メルクマニュアル18版 日本語版
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狭心症

狭心症は,一過性心筋虚血による前胸部の不快感または圧迫感を伴う臨床症候群である。狭心症は典型的には労作により増悪し,安静またはニトログリセリン舌下にて軽快する。診断は症状,心電図,および心筋画像検査により行う。治療には,硝酸薬,β遮断薬,カルシウムチャネル拮抗薬,および,冠動脈形成術または冠動脈バイパスグラフト術が含まれる。

病因と病態生理

狭心症は,心仕事量およびそれによる心筋O2需要が,冠動脈の十分な酸素化血液の供給能を上回るときに発症し,動脈が狭窄しているときにも発症しうる。狭窄は通常はアテローム硬化の結果生じるが,冠動脈攣縮,またはまれに冠動脈塞栓の結果生じることもある。急性冠動脈血栓症は,閉塞が部分的または一過性の場合に狭心症を引き起こすことがあるが,通常は心筋梗塞を引き起こす。

心筋O2需要は主に心拍数,収縮期の壁張力,および収縮力により決定されるため,冠動脈狭窄は典型的には,労作時に起こり安静により軽快する狭心症を引き起こす。

心仕事量は,労作のほか,高血圧,大動脈弁狭窄,大動脈弁閉鎖不全,または肥大型心筋症などの障害により増加することがある。そのような症例において,アテローム硬化の発症の有無にかかわらず狭心症が起きることがある。また,これらの障害では心筋量が増加する(拡張期血流量を減少させる)ため,相対的な心筋灌流量が低下することもある。

O2供給量の減少は,重度の貧血または低酸素症の場合と同様,狭心症を誘発または悪化させうる。

安定狭心症では,仕事量または需要と虚血との関係は通常,比較的予測可能である。しかしながら,アテローム性の動脈狭窄は完全に固定性ではなく,全ての人に起こる動脈緊張の正常変動に伴い変化する。したがって,動脈緊張が比較的高くなる朝に狭心症を発症する人が多い。また,内皮機能の異常が動脈緊張の変動の一因となることがある;例えば,アテロームによる障害を受けた内皮では,カテコールアミンの急上昇による負荷が血管拡張(正常反応)よりもむしろ血管収縮を引き起こす。

心筋が虚血に陥ると,冠静脈洞血pHの低下,細胞内カリウムの喪失,乳酸の蓄積,心電図異常の出現,心室機能の悪化が起こる。狭心症発症中には,左室(LV)拡張期圧が上昇することが多く,ときに肺うっ血および呼吸困難を誘発する。虚血が不快感を生じる正確な機序は不明だが,低酸素性代謝物による神経刺激が関与していると考えられる。

症状と徴候

狭心症では,漠然とした,ほとんど気にならない痛みを生じることもあれば,前胸部が押しつぶされるような重度かつ強い感覚が急激に生じることもある。それが痛みとして表現されることはまれである。不快感が感じられる部位は様々であるが,胸骨の裏側が最も一般的である。不快感は左肩から左腕内側を下方に,さらには指に;直接背中に;喉,顎,および歯に;ときに右腕内側を下方に放散することがある。上腹部に感じられることもある。

しばしば消化不良症状と表現される非典型的な狭心症(例,膨満,ガス,腹部不快感)を示す患者もおり,げっぷにより症状が軽快するように思われることもある。しばしば虚血を伴う,急激かつ可逆性の左室充満圧の上昇による呼吸困難を示す患者もいる。患者の説明が不正確なことが頻繁にあり,問題が狭心症なのか,呼吸困難なのか,またはその両方なのかの見極めが困難なことがある。虚血症状は消散するのに1分以上かかるため,短時間で一過性の感覚はめったに狭心症を示さない。

