メルクマニュアル18版 日本語版
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気道確保と管理

気道管理は,上気道から異物を取り除くこと,機械を用いて気道の開通性を維持すること,および/または呼吸を補助することから構成される。気道管理には多くの対象がある(呼吸停止と心停止: 気道管理が必要となる状況表 1: 表参照)。ほとんどの状況で,手動式蘇生バッグおよびマスクは適切で一時的な換気を提供し,最終的な気道管理を体系的に達成するための時間的な余裕を生む。道具がない場合は,口対口人工呼吸式(または,乳児では口対口鼻人工呼吸式)換気は適切に行われれば効果的である。

表 1

気道管理が必要となる状況

緊急事態

切迫した事態

心停止

呼吸不全

呼吸停止または無呼吸(例,中枢神経疾患,薬物,低酸素症による)

深昏睡,舌が弛緩して声門を塞ぐ場合

急性喉頭水腫

喉頭痙攣

喉頭内の異物(例,“コーヒー冠動脈”)

換気補助が必要な場合(例,急性呼吸促迫症候群,COPDまたは喘息の増悪,びまん性感染性または他の実質性肺障害,神経筋疾患,呼吸中枢の抑制,極度の呼吸筋疲労の状態において)

ショック状態,心拍出量減少,または軽減させなければならない心筋負荷を有する患者において呼吸仕事量の減少が必要な場合

経口薬の過剰摂取で意識変容の患者において胃洗浄の前に

O2消費量が非常に多い場合(例,腹膜炎の場合,呼吸予備力の制限を有する場合)

限界の呼吸状態の患者において気管支鏡検査の前に

意識変容の患者で,特にもし鎮静が必要ならば,X線撮影前に

溺水

煙または有毒ガスの吸入

呼吸器系の熱傷(熱または化学薬品による)

胃内容物の誤嚥

上気道の外傷

頭部または高位脊髄損傷

異物の除去および上気道の確保

中咽頭部の軟部組織の弛緩で引き起こされる閉塞は,頸部伸展(頭部後屈),顎先挙上,そして下顎を前方に突き出すこと(呼吸停止と心停止: 呼気の通気―成人。図 1: イラスト参照)により一時的に軽減することがある;つまり,これらの操作によって前頸部構造が伸展し,舌が引っ張り上げられて咽頭後壁から離れる。義歯および中咽頭内の異物(例,血液,分泌物)による閉塞は,異物をさらに奥に入れないように注意しながら(乳児および幼児では奥に入りやすいので,視覚的補助のない指拭法は禁忌である),中咽頭部の指拭および吸引を行うことで取り除ける場合がある。さらに奥にある異物は,喉頭鏡検査のあいだにマギル鉗子で取り除くことができる。

図 1

呼気の通気―成人。

呼気の通気―成人。

気道を開通させるだけの姿勢。 (Adapted from “Standards and Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation [CPR] and Emergency Cardiac Care [ECC],” in Journal of the American Medical Association 25:2956 and 2959, June 6, 1986. Copyright 1986, American Medical Association.)

ハイムリッヒ操作: ハイムリッヒ操作(手で上腹部を押すこと,または,妊婦もしくは極度に肥満の患者においては胸部を押すこと)は,意識のある窒息患者において,および意識のない患者において前述の方法が成功しないならば,最初に行うべき望ましい処置である。

意識のない成人は仰臥位にする。救助者は患者の膝の上に跨って座り,片方の手のつけ根を上腹部の剣状突起よりも下に置く。胸部構造および肝臓の損傷を防ぐため,手は剣状突起または胸郭下部の上には絶対に置いてはならない。その手の上にもう一方の手を載せ,しっかりと上方に向かって押す(呼吸停止と心停止: 仰臥位にした患者での腹部圧迫(意識のある場合も,ない場合も)。図 2: イラスト参照)。胸部圧迫では,手は胸骨の上の心マッサージで用いる場所と同様の場所に置く。腹部圧迫も胸部圧迫も,異物を除去するには6〜10回の素早く力強い圧迫が必要となりうる。

図 2

仰臥位にした患者での腹部圧迫(意識のある場合も,ない場合も)。

仰臥位にした患者での腹部圧迫(意識のある場合も,ない場合も)。

意識のある成人では,救助者は患者の背後に立って腕を患者の胴体の中央に回す。片手は拳を握り,臍と剣状突起の中間に置く。その拳をもう一方の手で握り,両腕を引くことでしっかりした内側上方向きの圧迫が加えられる(呼吸停止と心停止: 立位または座位の患者での腹部圧迫(意識がある場合)。図 3: イラスト参照)。

