メルクマニュアル18版 日本語版
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急性低酸素血症性呼吸不全

急性低酸素血症性呼吸不全は,O2補給に反応しない重度の動脈血低酸素血症である。それはエアースペースへの体液貯留に続いて起こる血液の肺内シャントによって引き起こされる。所見は呼吸困難および頻呼吸を含む。診断はABGおよび胸部X線によって行う。治療には通常機械的人工換気が必要となる。

病因と病態生理

呼吸不全および機械的人工換気: 急性低酸素血症性呼吸不全の原因表 1: 表に急性低酸素血症性呼吸不全(AHRF)の原因を示す。最もよくある原因は,肺水腫,重度の肺炎,および急性呼吸促迫症候群(ARDS―急性肺障害および急性呼吸促迫症候群を参照 )である。左室不全または循環血液量増加のときのように毛細血管静水圧が上昇する場合,または,急性肺損傷で生じるように毛細血管透過性が上昇する場合,肺水腫が生じる可能性がある。急性肺損傷には直接的(例,肺炎,胃酸の誤嚥)または間接的(例,敗血症,膵炎,大量輸血)なものがある。いずれの型の急性肺損傷においても,肺胞に蛋白性の液が溜まり,表面活性物質の異常が肺胞の虚脱を促進し,含気肺の容量がさらに減少して肺内シャントが悪化する。

表 1

急性低酸素血症性呼吸不全の原因

広汎性肺病変

心原性(静水圧または高血圧)肺水腫

左室不全(虚血性心疾患,心筋症,心臓弁膜症による)

体液過剰(特に腎疾患または心疾患を併発している場合)

透過性(低血圧性)肺水腫(ARDS)

よく起こる

敗血症および全身性炎症反応症候群

胃酸の誤嚥

循環血液量減少性ショックに対する頻回の輸血

あまり起こらない

溺水

膵炎

空気塞栓または脂肪塞栓

心肺バイパス

薬物反応または過剰投与

白血球凝集反応

吸入性損傷

生物製剤の投与(例,IL-2)

病因が不明か混合している肺水腫

再膨張性

神経原性,発作後

陣痛抑制関連

高地性

肺胞出血

結合組織病

血小板減少症

骨髄移植

免疫不全患者における感染症

限局性肺病変

大葉性肺炎

肺挫傷

大葉性無気肺

ARDS =急性呼吸促迫症候群。

Modified from: O'Connor MF, Hall JB, Schmidt GA, Wood LDH: Acute hypoxemic respiratory failure. In Hall JB, Schmidt GA, Wood LDH: Principles of Critical Care, 2nd ed. New York, McGraw-Hill, 1998, p. 537–564.

体液で満ちたエアースペースは吸気を受け入れられず,どんなに吸入O2濃度(Fio2)が高くても,そのような肺胞を灌流する血液は,混合静脈血O2含有量が変わらない。これにより,非酸素化血液は一定して肺静脈へ混入し,動脈血低酸素血症を確実にする。対照的に,換気と血流の不均等(喘息またはCOPDで生じるような)が原因の低酸素血症は,O2補給によって速やかに改善され,AHRFとはみなされない。換気/血流比が不均等な肺胞は吸気をある程度は受け入れるので,高濃度のO2を与えることでPao2が上昇するからである。

症状,徴候,診断

急性低酸素血症(重症患者へのアプローチ: 酸素飽和度の低下も参照 )は,呼吸困難,落ち着きのなさ,および不安を生じさせることがある。徴候としては,錯乱または意識変容,チアノーゼ,頻呼吸,頻脈,および発汗などがある。不整脈および昏睡に至ることもある。気道が体液で満ちることにより胸部の聴診で断続性ラ音が生じ,その音は典型例では広汎性だが,ときに肺底でひどくなる。頸静脈怒張は重度の心不全が伴うと生じる。

低酸素血症は通常パルスオキシメトリーによって最初に認識される。O2飽和度が低い患者は,ABGおよび胸部X線を受けるべきである。症状のある患者は,検査結果を待つ間,O2補給によって治療されるべきである。

O2補給によってO2飽和度が90%を超えるまでに改善しない場合,血液の右-左シャントを疑うべきである。胸部X線上の明らかな肺胞性浸潤は,心内シャントよりも肺胞の体液貯留が原因であることを意味する。

