メルクマニュアル18版 日本語版
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起立性低血圧

起立性(体位性)低血圧は,直立姿勢をとったときの過度の血圧低下(典型的には20/10mmHgを上回る)である。ふらつき感,浮遊感,めまい,錯乱,または視力障害が,立位から数秒以内に起こる。患者の中には,失神(心疾患患者へのアプローチ: 失神を参照 ),さらには全身痙攣を経験する者もいる。運動または大食が症状を悪化させることがある。関連するその他の症状および徴候のほとんどが原因に関連したものである。起立性低血圧は種々の原因による血圧調節異常の表れであり,特定の疾患ではない。

起立性低血圧は高齢者の約20%に起こり,合併症,特に高血圧を有する者,および長期養護施設の入所者においてより多くみられる。多くの転倒は未認識の起立性低血圧により起こることがある。症状は食事および迷走神経刺激(例,排尿,排便)の直後に,より重症化する傾向がある。

体位性起立性頻拍症候群(POTS): 体位性起立性頻拍症候群(体位性自律性頻拍,または,慢性もしくは特発性の起立耐性失調とも呼ばれる)は,若年患者における起立耐性失調症候群である。頻拍および様々な症状(例,疲労,浮遊感,運動不耐性,認知障害)が立位で起こるが,血圧はほとんどあるいは全く低下しない。症状の理由は明らかでない。

病態生理

正常では,急に起立すると重力負荷により,下肢および体幹の容積静脈への血液(12〜1L)の貯留が起こる。続いて起こる静脈還流量の一時的な減少により,心拍出量,したがって血圧が低下する。最初の影響は脳灌流の低下であるが,血圧低下により常に脳灌流が低下するわけではない。

大動脈弓および頸動脈小体の圧受容体は,速やかに血圧を正常化させる自律神経反射を促進することにより,低血圧に反応する。交感神経系は心拍数および収縮力を増大させる。そのとき,容積血管の血管運動緊張は増加する。同時に起こる副交感神経性(迷走神経)抑制も,心拍数を増加させる。立位を続けると,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化および抗利尿ホルモンの分泌により,Naと水の貯留および循環血液量の増加が起こる。

病因

疾患または薬物により自律神経反射弓の求心性,中枢性,もしくは遠心性部分が障害される場合,心筋収縮力もしくは血管反応性が低下する場合,循環血液量が減少する場合,またはホルモン反応が不十分な場合に,恒常性維持機構が不十分となり,血圧低下を回復できなくなることがある( 心疾患患者へのアプローチ: 起立性低血圧の原因表 6: 表を参照)。

表 6

起立性低血圧の原因

原因

神経学的(自律神経機能不全を含む)

中枢性

多系統萎縮症(以前のシャイ-ドレーガー症候群)

 

パーキンソン病

 

脳卒中(多発性)

脊髄

脊髄癆

 

横断性脊髄炎

 

腫瘍

末梢

アミロイドーシス

 

糖尿病性,アルコール性,または栄養神経障害

 

家族性自律神経失調症(ライリー-デイ症候群)

 

ギラン-バレー症候群

 

腫瘍随伴症候群

 

純粋自律神経失調症(以前は特発性起立性低血圧症と呼ばれた)

 

外科的交感神経切除術

心血管

循環血液量減少

副腎不全

 

脱水症

 

出血

血管運動トーヌスの低下

ベッド上安静(長期)

 

低カリウム血症

心拍出量の低下

大動脈弁狭窄

 

収縮性心膜炎

 

心不全

 

心筋梗塞

 

頻拍性不整脈または徐脈性不整脈

その他

高アルドステロン症*

 

末梢静脈不全

 

褐色細胞腫*

薬物

血管拡張薬

カルシウムチャネル拮抗薬

 

硝酸薬

自律神経作用性

α遮断薬(プラゾシン,フェノキシベンザミン)

 

降圧薬(クロニジン,メチルドパ,レセルピン,[まれに]β遮断薬)†

 

抗精神病薬(特にフェノチアジン)

 

モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)

 

三環系または四環系抗うつ薬

その他

アルコール

 

バルビツレート

 

レボドパ(パーキンソン病で[まれに])

 

ループ利尿薬(例,フロセミド)

 

キニジン

 

ビンクリスチン(神経毒性)

*仰臥位高血圧を引き起こす。

†症状は治療開始時に多くみられる。

高齢者における最も一般的な原因は,圧受容体の反応性低下と動脈のコンプライアンス低下である。圧受容体の反応性低下は,立位に反応した心臓促進を遅らせる。逆説的ではあるが,高血圧は圧受容体の感受性不良の一因となり,起立性低血圧に対する脆弱性を高めることがある。食事後の起立性低血圧もよくみられる。食事後の起立性低血圧は,高炭水化物の食事に対するインスリン反応および消化管内の血液貯留によっても起こり,この症状はアルコール摂取により悪化する。

評価

起立性低血圧は,血圧測定値の著明な低下があり,低血圧を示唆する症状が,起立により起こり横臥により軽減されるときに診断される。原因を検索しなければならない。

病歴: 既知の誘因(例,薬物,ベッド上安静,体液喪失)および自律神経不全の症状(例,視覚障害[散瞳および調節不能による],失禁,便秘,高熱不耐性[発汗障害による],インポテンス)について患者に尋ねる。神経疾患,心血管疾患,および悪性疾患のその他の症状に注意する。