図 3

立位または座位の患者での腹部圧迫(意識がある場合)。

立位または座位の患者での腹部圧迫(意識がある場合)。

児童では,ハイムリッヒ操作が行われる場合がある。しかしながら,20kg未満の小児(通常,5歳未満)には,非常に控えめに圧力を加えるべきで,救助者は小児に跨らずに足元にひざまずくべきである。

1歳未満の乳児にはハイムリッヒ操作を行うべきではなく,頭を下にして腹臥位で抱え,片手の指で頭を支えながら,背中を5回叩く(呼吸停止と心停止: 呼気の通気―乳児。図 4: イラスト参照)。その後,乳児の頭を下にして背中を救助者の大腿部にのせた姿勢(仰臥位)で5回の胸部圧迫を行う。この背部叩打と胸部圧迫の一連の処置を,気道から異物が除去されるまで繰り返す。

図 4

呼気の通気―乳児。

呼気の通気―乳児。

頭部下方位:異物を気管気管支から移動させる。 (Adapted from “Standards and Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation [CPR] and Emergency Cardiac Care [ECC],” in Journal of the American Medical Association 25:2956 and 2959, June 6, 1986. Copyright 1986, American Medical Association.)

気道および人工呼吸用具

気道確保後も自発呼吸がなく,人工呼吸用具がない場合は,人工呼吸(口対口人工呼吸式または口対口鼻人工呼吸式)を始める。呼気には16〜18%O2と4〜5%CO2が含まれており,血中のO2とCO2値を正常値付近に保つために十分な含有量である。必要以上に多量の送気は,誤嚥のリスクを伴う胃膨満を引き起こしうる。

バッグ-バルブ-マスク(BVM)は,自然に膨張するバッグ(蘇生バッグ)と非再呼吸バルブ機能から成る。こうした用具は気道の開通性を維持しないため,軟組織が弛緩した患者は,気道の開通性を保つために他の用具も必要とする。O2補給は60〜100%の吸入O2を輸送する。換気はBVMによって長期間維持される場合があり,経鼻または経口気管挿管を慎重に行うための時間的余裕を生む。しかしながら,BVM換気を5分以上用いる場合,胃に空気が入ることを避けるため輪状軟骨圧迫を加え,また,空気を取り除くため経鼻胃管を挿入すべきである(BVM換気のあいだ,例外なく胃に挿入)。BVMはまた気管チューブおよびラリンゲアルマスクを含む人工エアウェイとともに用いることがある。小児用バッグは,最高気道内圧を(通常,35〜45cmH2Oに)制限する調節可能な圧力逃しバルブを有しているが,マスクとともに用いる場合は,換気を最適にするためバルブを閉じなければならない。

口咽頭エアウェイまたは鼻管は,咽頭の軟部組織が気道を潰したり,塞がないように維持する。これらの用具はBVM換気を円滑にする一方,完全に意識のある患者では喉の詰まりを引き起こす。口咽頭エアウェイの至適サイズは,患者の口角と顎角の間の距離と同じである。

ラリンゲアルマスクは,軟部組織による気道閉塞を防止するため,下咽頭に挿入され,BVM換気を可能にする通路を有している。モデルによっては気管チューブを気管に導く通路も持っている。この用具が引き起こす合併症は最小限で,挿入の際の喉頭鏡検査が必要なく,最小限の訓練を受けた救助者による使用を可能にしているため,評価が高い。この用具は喉の詰まりを引き起こすため,使用は意識混濁の患者に制限され,かつ短時間(数時間)に制限される。

近位と遠位にバルーンの付いたダブル-ルーメン食道/気管エアウェイ用具(コンビチューブ)が,咽頭および食道を塞ぐために用いられる場合がある。盲目的に挿入され,通常,最終的に食道に入り,その場合,もう1つのルーメンを通して換気が成し遂げられる。気管に入る場合は,患者は別のルーメンを通して換気される。このように,挿入技術は習得が簡単で,この用具は最小限の訓練で役に立つ。この用具は長期間の使用に対して十分でなく,できるだけすぐに気管チューブと取り替えるべきである。使用は,気管挿管が利用できない病院搬送前の場合,または救急室において挿管が失敗した後などに制限される。

気管チューブは,気道の確保,誤嚥の防止,および機械的人工換気を行うための最終的な手段であり,可能な限り早くBVM換気の後を継ぐべきである。また下気道の吸引も可能にする。挿入は通常,喉頭鏡を必要とする。昏睡状態の患者および他の長期的な機械的人工換気が必要な患者において適応となる。

