|
症状または身体診察が心血管疾患を示唆することがある。確認のために通常,選択された非侵襲的および侵襲的検査が実施される(心血管検査および手技を参照 )。
病歴
入念な病歴聴取が必要不可欠であり,検査はその代用とはならない。多くの心疾患(例,冠動脈疾患,全身性高血圧,大動脈二尖弁,肥大型心筋症,僧帽弁逸脱)には遺伝的基盤があるため,家族歴を聴取する。
主な心症状には,胸痛または胸部不快感,呼吸困難(肺の症状がある患者へのアプローチ: 呼吸困難を参照 ),脱力,倦怠感
,動悸,浮遊感,ふらつきそうな感覚,および失神がある。これらの症状は,2つ以上の心疾患および非心疾患において一般的にみられる。
身体診察
心疾患の末梢および全身への影響,および心臓に影響を与える可能性のある非心疾患の証拠を検出するには,全器官系をくまなく診察することが必要である。
バイタルサイン:
血圧は両上肢で測定し,先天性心疾患または末梢血管疾患が疑われる場合は,両下肢でも測定する。
適切なサイズのカフでは,ゴム袋が肢周囲の80%を取り巻き,ゴム袋の幅は肢周囲の40%である。水銀柱が下降するときに聴こえる最初の音は収縮期血圧を示し,音の消失は拡張期血圧を示す(コロトコフの第5相)。両上肢間の血圧差は15mmHgまでは正常で,これより大きい血圧差は血管の異常(例,解離性胸部大動脈)または末梢血管障害を示唆する。通常,下肢の血圧は上肢の血圧よりも20mmHg高い。
足関節上腕血圧比(ABI;上腕に対する足関節の収縮期血圧の比)は,正常では1を上回る。
心拍数および心調律は,頸動脈拍動または橈骨動脈拍動の触診により評価する。
血圧および心拍数は,患者を仰臥位,座位,および立位にさせ,体位が変わるたびに1分間の間隔をあけて測定する。10mmHg以下の差は正常であり,この差は高齢者においてやや大きい傾向にある。
呼吸数が異常ならば,心臓の代償不全または原発性肺疾患を示すことがある。呼吸数は,心不全または不安を有する患者では増加し,死に瀕した患者では減少する。浅く速い呼吸は,胸膜痛を示すことがある。
急性リウマチ熱または心臓感染症(例,心内膜炎)により体温が上昇することがある。心筋梗塞後では発熱が非常によくみられ,発熱の持続が72時間を上回る場合に限り,他の原因を追究する。
奇脈:
正常の場合,吸気時に収縮期動脈圧は最大10mmHg低下することがあり,それを代償するために脈拍数が増加する。吸気時に収縮期血圧がこれよりも低下する,または脈が弱くなると,奇脈と考えられる。奇脈は心タンポナーデにおいてよくみられ,ときに収縮性心膜炎,重度の喘息,またはCOPDにみられ,まれに拘束型心筋症,重度の肺塞栓症,または循環血液量減少性ショックにみられる。
なぜなら吸気時に血圧が低下する負の胸腔内圧が静脈還流量,ひいては右室(RV)充満を増加させるためである;その結果,心室中隔が左室(LV)流出路側にわずかに膨らみ,心拍出量を減少させ,従って血圧を低下させる。このメカニズム(および収縮期血圧の低下)は,負の胸腔内圧を高くする疾患(例,喘息),右室充満を制限する疾患(例,心タンポナーデ,心筋症),右室流出路を制限する疾患(例,肺塞栓症)において顕著になる。
奇脈は,血圧カフを収縮期血圧のすぐ上まで膨らませた後,非常にゆっくりと(例,2mmHg/拍以下)空気を抜くことにより測定される。コロトコフ音が最初に聴かれるとき(最初は呼気時のみ),およびコロトコフ音が継続的に聴かれるときに血圧を記録する。その血圧差が奇脈の“量”である。
