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肺癌は悪性の肺腫瘍で,通常,小細胞肺癌または非小細胞肺癌に分類される。喫煙はほとんどの種類の肺癌に対する主要な危険因子である。症状は,咳,胸部不快感,および,あまり一般的ではないが,喀血を含むが,多くの患者は無症状で,一部の患者には転移性疾患が生じる。診断は胸部X線またはCTスキャンによって疑われ,生検によって確認される。治療には,手術,化学療法,および/または放射線療法を用いる。治療の進歩にもかかわらず,予後は不良で,早期発見および予防に注目が集められている。
疫学,病態生理,分類
米国では,毎年新たに推定で171,900例の肺癌が診断されており,肺癌による死亡者は毎年157,200人にのぼる。発生率は女性では上昇しており,男性では横ばい状態のようである。黒人男性は特に危険性が高い。
喫煙は,受動喫煙(間接喫煙)も含めて,最も主要な原因である。危険性は年齢および喫煙強度ならびに喫煙期間によって異なる;禁煙すると危険性は低下するが,おそらく基準値に戻ることはない。自然発生のラジウムおよびウランの崩壊産物であるラドンへの暴露は,非喫煙者において,最も主要な環境危険因子である。職業性暴露には,ラドン(ウラン鉱山労働者において);石綿(建設作業員および解体作業員,配管工,造船業者,自動車工において);シリカ(鉱山労働者および研磨作業員において);ヒ素(銅製錬,殺虫剤製造,および木材処理工場の作業員において);クロム酸塩(ステンレス鋼および顔料の製造工場において);ニッケル(電池およびステンレス鋼の製造工場において);クロロメチルエーテル;ベリリウム;およびコークスの燃焼排気物(製鋼所工員において)などがあり,毎年,年間に発生する症例のうち,少数を引き起こす(環境性肺疾患を参照 )。職業性毒素と喫煙への複合暴露の場合,いずれか一方への暴露の場合より,癌の危険性が増大する。COPDおよび肺線維症は罹病性を高める可能性がある;喫煙者においては,β-カロチン補充が罹病性を高める可能性がある。大気汚染および葉巻の煙は発癌性物質を含んでいるが,肺癌を引き起こすとは証明されていない。
呼吸上皮細胞は,発癌性物質に長期間暴露し,遺伝子突然変異が何度も起こったのちに腫瘍性になる。細胞増殖を刺激する遺伝子(K-RAS,
MYC),成長因子受容体をコードする遺伝子(EGFR, HER2/neu),およびアポトーシスを抑制する遺伝子(BCL-2)における突然変異は,異常細胞の増殖の一因となる。腫瘍抑制遺伝子(p53,
APC )を抑制する突然変異も同様である。このような突然変異がいくつも積み重なって条件が揃うと,肺癌が生じる。
肺癌は一般的に小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)に分類される。SCLCは非常に急速に進行する癌で,ほぼ必ず喫煙者において生じ,診断時までに,患者の60%において,広範な転移性疾患を引き起こしている。NSCLCの臨床的態度は,もっと様々で,組織型によって異なる(
肺の腫瘍: 肺癌の特徴表 2: )。
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表 2
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肺癌の特徴
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特徴
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小細胞癌
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非小細胞癌
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腺癌
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扁平上皮癌
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大細胞癌
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肺癌全体に対する%
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15%
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25–35%
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30–35%
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10–15%
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部位
