メルクマニュアル18版 日本語版
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負荷試験

負荷試験では,梗塞の潜在リスクがある虚血領域を同定できるように,心臓需要の増加が誘発されている間,心電図およびしばしば画像診断により心臓をモニターする。心拍数が年齢別に予測された最大値の85%(目標心拍数)に達するか,症状が出るかのいずれかが起こるまで心拍数を上げる。

負荷試験は,冠動脈疾患(CAD)の診断,および,既知の冠動脈疾患患者のリスクの層別化やモニタリングに用いられる。冠動脈疾患患者では,安静時には十分な血液供給が,運動またはその他の形態の負荷により心臓需要が増加するときに不十分になることがある。負荷試験は心臓カテーテル法よりも侵襲度が低く安価であり,血流の病態生理学的異常を検出するが,冠動脈疾患の検査前確率が低い患者の診断はそれほど正確でない。カテーテル法施行中に冠動脈造影で同定される冠動脈解剖異常の機能的意義を,負荷試験により明確化できる。

負荷試験のリスクには梗塞および突然死があり,およそ5000人の試験患者に対して1人の割合で起こる。負荷試験にはいくつかの禁忌がある(心血管検査および手技: 運動負荷試験の禁忌表 7: 表を参照)。患者は試験前の4〜6時間,絶食しなければならない。

表 7

運動負荷試験の禁忌

絶対禁忌

相対禁忌

急性冠動脈症候群(48時間以内に心筋梗塞,またはコントロール不良の不安定狭心症)

大動脈解離(急性)

症候性または重度の大動脈弁狭窄

症候性または血行動態的に重大な不整脈

非代償性の心不全

急性の心筋炎または心膜炎

急性の肺塞栓症または肺梗塞

高度の房室ブロック

徐脈性不整脈

電解質不均衡

高血圧(収縮期> 200mmHgまたは拡張期> 110mm Hg)

閉塞性肥大型心筋症

精神障害または身体障害のために十分に運動できない

中等度または重度の心臓弁狭窄

左主幹動脈の狭窄

全身疾患

頻拍性不整脈

負荷測定法

心臓需要は運動または薬物により増加できる

運動負荷試験: 運動は虚血を誘発するストレス因子をより厳密に再現できるため,心臓需要を増加させる薬物よりも好まれる。通常,患者は目標心拍数に達するまで,または症状が起こるまで,ブルースのプロトコルまたは類似の運動スケジュールに基づいて従来のトレッドミルの上を歩く。ブルースのプロトコルはトレッドミルの速度と勾配を約3分の間隔をあけて徐々に増加させる。

薬理学的負荷試験: 薬理学的負荷試験は通常,体調不良,筋骨格疾患,肥満,末梢動脈疾患,またはその他の疾患のために,患者が自らの目標心拍数に達するほど十分長い間トレッドミルの上を歩くことができないときに用いられる。使用される薬物にはジピリダモール静注,アデノシン,およびドブタミンがある。

ジピリダモールは内因性アデノシンの作用を増強し,冠動脈の血管拡張を引き起こす。ジピリダモールは正常な冠動脈における心筋の血流を増加させるが,狭窄より遠位の動脈では増加させず,狭窄した動脈からの“盗血”現象および灌流の不均衡を生じさせる。ジピリダモールにより誘発された虚血またはその他の副作用(例,悪心,嘔吐,頭痛,気管支痙攣)は患者の約10%に起こるが,これらの作用はアミノフィリン静注で回復可能である。重度の反応は患者の1%未満で起こる。禁忌には喘息,急性期心筋梗塞,不安定狭心症,重大な大動脈弁狭窄,および全身性低血圧(収縮期血圧が90mmHg未満)がある。

アデノシンはジピリダモールと同様の作用を有するが,血漿中で急速に分解されるため持続静注しなければならない。副作用には一過性の紅潮および胸痛があり,注入を中止することにより回復可能である。

ドブタミンは,(例,喘息または第2度房室ブロックの患者で)ジピリダモールおよびアデノシンが禁忌のとき,また心臓の描出に心エコー検査が用いられるときに主に使用される,変力作用および変時作用をもつ血管拡張薬である。ドブタミンは,重度の高血圧または不整脈,左室流出路閉塞,多発性陳旧性心筋梗塞,または急性心筋梗塞を有する患者では慎重に使用しなければならない。

キサンチン化合物(例,アミノフィリン,テオフィリン,カフェイン)は,ジピリダモール負荷試験において偽陰性の結果を生じることがあるため,そのような物質(紅茶やコーヒーを含む)は,試験前24時間は避けるべきである。

診断法

運動負荷または薬理学的負荷後のいくつかの画像検査により虚血を検出できる。

冠動脈疾患を診断し予後の判定を助けるために,負荷試験とともに 心電図が常に用いられる。心電図は,年齢と性別に基づく冠動脈疾患の可能性が中程度で,安静時の心電図が正常な患者において最も有用である。診断においてはST部分の反応(全般的な心内膜下虚血の指標),血圧反応,および患者の症状の評価を行う。平均感度は67%,平均特異度は72%である。感度および特異度は女性のほうが低く,これは冠動脈疾患の発生率が若年および中年の女性で低いことが一因である。ST低下が大きいと予後は悪化する。

放射性核種心筋灌流イメージング心血管検査および手技: 心筋灌流イメージングを参照 )は心電図負荷試験よりも感度(85〜90%)および特異度(70〜80%)が高く,両試験の所見を組み合わせることで冠動脈疾患に対する感度が増す。心筋灌流イメージングは,負荷試験中の心電図変化の解釈を妨げる可能性がある心電図基線の異常を伴う患者(例,脚ブロックの患者,固定レート型ペースメーカー移植患者,ジギタリス服用患者)で特に有用である。また,運動時心電図で偽陽性の確率が高い群(例,閉経前の女性,僧帽弁逸脱患者)でも有用である。この画像検査は,外科医がバイパスすべき病変を選択するときや,経皮的冠動脈形成術による拡張を行うときに,冠動脈造影により同定された冠動脈狭窄の機能的意義を判定するのに役立つことがある。

心エコー検査は灌流だけでなくそれ以上の情報が必要なときに有用である;心エコー検査は,局所虚血の徴候である壁運動異常を検出し,ドプラ法を用いて,虚血の一因となりうる,または虚血に起因しうる弁膜異常を評価するのに役立つ(心血管検査および手技: 心エコー検査を参照 )。心エコー図は典型的には,運動トレッドミル検査の直前および直後,またはドブタミン注入中に得る。心エコー検査は比較的移動しやすく,電離放射線を使用せず,取得時間が短く,安価であるが,肥満患者および慢性閉塞性肺疾患と肺の過膨張がみられる患者では施行が難しい。専門家が行うと,負荷心エコー検査では,負荷心筋放射性核種灌流検査と同様の予測値が得られる。

放射性核種心室造影法は,冠動脈疾患患者の最良の予後指標である運動時駆出率(EF)を評価するために,心エコー検査の代わりに運動時負荷試験とともにときに使用される。正常の場合,運動時の駆出率は安静時よりも5%以上高い。心室機能障害(例,心臓弁膜症,心筋症,または冠動脈疾患による)は運動時の駆出率をベースライン以下にするか,または増加を妨げることがある。冠動脈疾患患者の8年生存率は,運動時の駆出率が40〜49%の場合80%,30〜39%の場合75%,30%未満の場合40%である。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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