脈拍:
対称性および量(強度)について,上肢および下肢の主な末梢動脈の脈拍を触診し,動脈壁の弾性に注意する。脈拍の消失は,動脈疾患(例,アテローム硬化)または全身性の塞栓症を示唆することがある。しかしながら,末梢の脈拍は肥満または筋肉質の人では触れるのが難しいことがある。動脈血の急速なランオフを伴う疾患(例,動静脈吻合,大動脈弁閉鎖不全)では,脈拍の立ち上がりが速く,次いで虚脱する。甲状腺中毒症および代謝亢進状態では脈拍は速く躍動感があり,粘液水腫では脈拍は遅く鈍い。脈拍に左右差がある場合,末梢血管の聴診により,狭窄によって生じた雑音が認められることがある。
両側頸動脈拍動の視診,触診,および聴診では,特定疾患が示唆されることがある(心疾患患者へのアプローチ: 頸動脈拍動の脈幅および関連疾患表 1: を参照)。老化および動脈硬化は血管硬化をもたらすことから,特徴的所見が得られにくい傾向にある。非常に幼い小児では,たとえ重度の大動脈弁狭窄がみられるときでも,頸動脈拍動は正常なことがある。
|
表 1
|
 |  |  |
|
頸動脈拍動の脈幅および関連疾患
|
|
頸動脈拍動の脈幅
|
関連疾患
|
|
躍動感があり顕著
|
高血圧,代謝亢進状態,圧の急上昇および急降下を伴う疾患(例,動脈管開存症)
|
|
痙攣性で,完全に膨張した後に突然の虚脱(コリガン脈または水槌脈)
|
大動脈弁閉鎖不全
|
|
低振幅および低容量で,ピーク遅延を伴う
|
大動脈弁狭窄(左室流出路閉塞)
|
|
二重ピーク(二分)で,立ち上がりが速い
|
肥大型心筋症
|
|
二分で,立ち上がりが正常または遅い
|
大動脈弁狭窄と大動脈弁閉鎖不全を合併
|
|
一側性または両側性に消失し,しばしば収縮期雑音(bruit)を伴う
|
アテローム硬化による頭蓋外の頸動脈狭窄症
|
|
頸動脈聴診により,雑音(murmurとbruit)を区別できる。雑音(murmur)は,心臓または大血管において生じ,通常は上前胸部でより大きく,頸部に行くに従って減少する。雑音(bruit)はより高調音で,動脈上においてのみ聴取され,より表面的に感じられる。動脈雑音(bruit)と静脈コマ音(hum)を区別しなければならない。動脈雑音と違って,静脈コマ音は通常は連続的で,患者が座位または立位の状態で最もよく聴こえ,同側の内頸静脈の圧迫により消失する。
静脈 :
末梢静脈では,静脈瘤,動静脈奇形(AVM),動静脈シャント,血栓性静脈炎による炎症および圧痛がみられないか観察する。動静脈奇形またはシャントは,連続性雑音(聴診で聴かれる)および,しばしば触知可能な振戦を生じる(収縮期および拡張期において,動脈より静脈の抵抗が常に低いため)。
静脈波の高さおよび波形を推測するために,頸静脈を観察する。高さは右房圧に比例し,波形は心周期のイベントを反映する;両方とも内頸静脈で最もよく観察される。
頸静脈は通常,患者を45°起こした状態で観察する。すると,静脈柱の先端は正常の場合,鎖骨直下にくる(正常上限:垂直面で胸骨切痕の4cm上)。静脈柱は心不全,容量過剰,収縮性心膜炎,三尖弁狭窄,上大静脈閉塞,または右室のコンプライアンス低下において上昇する。そうした状態が重度の場合,静脈柱は顎の位置にまで及ぶことがあり,その先端は患者が背を伸ばして座っているか,立っているときのみに認められる。循環血液量減少の場合,静脈柱は低い。