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気道の粘膜下組織,肺門周囲の腫瘤
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末梢結節または腫瘤
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中枢部,気管支内
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末梢結節または腫瘤
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危険因子
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喫煙(100%)
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喫煙,職業性暴露(石綿,ラドン)
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治療
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エトポシドまたはイリノテカンもしくはトポテカンとカルボプラチンまたはシスプラチンの併用;限局期疾患における同時の放射線療法;手術は実施しない
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Ⅰ期およびⅡ期:手術(補助化学療法を伴うまたは伴わない)
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ⅢA期:手術(補助療法または同時の化学放射線療法を伴うまたは伴わない)
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ⅢB期:放射線療法(化学療法を伴うまたは伴わない)
Ⅳ期:化学療法(緩和的放射線療法を伴うまたは伴わない)
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合併症
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SVC症候群の一般的な原因,腫瘍随伴症候群
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喀血,気道閉塞,肺炎,痛みを伴う胸膜浸潤,胸水,SVC症候群,パンコースト腫瘍(肩または腕の痛み),嗄声(喉頭神経浸潤),脳転移による神経症状,骨転移による病的骨折,肝転移による黄疸
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治療を行った場合の5年生存率
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限局期:20%
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Ⅰ期:57–67%
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Ⅱ期:39–55%
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進展期:5%未満
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Ⅲ期:5–25%
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Ⅳ期:1%未満
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SVC =上大静脈。
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症状と徴候
肺癌の約25%は無症状で,胸部画像診断で偶然発見される。症状と徴候は,局所腫瘍,局所性浸潤,および転移によって生じる。腫瘍随伴症候群および全身症状は,あらゆる病期で生じる可能性がある。
局所腫瘍は咳および,あまり一般的ではないが,気道閉塞,閉塞後の無気肺,およびリンパ管浸潤による呼吸困難を引き起こす。閉塞後の肺炎に伴って,発熱が生じる場合もある。最大で患者の半数が,漠然とした胸痛または限局性の胸痛を訴える。喀血はあまり一般的ではなく,腫瘍が主要な動脈を侵食して,大出血とそれによる窒息死を起こすようなまれな症例を除けば,失血は最小限である。
局所性浸潤は,胸水による胸膜性胸痛または呼吸困難,腫瘍の反回神経への浸潤による嗄声,横隔膜神経への浸潤に起因する横隔膜麻痺による呼吸困難および低酸素症を引き起こす。
