メルクマニュアル18版 日本語版
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気胸

気胸は胸膜腔内の空気のことで,部分的または完全な肺虚脱を引き起こす。気胸は,自然に起こることもあれば,肺の基礎疾患,外傷,または医療行為が原因で起こることもある。診断は身体診察と胸部X線に基づく。ほとんどの気胸は経カテーテル的吸引または胸腔ドレナージを必要とする。

胸膜腔内圧は,肺が内向きに収縮しようとして胸壁が外向きに拡張しようとしているため,通常陰圧である(大気圧より低い)。気胸では,空気は胸部の外側から,もしくは肺それ自体から縦隔組織面または直接的な胸膜の穿孔を通って胸膜腔内に入る。胸膜内圧が上がり,肺容量が減少する。

分類と病因

原発性自然気胸 は,肺の基礎疾患が存在せず,典型的には,背が高く痩せている10代および20代の若い男性の患者に発生する。原発性自然気胸は,喫煙または遺伝性の原因であり,胸膜下肺尖部の胸膜下嚢胞または肺胞内嚢胞が自然に破裂することによると考えられている。一般に安静時に発症するが,症例によっては手を伸ばすことまたはストレッチを含む運動に伴い発症する。原発性自然気胸はダイビングや高所飛行中に生じるものもあるが,肺内の不均一に伝わる気圧変化による。

続発性自然気胸は肺の基礎疾患を伴う患者に発生する。重度のCOPD(1秒間の努力性肺活量[FEV1]が1L未満),HIVに関連したニューモシスチス-ジロベジ(以前はニューモシスチス-カリニと呼ばれていた)感染,嚢胞性線維症,またはあらゆる肺の実質性基礎疾患を有する患者において,胸膜下嚢胞または肺胞内嚢胞の破裂に起因するのが最も多い( 縦隔および胸膜の疾患: 自然気胸の原因表 4: 表を参照)。続発性自然気胸は,肺および心予備力がより少ない高齢の患者に発生するため,通常,原発性自然気胸よりもより重篤である。 月経随伴性気胸は続発性自然気胸のまれな病態であり,閉経前の女性に月経の開始後48時間以内に,およびときにはエストロゲンを投与されている閉経後の女性に発生する。原因は胸腔内子宮内膜症であり,おそらく横隔膜欠損部を介した腹膜腔内の子宮内膜組織の移動,または骨盤静脈を介した塞栓の移動によるものであろう。月経に伴い,子宮内膜組織がはがれ落ちる際に,胸膜に孔が生じる。

表 4

自然気胸の原因

原発性

喫煙に起因する胸膜下嚢胞

続発性

高頻度

喘息

COPD

嚢胞性線維症

壊死性肺炎

ニューモシスチス-ジロベジー(以前はニューモシスチス-カリニ)感染

結核

低頻度

医原性肺線維症

ランゲルハンスの細胞肉芽腫症

肺癌

リンパ管平滑筋腫

サルコイドーシス

結合組織病

強直性脊椎炎

エーレルス-ダンロー症候群

マルファン症候群

多発筋炎/皮膚筋炎

RA

肉腫

強皮症

その他

胸部子宮内膜症

結節性硬化症

外傷性気胸は鈍的および穿孔性の胸部外傷の一般的な合併症である。

緊張性気胸は,胸膜腔内圧が進行性に上昇し,呼吸周期の間ずっと陽圧になり,肺が虚脱し,縦隔が移動して,心臓への静脈還流が損なわれるレベルの内圧まで上昇することに起因する。空気は胸膜腔へ入り続けるが,出ることはできない。適切な治療を行わなければ,障害された静脈還流は全身性低血圧および数分以内に心肺停止を引き起こすことがある。緊張性気胸は,陽圧人工換気(特に蘇生中)を受けている患者に最も多く起こる。まれに外傷性気胸の合併症となるが,それは胸部創傷が一方向性の弁として働き,吸気に伴って胸膜腔内に空気を閉じ込め,胸膜腔内の空気量が増えていく場合である。

医原性気胸は医療行為(経胸腔針吸引,胸腔穿刺,中心静脈カテーテル留置,機械的人工換気,および心肺蘇生など)により引き起こされる。

症状と徴候

非外傷性の気胸は無症状のときもある。症状には,呼吸困難,胸膜性胸痛,および不安がある。呼吸困難は,気胸の進行速度および大きさにより,発症が突然であったり緩徐であったりする。痛みは,心虚血,筋骨格障害(肩への関連痛の場合),または腹腔内の病的変化(腹部への関連痛の場合)に類似する。

身体所見は古典的に,触覚振盪音の消失,打診への共鳴亢進,および気胸側の呼吸音の減弱からなる。気胸が大きければ,気胸のある片側は拡張し,気管は明らかに気胸側とは反対側に偏位する。

診断

診断は立位の吸息位の胸部X線検査でなされる。放射線透過性の空気が存在し,縮小した肺葉または肺と壁側胸膜の間に並列する肺紋理がないことが,気胸の診断の決め手となる。気管偏位および縦隔偏位は大きい気胸に伴い発生する。