正常の場合,静脈柱は腹部を手でしっかり圧迫することにより短時間のうちに上昇し(肝-頸静脈逆流),圧迫を維持していても数秒で元に戻る(フランク-スターリング機序により,コンプライアンスのある右室がその1回拍出量を増大するため)。しかしながら,右室が拡張しコンプライアンスが低下した状態を引き起こす疾患,または,三尖弁狭窄もしくは右房腫瘍により右室充満が障害された状態では,腹圧が維持されている間,静脈柱は上昇したままである。
正常では,胸腔内圧の低下により末梢から大静脈に血液が吸引されるため,吸気時に静脈柱はわずかに下降する。吸気時の静脈柱の上昇(クスマル徴候)は,慢性収縮性心膜炎,右室梗塞,およびCOPDで典型的に起こり,心不全および三尖弁狭窄で通常起こる。
通常,頸静脈波(心疾患患者へのアプローチ: 正常な頸静脈波。図 1: を参照)は臨床的に識別されるが,中心静脈圧のモニタリング時に画面上で見るほうがよい。
|
図 1
|
 |  |  |
|
正常な頸静脈波。
|
 |
|
a波は右房の収縮によって生じ,続いて心房の弛緩によってx谷が生じる。x谷を中断するc波は,頸動脈拍動の伝播によって生じ,臨床的にはめったに識別されない。 v波は,心室収縮期の右房充満により生じる(三尖弁は閉じている)。y谷は,心房収縮前の心室拡張期の急激な右室拡張により生じる。
|
|
a波は肺高血圧において増大する。巨大a波(キャノン波)は,三尖弁が閉じている間に心房が収縮するときに,房室解離でみられる。a波は心房細動があると消失し,右室コンプライアンスが低下している状態(例,肺高血圧または肺動脈弁狭窄)で強調される。v波は三尖弁逆流において非常に顕著となる。心タンポナーデでは,x谷は急峻である。右室コンプライアンスが低下した状態では,y谷は極めて突然発生するが,これは上昇した静脈血柱が,三尖弁が開放しているときに右室に急速に流入し,硬直した右室壁(拘束型心筋症の場合)または心膜(収縮性心膜炎の場合)により,結果的に血流が突然阻止されるからである。
胸部の視診および触診:
胸の輪郭および視認できる心臓の拍動を観察する。前胸部では拍動(心尖拍動すなわち心臓位置の決定),振戦,心房および心室の奔馬調律を触診する。振戦の位置は原因を示唆する(
心疾患患者へのアプローチ: 振戦の位置および関連疾患表 2: を参照)。
|
表 2
|
 |  |  |
|
振戦の位置および関連疾患
|
|
振戦の位置
|
関連疾患
|
|
収縮期に胸骨右縁第2肋間の心底部で
|
大動脈弁狭窄
|
|
収縮期に心尖部で
|
僧帽弁逆流
|
|
第2肋間胸骨左縁で
|
肺動脈弁狭窄
|
|
第4肋間で
|
小筋性心室中隔欠損(ロジェ病)
|
|
楯状胸および鳩胸(胸骨が鳥のように突出)などの胸部変形は,先天性心奇形を伴う遺伝性疾患(例,ターナー症候群)に関連している場合がある。まれに,上胸部の限局性膨隆は梅毒性大動脈瘤を示す。前後径が短い胸,および異常にまっすぐな胸椎を伴う漏斗胸(胸骨の陥没)は,弁または腱索(特に僧帽弁)の粘液腫様変性を示唆することがある。
胸骨後方および胸骨左縁前胸壁の後方の挙上感として視認および触診される中心性前胸部隆起は,重度の右室肥大(RVH)を示唆する。ときに,重度の右室肥大を引き起こす先天性疾患では,前胸部が胸骨の左方へ非対称性に膨隆する。