狭心症の発作と発作の間,さらには発作中でも,身体所見が正常なことがある。しかしながら,発作中は,心拍数は軽度に増加することがあり,血圧は上昇することが多く,心音はより小さくなり,心尖拍動の範囲が広がる。前胸部の触診では,局所の収縮期隆起または奇異性運動が認められることがあるが,これは心筋セグメントの虚血および局所ジスキネジアを反映している。虚血発作中は左室駆出が延長するため,第2心音は奇異性となることがある。第4心音が聴取されることが多い。もし虚血が局所乳頭筋機能不全を引き起こし,僧帽弁逆流を生じるならば,収縮中期または収縮後期の心尖部雑音高調な音であるが,特に大きくはないが生じることがある。

狭心症は典型的には労作または強い感情が引き金となり,通常,持続時間は数分以内で,安静により消失する。労作に対する反応は,通常は予測可能であるが,一部の患者では,動脈緊張の変動のために,その日は耐容された運動が翌日に狭心症を誘発することがある。食後の労作または寒冷な気候での労作により症状が悪化し,風の中を歩行中に,あるいは暖かい部屋から出て冷たい空気に初めて接触するときに,発作が誘発されることがある。症状の重症度は,狭心症に至る労作の程度により分類されることが多い(冠動脈疾患: カナダにおける狭心症の心血管分類法表 1: 表を参照)。

表 1

カナダにおける狭心症の心血管分類法

クラス

胸痛を誘発する活動

1

激しい,速い,または長時間の労作

 

通常の身体活動(例,歩行,階段を上る)ではない活動

2

早足で歩行する

 

坂道を歩いて上る

 

階段を速く上る

 

食後に歩行する,または階段を上る

 

寒冷

 

 

情緒的ストレス

3

歩行する,通常のペースで平地を1〜2ブロック歩くのみでも

 

階段を上る,1階分上るのみでも

4

あらゆる身体活動

 

ときに安静

Adapted from Braunwald E, Antman EM, Beasley JW, et al: ACC/AHA Guidelines for the management of patients with unstable angina and non-ST segment elevation myocardial infarction: A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Committee on the management of patients with unstable angina). Journal of American College of Cardiology 36:970–1062, 2000.

発作は1日数回から,無症状の間隔が数週間,数カ月間,または数年間と様々である。発作は増加して(増強型狭心症と呼ばれる),致死的転帰をたどることもあるが,十分な側副冠動脈循環が発達する場合,虚血領域が梗塞する場合,または,心不全もしくは間欠性跛行が併発し活動が制限される場合は,次第に発作回数が減少または消失することもある。

夢により呼吸,脈拍,および血圧に著しい変化が生じる場合は,夜間狭心症が起きることがある。夜間狭心症は,夜間呼吸困難に相当する再発性左室不全の徴候であることもある。

狭心症は安静時に自然に生じることもある(安静時狭心症と呼ばれる)。安静時狭心症は通常,心拍数のわずかな上昇,およびときに血圧の著しい上昇を伴い,それによりO2需要が増加する。これらの上昇は,安静狭心症の原因,またはプラーク破裂および血栓形成に誘発された虚血の結果と考えられる。もし狭心症が軽快しなければ,満たされない心筋O2需要がさらに増加し,心筋梗塞になる可能性が高くなる。

個々の患者では,狭心症の特徴は通常,予測可能であるため,あらゆる変化(すなわち,安静狭心症,新規に発症した狭心症,狭心症の悪化)は重篤と考えられるべきである。このような変化は,不安定狭心症と呼ばれる(冠動脈疾患: 不安定狭心症を参照 )。

診断

典型的な胸部不快感があり,労作により誘発され,安静により軽快する場合は,本症が疑われる。胸部不快感が20分を超えて持続する患者,胸部不快感が安静時に起こる患者,失神または心不全を有する患者には,急性冠動脈症候群の評価を行う(冠動脈疾患: 急性冠症候群(ACS)を参照 )。胸部不快感は,冠血流量が損なわれていないときでも,消化器障害(例,逆流,食道痙攣,消化不良―上部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 胸痛を参照 ),肋軟骨炎,不安,パニック発作,過換気,およびその他の心疾患(例,心膜炎,僧帽弁逸脱,上室性頻拍,心房細動)により引き起こされることもある(心疾患患者へのアプローチ: 胸痛を参照 )。