気道確保の方法

エアウェイを必要とする患者のほとんどは,気管挿管を用いて管理されうるが,少数の患者は外科的な気道確保(例,輪状甲状間膜切開または気管切開)を必要とする。

気管挿管: 用手的な気道管理,換気,および酸素投与は,気管挿管を試みる前に常に必要となる。経口気管挿管は,経鼻気管挿管よりも通常手早く実施できるため,無呼吸および危篤状態の患者において選択され,意識のある自発呼吸の患者では,楽さがより優先されるため経鼻気管挿管が用いられる。

比較的太い気管チューブには,誤嚥の危険を最小限にする高容量で低圧のバルーンカフが付いている。カフ付きチューブは一般的に成人および8歳を超える小児においてのみ用いられるが,特定の乳児および幼児に対して適当な場合もある。ほとんどの成人は内径8mm以上のチューブを許容できる;このサイズのチューブは,通気抵抗がより低く(呼吸仕事量を減らす),分泌物の吸引を容易にし,気管支鏡の通過を可能にし,機械的人工換気からの解放も補助しうるため,より細いチューブより望ましい。バルーンカフは10mLシリンジを用いて空気で膨らませ,バルーン圧が30cmH2O未満であることを確認するために圧力計を使用する。1歳以上の乳児および小児では,チューブのサイズは(患者の年齢+16)÷4の式で計算されるので,4歳の小児の場合は(4+16)÷4=5mmの気管チューブを挿管すべきである。新生児から生後6カ月までは3.0〜3.5mmのサイズのチューブを用い,生後6カ月から1年までは3.5〜4.0mmのチューブを用いる。

気管チューブを挿入する前に,対称的に拡大するかや漏れがないかについて,カフ(付いている場合)を調べる。意識のある患者では,リドカインのスプレーによって手技の不快感が軽減できる場合がある。小児と成人の両方において,鎮静薬,迷走神経抑制薬,および筋弛緩薬の使用を考慮すべきである(呼吸停止と心停止: 鎮静および鎮痛を参照 )。術者の経験および選択に応じて,喉頭鏡の直ブレードまたは曲ブレードのいずれも使用できる;直ブレードは8歳未満の小児に対して選択される。声門および声帯をあらわにするための技術は,それぞれのブレードでわずかに異なるが,あらゆる場合において声帯ははっきりと見えなければならず,でなければ食道挿管が起こりえる。声帯を見やすくするために輪状軟骨または喉頭の圧迫がしばしば必要となる。挿管を容易にするために,チューブに水溶性潤滑剤を塗る医師もいれば,取り外し可能なスタイレットをチューブ内に挿入する医師もいる(小児科の患者において,スタイレットは必ず推奨される)。経口気管挿管後,スタイレットを取り外し,カフを膨らませて,バイトブロックを挿入し,チューブを口の端および上唇にテープで固定する。アダプターで気管内チューブを蘇生バッグ,湿気およびO2を供給するT-ピース,または機械的人工呼吸器に接続する。

チューブが正しい位置にある場合,用手的換気によって胸部の上昇,両肺上に正常な呼吸音が生じ,上腹部上に腹鳴はない。しかしながら,チューブの位置を判定するために最も信頼できる方法は,CO2に反応して色が変わるディスポの検出器または赤外線カプノメーターを用いて,呼気終末のCO2を測定することである。正常な循環の患者においてCO2が検出されない場合は,食道挿管である。(CO2は,心停止の間CPRが行われないまたは効果がない場合にも検出されないが,この状況は臨床的に明らかなはずである。)この場合,別のチューブを直ちに気管に挿入しなければならず,その後食道のチューブを抜く(食道からチューブを抜いた後に患者が吐く場合,こうすることで誤嚥の可能性を低下させうる)。もし片肺(通常,左肺)上の呼吸音が弱まる,または存在しない場合は,チューブを気管に入れなおすために,カフを収縮させて,胸部上の呼吸音を聞きながらチューブを慎重に1〜2cm(乳児では0.5〜1cm)引き戻すべきである。至適挿入位置に対する経験的法則として,歯茎または歯の位置に来るチューブのマーク(センチメーターマーク)は,通常チューブの内径の3倍と同等である(例,5.0チューブでは15cmマークが歯の位置に来るべきである)。チューブ挿入後に撮影する胸部X線で,先端の位置が正しいことを確認する(最適な位置は,先端が気管の3分の2の場所にあり,バルーンが声帯の少なくとも2cm下方で気管分岐部よりも上方)。チューブ位置が正しいことを確認するために,毎日の胸部X線撮影を推奨する医師もいる。両肺野の聴診は,気管支の奥または末端へのチューブの移動を除外するために,全ての患者において,定期的な間隔で実施されるべきである。