一旦AHRFが診断されると,原因を特定しなければならない。肺および肺以外の両方の原因を考慮する。ときには進行中の疾患(例,急性心筋梗塞,膵炎,敗血症)が原因として明白なことがある。その他の例では,病歴が示唆的であり,免疫不全状態の患者では肺炎を疑うべきで,骨髄移植後の患者または結合組織病を有する患者では肺胞出血を疑う。しかしながら,しばしば,重篤な患者には蘇生のために大量の静注輸液が行われる。そこで治療の結果起こる高血圧性のAHRF(例,心室不全,体液過剰)を,基礎的な低血圧性のAHRF(例,ARDS,肺炎)と鑑別しなければならない。

高血圧性の肺水腫は,診察では第3心音聴取,頸静脈怒張,末梢浮腫,および胸部X線上にみられる広範な中心性の浸潤影,心拡大,異常に太い血管茎によって示唆される。ARDSの広汎性浸潤影は通常もっと末梢性である。限局性の浸潤影は,典型的には大葉性肺炎,無気肺,または肺挫傷によって起こる。心エコーは左心室機能障害を示す場合があり,それは心原性を意味するが,重症心疾患患者においては一般的に見られるものなので,この所見は特異的ではない。意見は分かれるが,肺動脈カテーテルの挿入(重症患者へのアプローチ: 肺動脈カテーテルモニタリングを参照 )は,特に診断に迷うときは,診断の裏付けに役立つことがある。

治療

個別の原因の治療は本書の別の個所で考察されている。AHRFはまず非再呼吸式フェイスマスクによって70〜100%O2の大流量を用いて治療される。90%を超えるO2飽和度が得られなければ,機械的人工換気を開始すべきである。特異的な管理方法は病状によって異なる。

心原性肺水腫における機械的人工換気: 機械的人工換気はいくつかの点で,衰えている左心室によい影響を与える。陽圧の吸気圧は心室の前負荷と後負荷を減少させ,呼吸筋の負荷を軽減し,呼吸仕事量を減らす。呼吸仕事量を減らすと,過剰労働の呼吸筋に集中していた血液が,重要な臓器(例,脳,消化管,腎臓)へ循環する。呼気圧(呼気気道陽圧[EPAP]または呼気終末陽圧[PEEP])は,肺水腫を再分配し,虚脱肺胞を拡張させる。

薬物療法がしばしば速やかに症状を改善するので,多くの患者において,非侵襲的陽圧換気(NIPPV)は気管挿管の回避に役立つ。通常,設定は吸気気道陽圧(IPAP)10〜15cmH2O,およびEPAP0〜8cmH2Oとし,動脈血O2飽和度を90%以上にするために必要な最小のFio2を適用する。

従来の機械的人工換気はいくつかの換気モードを使用できる。急性の設定において完全な換気補助が望まれる場合,最もよく用いられるのは,補助-調節(A/C)モードである。最初の設定は1回換気量が理想体重(呼吸不全および機械的人工換気: ARDSにおける機械的人工換気を参照 )あたり6mL/kg,呼吸数が25回/分,Fio2が1.0,PEEPが5〜8cmH2Oである。その後,PEEPは2.5cmH2Oずつの増加で調節し,一方でFio2は酸素中毒の無毒性レベルまで減少させる。圧サポート換気も利用できる(類似のPEEPレベルで)。最初の加圧は,完全に呼吸筋を休ませるのに十分でなければならず,それは患者の主観的評価,呼吸数,補助呼吸筋の使用によって判定される。典型例では,PEEPから10〜20cmH2O上回る圧サポートレベルが必要とされる。

ARDSにおける機械的人工換気: ほぼ全ての患者が機械的人工換気を必要とするが,人工換気は酸素化の改善に加えて,呼吸筋を安静にさせることでO2要求量をも減少させる。目標は,肺胞の過度の膨満によるさらなる肺損傷を最小限にするために,気道プラトー圧を30cmH2O未満に,および1回換気量を予測体重あたり6mL/kgに保つことである。理想的には,O2毒性の可能性を最小限にするために,Fio2は0.7未満に保つべきである。

NIPPVはARDSにときとして有用である。しかしながら,心原性肺水腫と比較すると,より長期間のより高いサポートレベルがしばしば必要となり,適切な酸素化を維持するのに8〜12cmH2OのEPAPがしばしば必要となる。これには18〜20cmH2Oを超える吸気圧が必要となるが,この圧レベルでは患者が耐えにくく,適切な密閉を維持するのが困難で,マスクがより不快に感じられ,皮膚の壊死および胃への送気が起こりうる。また,NIPPVを受け,後に挿管を必要とする患者は,通常,早期に挿管を受けた場合に比べて,病状がより悪化しているので,挿管時には危険な脱飽和状態である可能性がある。患者の集中的なモニタリングよび慎重な選択(呼吸不全および機械的人工換気: 従圧式換気を参照 )が必要である。