検査: 典型的な労作性症状がみられる場合は,心電図の適応となる。 狭心症は安静により速やかに消失するため,負荷試験中を除いて,心電図は発作中にめったに実施できない。もし発作中に行われるならば,心電図は可逆的な虚血変化,すなわちST低下(典型的),ST上昇,R波減高,心室内または脚伝導障害,および不整脈(通常は心室性期外収縮)を示す傾向がある。典型的な狭心症歴のある患者,さらには広範な3枝病変患者においても,非発作時の安静時心電図(および通常は左室機能)は,約30%が正常である。残りの70%において,心電図は以前の梗塞,肥大,または非特異的なSTおよびT波(ST-T)の異常の証拠を示す。安静時心電図の異常のみでは,診断の確定も否定もできない。

より特異的な検査には,心電図または心筋画像検査(例,心エコー検査,核医学画像診断)を用いた負荷試験および冠動脈造影が含まれる。診断を確定し,疾患の重症度を評価し,患者の適正な運動水準を決定し,予後の予測を助けるために,さらに検査が必要である。

非侵襲的検査がまず考慮される。冠動脈疾患の場合,最も正確なのは,負荷心エコー検査,および単一光子放出型コンピュータ断層撮影(SPECT)またはポジトロン断層撮影(PET)を用いた心筋灌流イメージングである。しかしながら,これらの検査は心電図を用いた単純な負荷試験よりも高価である。

もし患者の安静時心電図が正常で運動できるならば,心電図を用いた運動負荷試験を行う。狭心症を示唆する胸部不快感がみられる男性において,負荷心電図試験の特異度は70%,感度は90%である。女性では感度は同様であるが,特に55歳未満の女性では,特異度はより低い(70%未満)。しかしながら,女性は男性に比べ,冠動脈疾患がみられる場合に,安静時心電図が異常となりやすい(32%対23%)。運動負荷心電図は,感度は適度に高いが,重度の冠動脈疾患(左主幹動脈,さらには3枝病変も)を見逃すことがある。非典型的な症状の患者で負荷心電図が陰性の場合は,通常,狭心症および冠動脈疾患は除外される;陽性の結果は冠動脈虚血を示すことも示さないこともあり,さらに検査する必要があることを示す。

安静時心電図が異常の場合,負荷心電図上では偽陽性のST変化がよくみられるため,患者は心筋イメージングを用いた負荷試験を受けるべきである。運動負荷または薬物負荷(例,ドブタミンまたはジピリダモールの注入)が用いられる。画像診断法の選択は,施設の利用可能性および専門性による。画像検査は左室機能および負荷に対する反応を調べるのに役立ち,虚血領域,梗塞領域,およびバイアビリティのある組織を同定して,リスクのある心筋の部位および範囲を決定する。負荷心エコー検査は,虚血に誘発された僧帽弁逆流も検出できる。

冠動脈造影(心血管検査および手技: 血管造影も参照 )は冠動脈疾患診断の標準であるが,診断確定に必須ではない。冠動脈造影は,血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパスグラフト[CABG]術)が考慮されているときに,主に冠動脈病変の位置を同定し重症度を評価するために適応される。労働またはライフスタイルの必要性(例,仕事またはスポーツ活動の中止)について助言するのに冠動脈の解剖学的構造の理解を要するときも,血管造影の適応となりうる。血管内径が70%を超えて狭窄しているとき,閉塞は生理学的に重要であるとみなされる。攣縮または血栓症が重なって生じていない限り,この狭窄は狭心症の存在とよく相関する。

