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高血圧緊急症は,標的器官(主に脳,心血管系,および腎臓)への障害の徴候を示す重症高血圧である。診断は血圧測定,心電図,尿検査,血清BUNおよびクレアチニンの測定により行う。静注薬(例,ニトロプルシド,β遮断薬,ヒドララジン)を用いた速やかな降圧により治療する。
標的器官障害には,高血圧性脳症,子癇前症および子癇,肺水腫を伴う急性左室不全,心筋虚血,急性大動脈解離,腎不全がある。障害は急速に進行し,しばしば致死的である。
高血圧性脳症では,脳血流量自動調節の破綻が関与していると考えられる。正常の場合,血圧が上昇するにつれて,脳灌流量を一定に保つために脳血管が収縮する。平均動脈圧(MAP)の約160mmHg(血圧が急上昇する正常血圧の人ではこれより低い値)を超えると,脳血管が収縮を保つよりむしろ拡張し始める。その結果,著しい血圧上昇が直接毛細血管床に波及するとともに,血漿が脳に漏出および滲出し,乳頭水腫などの脳浮腫を来す。その他の標的器官の症状の病態生理学は,本書の別の個所で論じる。
脳卒中および頭蓋内出血の多くの患者に血圧上昇がみられるが,血圧上昇はしばしば症状の原因というよりむしろ結果である。これらの症状において速やかな降圧が有益かどうかは不明であり,有害になることさえある。
高血圧切迫症:
標的器官障害を伴わない(おそらく1〜3度網膜症を除く―動脈高血圧: 診断を参照 )著しい血圧上昇(例,拡張期血圧が120〜130mmHgを上回る)は,高血圧切迫症と考えられることがある。こうしたレベルの血圧はしばしば医師を心配させるが,急性合併症は起こりにくいため,速やかな降圧は不要である。しかしながら,患者は2剤の経口薬の併用を開始すべきであり(動脈高血圧: 高血圧に対する薬物を参照 ),密接な評価を(治療効果の評価とともに)外来で継続すべきである。
症状,徴候,診断
血圧は上昇し,しばしば顕著に上昇する(拡張期血圧が120mmHgを上回る)。中枢神経系症状には急速に変化する神経学的異常(例,錯乱,一過性の皮質性黒内障,不全片側麻痺,片側感覚消失,けいれん)がある。心血管症状には胸痛および呼吸困難がある。進行した腎不全による重度の高窒素血症が嗜眠または悪心を引き起こすことがあるが,腎臓の障害は無症候性のことがある。
身体診察では神経学的検査,眼底検査,および心血管検査を用い,標的器官に重点を置く。局所障害を伴うまたは伴わない全体的な脳の異常(例,錯乱,鈍麻,昏睡)は脳症を示唆し,局所障害を伴う正常な精神状態は脳卒中を示唆する。重度の網膜症(硬化症,綿状白斑点,細動脈狭窄,出血,乳頭水腫)は通常,高血圧性脳症とともにみられ,その他の高血圧緊急症の多くにおいて,なんらかの程度の網膜症がみられる。頸静脈怒張,肺基底部クラックル,および第3心音は肺水腫を示唆する。上腕脈拍の非対称性は大動脈解離を示唆する。
典型的な検査には心電図,尿検査,血清BUN,血清クレアチニンがある。神経学的所見がみられる患者では,頭蓋内出血,浮腫,または梗塞を診断するために頭部CTが必要である。胸痛または呼吸困難がある患者では,胸部X線検査が必要である。標的器官障害を示唆する心電図異常には,左室肥大または急性虚血の徴候がある。腎臓の障害に典型的な尿検査異常には,赤血球,赤血球円柱,および蛋白尿がある。
診断は著しい血圧上昇の存在,および標的器官障害の所見に基づいて下される。
治療
高血圧緊急症はICUで治療し,血圧は短時間作用型の調節可能な静注薬を用いて(急激にではないにしても)漸次低下させる。薬物の選択,降圧の速度および程度は,障害を受けた標的器官によりある程度異なるが,一般に1時間程度の間に平均動脈圧を20〜25%下降させるのが適切であり,症状に応じてさらに調節する。“正常”血圧を緊急に得る必要はない。典型的な第1選択薬にはニトロプルシド,フェノルドパム,ニカルジピン,およびラベタロールがある(動脈高血圧: 高血圧緊急症に対する非経口薬剤表 11: を参照)。ニトログリセリン単独では効果がより弱い。
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表 11
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高血圧緊急症に対する非経口薬剤
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薬物
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投与量
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副作用*
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特別な適応
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ニトロプルシドナトリウム
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0.25–10 μg/kg/分,点滴静注† (10分間のみ最高用量)
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悪心,嘔吐,興奮,筋収縮,発汗,鳥肌(血圧が急激に下降した場合),チオシアン酸およびシアン化物の毒性
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ほとんどの高血圧緊急症;頭蓋内圧が高い患者または高窒素血症の患者には慎重投与すべきである
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ニカルジピン
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5–15mg/時間,静注
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頻拍,頭痛,紅潮,局所静脈炎
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急性心不全を除くほとんどの高血圧緊急症;心筋虚血患者には慎重投与すべきである
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フェノルドパム
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0.1–0.3 μg/kg/分,点滴静注;最大用量1.6μg/kg/分
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頻拍,頭痛,悪心,潮紅,低カリウム血症,緑内障患者における眼圧上昇
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ほとんどの高血圧緊急症;心筋虚血患者には慎重投与すべきである
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ニトログリセリン
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5–100 μg/分,点滴静注†
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頭痛,頻拍,悪心,嘔吐,不安,落ち着きのなさ,筋収縮,動悸,メトヘモグロビン血症,長期投与に伴う耐性
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心筋虚血,心不全
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エナラプリラート
