酸化ヘモグロビン解離曲線で予測されるとおり,PaO2が正常であるにもかかわらず,ヘモグロビンの異常(例,メトヘモグロビン),体温の上昇,pHの低下,および2,3-ジホスホグリセリン酸の高値は,ヘモグロビンO2飽和度を低下させる( 肺機能検査: 酸化ヘモグロビン解離曲線。図 4: イラストを参照)。

図 4

酸化ヘモグロビン解離曲線。

酸化ヘモグロビン解離曲線。

動脈酸化ヘモグロビン飽和度はO2の分圧(PO2)と関連している。PO2は飽和度が50%(P50)の場合,正常では27mm Hgである。水素イオン(H+)濃度の上昇,赤血球2,3-ジホスホグリセリン酸(DPG)の増加,体温の上昇(T),および二酸化炭素分圧(PCO2)の上昇により,解離曲線は右に移動する。H+値,DPG,体温およびPCO2の低下により,曲線が左に移動する。曲線の右方移動で特徴づけられるヘモグロビンはO2との親和性が低下しており,曲線の左方移動により特徴づけられる場合はO2親和性の上昇となる。

低酸素血症の原因は,肺胞O2圧(PAO2)とPaO2の差異として定義される肺胞-動脈PO2較差[(A-a)DO2]が上昇しているか,または正常であるかによって分けることができる。PAO2は以下のとおり算出される:

このうち,FIO2は吸入されたO2の一部(例,ルームエアで0.21),Patmは外界の気圧変化(例,海面レベルで760mmHg),PH2Oは水蒸気の分圧(例,通常は47mmHg),Paco2は動脈CO2の分圧を測定したものであり,またRは呼吸商を指し,正常な食事をしている患者の安静時では0.8として計算する。

海面レベルおよびルームエアでは,Fio2=0.21となり,(A-a)Do2は以下のとおり簡略化できる:

このうち,(A-a)Do2は典型的に20未満であるが,年齢とともに上昇し(年齢関連性の肺機能低下のため),Fio2とともに上昇する(ヘモグロビンはPao2が約150mmHgの時点で飽和度100%となるが,O2は血中に溶解し,Fio2が増えると血漿中のO2含有量が増加し続けるため)。正常な(A-a)Do2値は(2.5+[Fio2 ×年齢])未満かFio2の絶対値を下回る値(例,ルームエアで21未満,30%のFio2で30未満)として推定され,これらの影響が補正される。

(A-a)Do2の上昇を伴う低酸素血症は,換気血流(V/Q)不均衡,右左シャント,および拡散能障害により引き起こされる。正常な(A-a)Do2を伴う低酸素血症は,低換気および吸気O2分圧の低下(Pio2)により引き起こされる。右左シャントを除き,全ての原因による低酸素血症は,O2補給に反応する。

V/Q不均衡は,低酸素血症の比較的一般的な原因の1つであるとともに,COPDおよび喘息とともに生じる低酸素血症の一因となる。正常な肺においては,肺胞低酸素症に反応して起こる細動脈収縮のため,局所灌流法が局所換気に非常に適合する。罹患した状態においては,調節不全が完全な換気に満たない(V/Q不均衡)肺胞単位の灌流をまねく。結果として,全身の静脈血はPao2の正常値を達成しないまま肺毛細血管を通過する。O2を補給すると,PAo2の上昇によりV/Q不均衡が原因の低酸素血を補正することはできるが,(A-a)Do2の上昇が続く。

右左シャントはV/Q不均衡の極端な例である。シャントにより,脱酸素化された肺動脈血は,換気された肺区域を通過せずに心臓の左側に到着する。シャントは,肺実質を通るか,肺動脈および静脈間の循環の異常な連結部を通るか,または心臓内の連絡部分(例,卵円孔開存)を通って生じることがある。

拡散能障害だけはまれに独立して生じるが,通常は顕著なV/Q不均衡を伴う。O2は,血液が肺胞ガスと接触するほんのわずかな時間の後にヘモグロビンを完全に飽和させるため,拡散能障害が原因の低酸素血症が生じるのは,心拍出量が増加するとき(例,運動を伴う場合),大気圧が低いとき(例,高地にいる場合),または肺実質の50%以上が破壊されたときに限られる。V/Q不均衡と同様に(A-a)DO2が上昇するが,FIO2を上げることにより,PaO2を急速に上昇させることができる。