心尖部の持続的な突出(それほど限局性でなくややびまん性である右室肥大の前胸部隆起と容易に鑑別できる)は,左室肥大(LVH)を示唆する。運動障害を伴う心室瘤患者では,ときに前胸部に異常な限局性収縮期衝撃が触知される。重度の僧帽弁逆流患者では,異常なびまん性収縮期拍動により前胸部が挙上する。これは,左房が拡大し,心臓の前方偏位を引き起こすためである。左室が拡張および肥大するとき(例,僧帽弁逆流の場合),びまん性に外側下方に偏位した心尖拍動が認められる。
第2肋間胸骨左縁の鋭い拍動は,肺高血圧における過度の肺動脈弁閉鎖により生じうる。心尖部で収縮早期に生じる同様の拍動は,狭窄した僧帽弁の閉鎖を表すことがあり,ときに狭窄した弁の開放が拡張期開始時に触知できる。これらの所見は,聴診で聴かれる第1心音(S1)の増強および三尖弁狭窄症の開放音と一致する。
心臓の聴診
心臓の聴診には優れた聴力,ならびに音程およびタイミングの微妙な相違を識別する能力が必要とされる。聴覚障害がある医療従事者は増幅聴診器を使用できる。音程の高い音は聴診器の膜部で最もよく聴こえる。音程の低い音はベル部で最もよく聴こえる。ベル部を使用するときは,ほんのわずかの圧力しか加えないよう注意しなければならない。過度の圧力を加えると,下にある皮膚が膜部の役割をしてしまい,非常に音程の低い音を除去してしまう。
前胸部全体を系統的に調べるが,典型例では,患者を左側臥位にして心尖拍動を聴くことから始める。患者を仰臥位にして胸骨左縁下部で聴診を続け,頭側に進みながら各肋間の聴診を行い,その後,胸骨右縁上部から尾側に進む。左の腋窩および鎖骨上部も聴診する。背部を聴診するために,患者に背筋を伸ばして座らせ,その後,大動脈および肺動脈の拡張期雑音または心膜摩擦音を聴診しやすくするために,前かがみにさせる。
主な聴診所見には心音,心雑音,および摩擦音がある。心音は弁の開閉によって生じる短い過渡的な音で,収縮期心音および拡張期心音に分けられる。
心雑音は血液の乱流により生じ,心音よりも長く,収縮期雑音,拡張期雑音,または連続性雑音である。心雑音は強度により段階に分けられる(心疾患患者へのアプローチ: 心雑音強度表 3: を参照)。心周期における雑音のタイミングは原因と相関し(心疾患患者へのアプローチ: タイミングによる雑音の病因表 4: を参照),聴診所見は特定の心臓弁疾患と相関する。様々な手技(例,吸気,バルサルバ,ハンドグリップ,蹲踞,亜硝酸アミルの吸入)により心臓生理をわずかに変えることができ,心雑音の原因鑑別を可能にする(心疾患患者へのアプローチ: 雑音診断を助ける手技表 5: を参照)。
|
表 3
|
 |  |  |
|
心雑音強度
|
|
強度
|
説明
|
|
1
|
かろうじて聴こえる
|
|
2
|
小さいが容易に聴こえる
|
|
3
|
大きいが振戦を伴わない
|
|
4
|
大きく,振戦を伴う
|
|
5
|
聴診器を胸部につけるかつけない程度で大きく聴こえる
|
|
6
|
聴診器を胸部から離しても大きく聴こえる
|
|
|
表 4
|
 |  |  |
|
タイミングによる雑音の病因
|
|
タイミング
|
関連疾患
|
|
収縮中期(駆出)
|
大動脈閉塞(弁上狭窄,大動脈縮窄,大動脈弁狭窄,大動脈硬化,肥大型心筋症,弁下狭窄)
|
|
|
大動脈弁を通る血流の増加(高拍出性状態,大動脈弁閉鎖不全)
|
|
|
上行大動脈の拡張(アテローム,大動脈炎,大動脈瘤)
|
|
|