気胸の大きさは,空気の半胸郭に占める割合として定義される。気胸の大きさは,1から,肺の幅と半胸郭の幅を3乗したものの比率を差し引いて得た値で決定される。例えば,半胸郭の幅が10cmで肺の幅が5cmであれば,比率は53/103 =0.125である。したがって,気胸の大きさは1から0.125を引いた値,つまり87.5%となる。肺と胸壁の間に癒着がある場合は,肺は対称的には虚脱せず,気胸は異型性あるいは多房性であり,前述の計算は適用されない。

小さい気胸は,胸部X線で見落とされることもある。X線所見が気胸に類似する状態には,気腫性嚢胞,しわ,および,胃または腸像が肺野に重なっていることなどがある。

治療

患者には,胸部X線が利用できるまで,O2補給を行うべきである;O2は空気の胸膜再吸収を促進する。その後の治療は,気胸の種類,大きさ,影響によって異なる。原発性自然気胸は,大きさが20%未満で,肺または心臓の症状を引き起こさず,もし約6時間後および約48時間後の胸部X線による経過観察で何ら進行がみられなければ,治療なしで安全に観察できる。それよりも大きい,または症状を有する原発性自然気胸は,カテーテルドレナージにより排気すべきである。

カテーテルドレナージは,小口径の静脈内カテーテルまたはピッグテールカテーテルを鎖骨中央線上の第2肋間腔から胸腔内に挿入することにより達成する。カテーテルは三方活栓および注射器に取り付ける。空気は,胸膜腔から三方活栓を通して注射器へと引き抜き,室内に排出する。この過程は,肺が再膨張するまで,または4Lの空気が除去されるまで繰り返す。肺が膨張する場合,カテーテルは除去するか,一方向性ハイムリッヒバルブに接続させる(これにより歩行できる)ことがある。肺が膨張しない場合,胸腔チューブを挿入すべきである;いずれの場合も,患者は通常観察のために入院させる。原発性自然気胸は,まず吸引を行い,または行わずに,水封に接続した胸腔チューブによって管理されることもある。喫煙は第一の危険因子なので,原発性自然気胸の患者は,禁煙カウンセリングも受けるべきである。

続発性および外傷性気胸は通常チューブドレナージ(肺の診断と治療に関する手技: 胸腔ドレナージを参照 )により治療するが,小さな気胸の患者の中には入院および観察を必要としない人もいる。医原性気胸で症状を有する患者は,まず吸引により管理するのが最善である。

緊張性気胸は医学的な緊急事態である。緊張性気胸は,鎖骨中央線上の第2肋間腔の胸壁からカテーテル付14ゲージまたは16ゲージの針を挿入することによって,直ちに治療すべきである。高圧の空気が漏れ出てくる音で診断が確定する。カテーテルは外気と開通状態におくこともあれば,ハイムリッヒバルブに接続させることもある。緊急減圧術の直後に続けてチューブドレナージを行わねばならず,その後にカテーテルを抜去する。

合併症

気胸を治療する際に遭遇する3つの主な問題は,エアリーク,肺が膨張できないこと,および再膨張性肺水腫である。

エアリークは通常一次欠損―続きすなわち,肺から胸膜腔への空気の持続的な漏出―続きが原因であるが,胸腔チューブ挿入部が適切に縫合閉鎖されていなければ,胸腔チューブ周囲のエアリークによる可能性がある。エアリークは原発性気胸よりも続発性気胸においてより多くみられる。ほとんどは1週間以内に自然に消失する。

肺の再膨張不全は,通常,エアリークの持続,気管支内閉塞,孤立肺,または胸腔チューブの位置が適切でないことに起因する。エアリークまたは不完全な肺膨張が1週間を超えて続く場合,胸腔鏡検査または開胸術が必要であるかについて患者を評価すべきである。

再膨張性肺水腫は,肺が急速に再膨張する場合(肺が2日以上虚脱していた後に,胸腔チューブを陰圧に接続したときなどにそうなるが)に生じる。治療は支持療法で,O2および利尿薬を用い,必要に応じて,心肺補助を行う。

予防

再発率は初回の自然気胸から3年間で50%に達する;最善の予防的手技はビデオ補助胸腔鏡手術(VATS)であり,その手術では,胸膜下嚢胞をステープラーで縫合し,胸膜の擦過,壁側胸膜切除術,またはタルクの注入によって胸膜癒着術を行う;病院の中には現在も開胸術を用いているところもある。これらの手技が推奨されるのは,カテーテルドレナージが自然気胸に奏効しない場合,気胸が再発した場合,または続発性自然気胸の患者の場合である。この手技後の再発率は5%未満である。胸腔鏡手術を受けられない患者は,胸腔チューブを介した薬物による胸膜癒着術(縦隔および胸膜の疾患: 治療を参照 )を受けることもあるが,この手技は侵襲性はより低いが,再発率は約25%にまでしか下げない。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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