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アスベスト関連疾患はアスベスト繊維の吸入により発症する。アスベスト関連疾患には,石綿肺症,肺癌,非悪性の胸膜プラーク形成や肥厚,良性胸水,悪性中皮腫などがある。石綿肺症および中皮腫はともに進行性の呼吸困難の原因となる。診断は病歴および胸部X線またはCTにより行い,悪性疾患の場合は組織生検にて行う。治療は,悪性疾患であれば外科手術および/または化学療法を必要とするが,それ以外では支持療法を行う。
アスベストは天然に存在するケイ酸塩で,その耐熱性および構造特性により,建設および造船の材料,自動車のブレーキ,一部の織物に組み込むと有用であった。温石綿(蛇紋石の繊維),青石綿,アモサ石綿(角閃石またはまっすぐな繊維)が疾患の原因となる3つの主なアスベストの種類である。アスベストは肺および/または胸膜を侵す。
肺病変
肺病変には非悪性または悪性がある。
石綿肺症:
間質性肺線維症の1つである石綿肺症は,悪性疾患よりはるかに一般的である。造船業,織物産業,および建設業の労働者,住宅改築業者,アスベスト除去に携わる労働者,アスベスト繊維にさらされる炭鉱労働者は,この疾患のリスクが高い労働者の種類に入る。間接暴露が,暴露労働者の家族および炭鉱付近の住民に起こりうる。病態生理は他の塵肺症に似ている―吸入した繊維を貪食しようとする肺胞マクロファージがサイトカインおよび成長因子を放出し,それが炎症,コラーゲンの沈着,最終的には線維形成を刺激する―ただしアスベスト繊維それ自体が肺組織に直接毒性をもつこともあり,その場合は別である。疾患のリスクは,一般に暴露の期間と強度および吸い込んだ繊維の種類,長さ,太さに関係する。
石綿肺症は初期には無症状であるが,進行性呼吸困難,乾性咳,疲労の原因となりうる;患者の10%以上で疾患は暴露停止後も進行する。進行性石綿肺症では,ばち状指,両側肺底部の乾性の断続性ラ音が生じ,重症例では右室不全(肺性心)の症状や徴候が生じることもある。
診断は暴露歴および胸部X線または胸部CTに基づいて行う。胸部X線では,線維症を示す線状の網状または結節状陰影が,通常,下葉の末梢に,しばしば胸膜変化を伴ってみられる(環境性肺疾患: 胸膜疾患を参照 )。蜂巣状像は疾患がさらに進行した状態を表しており,中肺野に及んでいることがある。珪肺症と同様,重症度は陰影の大きさ,形状,位置,広がりに基づいた国際労働機関(ILO)の基準により分類されている。珪肺症とは対照的に,石綿肺症では網状陰影が生じ,下葉に優位にみられる。肺門部および縦隔のリンパ節腫脹はこの疾患の特徴ではなく,他の診断を示唆する。胸部X線は感度が低い;石綿肺症の診断の可能性がある場合には高解像度胸部CT(HRCT)が有用である。HRCTは胸膜異常の検出には,胸部X線より優れている。肺機能検査では,肺気量およびDLcoの低下を示すことがあり,非特異的ではあるが,診断確定後の経時的な肺機能の変化を見るのに役立つ。気管支肺胞洗浄または肺生検は,非侵襲的方法では確実な診断ができない場合にのみ適応となる;肺線維症の人にアスベスト繊維の存在が証明されれば,石綿肺症が示唆されるが,ときには暴露しているが罹患していない人の肺にもアスベスト繊維が見つかる。
特定の治療法は存在しない。低酸素血症および右室不全が早期に発見されれば,O2の補給や心不全の治療を行う。肺機能障害のある患者では肺リハビリテーションが有用である。予防策には,暴露回避,職場以外のアスベスト除去,禁煙,肺炎球菌およびインフルエンザワクチンの接種などがある。
タバコの煙とアスベストの両方に暴露すると肺癌のリスクが増大するため,禁煙は特に重要である。予後は様々である;患者の多くは無症状か軽い症状で予後良好であるが,一部の患者は進行性呼吸困難を発症し,少数の患者は呼吸不全,右室不全,および悪性疾患を発症する。
石綿肺症の患者では,肺癌(非小細胞癌)は石綿肺症ではない人の8〜10倍の頻度で発生し,特に角閃石繊維に暴露した労働者でよくみられるが,種類を問わずアスベスト吸入は癌のリスク上昇と関連している。アスベストと喫煙は肺癌のリスクに相乗効果をもつ(肺の腫瘍を参照 )。
胸膜疾患
アスベスト暴露に特徴的な胸膜疾患には,胸膜プラークの形成,石灰化,肥厚,癒着,胸水,中皮腫がある。胸膜疾患は胸水および悪性疾患を生じるが,症状はほとんどない。全ての胸膜変化は胸部X線またはHRCTにより診断するが,胸膜疾患の発見には胸部CTは胸部X線より感度が高い。悪性中皮腫以外は,治療の必要性はほとんどない。