肺動脈閉塞(肺動脈弁上狭窄,肺動脈弁狭窄,漏斗部狭窄)
|
|
|
肺動脈弁を通る血流の増加(高拍出性状態,心房中隔欠損による左-右シャント,心室中隔欠損)
|
|
|
肺動脈の拡張
|
|
全収縮期
|
僧帽弁逆流,三尖弁逆流,心室中隔欠損
|
|
拡張早期(逆流)
|
大動脈弁閉鎖不全:後天性または先天性の弁異常(粘液腫様変性,石灰化変性,リウマチ熱,心内膜炎),弁輪拡張(大動脈解離,大動脈弁輪拡張症,嚢胞性中膜壊死,高血圧),交連部の拡張(梅毒);心室中隔欠損を伴う先天性二尖弁
|
|
|
肺動脈弁閉鎖不全:後天性または先天性の弁異常,弁輪拡張(肺高血圧,マルファン症候群),ファロー四徴症,心室中隔欠損
|
|
拡張中期
|
僧帽弁狭窄(リウマチ熱,先天性狭窄,三心房心)
|
|
|
非狭窄性僧帽弁を通る血流の増加(僧帽弁逆流,心室中隔欠損,動脈管開存症,容量負荷状態,完全心ブロック)
|
|
|
三尖弁狭窄
|
|
|
非狭窄性三尖弁を通る血流の増加(三尖弁逆流,心房中隔欠損,肺静脈還流異常)
|
|
|
左房または右房の腫瘍,心房の球状弁血栓
|
|
連続性
|
動脈管開存症,肺動脈縮窄,冠動脈瘻,肋間動静脈瘻,バルサルバ洞瘤破裂,大動脈中隔欠損,頸部静脈コマ音,左冠動脈異常,近位冠動脈狭窄,乳房雑音(妊娠中に怒張した乳房の血管からの静脈コマ音),肺動脈分枝の狭窄,気管支側副血行路,僧帽弁狭窄を伴う小さい(拘束型)心房中隔欠損,冠血管房室瘻,大動脈右室瘻,大動脈右房瘻
|
|
|
表 5
|
 |  |  |
|
雑音診断を助ける手技
|
|
手技
|
血流に対する効果
|
心音に対する効果
|
| 吸気 |
右心への静脈還流を増加させ,同時に左心への静脈還流を減少させる
|
右心系の心音を増強させる(例,三尖弁の狭窄および逆流の雑音,肺動脈弁狭窄*[直後]および逆流[通常]の雑音);左心の心音を減少させる
|
|
|
左室(LV)の大きさを小さくする;右心への静脈還流量,次いで左心への静脈還流量を減少させる
|
閉塞性肥大型心筋症の雑音および僧帽弁狭窄の拡張期雑音を増強させ,大動脈弁狭窄,僧帽弁逆流,および三尖弁狭窄の雑音を減弱させる
|
|
|
左室容量の増加
|
大動脈弁狭窄の雑音,大動脈弁閉鎖不全の雑音(4または5拍動後),および肺動脈弁閉鎖不全または肺動脈弁狭窄(直後)の雑音*を増強させ,三尖弁狭窄の雑音を減弱させる
|
|
|
後負荷および末梢動脈抵抗を増大させる
|
大動脈弁狭窄および閉塞性肥大型心筋症の雑音を減弱させ,僧帽弁逆流および大動脈弁閉鎖不全の雑音,ならびに,僧帽弁狭窄の拡張期雑音を増強させる
|
|
|
右心への静脈還流を減少させ,同時に後負荷および末梢抵抗を増加させる
|
大動脈弁閉鎖不全,大動脈弁狭窄,僧帽弁逸脱,および僧帽弁逆流の雑音,ならびに,僧帽弁狭窄の拡張期雑音を増強させる;閉塞性肥大型心筋症の雑音を減弱させる
|
|
|
強い静脈拡張を引き起こし,右心への静脈還流を減少させる
|
閉塞性肥大型心筋症および僧帽弁逸脱の雑音を増強させる;大動脈弁狭窄の雑音を減弱させる
|
|
*肺動脈弁狭窄に対する影響を聴くには,患者を立たせる必要が生じることがある。
|
|
全ての心雑音は,胸部X線検査および心電図により評価される。診断を確定し,重症度を決定するために心エコー検査が必要になることが多く,重大な疾患が疑われる場合は通常,その後に心臓専門医への相談を行う。