上大静脈の圧迫または浸潤は,頭痛または頭部圧迫感,顔または上肢の腫れ,仰臥位での息切れ,潮紅(多血症)を引き起こしうる(上大静脈症候群)。上大静脈症候群の徴候には,顔および上肢の浮腫,頸静脈および顔や体幹上部の皮下静脈の拡張,顔および体幹の多血などがある。上大静脈症候群は,SCLCの患者に生じることのほうが多い。
肺尖部の腫瘍は,通常NSCLCだが,腕神経叢,胸膜,または肋骨に浸潤することがあり,肩および上肢の疼痛および脱力または同側の手の萎縮症を引き起こす(パンコースト腫瘍)。脊柱傍交感神経鎖または頸部星状神経節が浸潤されると,ホルネル症候群(眼瞼下垂症,瞳孔縮小,眼球陥入,および無発汗症)が生じる。腫瘍の心膜への浸潤は,無症状のこともあるが,収縮性心膜炎または心タンポナーデ(心膜炎: 解剖および病態生理を参照 )を引き起こすこともある。まれに,食道圧迫が嚥下困難を引き起こす。
転移癌では,転移部位ごとに症状は異なるが,最終的に必ず症状が現れる。肝臓への転移は,胃腸症状および最終的には肝機能不全を引き起こす。脳への転移は,行動上の変化,錯乱,失語症,発作,不全麻痺または麻痺,悪心および嘔吐,最終的には昏睡および死を引き起こす。骨転移は激痛および病的骨折を引き起こす。肺癌は一般に副腎に転移するが,副腎機能不全に至ることはまれである。
腫瘍随伴症候群は,癌が直接引き起こすのではない(癌の概要: 腫瘍随伴症候群を参照 )。肺癌患者において一般的な腫瘍随伴症候群には,高カルシウム血症(腫瘍産生の副甲状腺ホルモン関連蛋白によって引き起こされる),抗利尿ホルモン分泌異常症候群(SIADH),肥大性骨関節症を伴うまたは伴わないばち状指,表在静脈の遊走性血栓性静脈炎を伴う凝固能亢進(トルソー症候群),重症筋無力症(イートン-ランバート症候群),および,神経障害,脳障害,脳炎,脊髄障害,小脳疾患を含む様々な神経学的症候群などがある。神経筋症候群の機序は,腫瘍による自己抗原の発現で自己抗体が産生されることに関係するが,大部分の他の症候群は原因が不明である。
全身症状は,最も一般的に体重減少および疲労などで,ときに,基礎疾患となる悪性腫瘍の初発症状である。
診断
胸部X線が初期検査である。それは明確に定義される異常を示すことがあり,例えば単一の腫瘤または多病巣性腫瘤もしくは孤立性肺内結節(肺の症状がある患者へのアプローチ: 孤立性肺内結節を参照 ),またはもっと微妙な変化,例えば肺門の拡大,縦隔拡大,気管気管支の狭窄,無気肺,治療抵抗性の実質性浸潤,空洞性病変,原因不明の胸膜肥厚または胸水を示すこともある。これらの所見は示唆的だが肺癌の診断を確定するものではなく,高解像度CT(HRCT)および細胞の病理診断による確認を用いたフォローアップを必要とする。
CTが示す多数の特徴的なパターンおよび画像は,診断を裏づける場合がある。接近可能な病変にCTガイド下の針生検も行え,病期分類にも役立つ。
診断確認のための細胞または組織採取に用いられる方法は,組織の接近しやすさ,および疑わしい病変の位置によって決まる。痰または胸水の細胞診断は,侵襲性が最も低い方法である。湿性咳を有する患者において,起床時に採取した喀痰検体は高濃度の悪性細胞を含む可能性があるが,この方法によって診断がもたらされるのは全体の約50%である。胸水はもう1つの利用しやすい細胞採取源だが,胸水は全肺癌の3分の1以下でしか生じない;にもかかわらず,悪性胸水の存在は,癌が少なくともⅢB期(
肺の腫瘍: 肺癌の国際病期分類システム表 3: を参照)であることを直ちに決定し,予後不良の徴候にもなる。一般的に,早い時間帯に痰または胸水を可能な限り多く採取し,その検体を病理検査室に直ちに送り,処理が遅れると細胞が衰えるので,処理の遅れを最小限にすることによって,偽陰性の細胞診断結果を最小限にできる。経皮的生検は次に侵襲性の低い方法である。この方法は,気胸の危険性が20〜25%あり,治療の必要性の認識を変えそうにない偽陰性の結果になる危険性があるため,肺病変よりも転移部位(鎖骨上またはその他の末梢リンパ節,胸膜,肝臓,および副腎)に対して有用である。
気管支鏡検査は,肺癌の診断に最もよく使用される方法である。理論的には,第1に選択される組織の採取法は,最も侵襲性が低い方法である。実際は,診断率がより高く,病期分類に重要だという理由で,気管支鏡検査がしばしば侵襲性のさらに低い方法に加え,または代わりに実施される。洗浄,擦過,および可視の気管支内病変や傍気管,気管分岐部,縦隔,肺門のリンパ節に対する細針吸引法を組み合わせることで,症例の90〜100%に組織診断で診断の確定が得られる。縦隔鏡検査はより危険性の高い手技で,通常,意義不明の縦隔リンパ節腫脹において,腫瘍の有無を調べるために手術前に実施される(肺の腫瘍: 病期分類を参照 )。
直視下肺生検は,開胸術を通して,またはビデオ補助(VATS―肺の診断と治療に関する手技: 胸腔鏡検査およびビデオ補助胸腔鏡手術を参照 )を用いて実施されるが,患者の臨床的特徴およびX線像の特徴が切除可能な腫瘍の存在を強く示唆するのに,より侵襲性の低い方法で診断が得られないときに適応される。