身体診察: 血圧および心拍数は仰臥位の5分後,および立位の1分後と3分後に測定し,起立できない患者は起座位にして評価する。心拍数の代償的増加を伴わない低血圧(10拍/分未満)は自律神経障害を示唆し,顕著な増加(100拍/分を上回る)は血液量減少,または低血圧を伴わない症状がみられる場合は体位性起立性頻拍症候群を示唆する。自律神経障害を示唆するその他の所見にはパーキンソン症候群がある。

検査: 心電図,血清電解質,およびグルコースをルーチンに検査する。しかしながら,これらの検査およびその他の検査は通常,特異的な症状が示唆されない限りほとんど有益でない。

自律神経機能の評価を行ってもよい。自律神経系が完全な場合,心拍数は吸気に反応して増加する。患者が1分間ゆっくりと深く呼吸する(吸気約5秒間および呼気約7秒間)のに従い心臓をモニタリングする。呼気時の最長拍動間隔(R-R)は正常では,少なくとも吸気時の最低拍動間隔の1.15倍で,これより短い間隔は自律神経機能不全を示唆する。安静時と10〜15秒間のバルサルバ手技の間に,同様の拍動間隔の変化が存在するはずである。拍動間隔が異常な患者,または自律神経の症状や徴候がみられる患者は糖尿病,パーキンソン病,および,おそらく多系統萎縮症(自律神経系: 多系統萎縮症を参照 )ならびに純粋自律神経失調症(自律神経系: 純粋自律神経不全を参照 )のさらなる評価を必要とし,純粋自律神経失調症では,患者を仰臥位および立位にした状態での血漿中のノルエピネフリンまたはバソプレシンの測定が必要になることがある。

ティルト試験(心血管検査および手技: 傾斜台を用いた検査を参照 )は仰臥位および立位の血圧評価を全く変えずに,脚筋収縮による静脈還流の増加をなくす。患者は30〜45分の血圧評価の間,体を起こしたままでよい。自律神経機能不全が疑われるときに行われる。原因としての薬物を確認するために,疑わしい薬物の量を減らすか,または薬物を中止してもよい。

予防と治療

長期のベッド上安静を要する患者は毎日起座位になり,可能なときにベッドで運動すべきである。患者は,臥位または座位からゆっくり起き上がり,適切な水分を摂取し,アルコール摂取を制限するか避け,可能なときに定期的に運動すべきである。規則正しい適度な強度の運動は全体的な血管トーヌスを促進し,静脈への血液のプーリングを減少させる。高齢患者は長時間立っていることを避けるべきである。ベッドの頭部を上げて寝ることはNa保持を促進し,夜間利尿を減らして症状を軽減することがある。

食後低血圧は,食事の量や炭水化物含量を減らし,アルコール摂取を最小限にし,食後の突然の起立を避けることでしばしば防ぐことができる。

腰までの高さのぴったりと合った弾性ストッキングにより起立後の静脈還流,心拍出量,および血圧が上昇することがある。耐えられないことが多いが,重症例では膨張式の飛行士用抗重力服により下肢および腹部に十分な対圧を生じさせることが必要な場合もある。

Na摂取量の増加は血管内容量を増加させ,症状を低減する。心不全または高血圧がみられない場合,食物に塩を多く入れたり塩化ナトリウム錠剤を摂取したりすることにより,通常の食事よりも5〜10g多くNaを摂取できる。この方法は,特に高齢患者または心筋機能障害患者においては心不全のリスクを生じさせるが,心不全を伴わない就下性浮腫の発現は,この方法の継続に対し禁忌とならない。

鉱質コルチコイドであるフルドロコルチゾンはNa貯留を引き起こし,それにより血漿量が増加し,またしばしば症状が軽減するが,Na摂取が十分であるときのみに効果的である。投与量は0.1mg,経口投与,就寝時であり,1mgに達するか末梢浮腫が起きるまで週1回増量する。この薬物は交感神経刺激に対する末梢血管収縮反応も改善しうる。仰臥位高血圧,心不全,および低カリウム血症が起こることがあり,カリウム補給薬が必要になることがある。

動脈と静脈の両方の収縮薬である末梢α作動薬のミドドリンがしばしば効果的である。投与量は2.5mg〜10mg,経口投与,1日3回である。副作用には,感覚異常およびそう痒(恐らく起毛による二次的なもの)が含まれる。この薬物は冠動脈疾患患者や末梢動脈疾患患者には推奨されない。

NSAID(例,インドメタシン25〜50mg,経口投与,1日3回)はプロスタグランジンによる血管拡張を阻害し,末梢血管抵抗を増加させることがある。しかしながら,NSAIDは胃腸症状および望ましくない昇圧反応(インドメタシンと交感神経作用薬の同時投与において報告されている)を引き起こすことがある。

ノルエピネフリンの前駆体であるジヒドロキシフェニルセリンは,自律神経機能不全に有益なことがある(限られた試験で報告されている)。

プロプラノロールまたはその他のβ遮断薬は,Naと鉱質コルチコイド療法の有効性を高める可能性がある。プロプラノロールによるβ遮断は,非拮抗状態のαアドレナリン作動性の末梢血管収縮を引き起こし,一部の患者で起立時に生じる血管拡張を防ぐ。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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