メルクマニュアル18版 日本語版
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患者のモニタリングと検査

モニタリングの一部は器具を用いず(すなわち,直接観察および身体診察による),患者の病状に応じて間欠的に行われる。このモニタリングには,通常,バイタルサイン(体温,血圧,脈拍,呼吸数)の測定,水分の総摂取量と総排泄量の定量などがあり,しばしば毎日の体重測定も含まれる。血圧は自動血圧計により記録されうる。こうした機器の多くにはパルスオキシメトリー用の経皮的センサーも組み込まれており,血圧とともにモニターされる。

他のモニタリングは継続的かつ連続的に行われ,特別な訓練と経験が必要となる複雑な機器によって提供される。そうした機器のほとんどは,生理学的パラメータの測定値が設定値を超えると警報を発する。全てのICUは,警報の確認の際には,プロトコルに厳密に従うべきである。

血液検査

頻回の採血は静脈を損傷し,痛みを生じさせ,貧血を引き起こしうるが,問題の早期検出に役立てるため,ICU患者は通常,ルーチンの血液検査を毎日受ける。通常,患者は毎日電解質と全血球計算(CBC)をセットで検査する必要がある。不整脈の患者ではMg,リン酸,Ca濃度も検査すべきである。中心静脈栄養(TPN)の患者は,週に1度,肝酵素および凝固系の検査を必要とする。その他の検査は必要に応じて行う(例,発熱に対する血液培養,出血エピソード後のCBC)。

ベッドサイドまたは患者のいる場所(特にICU,救急室,手術室)において,小型で高度に自動化された装置を用い,特定の血液検査を行うポイント・オブ・ケア・テストというものが使われている。通常実施可能な検査は,血液生化学,血糖値,動脈血ガス(ABG),CBC,心疾患マーカー,凝固能検査などである。その多くは,2分未満で0.5mL未満の血液で実施される。

心電図モニタリング

重症患者のほとんどは,心臓の活動を3誘導法によりモニタリングされており,通常,信号は患者が装着する小型無線送信機から集中監視装置に送られる。自動装置は異常な心拍数および調律に対して警報を発し,のちの調査のために異常波形を記憶する。

その臨床的有用性は不明であるが,特殊な心電図モニターには,冠虚血に関連するパラメータを探知するものもある。これらのパラメータには連続的なST部分のモニタリングおよび心拍数の変動などがある。拍動間隔の正常な変動が失われることは,心臓の自発活動の低下,冠虚血の可能性,死亡リスクの増大を示す。

肺動脈カテーテルモニタリング

肺動脈カテーテル(PAC)の使用は,ICU患者では一般的である。このデバイスは,中心静脈を経由して右心を通過し,肺動脈に挿入される先端バルーン付き血流指向性カテーテルである。このカテーテルは通常,圧モニタリングまたは輸液の注入が可能なポートをいくつか有する。PACの中には,中心静脈血O2飽和度を測定するセンサーを備えているものもある。PACからのデータは,主に心拍出量および前負荷の決定に用いられる。前負荷は肺動脈楔入圧(PAOP―重症患者へのアプローチ: 肺動脈楔入圧(PAOP)を参照 )によって推定されることが最も多い。しかしながら,前負荷は心拍数に応じて制御される高速反応サーミスタを使用して測定される右室拡張末期容量によってより正確に決定されうる。

PACは広く用いられているにもかかわらず,罹病率や死亡率を減少させるとは証明されていない。実際,PACの使用は死亡率の増加と関連する。この知見は,PAC使用の合併症と得られたデータの解釈のあやまりによって説明されうる。にもかかわらず,ほとんどの医師は,他の客観的臨床データと併用すればPACが特定の危篤状態の患者の管理に役立つと考えている。多くの生理学的測定と同様に,1つの異常値よりも変化傾向の方が一般的にはより意味がある。PACの適応と考えられる対象を重症患者へのアプローチ: 肺動脈カテーテルの適応と考えられる対象表 1: 表に示す。

表 1

肺動脈カテーテルの適応と考えられる対象

心疾患

急性弁逆流

心タンポナーデ

合併症を伴う心不全

合併症を伴う心筋梗塞

心室中隔破裂

血行動態の不安定*

血液量の評価

ショック

血行動態のモニタリング

心臓手術

危篤患者の術後管理

かなりの心疾患を有する患者の術中および術後管理

肺疾患

合併症を伴う肺塞栓症

肺高血圧症

*特に変力薬が必要な場合。

手技: PACはバルーンを収縮させた状態で,鎖骨下静脈または内頸静脈から挿入する。一旦カテーテル先端が上大静脈に到達すると,バルーンの部分的拡張により,カテーテルは血流に乗って進む。カテーテル先端の位置は通常,圧モニタリング(心内圧および大血管圧については重症患者へのアプローチ: 心臓および大血管の正常圧表 2: 表参照)または,ときにX線透視により特定される。カテーテルが右室に入ったことは,収縮期圧が約30mmHgまで突然に上昇することで示されるが,拡張期圧は右房圧および大静脈圧から変化しないままである。カテーテルが肺動脈に入ると,収縮期圧は上昇したままで,拡張期圧は右室拡張終期圧または中心静脈圧(CVP)以上に上昇し,言い換えれば脈圧の差が縮まる。カテーテルがさらに進むとバルーンは遠位肺動脈に楔入する。胸部X線で適切な留置位置であることを確認する。