血管内超音波検査では冠動脈構造の画像が得られる。血管造影時に,カテーテル先端の超音波探触子を冠動脈に挿入する。この検査からは,冠動脈解剖に関する情報が他の検査より多く得られ,病変の性質が不明のとき,または,明らかな疾患の重症度が症状の重症度と一致しないときに適応となる。血管形成術と併用すると,ステントの最適留置を確実に行う一助となる。

予後

主な不良転帰は,不安定狭心症,心筋梗塞,および不整脈による突然死である。心筋梗塞の既往がなく,安静時心電図と血圧が正常の狭心症患者における年間死亡率は,約1.4%である。しかしながら,冠動脈疾患がある女性の予後は,より悪い傾向がある。収縮期高血圧がみられるときの死亡率は約7.5%,心電図が異常のときは8.4%,両方が存在するときは12%である。Ⅱ型糖尿病では,それぞれの場合の死亡率が約2倍になる。

年齢の上昇,狭心症症状の重症度の上昇,解剖学的病変の存在,および心室機能の低下は予後を悪化させる。左主幹動脈または左前下行枝近位部の病変は,特にリスクが高い。予後は罹患冠動脈の数および重症度と相関するが,安定狭心症患者の予後は,心室機能が正常であれば,3枝病変であっても驚くほど良好である。

治療

可逆的な危険因子はできるだけ修正する(動脈硬化: 治療も参照 )。喫煙者は禁煙すべきで,2年間以上禁煙すると,喫煙経験のない者と同レベルまで心筋梗塞のリスクが低下する。軽度の高血圧でも心仕事量は増加するため,高血圧は積極的に治療する。しばしば,減量のみで狭心症の重症度が軽減する。狭心症はときに,軽度の左室不全の治療により著しく軽減する。逆説的ではあるが,ジギタリスが狭心症を悪化させることがあり,これはおそらく心筋収縮力が高まる結果,O2需要が増加するため,もしくは動脈緊張が亢進するため,またはその両方によるものと考えられる。総コレステロールおよびLDLコレステロールの大幅な低下(食事療法と必要に応じて薬物療法により行う)は,冠動脈疾患の進行を遅延させ,一部の病変を退縮させることがあり(脂質障害: 予後と治療を参照 ),内皮機能を改善するため,負荷に対する動脈の反応を改善する。ウォーキングを重視した運動プログラムは,しばしば健康感を増進し,冠動脈疾患のリスクを低下させるとともに,運動耐容能を改善する。

薬物: 主な目標は,急性症状を軽減し,虚血を予防または軽減することである( 冠動脈疾患: 冠動脈疾患に対する薬物表 2: 表)。

表 2

PDF 冠動脈疾患に対する薬物

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急性発作の場合,ニトログリセリン舌下が最も効果的な薬物である。

虚血を避けるために,冠動脈疾患と診断されているかまたは冠動脈疾患の発症リスクが高い全ての患者は毎日,抗血小板薬を服用すべきである。禁忌または忍容性がない場合を除いて,β遮断薬はほとんどの患者に投与される。一部の患者では,予防に,カルシウムチャネル拮抗薬または長時間作用型の硝酸薬が必要である。

抗血小板薬は血小板凝集を阻害する。アスピリンは血小板と不可逆的に結合し,シクロオキシゲナーゼおよび血小板凝集を阻害する。クロピドグレルはアデノシン2リン酸による血小板凝集をブロックする。どちらの薬物も虚血イベント(心筋梗塞,突然死)のリスクを低下させることができるが,併用時に最も効果的である;一方に忍容性がない患者には他方の薬物を単独で投与すべきである。

β遮断薬は症状を抑制し,その他の薬物よりも良好に梗塞および突然死を予防する。β遮断薬は,心臓の交感神経刺激をブロックし,収縮期血圧,心拍数,収縮力,および心拍出量を低下させるため,心筋O2需要が減少し,運動耐容能が増大する。β遮断薬は心室細動閾値も上昇させる。ほとんどの患者でこれらの薬物の忍容性は良好である。多くのβ遮断薬が利用可能で効果的である。用量は,徐脈または副作用により制限されるまで,必要に応じて漸増する。β遮断薬に忍容性のない患者(例,喘息患者)には,陰性変時作用をもつカルシウムチャネル拮抗薬(例,ジルチアゼム,ベラパミル)を投与する。