機械的補助は,難しい症例(例,頸部脊髄の損傷または疾患,広範囲の顔面外傷,気道の奇形)において助けとなる場合もある。ライト付きスタイレットの利用が可能で,チューブが気管内の適切な位置にあれば,喉頭を覆っている皮膚が明るくなる。あるいは,ガイドワイヤーを輪状甲状膜を通して経皮的に挿入し,逆行的に口腔から出す。そしてそのワイヤーに沿って気管チューブを管へと誘導する。また別の方法では,気管チューブを,気管支ファイバースコープ(経口的または経鼻的に挿入し,声門に通す)に沿って滑り込ませ,その後スコープを越えて前進させ気管に入れる。

経鼻気管挿管は自発呼吸のある患者において実施可能で,通常は喉頭鏡を必要としない(これにより頸部脊髄の損傷の患者において選択される)。チューブは局所薬(例,ベンゾカイン,リドカイン)で麻酔した外鼻孔を通して挿入し,喉頭のすぐ上の位置までゆっくりと前進させる。患者が息を吸い込み,声帯が開く際に,チューブを迅速に気管へと通す。気道の構造により,この方法は小児においては非常に難しく,推奨されない。

外科的気道確保: もし異物または広範囲の外傷が原因で上気道が閉塞する場合,または換気が他の方法によって成し遂げられない場合は,気管への外科的挿入が必要とされる。

輪状甲状軟骨間膜切開により緊急に気道を確保できる(呼吸停止と心停止: 緊急輪状甲状軟骨間膜切開術。図 5: イラスト参照)。患者を仰臥位にして,肩を枕または敷布で高くし,首を伸ばす。消毒等の準備の後,喉頭を片手で掴み,一方で刃物を用いて,正確に正中で皮膚,皮下組織,輪状甲状軟骨間膜を切開する。適切なサイズの気管カニューレを開口部から気管へと進める。病院外での突然の致死的な閉塞においては,気道の開通を保つために,ナイフの柄,使い捨てのペンのシャフト,または他の中空の物を使用できる。他に利用できる道具がない場合,12〜14ゲージの静脈カテーテルを輪状甲状軟骨間膜から気道に通すことができる。喉頭を片手で掴み,一方で無菌の穿刺カテーテルを輪状甲状軟骨間膜の正確な正中線上に経皮的に刺入し,針の先端をわずかに下方に向け,吸引しながら前進させ,気管後壁を貫いたり,または正中線から逸れて大血管に入らないよう注意する。気管に位置することが空気吸入によって確認されたら,カテーテルを気管内へと進める。三方活栓とO2圧源により酸素化は可能であるが,限られた換気量しか供給できない。合併症には出血,皮下気腫,および気縦隔症などがある。

図 5

緊急輪状甲状軟骨間膜切開術。

緊急輪状甲状軟骨間膜切開術。

患者を仰臥位にして首を伸ばす。無菌的準備の後,喉頭を片手で掴み,一方で刃物を用いて皮膚,皮下組織,輪状甲状軟骨間膜を正確に正中線で切開し,気管に到達する。中空管が気道の開通を維持するために用いられる。

気管切開術は外科的な剥離および気管の切開を含む,より複雑な手技である。できれば外科医によって手術室で実施する。緊急時には,この手技は輪状甲状軟骨間膜切開よりも合併症の発症率が高くなり,利得はない。しかしながら,長時間の(48時間を超える)外科的な気道確保には好ましい手技である。経皮的な気管切開術は,手術室に移動させるべきでない重篤な状態の患者にとって魅力的な代用手段である。このベッドサイドでの処置では,気管カニューラを挿入するために,簡単な皮膚穿刺を行い,1つまたは複数の拡張器を使用する。

合併症: 挿管は唇,歯,舌,および上声門領域,下声門領域を損傷する場合がある。食道内にチューブが留置されると,致死的な換気障害を引き起こし,また,胃膨満(まれに胃破裂),および逆流した胃内容物の誤飲をも引き起こしうる。いかなるチューブも喉頭を通過するものは声帯を多少は傷害するため,ときに潰瘍形成,虚血,遷延性の声帯麻痺が起こる。下声門領域の狭窄は後になって(通常,3〜4週間後に)起きることがある。気管切開挿管は,まれに,出血,甲状腺損傷,気胸,反回喉頭神経麻痺,大血管損傷または挿入部に遅延性気管狭窄を引き起こしうる。