表 2

心臓および大血管の正常圧

圧の種類

平均(mm Hg)

範囲(mm Hg)

右心房

3

0–8

右心室

   

最大収縮期

25

15–30

拡張終期

4

0–8

肺動脈

   

平均

15

9–16

最大収縮期

25

15–30

拡張終期

9

4–14

肺動脈閉塞圧

   

平均

9

2–12

左心房

   

平均

8

2–12

A波

10

4–16

V波

13

6–12

左心室

   

最大収縮期

130

90–140

拡張終期

9

5–12

上腕動脈

   

平均

85

70–150

最大収縮期

130

90–140

拡張終期

70

60–90

Adapted from Fowler NO: Cardiac Diagnosis and Treatment, ed 3. Philadelphia, JB Lippincott, 1980, p. 11.

バルーンを収縮させた状態で,収縮期圧(正常,15〜30mmHg)と拡張期圧(正常,5〜13mmHg)が記録される。拡張期圧は,閉塞圧とよく一致するが,原発性肺疾患(例,肺線維症,肺高血圧症)に続発して肺血管抵抗が上昇しているときには,楔入圧を超える可能性がある。

肺動脈楔入圧(PAOP): バルーンを拡張した状態では,カテーテルの先端の圧は肺静脈の圧を反映する。肺梗塞防止のため,バルーンを30秒以上拡張したままにしてはならない。正常では,PAOPは左房圧に近似し,左房圧は左室拡張終期圧(LVEDP)に近似して,LVEDPは左室拡張終期容量(LVEDV)を反映する。LVEDVは前負荷に相当し,この前負荷が実際の目的のパラメータである。以下のような要因がからむ場合はPAOPはLVEDVを正確に反映しない。これらの要因には,僧帽弁狭窄,高レベルの呼気終末陽圧(10cmH2O以上)および左室コンプライアンスの変化(例,心筋梗塞,心嚢液貯留,または後負荷増大による)などがある。技術的な困難は,バルーンの過剰拡張,不適切なカテーテル位置,肺静脈圧を超える肺胞圧,または重度の肺高血圧(バルーンの楔入を困難にしうる)に起因する。

PAOPの上昇は左心不全の際に起こる。PAOPの低下は循環血液量または前負荷減少の際に起こる。

混合静脈血の酸素化: 混合静脈血は,上下大静脈から右心を通り抜け肺動脈に入った血液からなる。その血液をPACの遠位ポートから採取する場合がある。カテーテルの中には,O2飽和度を直接測定する光ファイバーセンサーを備えたものもある。混合静脈血O2飽和度(SmvO2)が低い原因には,貧血,肺疾患,一酸化炭素ヘモグロビン,心拍出量の減少,および組織代謝での必要量の増加などがある。SaO2と,SaO2からSmvO2を減じた値の比によって,O2運搬の適正度が把握される。理想比率が4:1であり,好気的代謝の必要量を維持するために容認できる最小比率は2:1である。

心拍出量: 心拍出量(CO)は,間欠的な冷水のボーラス注入によって,または,新しいタイプのカテーテルでは連続サーモダイリューションによって測定される。この心係数は,患者の体格に対する補正のため,COを体表面積で除する(重症患者へのアプローチ: 心係数および関連測定値の正常値表 3: 表参照)。

表 3

心係数および関連測定値の正常値

測定項目

単位± SD

O2 摂取率

143 ± 14.3 mL/分/m2

動静脈の O2 較差

4.1 ± 0.6 dL

心係数

3.5 ± 0.7 L/分/m2

1回拍出係数

46 ± 8.1 mL/拍/m2

全身血管抵抗

1130 ± 178 dynes-sec-cm−5

全肺抵抗

205 ± 51 dynes-sec-cm−5

肺細動脈抵抗

67 ± 23 dynes-sec-cm−5

SD = 標準偏差

Adapted from Barratt-Boyes BG, Wood EH: Cardiac output and related measurements and pressure values in the right heart and associated vessels, together with an analysis of the hemodynamic response to the inhalation of high oxygen mixtures in healthy subjects. Journal of Laboratory and Clinical Medicine 51:72–90, 1958.