ニトログリセリンは強力な平滑筋弛緩薬および血管拡張薬である。その主な作用部位は末梢血管系,特に静脈系または容量血管系,および冠状血管上にある。重症のアテローム硬化血管でも,アテロームのない部位は拡張しうる。ニトログリセリンは収縮期血圧を下げ,全身静脈を拡張するため,心筋O2需要の主要決定因子である心筋壁張力を低下させる。急性発作に対して,または労作前の予防用としてニトログリセリンが舌下投与される。通常,劇的な軽快は1.5〜3分以内にみられ,約5分で完全になり,最大30分まで持続する。症状の軽快が不十分な場合は4〜5分毎に3回まで反復投与する。患者はニトログリセリン錠またはエアゾルスプレーを常時携帯し,狭心症発作時に直ちに使用すべきである。薬効が消失しないよう,患者は錠剤を遮光ガラスの密閉容器に保存すべきである。この薬物はすぐに劣化するため,頻繁に少量ずつ入手すべきである。

β遮断薬を最高用量にした後も症状が持続する場合には, 長時間作用型の硝酸薬(経口または経皮)を用いる。狭心症の発生時間帯が予測できる場合は,それらの時間をカバーするように硝酸薬を投与する。経口の硝酸薬には硝酸イソソルビドおよび一硝酸イソソルビド(二硝酸塩の活性代謝物)がある。これらは1〜2時間以内に効果が発現し,4〜6時間持続する。一硝酸イソソルビドの徐放製剤は1日中有効であると考えられている。経皮使用に関しては,主として軟膏は不便で汚れることから,ニトログリセリン軟膏に代わって主に経皮用ニトログリセリンパッチが用いられるようになった。パッチは長時間作用するように薬物を徐々に放出させる;運動能はパッチ貼付4時間後に改善され,18〜24時間後に低下する。特に血漿濃度が一定に保たれているときに,硝酸薬に耐性が生じることがある。心筋梗塞のリスクは早朝に最も高いため,患者が午後または夕方早めによく狭心症を発症するのでなければその時間帯に硝酸薬を休薬するのが妥当である。ニトログリセリンの場合,8〜10時間の休薬で十分であると考えられている。イソソルビドでは12時間の休薬が必要なことがある。徐放性の一硝酸イソソルビドは耐性を発現しないようである。

硝酸薬の使用にかかわらず症状が持続する場合,または硝酸薬に忍容性がない場合は,カルシウムチャネル拮抗薬を用いることがある。 カルシウムチャネル拮抗薬は,高血圧または冠動脈攣縮もみられる場合に特に有用である。カルシウムチャネル拮抗薬はタイプによって作用が異なる。ジヒドロピリジン(例,ニフェジピン,アムロジピン,フェロジピン)には陽性変時作用がなく,陰性変力作用はそれぞれ大きく異なる。短時間作用型のジヒドロピリジンは反射性頻拍を引き起こすことがあり,冠動脈疾患患者の死亡率の増加に関連している;短時間作用型のジヒドロピリジンは安定狭心症の治療に使用すべきでない。長時間作用型のジヒドロピリジン製剤は頻拍作用がより少なく,β 遮断薬とともに最も一般的に使用される。このグループでは,アムロジピンの陰性変力作用が最も弱く,アムロジピンは左室収縮機能不全患者において使用されることがある。その他のタイプのカルシウムチャネル拮抗薬であるジルチアゼムおよびベラパミルは,陰性変時作用および陰性変力作用を有する。これらの薬物はβ遮断薬に不耐性で左室収縮機能が正常な患者において単独で使用できるが,左室収縮機能不全患者では心血管死亡率を上昇させうる。