摩擦音は音程の高い,ひっかくような音で,しばしば2つまたは3つの成分に分かれる;頻拍時には,摩擦音はほとんど連続しうる。
臨床医は,各心音および心雑音に注意しながら,心周期の各時相に意識を逐次集中させる。音の強さ,音程,持続時間,タイミング,および間隔を分析すると,正確な診断が下されることが多い。患者の心血管系を診察するたびに,前胸部の主要な聴診上および触診上所見の図を患者のカルテにルーチンに描くべきである。(心疾患患者へのアプローチ: 大動脈弁狭窄および僧帽弁逆流を有する患者の身体所見の図解。図 2: を参照)。そのような図があれば,各診察所見は比較が可能となる。
|
図 2
|
 |  |  |
|
大動脈弁狭窄および僧帽弁逆流を有する患者の身体所見の図解。
|
 |
|
雑音,性状,強度,および放散を示す。肺動脈弁閉鎖音は大動脈弁閉鎖音より大きい。左室(LV)の張り出しと右室(RV)の挙上(太い矢印)が確認できる。第4心音(S4)および収縮期振戦(TS)が存在する。a =大動脈弁閉鎖音;p=肺動脈弁閉鎖音;S1 =第1心音;S2
=第2心音;3/6=漸増-漸減性雑音の強度(頸部の両側に放散する);2/6=全収縮期心尖部漸増性雑音の強度;1+ =右室肥大による前胸部の軽度の挙上(矢印は挙上の方向);2+ =中等度の左室の突出(矢印は突出の方向)。
|
|
収縮期心音:
収縮期音には,第1心音(S1)およびクリックがある。S1および第2心音(S2)は心周期の正常な成分で,よく知られている“ドクンドクン”という音である。
S1は収縮期開始直後に起こり,主に僧帽弁閉鎖によるが,三尖弁閉鎖の成分を伴うこともある。それは,しばしば分裂し,音程の高い音である。S1は,僧帽弁狭窄では大きい。弁尖の硬化と硬縮による僧帽弁逆流では弱いか,あるいは聴取されないが,僧帽弁組織の粘液腫様変性または心室筋の異常(例,乳頭筋機能不全,心室拡張)による僧帽弁逆流では,しばしば明瞭に聴取される。
クリックは収縮期にのみ生じ,音程がより高く,持続時間がより短いことから,S1およびS2と区別される。血行動態の変化に応じて,収縮期の異なる時期にクリックが生じることがある。クリックは,1つのことも複数のこともある。
大動脈弁または肺動脈弁の先天性の狭窄におけるクリックは,異常な心室壁張力により起こると考えられている。これらのクリックは,収縮早期(S1のすぐ近く)で起こり,血行動態変化の影響を受けない。重度の肺高血圧で同様のクリックが生じる。僧帽弁または三尖弁の逸脱におけるクリックは,典型的に,収縮中期から後期に起こり,余分で長くなった腱索または弁尖にかかる異常な張力により起こると考えられる。
弁の粘液腫様変性によるクリックは収縮期にいつでも生じうるが,心室充満容量を一時的に減少させる手技(例,立位,バルサルバ手技)を行う間,S1に向かって移動する。(例えば,仰臥位により)心室充満容量が増大すると,クリックは特に僧帽弁逸脱において,S2に向かって移動する。理由は知られていないが,クリックの特徴は診察間で大きく異なり,クリックは生じたり消えたりすることがある。
拡張期心音:
拡張期心音には,第2,第3,および第4心音(S2,S3,およびS4),拡張期ノック音,ならびに僧帽弁音がある。収縮期心音と違って,拡張期心音は音程が低い;拡張期心音の強さはより弱く,持続時間はより長い。S2を除き,これらの音は成人では常に異常である。