ARDSにおける従来の機械的人工換気は,以前は,ABG値の正常化に焦点を当て,肺への送気の機械的影響は無視していた。肺胞の過度の膨満が肺損傷を永続させること,および,ARDSを有する患者では,10〜12mL/kgの1回換気量が使用されていた場合,その1回換気量を受け入れる能力のある肺胞がより少ないので,そのような過度の膨満が容易に起こることが,現在では明らかになっている。ARDS患者は理想体重(呼吸不全および機械的人工換気: ARDSにおける機械的人工換気)あたり6mL/kgの1回換気量で換気されているとき,死亡率がより低くなる。この場合,1回換気量が少ないことによって起こる高炭酸ガス血症を軽減させるために,呼吸数の増加が必要となり,最高35回/分までの増加を要することもある。それにもかかわらず,呼吸性アシドーシスがしばしば生じるが,これは換気関連の肺損傷を制限するという利点のために許容され,また,一般的に(患者も)耐えやすい。

PCO2の許容範囲内の上昇は,“permissive hypercapnia(高二酸化炭素許容)”と呼ばれる。高炭酸ガス血症は呼吸困難を生じさせ,患者を人工呼吸器と不調和にする場合があるので,患者には鎮痛薬(例,モルヒネ)および高用量の鎮静薬(例,プロポフォールを5μg/kg/分から始めて,効果を上げるために最大50μg/kg/分まで増加させるが,高トリグリセリド血症の危険があるので,トリグリセリド濃度は48時間毎に調べる)を投与すべきである。この投与計画は神経筋遮断薬よりも好まれるが,それは神経筋遮断薬は患者の快適さを向上させず,長期使用後に呼吸筋の虚弱を引き起こすことがあるからである。

PEEPはARDSにおいて肺胞の動員を通して含気肺の容量を増大させることによって酸素化を改善し,低めのFio2の使用を可能にする。研究者の中には,ベッドサイドで測定される動脈血O2飽和度と肺コンプライアンスの両方に対して,PEEPを絶えず調節する者もいるが,しかしながら,このアプローチは酸素中毒を起こさないFio2で適切な動脈血O2飽和度が得られる最小限のPEEPを使用することよりも優れていることが実証されているわけではない。これはしばしば8〜15cmH2OのPEEPだが,ときにみられる重度のARDSを有する患者では20cmH2Oを超えるレベルが必要となりうる。このような症例では,O2輸送を最適化するための他の方法,およびO2消費量を最小限にするための方法(急性肺障害および急性呼吸促迫症候群: 治療を参照 )に徹底的な注意を払わなければならない。

肺胞の過度の膨満に対する最適な指標は,前述したように,吸気終末休止法を用いたプラトー圧の測定であり,それは4時間毎およびPEEPまたは1回換気量を変更するごとに調べるべきである。目標のプラトー圧は30cmH2O未満である。プラトー圧がこのレベルを超える場合,医師は1回換気量(許容の最小量は4mL/kg)を0.5〜1.0mL/kgずつ減少させるべきで,分時換気量の減少を代償するために呼吸数を増加させ,完全な呼気が生じることを確実にするために人工呼吸器の波形表示を調べる。不十分な呼気による顕性のガス貯留が起こる前までに,呼吸数はしばしば35回/分まで増加される。プラトー圧が25cmH2O未満および1回換気量が6mL/kg未満の場合,1回換気量は6mL/kgまで,またはプラトー圧が25cmH2Oを超えるまで増加させることがある。研究者には従圧式換気は肺をよりよく保護すると考える者もいるが,それを支持するデータは不足している。

一般的に,ARDSにおける人工換気の管理には次のアプローチが推奨される:最初はA/Cモードを用い,1回換気量を理想体重あたり6mL/kg,呼吸数を25回/分,流速を60L/分,Fio2を1.0,PEEPを15cmH2Oとする。O2飽和度が90%を超えるとすぐに,Fio2を酸素中毒とならないレベル(0.6以下)まで低下させる。その後,PEEPは2.5cmH2Oずつ,許容の範囲で低下させ,0.6以下のFio2のときに90%の動脈血O2飽和度に対応する最小PEEPを見つける。呼吸数はpHが7.15を上回るまで,または呼気流量記録が終末呼気流量を示すまで,最大で35回/分まで増加させる。

肺疾患を有する患者の機械的人工換気の適切な1回換気量を決定するために,実際の体重よりも理想体重(IBW)が用いられる:

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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