メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

肺-腎症候群

肺-腎症候群(PRS)は,びまん性肺胞出血および糸球体腎炎の同時発症である。PRSは常に基礎疾患である自己免疫疾患の症状として現れるが,PRSに対して鑑別診断ならびに特異的な一連の検査および治療が行われる結果,1つの診断単位として認識を得てきている。PRSは,グッドパスチャー症候群が基本形の原因であるが,SLE,ヴェーゲナー肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎,あまり一般的ではないが,他の血管炎および結合組織病によって引き起こされることもある( びまん性肺胞出血および肺-腎症候群: 肺-腎症候群の鑑別診断表 1: 表を参照)。後者の疾患が原因となるPRSの症例数は,おそらくグッドパスチャー症候群が原因となる症例数よりも多いが,それらの疾患の患者はPRSとは違った症状を呈することのほうが多い;PRSの症状を呈する患者は少数である。

表 1

肺-腎症候群の鑑別診断

結合組織病

多発筋炎または皮膚筋炎

進行性全身性硬化症

RA

SLE

グッドパスチャー症候群

腎疾患

特発性免疫複合体性糸球体腎炎

IgA腎症

心不全を伴う急速進行性糸球体腎炎

全身性血管炎

ベーチェット症候群

チャーグ-ストラウス症候群

クリオグロブリン血症

ヘノッホ-シェーンライン紫斑病

顕微鏡的多発動脈炎

ヴェーゲナー肉芽腫症

その他

薬物(ペニシラミン)

心不全

PRSは,IgA腎症およびヘノッホ-シェーンライン紫斑病などのIgA異常関連疾患,および必須混合クリオグロブリン血症などの免疫複合体の仲介する腎疾患において,あまり頻度として多くない症状である。まれに,急速進行性糸球体腎炎が単独で,腎不全,体液量過剰,喀血を伴う肺水腫の機序によりPRSを引き起こすことがある。

PRSは,他の原因(肺炎,癌,または気管支拡張症など)に起因することが明らかでない喀血がある患者に,特に喀血がびまん性実質性の肺浸潤を伴う場合に疑われる。初期検査には,血尿の証明のための尿検査,腎機能評価のための血清クレアチニン,貧血の証明のためのCBCなどがある。肺機能検査は診断的ではないが,一酸化炭素拡散能(DLco)上昇の所見は,肺出血を示唆し,これは,肺胞内ヘモグロビンによる一酸化炭素の取り込みの上昇に起因している。

血清抗体検査はいくつかの原因を鑑別する助けとなりうる。抗糸球体基底膜(抗GBM)抗体は,腎移植後のアルポート症候群の患者にも発生するが,グッドパスチャー症候群に特徴的である。2本鎖DNAに対する抗体および減少した血清補体はSLEの典型である。プロテイナーゼ3(PR3-ANCA または細胞質ANCA[c-ANCA])に対する抗好中球細胞質抗体(ANCA)はヴェーゲナー肉芽腫症において存在する。ミエロペルオキシダーゼ(MPO-ANCA,または核周囲ANCA[p-ANCA])に対する抗好中球細胞質抗体は,顕微鏡的多発血管炎を示唆する。

グッドパスチャー症候群

(抗GBM抗体病)

グッドパスチャー症候群は,血中の抗GBM抗体によって引き起こされる肺胞出血および糸球体腎炎の自己免疫症候群である。グッドパスチャー症候群は,遺伝的感受性を有する喫煙者に最も多く発症するが,炭化水素への暴露およびウイルス感染もまた誘因の可能性がある。症状は,呼吸困難,咳,疲労,喀血,および/または血尿である。グッドパスチャー症候群は喀血または血尿のある患者に疑われ,血中に抗GBM抗体が存在することにより確定される。治療には,血漿交換療法,コルチコステロイド,シクロホスファミドなどの免疫抑制薬などを用いる。呼吸不全または腎不全の発症前に治療が開始されれば,予後は良好である。

グッドパスチャー症候群は,抗GBM抗体存在下での糸球体腎炎と肺胞出血の併発である。グッドパスチャー症候群は,びまん性肺胞出血と糸球体腎炎の併発として発現することが最も多いが,ときには糸球体腎炎(10〜20%)または肺疾患(10%)が単独で現れることもある。女性よりも男性が罹患することのほうが多い。