S2は拡張期開始時に,大動脈弁および肺動脈弁の閉鎖により生じる。大動脈弁の閉鎖遅延または肺動脈弁の早期閉鎖がなければ,正常の場合,大動脈弁閉鎖は肺動脈弁閉鎖に先行する。大動脈弁閉鎖の遅延は左脚ブロックまたは大動脈弁狭窄において起こり,肺動脈弁の早期閉鎖はある種の早期興奮現象において起こる。肺動脈弁閉鎖の遅延は,右室からの血流増加(例,二次孔心房中隔欠損)または完全右脚ブロックにより起きることがある。心房中隔欠損における右室の血流増加も,大動脈弁および肺動脈弁の閉鎖における正常の呼吸性変動を消失させ,S2の固定性分裂を生じさせる。(例えば,膜性心室中隔欠損における)正常な右室容量の左-右シャントでは,固定性分裂は起こらない。単一S2は,(共通弁が存在するときに総動脈幹において)大動脈弁が逆流,高度に狭窄,または閉鎖しているときに生じることがある。
S3は心室が拡張しコンプライアンスがないときに,拡張早期に生じる。それは受動的拡張期心室充満時に生じ,成人では重篤な心室機能不全を示唆し,小児では正常となりうる。右室性S3は,(負の胸腔内圧が右室充満容量を増大させるため)(ときに吸気時にのみ),患者が仰臥位の状態で吸気時に最もよく聴こえる。左室性S3は,(心臓が胸壁により近接するため)患者を左側臥位にした状態で呼気時に最もよく聴こえる。
S4は拡張終期近くの心室充満が,心房収縮により増大し生じる。それはS3と同様に,聴診器のベル部で最もよく聴こえるか,またはベル部でしか聴取されない。吸気時に右室性S4は増大し,左室性S4は減弱する。S4はS3よりはるかにしばしば聴取され,より軽度の(通常,拡張期の)心室機能不全を示す。
S4は心房細動では(心房が収縮しないため)存在しないが,心筋虚血が生じている場合または心筋梗塞直後ではほとんど常に存在する。S3はS4の有無にかかわらず,重大な左室収縮機能不全に普通に認められ,S3を伴わないS4は左室拡張機能不全に普通に認められる。
重合性奔馬調律は,S3およびS4がみられるときに頻拍患者において起こり,それにより拡張期が短縮し2つの音が重なり合う。大きい音のS3およびS4は,患者を左側臥位にした状態で,心尖部で触知可能なことがある。
拡張期ノック音は拡張早期に,S3と同じ時相に起こる。それはS4を伴わず,より大きい鈍い音で,コンプライアンスのない,収縮した心膜による心室充満の急激な停止を示す。
僧帽弁狭窄,またはまれに三尖弁狭窄において,拡張早期に開放音が生じることがある。僧帽弁開放音は非常に音程が高く,短い音で,聴診器の膜部で最もよく聴こえる。僧帽弁狭窄が重度であるほど(すなわち,左房圧が高いほど),開放音はS2の肺動脈弁成分に近接する。強さは弁尖のコンプライアンスに関係する:開放音は弁尖が弾性を維持しているときは大きな音がするが,弁尖の硬化,線維化,および石灰化が進行するにつれて次第に弱くなり,最終的に消失する。僧帽弁開放音はときに心尖部で聴取されるが,胸骨左縁下部において最もよく聴取されるか,または胸骨左縁下部でのみ聴取されることが多い。
収縮期雑音:
収縮期雑音は正常の場合と異常の場合がある。収縮期雑音には収縮早期,中期,後期雑音,または全収縮期(汎収縮期)雑音がある。収縮期雑音は駆出性,逆流性,およびシャント性雑音に分けられる。
駆出性雑音は,(例えば大動脈弁または肺動脈弁の狭窄により)狭窄もしくは不整になった弁や流出路を通る前方乱流によって起こる。収縮中期の駆出性雑音が典型的で,血流の閉塞が進むにつれて通常,より大きな音になる漸増-漸減性の特徴を有する。狭窄および乱流が大きくなるほど,漸増期が長くなり,漸減期が短くなる。