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0.625–5mg,6時間毎,静注
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高レニン状態における血圧の急激な低下,様々な反応
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急性左室不全;急性心筋梗塞では避けるべきである
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ヒドララジン
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10–40mg,静注
10–20mg,筋注
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頻拍,潮紅,頭痛,嘔吐,狭心症の悪化
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子癇
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ラベタロール
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20mg,静注内ボーラス投与を2分,その後10分毎に40mg,その後さらに80mgを最大3回まで;または,0.5–2mg/分を点滴静注
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嘔吐,頭皮の刺痛,喉の灼熱,めまい,悪心,心ブロック,起立性低血圧
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急性左室不全を除くほとんどの高血圧緊急症;喘息患者では避けるべきである
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エスモロール
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250–500 μg/kg/分を1分間,次に50–100 μg/kg/分を4分間;これを繰り返してよい
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低血圧,悪心
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大動脈解離の手術前後
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フェントラミン
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5–15mg,静注
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頻拍,潮紅,頭痛
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過度のカテコールアミン
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| *全ての薬物で低血圧が起きることがある。 |
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†特別な投薬システム(例,ニトロプルシドの注入ポンプ,ニトログリセリンの非塩化ビニルチューブ)が必要である。
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経口薬は作用発現が一定せず調節が困難なため適応にならない。経口の短時間作用型ニフェジピンは速やかに降圧させるが,心血管および脳血管の急性イベント(ときに致死的)につながることがあるため,推奨されない。
ニトロプルシドは静脈および動脈の拡張作用があり,前負荷および後負荷を軽減することから,心不全を伴う高血圧患者に最も有用である。ニトロプルシドは高血圧性脳症にも用いられ,β遮断薬とともに大動脈解離に用いられる。開始用量は0.25〜1.0μg/kg/分で,最大8〜10μg/kg/分まで0.5μg/kgずつ漸増し,シアン化物毒性のリスクを最小限にするために最大用量の投与は10分以内にとどめる。
薬物は速やかにシアン化物と一酸化窒素(活性部分)に分解される。シアン化物はチオシアン酸へと解毒される。しかしながら,2μ
g/kg/分を超えて投与するとシアン化物が蓄積し,中枢神経系および心臓に毒性をもつことがあり,発現症状には興奮,発作,心臓不安定,およびアニオンギャップを伴う代謝性アシドーシスがある。長期投与(1週間を超える,または腎不全患者では3〜6日)はチオシアン酸の蓄積につながり,嗜眠,振戦,腹痛,および嘔吐が生じる。その他の副作用には,血圧が急激に下降しすぎる場合の毛包の一過性隆起(鳥肌)がある。チオシアン酸濃度は治療後3日間連続で毎日モニタリングされるべきであり,もし血清中チオシアン酸濃度が12mg/dL(2μmol/dL)を上回るならば,投薬を中止すべきである。この薬物は紫外線により分解されるため,静注のバッグおよびチューブは不透明の被覆に包む。
フェノルドパムは,全身および腎臓の血管拡張およびナトリウム排泄を引き起こす末梢のドパミン(D1受容体)作動薬である。フェノルドパムは作用発現が速く半減期が短いために,ニトロプルシドの代替薬として効果的であり,さらに血液脳関門を通過しないという利点がある。初回投与量は0.1μg/kg/分を点滴静注で,15分毎に,最大1.6μg/kg/分まで0.1μg/kgずつ漸増する。
ニトログリセリンは細動脈よりも静脈に影響を及ぼす血管拡張薬である。ニトログリセリンは,冠動脈バイパスグラフト術の術中と術後の高血圧,急性心筋梗塞,不安定狭心症,および急性肺水腫の管理に用いることができる。重度の冠動脈疾患患者には,ニトロプルシドよりニトログリセリン静注が好ましいが,これは,ニトログリセリンが冠血流量を増大させるのに対して,ニトロプルシドナトリウムは虚血部位への冠血流量を減少させる傾向があるためであり,おそらく“盗血”機序のためと考えられる。開始用量は10〜20μg/分で,最大の降圧効果を呈するまで,5分毎に10μg/分ずつ漸増する。長期的な血圧管理には,ニトログリセリンをその他の薬物と併用しなければならない。最もよくみられる副作用は頭痛(約2%)であり,その他の副作用には頻拍,悪心,嘔吐,不安,落ち着きのなさ,筋収縮,および動悸がある。
ニフェジピンよりも陰性変力作用が弱いジヒドロピリジンカルシウムチャネル拮抗薬であるニカルジピンは,主に血管拡張薬として作用する。ニカルジピンは術後高血圧および妊娠中に最もよく使用される。用量は5mg/時を静注で,最大15mg/時まで,15分毎に増量する。潮紅,頭痛,および頻拍が起きることがあり,腎不全患者の糸球体濾過率を減少させることがある。
ラベタロールは,多少のα1遮断効果をもつβ遮断薬であり,したがって,反射性頻拍を典型的に伴わずに血管拡張を生じる。ラベタロールは持続注入または頻回ボーラス投与される;ボーラス投与により重大な低血圧が生じることは示されていない。ラベタロールは,妊娠中,血圧のコントロールが必要な頭蓋内疾患,および心筋梗塞後に使用される。注入は0.5〜2mg/分で,最大4〜5mg/分まで漸増する。ボーラス投与は20mgの静注から開始し,その後10分毎に40mg,さらにその後80mg(3回まで)を最大合計300mgまでとする。副作用はごくわずかだが,ラベタロールにはβ遮断作用があるため,喘息患者における高血圧緊急症には使用するべきでない。ニトログリセリンを同時に投与するならば,左室不全に対して低用量を使用してもよい。
最終改訂月 2007年7月
最終更新月 2005年11月
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