メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

激越,錯乱,および神経筋接合部遮断

ICU患者はしばしば激越し,混乱して,落ち着かない。ICU患者は明らかに精神的に異常な状態(ICU症候群)になりうる。これらの症状は患者本人にとって不快で,しばしば,ケアおよび安全性の妨げとなる。最悪の場合,命にかかわる(例,患者は自分の気管チューブまたは静脈ラインを抜去する)。

病因

重症患者において,本来の病状(例,頭部外傷,毒物の摂取,低酸素血症,ショック)がしばしば激越および錯乱を引き起こす。外傷,外科的処置による痛み,および静脈穿刺や経鼻胃管挿入などの“ルーチン”の処置による痛みでさえも一因となる。肺塞栓,敗血症,および臓器不全など続発する合併症が,激越を引き起こすか悪化させる場合がある。基礎疾患がなんらかの役割を果たす;薬物またはアルコール依存の患者は禁断症状を起こす場合があり,肝疾患の患者は肝性脳症を発症することがある。気管チューブを挿入された患者は,特に激越を起こす危険が高く,最も困難な事態を招く。一般的に使用されるある種の薬物(例,H2ブロッカー,抗ヒスタミン薬,オピオイド,ベンゾジアゼピン系薬剤)はせん妄を引き起こしうる。

ICUの環境そのものが問題を悪化させる。高い騒音レベル,ライトにより常時明るい,24時間体制の医療介入は,通常,総睡眠時間および1回の睡眠の長さという両方の点から,睡眠障害を引き起こす。高齢者は特にこの傾向がある。さらに,比較的正常な精神状態の患者は,一般的に,死に対する不安および不快な医療処置に対する不安の両方を経験する。

評価

“激越”に対して鎮静薬を指示する前に,カルテを見直し,患者を診察すべきである。

病歴: 存在する外傷または病気は,原因としてまず疑われる。看護メモおよびスタッフとの話し合いで,睡眠パターンの異常または不適切な鎮痛が明らかになる場合がある。基礎疾患としての肝疾患は,肝性脳症の可能性を示唆する。既知の薬物依存または乱用は離脱症候群を示唆する。覚醒し,論理的に話せる患者には,何に悩まされているのかを質問する。

身体診察: 90%未満のO2飽和度は,低酸素に伴う病因を示唆する。血圧が低く尿量が少ない場合,中枢神経系の低灌流が示唆される。発熱および頻脈は,敗血症または振戦せん妄を示唆する。頸部強直は髄膜炎を示唆するが,この所見は,激越の患者では証明するのが難しい。神経学的診察での局所所見は,脳卒中,出血,または頭蓋内圧(ICP)の上昇を示唆する。

激越の程度はリッカー鎮静-興奮スケール(重症患者へのアプローチ: リッカー鎮静-興奮スケール(SAS)表 6: 表参照)またはRamsay鎮静スケールなどのスケールを用いて定量化できる。そのようなスケールの使用は,観察者間の一貫性を高め,変化傾向の同定を可能にする。神経筋接合部遮断薬の投与を受けている患者は,外見上動かないにもかかわらず,ひどく激越し,落ち着きがない可能性があるため,評価が難しい。そうした患者を評価するために,定期的(例,1日1回)に筋弛緩薬の効果を消すことが通常必要となる。

表 6

リッカー鎮静-興奮スケール(SAS)