病期分類
SCLCは限局期疾患および進展期疾患に分類される。限局期疾患は片側胸郭(同側のリンパ節も含む)に限定される癌で,放射線療法で1つの照射野内に収まり,胸水や心嚢液の存在は除外する。進展期疾患は片側胸郭の範囲を超える癌で,悪性の胸水または心嚢液が存在する。SCLC患者の約3分の1は限局期疾患で,残りは進展期疾患で遠隔転移をしばしば有する。
NSCLCの病期分類は,腫瘍サイズ,腫瘍およびリンパ節転移の位置,および遠隔転移の有無を決定することを含む(肺の腫瘍: 肺癌の特徴表 2: および肺の腫瘍: 肺癌の国際病期分類システム表 3: を参照)。
頸部から上腹部までの薄切CT(頸部,鎖骨上,肝臓,および副腎の転移を検出するため)は,SCLCおよびNSCLCの病期分類で最初に行う検査である。しかしながら,CTではしばしば胸腔内リンパ節腫大が炎症後のものか悪性のものか鑑別できず,肝臓または副腎の病変で良性と悪性の鑑別ができない(病期を決定する鑑別)。したがって,CTの異常所見がこれらの領域に存在するとき,その他の検査が通常実施される。PETスキャンは正確で非侵襲的な検査で,縦隔リンパ節の悪性病変およびその他の遠隔転移を同定するために用いられる(代謝による病期分類)。PET-CT複合機は,単一のガントリ内でPETとCTの画像をスキャナによって1つの画像に融合させる装置で,NSCLCの病期分類に対して,CTまたはPET単独よりも,もしくはその2つの検査の視覚的相関よりも正確である。PETおよびPET-CTは検査費用が高いことや設置している施設が限られていることで,使用が制限される。PETが利用できない場合,気管支鏡検査および,あまり一般的ではないが縦隔鏡検査またはビデオ補助による胸腔鏡検査が,疑わしい縦隔リンパ節の組織採取に用いられる。PETスキャンを行わない場合,疑わしい肝臓または副腎の病変は,針生検によって評価しなければならない。
胸部MRIは,肺尖部の腫瘍および横隔膜近くの癌の病期分類には,高度な胸部HRCTよりも若干正確性が高い。
頭痛または神経学的異常を有する患者は,頭部CTまたはMRI,および上大静脈症候群の評価を受けるべきである。骨痛,または血清Caもしくはアルカリホスファターゼの上昇を有する患者は,放射性核種による骨スキャンを受けるべきである。これらの画像検査は,疑わしい症状,徴候,または臨床検査での異常所見がない場合は適応されない。その他の血液検査,例えばCBC,血清アルブミン,およびクレアチニンは,病期分類においては役に立たないが,患者の治療に堪える能力に関する重要な予後情報を提供する。
予後
予後は,最新の治療法を用いた場合でさえ,不良である。進行したNSCLCを有する患者の生存期間は,平均で,治療を受けていない患者が6カ月であるのに対し,治療を受けた患者は約9カ月である。進展期SCLCを有する患者は特に予後不良で,5年生存率が1%未満である。限局期SCLCの生存期間中央値は20カ月で,5年生存率は20%である。SCLCを有する患者の多くにおいて,化学療法は,実施するだけの価値があるほどに寿命を延長させ,生活の質を改善させる。NSCLCを有する患者の5年生存率は病期によって異なり,Ⅰ期の患者の60〜70%からⅣ期の患者の実質的な0%までの範囲に及ぶ;最近の研究結果は,プラチナ製剤をベースとする化学療法が早期の癌において生存率を上昇させることを示唆する。進行期の疾患では予後が不良なことから,死亡率を減らすための取り組みは早期発見と予防に対する積極的な介入にますます重点を置いている。
ハイリスク患者におけるスクリーニングのための胸部X線は,肺癌を初期段階で発見するが,死亡率は減少させない。スクリーニングのためのCTは腫瘍の発見に対して感度がより高いが,偽陽性の結果がその分多くなり,CT所見を確認するために必要な,不必要な侵襲的診断法の実施数を増加させる。そのような診断法は費用がかかり,合併症の危険もある。喫煙者を対象に年1回のCTスクリーニングと評価未確定の結節を評価するためのPETスキャンまたはHRCTによるフォローアップを行う戦略については,現在研究中である。これまでのところ,この戦略は死亡率の減少を示さず,ルーチンの検査としては推奨できない。スクリーニングの将来性は,遺伝子マーカー(例えば,K-ras,p53,EGFR)に対する分子解析,喀痰細胞診,および呼気における癌関連の揮発性有機化合物(例,アルカン,ベンゼン)の検出の併用に見いだされるかもしれない。
治療
治療は一般的に手術の適格性評価を含み,それに続いて,必要に応じて手術,化学療法,および/または放射線療法の選択がなされるが,腫瘍の種類および病期によって異なる。腫瘍に関連のない多くの要因が,適格性に影響を与える。心肺予備力の不足;栄養不良;虚弱または不十分な身体機能状態;併存症(血球減少症も含む);および精神疾患または認知障害は,全て,治療が技術的に可能な場合であっても,根治的よりも緩和的な治療の選択または全く治療しないという決定を導く可能性がある。