経皮的冠動脈インターベンション(PCI): 薬物治療にもかかわらず狭心症が持続し,生活の質を悪化させる場合,または(血管造影中に認められる)解剖学的病変が患者の死亡リスクを上昇させている場合は,PCI(例,血管形成術,ステント術)を考慮すべきである。PCIかCABGかの手術選択は,解剖学的病変の範囲と部位,外科医および医療センターの経験,そしてある程度は患者の希望による。PCIは通常,解剖学的に適切である1枝または2枝の病変に対して選択される。長い,または分岐部に近い病変はしばしばPCIに適さない。ほとんどのPCIは,バルーン血管形成術単独ではなくステント術を併用して行われ,ステント技術の向上に伴い,より複雑な症例に使用されている。リスクについては,CABGと同様である。死亡率は1〜3%であり,心筋梗塞率は3〜5%である。3%未満において,CABGの緊急施行を必要とする閉塞が内膜解離により引き起こされる。ステント術施行後に少なくとも1カ月間,アスピリンにクロピドグレルが追加されるが,できれば6〜17カ月が好ましく,すでに使用されていない場合はスタチンも追加される。約5〜15%のステントが数日から数週間のうちに再閉塞し,元のステントの内側に新たなステントを留置するか,CABGを施行する必要がある。ときに,閉塞したステントは無症候性である。1年後の血管造影では,侵された血管の約30%が外見上,正常内腔を示す。患者は,職場および通常の活動にすぐに復帰できるが,6週間は激しい運動を避けるべきである。

冠動脈バイパスグラフト術(CABG): CABGでは,自家静脈(例,伏在静脈)またはより好ましくは自家動脈の切片を使用して,疾患部分をバイパスする。静脈バイパスグラフトの約85%が1年後も開存しているが,内胸動脈グラフトでは10年後も97%が開存している。動脈はまた,血流増加に対応するために肥大する。CABGは左主幹部病変,3枝病変,または糖尿病を有する患者に選択される。

CABGは典型的に,体外循環中に心臓を停止させて行われ,体外循環装置はポンプ作用により血液に酸素を送り込む。この処置のリスクには脳卒中および心筋梗塞が含まれる。心臓の大きさが正常で,心筋梗塞の既往がなく,心室機能が良好で,他に危険因子がない患者では,周術期心筋梗塞のリスクは5%未満,脳卒中のリスクは2〜3%,死亡リスクは1%以下で,リスクは年齢および基礎疾患の存在とともに増加する。2回目の体外循環による手術死亡率は初回の3〜5倍高いため,初回の体外循環は最適なタイミングで行うべきである。

体外循環後,患者の約25〜30%が,体外循環装置で生じた微小塞栓に起因すると考えられる認知機能不全を発症する。機能不全には軽度から重度まであり,数週間から数年間にわたり持続することがある。このリスクを最小限にするために,一部のセンターでは,心臓の施術部位を機器により機械的に安定させる,“拍動下の”(すなわち体外循環させない)術式が用いられている。

CABGは特定の狭心症患者に非常に有効である。理想的な候補者は重度の狭心症および局所病変があり,その他の点では健康な心臓を有する患者である。約85%の患者に症状の完全消失または劇的な軽快が認められる。運動負荷試験では,グラフト開存と運動耐容能の改善との間に正の相関が認められるが,運動耐容能はときにグラフトが閉塞しているにもかかわらず改善を維持する。

冠動脈疾患はバイパス術を行っても進行する。術後,バイパスされた血管の近位部の閉塞率は上昇する。静脈グラフトは,血栓が形成されると早期に閉塞し,アテローム硬化により内膜および中膜に緩徐な変性が生じると後期(数年後)に閉塞する。アスピリンは静脈グラフトの開存期間を延長させ,喫煙の継続は開存期間に深刻な有害作用をもたらす。