スコア

説明

7 危険な興奮

モニタリング装置およびデバイスを取り外そうとしたり,ベッドから降りようとする;物を投げたり,ひっくり返す;スタッフに攻撃する

6 非常に興奮している

頻繁な声かけにもかかわらず落ち着きがないままである;気管チューブを噛む;拘束が必要である

5 興奮している

不安な様子または落ち着きがない;動こうとする;声をかけると落ち着く

4 平静で協力的

落ち着いている;容易に覚醒する;指示に従うことができる

3 鎮静している

覚醒が難しい;声をかけるか,軽く揺さぶると反応するが,再び眠る

2 非常に鎮静している

意思の疎通ができない;身体的な刺激に反応するが,声による指示には反応しない;自発的に動くことがある

1 覚醒不能

意思の疎通ができない;痛覚刺激にわずかに反応するか全く反応しない

検査: 異常(例,低酸素症)が同定された場合,適切な検査でさらに明確にすべきである。頭部CTは,神経学的局所所見がある場合,または他の病因が発見されない場合でなければ,日常的に行う必要はない。バイスペクトラルインデックスは,神経筋接合部遮断状態にある患者の鎮静/激越レベルの判断に役に立つといえる。

治療

基礎的原因(例,低酸素症,ショック,薬物)に対しては対応すべきである。環境は治療と両立できる程度に最適化すべきである(例,夜間の暗さ,静けさ,最小限の睡眠中断)。時計,カレンダー,窓の外の景色,およびテレビやラジオの番組は,患者と社会を結ぶ手助けをし,錯乱を軽減させる。家族がいることおよび同じ看護師が世話をすることで,落ち着く場合がある。

薬物療法は,最も苦しんでいる症状をもとに決定する。痛みには鎮痛薬,不安および不眠には鎮静薬,精神病およびせん妄には少量の抗精神病薬を用いる。気道または換気する力を危険にさらすに十分な高用量の鎮静薬および鎮痛薬が投与される場合,挿管が必要となりうる。多くの薬が利用できるが,頻繁な神経学的評価が必要な患者または抜管に向け離脱中の患者に対しては,一般的に短作用性の薬が好まれる。

鎮痛: 痛みは適切な用量の静注オピオイドで治療されるべきであり,痛みの症状(例,骨折,外科的切開)を有し,意識はあるが意思の疎通ができない患者は痛みがあるとみなすべきで,適宜鎮痛薬を投与すべきである。機械的人工換気はそれ自体が不快なので,患者は通常,オピオイドと鎮静薬の併用投与を受けるべきである。フェンタニルは,効力,短作用性および心血管系への影響が最小限であるという理由で,選択すべきオピオイドである。一般的な投与計画はフェンタニル30〜100mg/時となるが,個人の必要量の差が激しい。

鎮静: 鎮痛にもかかわらず,多くの患者は鎮静薬が必要なほど激越した状態にある。鎮静薬もまた,患者を楽にできる。ベンゾジアゼピン(例,ロラゼパム,ミダゾラム)が最も一般的だが,プロポフォールという鎮静-催眠薬も用いられる。鎮静薬の一般的な投薬計画はロラゼパム1〜2mg,静注で1〜2時間毎,または1〜2mg/時の継続的な注入である。これらの薬は患者によっては呼吸抑制,低血圧,せん妄,および,持続的な生理学的異常を引き起こすリスクがある。ジアゼパム,フルラゼパム,およびクロルジアゼポキシドなどの長期作用ベンゾジアゼピンは高齢者には避けるべきである。抗コリン性作用の少ない抗精神病薬,例えばハロペリドール1〜3mg静注はベンゾジアゼピンと併用した場合に最も効果的である。

神経筋遮断: 挿管された患者に対しては,神経筋遮断薬は鎮静薬の代用にはならない;神経筋遮断薬は問題の明らかな症状(激越)を取り除くだけで問題を改善しない。しかしながら,神経筋遮断薬は,患者の静止が必要となる検査(例,CT,MRI)または手技(例,中心静脈ライン挿入)の間,または適切な鎮痛および鎮静にもかかわらず患者が換気できない場合に,必要となりうる。患者が重度の肺損傷を有し,いかなる呼吸仕事量も安全に成し遂げられない場合を除いて,持続的な神経筋遮断は避けるべきである。1〜2日を超える使用は,特にコルチコステロイドが同時に投与されている場合,長期的な衰弱を引き起こすかもしれない。ベクロニウムの持続投与も一般には含まれる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ

前へ: 乏尿

イラスト
個人情報の取扱いご利用条件