気管のびらんは一般的ではない。カフ圧が過剰に高い場合に発生の可能性が増す。まれに,大血管(例,無名動脈)からの出血,瘻(特に気管食道瘻),および気管狭窄が,挿管の後に起こる。高容量,低圧カフ付きの適切なサイズのチューブを用い,カフ圧を頻繁(8時間毎)に計測して30cmH2O未満に維持することで,虚血性圧迫壊死の危険性は低下するが,ショック状態,心拍出量低下,または敗血症を伴う患者では危険性は特に高いままである。

挿管の助けとなる薬物

脈および呼吸がない患者,または重度に麻痺した患者は薬物による補助なしで挿管ができる(そうすべきである)。その他の患者には,挿管を容易にし不快感を最小限にするために,鎮静薬および麻痺性の薬物を用いる前処置を施す(急速挿管,RSI:rapid sequence intubationと呼ばれる)。

前処置: 時間的余裕があれば,患者が100%O2を3〜5分間,前もって吸入することで,最大で4〜5分の無呼吸にも十分な酸素化を維持できる。

喉頭鏡の挿入は,交感神経を介して心拍数増加,血圧,そしておそらく頭蓋内圧上昇などの反応を引き起こす。この反応を鈍らせるために,時間的余裕がある場合は,術者の中には鎮静薬および麻痺薬投与の1〜2分前に,リドカイン1.5mg/kgを静注投与するものもいる。小児および青少年は,しばしば挿管に対して迷走神経反応(著しい徐脈)を起こすため,同時に,アトロピン0.02mg/kg(最少用量は乳児で0.1mg,小児および青少年で0.5mg)を静注で投与する。医師によっては,総量のサクシニルコリンによって起きる筋肉の線維束性収縮を避けるため,4歳を超える患者に少用量の神経筋遮断薬(NMB),例えばベクロニウム0.01mg/kgの静注を行う人もいる。線維束性収縮は,覚醒時に筋肉の痛み,および一過性の高カリウム血症を引き起こす場合がある;しかしながら,こうした前処置の実際のメリットは不明である。

鎮静および鎮痛: 喉頭鏡の挿入および挿管は不快であるため,鎮静作用または鎮静作用と鎮痛作用の両方を有する短時間作用の静注薬が,手技の直前に必須となる。挿管時,食道を塞いで逆流と誤嚥を防止するために,補助者が輪状軟骨の上に圧力を加える(セリック法)。

エトミデート(非バルビツール酸催眠薬の1つ)0.3mg/kgが選択されうる。フェンタニルは,オピオイドの1つ(したがって鎮静作用はもちろん鎮痛作用もある)で,フェンタニル5μg/kg(小児では2〜5μg/kg;注:これは鎮痛用量よりも高用量である)もよく効き,心血管抑制を起こさない。しかしながら,高用量では胸壁の硬直が起こりうる。ケタミン1〜2mg/kgは心臓刺激の特性を持った解離性麻酔薬である。一般的に安全であるが,覚醒時に幻覚または奇異な行動を引き起こす場合がある。チオペンタール3〜4mg/kgおよびメトヘキシタール1〜2mg/kgは効果的であるが,低血圧を起こしやすい。

麻痺: NMBの静脈内投与に伴う骨格筋の弛緩により,挿管が非常に容易となる。

脱分極性NMBのサクシニルコリン(1.5mg/kg静注,乳児では2.0mg/kg)は非常に急速な効果発現(30秒〜1分)と非常に短い作用時間(3〜5分)を備えている。熱傷,1〜2日目を超える筋挫滅,脊髄損傷,神経筋疾患,腎不全や,おそらく穿孔性の眼の外傷を有する患者は,この薬を避けるべきである。小児の約15,000人に1人(成人はより少ない)は,サクシニルコリンによる悪性高体温に対して遺伝的感受性を持っている。サクシニルコリンは,著明な徐脈を引き起こすことがあるため,小児には必ずアトロピンとともに投与すべきである。

代用できる非脱分極性NMBは作用時間がより長い(30分を超える)うえに,麻痺を著しく長引かせるような高用量でない限り,効果の発現が遅い。60秒かけて注射されるベクロニウム0.1〜0.2mg/kg,アトラクリウム0.5mg/kg,ミバクリウム0.15mg/kg,ロクロニウム1.0mg/kgなどの薬物がある。

局所麻酔: 意識のある患者への挿管(一般的に小児には行わない)には,鼻および咽頭の麻酔が必要である。ベンゾカイン,テトラカイン,アミノ安息香酸ブチル(ブタンベン),ベンズアルコニウムなどの市販のエアゾル製品が一般的に用いられる。また,4%リドカインが噴霧投与およびフェイスマスクから吸入されることもある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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