孤立性のプラークは,アスベストに暴露した労働者の最大60%にみられ,通常第5肋骨と第9肋骨の間および横隔膜に隣接した両側の壁側胸膜を侵す。プラークの石灰化は一般的で,X線写真上で肺野に重なると,重症の肺疾患と誤診されることがある。このようなケースではHRCTにより胸膜疾患と実質性疾患を鑑別できる。
びまん性の肥厚は壁側胸膜だけではなく臓側胸膜にも起こる。それは実質から胸膜へ肺線維症が拡大したのかもしれないし,胸水に対する非特異的反応かもしれない。石灰化を伴っても伴わなくても,胸膜肥厚は拘束性障害を起こしうる。円形無気肺は胸膜肥厚の結果であり,胸膜の実質への陥入が肺組織をとり込み,無気肺を起こす。胸部X線およびCTでは,通常円形の瘢痕性の腫瘤としてしばしば肺下部にみられ,X線所見では肺の悪性疾患と混同されうる。
胸水がみられるが,胸水を伴う他の胸膜変化ほど一般的ではない。胸水は滲出性で,しばしば血性であるが,通常自然に消失する(縦隔および胸膜の疾患: 分類と病因を参照 )。
胸膜中皮腫:
胸膜中皮腫は唯一知られる胸膜の悪性疾患で,ほとんど全ての症例でアスベスト暴露が原因である。アスベスト労働者が一生の間に胸膜中皮腫を発症するリスクは10%以下で,平均潜伏期間は30年である。リスクは喫煙とは無関係である。中皮腫は局所的に広がることも,また心膜,横隔膜,腹膜,まれに精巣鞘膜に転移することもある。患者には呼吸困難および非胸膜性胸痛の症状が現れることが多い。全身症状は受診時には一般的ではない。胸壁およびその他の隣接構造物への浸潤は,激しい痛み,嗄声,嚥下障害,ホルネル症候群,上腕神経叢障害,腹水の原因となりうる。胸郭外へ広がることは患者の最大80%に起こり,肺門リンパ節,縦隔リンパ節,肝臓,副腎,腎臓などが最も一般的である。
全症例の90%以上を占める胸膜型中皮腫は,X線写真では肺を包んでいるように見えるびまん性の一側性または両側性の胸膜肥厚を呈し,通常肋骨横隔膜角の鈍化が生じる。胸水は症例の95%にみられ,典型的には一側性で大量である。診断は胸水の細胞診または胸膜生検によるが,それでも診断がつかなければ,ビデオ補助胸腔鏡手術(VATS)による生検または開胸生検を行う。病期分類は胸部CT,縦隔鏡検査,およびMRIにより行う。MRIとCTの感度と特異度は同程度であるが,MRIは腫瘍の脊椎または脊髄への拡大を明らかにするのに有用である。PETは,胸膜肥厚の良性と悪性の鑑別には感度と特異度が高い。気管支鏡検査により,気管支内の悪性疾患の併発が除外できる。胸水中のヒアルロニダーゼのレベルの上昇は,疾患を示唆するが診断は確定されない。中皮細胞により血清に放出される可溶性のメゾテリン関連蛋白が,疾患発見と監視のための腫瘍マーカーとなりうるものとして研究されている。
中皮腫は依然として治癒不能の癌である。胸膜;同側肺,横隔神経,片側横隔膜;および心膜の外科的切除と化学療法または放射線療法の併用が考えられるが,予後および生存期間に大きな変化はなく,長期生存は少ない。その上,完全な外科的切除はほとんどの患者で不可能である。ペメトレキセド(葉酸代謝拮抗薬)およびシスプラチンの併用療法は,有望ではあるが,さらに研究が必要である。
支持療法は主に痛みおよび呼吸困難の緩和が中心である。この疾患はびまん性であることから,放射線治療は通常適応とはならない,ただし局所的な痛みおよび穿刺経路への播種に対する治療手段として利用する場合は別であるが,神経根痛の治療には避けるべきである。胸水による呼吸困難の軽減に,胸膜癒着術または胸膜切除術を用いることができる。十分な鎮痛を行うのは困難だが重要であり,疼痛管理には通常オピオイドが必要で,経皮型と留置型の両方の硬膜外カテーテルを用いる。シスプラチンとゲムシタビン併用による化学療法は,ほとんどの症例で症状を緩和しており,調査した患者の2分の1で腫瘍の縮小を認めている。集学的治療法を提唱する専門家もいる。顆粒球―マクロファージコロニー刺激因子またはインターフェロン―γの胸膜内注射;静注ランピルナーゼ(リボヌクレアーゼ);および遺伝子治療が研究されている。
生存期間を大幅に延長する治療法は示されてない。診断時からの生存期間は,部位と細胞の種類にもよるが平均8〜15カ月である。少数の患者,通常は症状の発症期間が短い若年患者ほど予後がよく,ときには診断後数年間生存する。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
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