左主幹部病変がある患者,左室機能が低下した3枝病変患者,および一部の2枝病変患者では,CABGにより生存率が改善する。しかしながら,軽度または中等度の狭心症(クラスⅠまたはⅡ),または3枝病変で心室機能が良好の患者では,CABGによる生存率の改善はごくわずかのようである。1枝病変患者では,薬物療法,PCI,およびCABGによる転帰は同様である;例外は左主幹部病変および左前下行枝近位部で,これらには血行再建術が優れていると考えられる。また,Ⅱ型糖尿病患者ではPCIよりもCABGを用いたほうが良好に経過する。

異型狭心症

異型狭心症は,心外膜の冠動脈攣縮に続発する狭心症である(プリンツメタル狭心症)。

ほとんどの患者では,少なくとも1枝の主要冠動脈近位部に明らかな固定性の閉塞が認められる。攣縮は通常,閉塞部位から1cm以内に生じる(しばしば心室性不整脈を伴う)。

症状は主に安静時に起きる狭心症不快感で,ごくまれに,かつ一貫せずに労作中にみられる(重大な冠動脈閉塞を併発している場合を除く)。発作は1日のある時間に定期的に起きる傾向がある。

発作中にST上昇が起きる場合,本症が疑われる。狭心症の発作と発作の間,心電図は正常か,または安定した異常パターンを示す。有意なST上昇または心カテーテル施行中の可逆性の攣縮の観察により識別される冠動脈攣縮を誘発する,エルゴノビンまたはアセチルコリンを用いた誘発試験により確認する。検査は心カテーテル検査室で最も一般的に行われ,ときに冠疾患集中治療室で行われる。

5年平均生存率は89〜97%であるが,異型狭心症とアテローム冠動脈閉塞の両方がある患者では死亡リスクがより高い。通常,ニトログリセリン舌下にて異型狭心症は速やかに軽快する;カルシウムチャネル拮抗薬で症状が効果的に回避されることがある。理論的には,β遮断薬は非拮抗状態のαドレナリン作動性血管収縮により攣縮を悪化させると考えられるが,この作用は臨床的には証明されていない。最も一般的に使用される経口薬は,徐放性のジルチアゼム120〜540mg,1日1回,徐放性のベラパミル120〜480mg,1日1回(腎または肝機能障害の患者では用量を減らす必要がある),またはアムロジピン15〜20mg,1日1回(高齢患者および肝機能障害患者では用量を減らす必要がある)である。難治例では,アミオダロンが有益なことがある。これらの薬物は症状を軽減するが,予後は変化しないようである。

シンドロームX

シンドロームXは,心臓の微小血管機能障害または狭窄を引き起こす収縮である(微小血管性狭心症)。

安静またはニトログリセリンにより軽減される典型的な狭心症を有する一部の患者では,冠動脈造影が正常である(例,アテローム硬化,塞栓症,または誘導型動脈攣縮が認められない)。これらの患者には,負荷試験中に検出される虚血を有する者も有さない者もいる。一部の患者では,反射的な心筋内冠動脈収縮および冠動脈予備能の低下が虚血の原因となるようである。心筋内に微小血管機能障害を有する患者もいる:異常な血管は運動またはその他の心血管ストレス因子に反応して拡張せず,心臓痛に対する感受性も増大することがある。予後は良好であるが,虚血の症状は何年かにわたって再発することがある。β遮断薬で症状が軽快する患者が多い。この障害は,心外膜冠動脈攣縮による異型狭心症や代謝性症候群を指すシンドロームXと呼ばれる別の障害(肥満および代謝症候群: 代謝症候群を参照 )と混同すべきでない。

無症候性虚血

冠動脈疾患患者(特に糖尿病患者)は,症状のない虚血を有することがある。虚血は,24時間ホルター心電図時にみられる一過性の無症候性ST-T異常により証明される。放射性核種による検査では,ときに身体的または精神的ストレス(例,暗算)時に無症候性の心筋虚血が証明されることがある。無症候性虚血と狭心症が共存することがあり,異なる時間に起こる。予後は冠動脈疾患の重症度による。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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