その他の変数はCOから計算できる。そうした変数には,全身および肺の血管抵抗と右室および左室の1回仕事量(RVSW,LVSW)などがある。

合併症と予防措置: PACは挿入が難しい。合併症としては不整脈が最もよく起こる。バルーンの過剰拡張または長時間楔入に続発する肺梗塞,肺動脈穿孔,心穿孔,弁損傷,および心内膜炎なども起こりうる。まれに,(特に心不全,心筋症,または肺動脈圧の上昇した患者において)カテーテルが右心室内でとぐろをまいて結び目を作ってしまうことがある。

肺動脈破裂は,PAC挿入の0.1%未満において起こる。この壊滅的な合併症はしばしば致死的で,カテーテル楔入の後(最初の段階またはその後の閉塞圧測定の際のいずれかに),直ちに起こる。このため,多くの医師は,肺動脈の閉塞圧よりも拡張期圧をモニタリングすることを好む。

非侵襲的な心拍出量検査

PACの合併症を回避するため,CO測定の他の方法が開発されている。

胸郭の生体インピーダンス法では,前胸部と頸部に貼り付けた電極を用いて,胸郭の電気抵抗を測定する。測定値は,拍動毎に起こる胸郭の血液量の変化に伴って変動するため,COを推定できる。この方法は無害で,測定値がすぐに(2〜5分以内)出る;しかしながら患者と電極の接触の状態に非常に影響を受けやすい。胸郭の生体インピーダンス法は,COを正確に測定することよりも,特定の患者の変化を認識するのに役立つ。

食道ドプラモニター(EDM)は,上咽頭経由で食道に挿入し,心臓の背後から測定する直径6mmの軟性カテーテルである。先端に付いたドプラ血流検出器が,COおよび1回拍出量の持続的なモニタリングを可能にする。侵襲的なPACとは異なり,EDMは気胸,不整脈,感染を引き起こさない。EDMによる測定は実際,心臓弁病変,中隔欠損,不整脈,または肺高血圧の患者においては,PACよりも正確な場合がある。しかしながら,EDMは体を少し動かしただけで波形を損い,測定値の精度が落ちる。

したがって,胸郭の生体インピーダンス法とEDMは役立つ可能性がある一方で,どちらもまだPACと同等の信頼性はない。

頭蓋内圧モニタリング

頭蓋内圧(ICP)モニタリングは,重度の非開放性頭部外傷患者には標準的に使われる。これは,脳灌流圧(平均動脈圧から頭蓋内圧を減じたもの)を最適にするために用いられる。通常,脳灌流圧は70mmHgを上回るよう維持しなければならない。

いくつかのICPモニタリング法が利用可能である。最も有用な方法では,カテーテルを頭蓋骨に作成したホールから頭蓋内に入れ脳室に入れる(脳室ドレナージ術)。カテーテルで脳脊髄液の排出もでき,それによりICPを下げることが可能であるため,このデバイスが選択される。しかしながら,脳室ドレナージ術は最も侵襲的な方法でもあり,感染率が最も高く,挿入の手技が最も難しい。ときとして,重度の脳浮腫が原因でカテーテルが閉塞する。

他の頭蓋内モニタリング法には,実質内モニターおよびepidural boltなどがある。このうち,実質内モニターはより広く使用されている。全てのICPデバイスは,感染の危険があるため,一般的に5〜7日後には交換または抜去すべきである。

その他の種類のモニタリング

胃内圧測定法では,先端に液体または気体充填式の半透膜性のバルーンがついている特殊な経鼻胃管を用いて,胃粘膜内pH(pHi)および組織CO2を測定する。pHiの低下も組織CO2の動脈CO2に対する比率の上昇も,臓器灌流の低下とともに起こるため,それらは全身性低灌流の指標となる。液体充填式バルーンは間欠的な標本採取しか行えない。気体充填式バルーンは,赤外線センサーを先端に有しており,持続的にモニタリングができる。ただし,このモデルは信頼性が高いとは証明されていない。低灌流の診断は可能だが,測定結果は,蘇生が成功したのちも正常値に戻るのが遅い。

舌下炭酸ガス測定では,舌下pCO2の上昇と全身性低灌流の関連を利用し,舌下に置いた非侵襲的なセンサーを用いてショック状態をモニタリングする。これは胃内圧測定法よりも容易で,蘇生に伴う灌流の変化にすぐに反応する。

組織分光法は,一般的に標的組織の上の皮膚につけた非侵襲的な近赤外線(NIR)センサーを用いて,ミトコンドリアのチトクロムaの酸化還元状態(組織灌流を反映)をモニタリングする。NIRは急性コンパートメント症候群(例,外傷における)または遊離組織移植後の虚血の診断に役立ち,下肢血管バイパスグラフトの術後モニタリングに有益である。小腸pHのNIRモニタリングは,蘇生の適切さを評価するために用いられる場合がある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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