抗GBM抗体はⅣ型コラーゲンのα3鎖の非膠原質形成性(NC-1)ドメインを標的にしており,腎毛細血管および肺毛細血管の基底膜内で高濃度であることが認められる。環境暴露―最も一般的なものには喫煙,ウイルス性の上気道感染症,炭化水素溶剤の吸入,あまり一般的でないものには肺炎―は,遺伝的に感受性の強い人(最も顕著なのは,HLA-DRw15,HLA-DR4,およびHLA-DRB1対立遺伝子を有する人々)において,肺胞毛細血管抗原を血中抗体に触れさせる。血中抗GBM抗体は基底膜に結合して,補体と結合し,細胞媒介性炎症反応を誘発して,糸球体腎炎および/または肺毛細血管炎を引き起こす。

症状と徴候

喀血は最も顕著な症状である;しかしながら,出血の存在下でも喀血がみられないことがあり,そのような患者は胸部X線での浸潤像のみ,または,浸潤像および呼吸困難および/または呼吸不全を呈することがある。呼吸困難,咳,疲労感,発熱,および体重減少は一般的である。最大で患者の40%が肉眼的血尿を有するが,肺出血は週単位から年単位で腎症状に先行しうる。

徴候は長期にわたって変化し,聴診において澄んだ肺音から断続性ラ音およびいびき音の範囲に及ぶ。一部の患者には末梢浮腫および貧血による蒼白がみられる。

診断

初期検査がPRS診断を支持する場合は,追加検査が必要となる。グッドパスチャー症候群の診断では,遺伝子組み換え型またはヒトのα3鎖のNC-1を利用して,間接免疫蛍光検査,または可能なときには直接的な酵素結合免疫吸着(ELISA)検査によって,血清抗GBM抗体の存在を証明することが必要である。SLEおよびレンサ球菌感染後糸球体腎炎はPRSの原因の多くと関連しうるので,SLE検出のための抗核抗体(ANA)およびレンサ球菌感染後糸球体腎炎検出のための抗ストレプトリジンO抗体価など,他の血清学的検査も行う。ANCA検査ではグッドパスチャー症候群症例の25%が陽性(辺縁型にて)である。糸球体腎炎(血尿,蛋白尿,尿検査で赤血球円柱,および/または腎不全)の存在があれば,腎生検の適応となりうる。半月体形成を伴う急速に進行する巣状分節状壊死性糸球体腎炎は,グッドパスチャー症候群およびその他のPRSの原因の全てにおいて,生検で認められる。腎組織あるいは肺組織の免疫蛍光染色は,糸球体または肺胞の毛細血管に沿った綿状IgG沈着を示す。これは,まれにPRSの原因となる病態である,糖尿病の腎臓および筋原線維性糸球体腎炎においてもみられるが,これら疾患における抗体のGBM結合は非特異的である。

肺機能検査および気管支肺胞洗浄はグッドパスチャー症候群を診断できるものではないが,糸球体腎炎および肺浸潤は有するが喀血のない患者において,びまん性肺胞出血を確定するために有効である。逐次抜き取りの後も出血性のままである洗浄液は,特にヘマトクリットが低下した状態において,びまん性肺胞出血を確定する。

予後と治療

グッドパスチャー症候群はしばしば急速に進行し,早期発見と早期治療が遅れた場合,死に至ることもある;呼吸不全または腎不全の発症前に治療が開始されれば,予後は良好である。

肺出血および呼吸不全に直面した場合の救急救命には気道確保が必須である;気管内挿管および機械的人工換気は,境界値のABGおよび切迫した呼吸不全を有する患者に勧められる。

治療は,毎日または1日おきの血漿交換療法を2〜3週間,抗GBM抗体除去のため4Lの交換を行い,新たな抗体の形成を防ぐ目的で,静注のコルチコステロイド(通常,メチルプレドニゾロン1gを20分かけて投与を1日おきに3回行い,その後,プレドニゾン1mg/kgを1日1回)およびシクロホスファミド(2mg/kgを1日1回)の6〜12カ月間投与を併用する。治療は肺機能および腎機能が改善を停止した場合は漸減する。長期予後は診察時の腎機能障害の程度に関連する;診察時に透析の必要のある患者および生検で50%より大きい半月体がみられる患者は,生存期間が2年未満であり,腎移植を行わない限りは透析がしばしば必要になる。喀血は疾患の早期発見につながるので,良好な予後の徴候といえる;ANCA陽性患者の少数が治療に対してよく反応する。再発は少数に発生し,継続的な喫煙および呼吸器感染に関連する。末期腎不全の患者で腎移植を受けた患者では,疾患は移植腎に再発する可能性がある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ

前へ: びまん性肺胞出血症候群

イラスト
個人情報の取扱いご利用条件