メルクマニュアル18版 日本語版
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胸痛

心臓,肺,食道,および大血管からは,胸部の同じ自律神経節を介して臓器性の求心性入力をもたらす。これらの臓器における痛み刺激は典型的には,胸部から生じているように感じられるが,求心性神経線維が背側神経節と重なり合うために,胸部の痛みは,上腕または肩を含む上腹部から顎までのどこにおいても(関連痛として)感じられうる。胸郭内器官からの痛み刺激は圧痛,鈍痛,灼熱痛,うずくような痛み,またときに鋭い痛みとして表現される不快感を生じうる。この感覚は臓器由来のものであるため,多くの患者は痛みがあることを否定し,単なる不快感であると主張する。

病因

多くの疾患により,胸痛または不快感が生じる。中には直ちに生命を脅かすものがある(例,急性心筋梗塞,不安定狭心症,胸部大動脈解離,緊張性気胸,食道破裂,肺塞栓症)。生命を脅かす可能性があるものもある(例,狭心症,心膜炎,心筋炎,気胸,肺炎,膵炎,様々な胸部悪性疾患)。その他,不快ではあるが,通常は危険でないものがある(例,胃食道逆流症[GERD],消化性潰瘍,食道運動障害,肋軟骨炎,胸部外傷,胆道疾患,帯状疱疹)。

小児および若い成人(30歳未満)における胸痛が心筋虚血から生じる可能性は低いが,20歳代の人で心筋梗塞が起こることもある。これらの年齢層においてより一般的な原因は筋骨格疾患または肺疾患である。

評価

病歴: 痛みの部位,持続時間,性質,痛みの質ならびに誘発因子と軽減因子が重要である。過去の心疾患,冠動脈攣縮を誘発しうる薬物(例,コカイン,トリプタン,ホスホジエステラーゼ阻害薬)の使用,および冠動脈疾患(CAD)または肺塞栓症の危険因子の存在(例,足の痛みまたは損傷,最近の固定,旅行,妊娠)は重要と考えられる。冠危険因子(例,高血圧,高コレステロール血症,喫煙,家族歴の存在)の有無により冠動脈の基礎疾患の可能性が変わるが,急性胸痛の原因診断には役立たない。

重篤な胸部疾患による症状は重複しかつ多岐にわたるが,ときに区別できる。顎または腕に放散する押し潰されるような痛みは,急性虚血または心筋梗塞を示唆する。患者はしばしば心筋虚血の痛みを消化不良と表現する。安静により軽快する労作性の痛みは狭心症を示す。背部に放散する引き裂かれるような痛みは,胸部大動脈解離を示唆する。横になると悪化し,制酸薬で軽減する上腹部から咽喉に放散する灼熱痛は,GERDを示唆する。発熱,悪寒,および咳は,肺炎を示唆する。重大な呼吸困難は,肺塞栓症または肺炎を示唆する。

痛みは,重篤な疾患でも軽微な疾患でも呼吸,体動,またはその両方により悪化することがあり,これらの誘因は特異的でない。短時間の(5秒未満),鋭い,間欠的な痛みは,重篤な疾患からはめったに生じない。

身体診察: 特異的ではないが,頻拍,徐脈,頻呼吸,低血圧,または低灌流の徴候(例,錯乱,青白い色,発汗)は,重篤な基礎疾患の可能性を増大させる。

呼吸音の一側性の欠如は気胸を示唆し,打診への共鳴および頸静脈の拡張は緊張性気胸を示唆する。発熱およびラ音は肺炎を示唆する。発熱は単独で肺塞栓症,心膜炎,急性心筋梗塞,または食道破裂により生じうる。心膜摩擦音は心膜炎を示唆する。第4心音(S4 ),乳頭筋機能不全の収縮後期雑音,またはその両方は心筋梗塞を示唆する。限局性中枢神経系異常,大動脈弁逆流雑音,または両腕間の脈拍もしくは血圧の著しい非対称は,胸部大動脈解離を示唆する。脚の腫脹および圧痛は深部静脈血栓症を示唆し,したがって肺塞栓症の可能性を示唆する。触診に対する胸部圧痛は急性心筋梗塞患者の約15%にみられるが,胸壁からの痛みの起源について特異性はない。

検査: 胸痛がある人に対する最小限の検査には,パルスオキシメトリー,心電図,および胸部X線がある。成人では,心臓マーカーの血液検査がしばしば行われる。これらの検査結果を病歴聴取および身体診察の所見と組み合わせ,特異的診断を追求すべきである。血液検査は第1スクリーニングとしては有益でない。特に,各種心臓マーカーの単回の検査が正常であっても,これを心性原因の除外に使用するべきでない。もし心筋虚血の可能性が高い場合は,検査に心臓マーカーおよび心電図の連続的測定が含まれるべきであり,負荷心電図または負荷画像診断も含まれうる(冠動脈疾患: 検査を参照 )。

ニトログリセリン舌下錠や経口液体制酸薬の診断的試用では,心筋虚血がGERDまたは胃炎と十分に鑑別されない。どちらの薬物も,いずれかの疾患の症状を軽減しうる。

治療: 特異的に同定された疾患を治療する。病因が明らかに良性でない限り,患者は通常,心臓モニタリングおよびより徹底的な評価を行うための病院または観察棟に入院する。症状は,診断の結果が出るまで必要に応じてアセトアミノフェンまたはオピオイドで治療する。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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