手術は,一葉または片肺を切除したのちに適切な肺予備能を有するであろう患者に対してのみ行う。術前の1秒間の努力肺活量(1秒量:FEV1)が2Lを超える患者は,一般的に肺全摘出術に耐える。FEV1が2L未満の患者は,その患者が切除によって失うであろう機能の割合を判定するために,定量的な放射性核種による血流スキャンを受けるべきである。術後のFEV1は,切除されない肺の血流の割合に術前のFEV1を乗じることによって予測できる。予測FEV1が800mLを超えるか,予測される正常FEV1の40%を超えることは,術後の適切な肺機能を示唆するが,COPD患者における肺容量減少術の研究は,FEV1が800mL未満の患者でも,もし癌が機能不良の嚢胞性(一般的に肺尖部の)肺病変内に位置するならば,切除に耐えられることを示唆する。肺切除の実施回数の多い病院で切除術を受ける患者は,実施回数の少ない病院で手術を受ける患者に比べて,合併症が少なく,生存の可能性が高い。
肺癌の治療に対する化学療法のレジメンは多数存在する;しかし,特に優れていると証明されているレジメンはない。したがって,レジメンの選択は,しばしばその病院のやり方,禁忌,および毒性に基づく。治療後の再発癌に対する治療の選択肢は部位によって異なり,局所再発に対する反復の化学療法,転移癌に対する放射線療法,および気管支内病変に対して追加の体外照射療法が許容されない場合の近接照射療法などがある。
放射線療法は,肺の広範囲が高線量の放射線に長期間暴露するとき,放射線肺臓炎の危険を伴う。放射線肺臓炎は治療終了から3カ月後まで生じることがある。咳,呼吸困難,微熱,または胸膜性胸痛は,放射線肺臓炎の徴候の可能性があり,同様に,ラ音または胸膜摩擦音が徴候となることもある。胸部X線画像は非特異的な可能性がある;CT画像は個別の腫瘤を伴わない非特異的な浸潤を示す可能性がある。診断はしばしば除外診断である。放射線肺臓炎の治療ではプレドニゾン60mgを2〜4週間投与し,その後漸減する。
肺癌患者の多くは死亡するため,終末期ケアの必要性を予測すべきである。息切れ,痛み,不安,悪心,および食欲不振が症状として特に一般的で,非経口のモルヒネ;経口,経皮,または非経口のオピオイド;および制吐薬によって治療されうる(臨死患者: 臨死における症状管理を参照 )。
SCLC:
SCLCはいずれの病期でも典型的に最初は治療に反応するが,通常,すぐに反応しなくなる。手術は一般的にSCLCの治療には役に立たないが,浸潤を伴わない局所性の小さな腫瘍(例えば,孤立性肺内結節)を有するまれな患者では手術で治癒できる場合もある。
限局期疾患において,エトポシドとプラチナ化合物(シスプラチンまたはカルボプラチンのいずれか)を併用で4〜6サイクル投与することは,最も効果的だと考えられているが,他の薬―例えばビンカアルカロイド系薬物(ビンブラスチン,ビンクリスチン,ビノレルビン),アルキル化薬(シクロホスファミド,イホスファミド),ドキソルビシン,タキサン系薬物(ドセタキセル,パクリタキセル),およびゲムシタビン―との様々な組み合わせの投与も一般的に使用される。放射線療法は治療効果をさらに高める;限局期疾患の定義が半胸郭に限局する癌というのは,放射線療法の実施により生存率の有意な改善がみられることに基づく。脳転移を予防するために頭部放射線療法を実施することが一部の専門家から奨励されているのは,SCLCにおいて微小転移は一般的だが,化学療法の薬物は血液脳関門を通過しないからである。
進展期疾患の治療は,限局期疾患と同様だが,同時の放射線療法は行わない。エトポシドの代わりにトポイソメラーゼ阻害薬(イリノテカンまたはトポテカン)を用いることで,生存期間が延長される可能性がある。これらの薬物の単独投与または他の薬物との併用投与は,難治性癌およびいずれの病期の再発癌でも一般的に使用される。放射線療法は,しばしば緩和的療法として骨転移または脳転移に対して用いられる。
一般的に,再発SCLCは予後不良であるが,全身状態が良好に保たれている患者は臨床試験を勧められるべきである。
NSCLC:
NSCLCの治療は病期によって異なる。Ⅰ期およびⅡ期の癌では,肺葉切除術または肺全摘出術のいずれかの外科的切除術と同時に,縦隔リンパ節の検体採取または完全な郭清を行うのが標準的である。肺区域切除および楔状切除などの小範囲の切除は,肺予備能が乏しい患者に対して考慮される。手術で治癒が可能なのは,Ⅰ期の患者の約55〜75%およびⅡ期の患者の約35〜55%である。補助化学療法は早期の疾患(ⅠB期およびⅡ期)においておそらく有用である。5年生存率の上昇(54%が69%へ)および無病生存率の上昇(49%が61%へ)は,シスプラチンとビノレルビンの併用投与に伴って起こる。改善の効果が少ないので,補助化学療法の実施は患者ごとに決定されるべきである。早期のNSCLCの術前補助化学療法の効果は,現在研究中である。