低換気(肺胞換気の低下)はPAO2を低下させるとともに,PaCO2を上昇させ,これによりPaO2が低下する。純粋な低換気の症例においては,(A-a)DO2は正常である。低換気の原因には,呼吸数および呼吸の深度の低下(例,神経筋疾患,重度の肥満,薬物の過剰摂取)や,すでに最大換気の限界にある患者(例,重度のCOPDの増悪)においては死腔換気部分の増加などがある。低換気性の低酸素血症は,O2補給に反応する。

FIO2の低下は,ほとんどの症例が高地でのみ発生する低酸素血症のまれな原因として最後に残るものである。FIO2が高度によって変化することはないが,環境空気圧は指数関数的に低下し,よってPIO2も低下する。例えば,エベレスト山頂のPIO2はわずか43mmHgである(高度,29,028ft[8,848m])。(A-a)DO2は正常のままである。呼吸運動の低酸素刺激が肺胞換気を増加させ,PaCO2値を低下させる。

二酸化炭素

PCO2は正常では35〜45mm Hgの範囲で維持される。O2 に類似した解離曲線がCO2にみられるが,PaCO2の生理的範囲を越えてほぼ直線状となる。異常なPCO2は常に換気の障害と結びつき,常に酸-塩基の変化と関連する。

高炭酸ガス血症ではPCO2が45mm Hgを超える。高炭酸ガス血症の原因は低換気の場合と同様である(肺機能検査: 酸素化を参照 )。低炭酸ガス血症ではPCO2が35mmHg未満となる。低炭酸ガス血症は常に,肺(例,肺水腫または肺塞栓),心臓(例,心不全),代謝性(例,アシドーシス),薬物誘発性(例,アスピリン,プロゲステロン),CNS(例,感染症,腫瘍,出血,頭蓋内圧亢進)による過換気,または生理的な(例,疼痛,妊娠)障害または状態が原因の過換気により引き起こされる。低炭酸ガス血症は,おそらく酸-塩基の状態への影響を通して直接的に気管支収縮を増加させ,大脳および心筋の虚血の閾値を下げると考えられる。

一酸化炭素ヘモグロビン血症およびメトヘモグロビン血症

COは,O2の210倍の親和性をもつヘモグロビンと結合し,O2の運搬を妨げる。臨床的に毒性をもつ一酸化炭素ヘモグロビンの値は,最もしばしば排気ガスへの暴露または煙吸入の結果としてみられるが,喫煙者は検出可能レベルを有する。CO中毒患者は,倦怠感,頭痛,悪心などの非特異的症状を呈することがある。中毒はしばしば寒い月に起こることから(可燃性燃料の暖房器具を室内で使用するため),症状がインフルエンザなどのウイルス症候群と混同されることもある。臨床医はCO中毒の可能性に注意し,適応があれば一酸化炭素ヘモグロビン値を測定しなければならない;COHbを動脈血の検体から直接的に測定することもできる。

治療は,100%O2の投与(一酸化炭素ヘモグロビンの半減期を短縮化する)および/または高圧室の利用によって行う。

メトヘモグロビンは,第一鉄(Fe2+)から第二鉄(Fe3+)の状態に酸化されるヘモグロビンである。メトヘモグロビンがO2を運搬することはなく,正常なHbO2の解離曲線を左に移動させることから,O2の組織への放出を制限する。メトヘモグロビン血症は,特定の薬物(例,ダプソン,局所麻酔薬,硝酸薬,プリマキン,スルホンアミド系),または頻度は低いが特定の化学物質(例,アニリン色素,ベンゼン誘導体)によって引き起こされる。メトヘモグロビンは,コ-オキシメトリー(4つの光の波長を放射し,メトヘモグロビン,COHb,Hb,およびHbO2の検出が可能)により直接測定するか,または測定したPaO2から算出したO2飽和度と直接測定したSaO2間の差異により推定できる。メトヘモグロビン血症患者は,最もしばしば無症候性のチアノーゼを呈する。重症例においては,錯乱,狭心症,および筋肉痛などの,組織が低酸素に陥った結果みられる症状が生じる程度までO2運搬が低下する。しばしば,原因となる薬物または化学物質への暴露の中止で十分である。まれに,メチレンブルー(還元剤)の投与または交換輸血が必要となる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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