収縮期駆出性雑音は,血行動態的に重大な流出路の狭窄がなくても生じることがあるため,障害を示唆しない。正常の乳児および小児ではしばしば軽い乱流があり,弱い駆出性雑音を生じている。高齢者では弁および血管の硬化のために,しばしば駆出性雑音が生じる。
妊娠中,多くの女性に,第2肋間胸骨左縁または右縁の弱い駆出性雑音が認められる。この雑音は血液量および心拍出量の生理的増加の結果,正常構造物を通過する流速が増加するために生じる。重症貧血を合併した妊娠では,この雑音が非常に強調されることがある。
逆流性雑音は,より抵抗の低い心腔への逆流または血流異常(例,僧帽弁逆流,三尖弁逆流,または心室中隔欠損による)を表す。逆流性雑音は典型的には全収縮期雑音で,高速で少量の逆流またはシャントでより大きくなり,多量の逆流やシャントでより弱くなる傾向がある。
シャント性雑音は,シャント部位(例,動脈管開存症,心室中隔欠損)で生じることもあれば,シャントから離れた位置の血行動態の変化(例,左-右シャントを伴う心房中隔欠損による肺動脈収縮期血流雑音)により生じることもある。
拡張期雑音:
拡張期雑音は常に異常で,ほとんどは拡張早期または中期だが,拡張後期(前収縮期)のこともある。拡張早期雑音は,典型的には大動脈弁または肺動脈弁の閉鎖不全により生じる。拡張中期(または拡張早期から中期)雑音は,典型的には僧帽弁または三尖弁の狭窄により生じる。拡張後期雑音は,洞調律の患者においてリウマチ性僧帽弁狭窄により生じうる。
心房の腫瘍または血栓による僧帽弁または三尖弁の雑音は消退することがあり,また,心臓内の腫瘤の位置が変わるために,体位の変更や診察のたびに変化することがある。
連続性雑音:
連続性雑音は全心周期を通じて生じる。連続性雑音は常に異常で,収縮期および拡張期全体を通じて連続的なシャント血流を示す。連続性雑音は様々な心欠損により生じることがある(心疾患患者へのアプローチ: タイミングによる雑音の病因表 4: を参照)。中には振戦を生じるものがあり,左右の心室肥大の徴候に関連するものが多い。シャント病変の肺動脈抵抗が上昇するにつれて,連続性雑音の拡張期成分は徐々に弱くなる。肺循環と体循環の抵抗が等しくなるときに,雑音が消えることがある。
動脈管開存症による雑音は,左鎖骨内側端直下の第2肋間で最も大きい。大動脈肺動脈窓の雑音は中央にあり,第3肋間レベルで聴取される。体循環の動静脈瘻の雑音は,病変部の直上で最もよく聴取され,肺循環の動静脈瘻および肺動脈分枝狭窄の雑音は,より広範にわたり胸部全体で聴取される。
妊娠中,胸部血管からの連続性静脈コマ音(乳房雑音)が連続性心雑音と間違えられることがある。
心膜摩擦音:
心膜摩擦音は,臓側心膜層と壁側心膜層の炎症性癒着部のずれにより生じる。心膜摩擦音は高調またはひっかくような音で,収縮期,拡張期と収縮期,または三相性(心房収縮により拡張後期の拡張成分が強調されるとき)の場合がある。心膜摩擦音は,なめし皮がこすり合わされるときに生じるような,軋るような音である。摩擦音は,患者が呼気で息を止め,前傾したり四つん這いになったりすると最もよく聴こえる。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
|