Ⅲ期は,1つまたは複数の局所進行腫瘍が,所属リンパ節転移を伴うが,遠隔転移は伴わないものである。ⅢA期の腫瘍が,不顕性で手術時に発見される縦隔リンパ節転移を伴う場合,切除術での5年生存率は20〜25%である。放射線療法(同時に化学療法を行うまたは行わない)は,臨床上ⅢA期と決定される切除不能の癌に対する標準と考えられているが,生存は不良である(生存期間中央値が10〜14カ月)。最近の臨床試験は,術前化学療法と放射線療法の併用,手術,術後化学療法の順で治療を行うと予後がわずかに改善することを示唆する。この治療計画はまだ研究段階である。
ⅢB期で対側縦隔リンパ節転移,鎖骨上リンパ節転移,または悪性胸水を伴う患者は,放射線療法または化学療法もしくはその併用を勧められる。放射線増感の化学療法薬,例えばシスプラチン,パクリタキセル,ビンクリスチン,およびシクロホスファミドを治療に加えると,生存率はわずかに改善する。局所進行腫瘍が心臓,大血管,縦隔,または脊椎に浸潤している患者は,通常,放射線療法を受ける。選択された症例(T4N0M0の腫瘍)であれば,術前補助化学療法または補助化学療法のいずれかを伴う外科的切除が実施できることもある。ⅢB期の患者が治療を受けた場合の5年生存率は5%である。
Ⅳ期においては,症状の緩和が治療の目的となる。化学療法および放射線療法が,腫瘍組織量を減らし,症状を治して,生活の質を改善するために用いられることもある。しかしながら,生存期間中央値はわずか9カ月で,1年間生存する患者は25%未満である。緩和的外科手技が必要になる可能性があり,そうした手技には反復性の胸水に対する胸腔穿刺および胸膜癒着術,胸腔ドレナージのカテーテル留置,気管および主気管支に及んでいる腫瘍に対する気管支鏡下の高周波療法,気道閉塞を防ぐためのステント留置,および,一部の症例では,切迫している脊髄圧迫に対する脊髄の安定化などがある。
新しい生物学的薬物には,特異的に肺腫瘍を標的とするものがいくつかある。上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬の一種であるゲフィチニブは,プラチナおよびドセタキセルによる治療に反応しない患者に対して使用されうる。現在研究中の他の生物学的製剤には,他のEGFR阻害薬,EGFRのmRNA(メッセンジャーRNA)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド,およびファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬などがある。
再発NSCLC,独立した2つ目の原発腫瘍,局所再発NSCLC,および遠隔転移NSCLCを鑑別することが重要である。独立した2つ目の原発腫瘍および局所再発NSCLCの治療は,原発腫瘍Ⅰ期からⅢ期と同様のガイドラインに従う。最初に手術が行われた場合,放射線療法が主な治療法となる。再発が遠隔転移として現れるならば,Ⅳ期とみなされ,患者は緩和に重点を置いて治療される。
合併症:
悪性胸水は最初に胸腔穿刺を用いて治療する。無症候性の胸水は治療を必要としないが,複数回の胸腔穿刺にもかかわらず再発する症候性の胸水は,胸腔チューブによって排出する。タルク(または,ときにテトラサイクリンもしくはブレオマイシン)の胸腔膜への注入(胸膜癒着術と呼ばれる手技)は,胸膜に瘢痕を生じさせ,胸膜腔をなくし,症例の90%以上において効果を示す(縦隔および胸膜の疾患: 悪性胸水を参照 )。
上大静脈症候群は肺癌の治療と同じ方法で治療する:化学療法(SCLC)または放射線療法(NSCLC)もしくはそれらの併用(NSCLC)。コルチコステロイドは広く使用されているが,効果は証明されていない。肺尖部の腫瘍の治療には,手術(術前の放射線療法を伴うまたは伴わない),または放射線療法(補助化学療法を伴うまたは伴わない)を用いる。腫瘍随伴症候群の治療は,症候群の種類によって異なる(癌の概要: 腫瘍随伴症候群を参照 )。
予防
積極的介入には,禁煙に対するものを除いて,効果があると証明されているものはない。個人の住宅において高いラドン濃度を改善することは,既知の発癌性放射線を取り除くが,肺癌発生率を減少させるとは証明されていない。レチノイドおよびβ-カロチンが豊富な果物および野菜の食事摂取量を増やすことは,肺癌発生率を減少させないようである。
ビタミン補給は喫煙者において,効果が未確認(ビタミンE)か,有害(β-カロチン)である。NSAIDおよびビタミンE補給が元喫煙者を肺癌から保護することを示唆する予備的証拠については,今後確認しなければならない。細胞シグナリングおよび細胞周期経路ならびに腫瘍関連抗原を標的とする新しい分子療法は,現在研究中である。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
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