メルクマニュアル18版 日本語版
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肥大型心筋症

肥大型心筋症は先天性または後天性の疾患であり,拡張機能不全を伴うが後負荷の増大を伴わない著明な心室肥大を特徴とする(例,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,全身性高血圧症)。症状には,胸痛,呼吸困難,失神,および突然死がある。閉塞性肥大型タイプでは,バルサルバ手技により増大される収縮期雑音が典型的に認められる。診断は心エコー検査により行う。治療は,β遮断薬,ベラパミル,ジソピラミド,ときに流出路狭窄部の薬物による緩和または外科的切除を用いて行われる。

肥大型心筋症(HCM)は若年運動選手における突然死の一般的な原因である。HCMは原因不明の失神を引き起こすことがあり,剖検前には診断がつかないことがある。

病因と病態生理

HCMのほとんどの症例は遺伝性である(心不全および心筋症: 心筋症の病因表 2: 表を参照)。常染色体優性様式で遺伝する変異が少なくとも50種は同定されている;自然突然変異が一般的である。恐らく,500人当たり1人は発生する;表現型は多彩である。

心筋は細胞および筋原線維の錯綜配列を伴う異常を示すが,本所見はHCMに特異的ではない。最も一般的にみられる病型では,大動脈弁下の上部心室中隔が著しく肥大,肥厚し,左室後壁の肥大をほとんどまたは全く伴わない;このパターンは,非対称性中隔肥大と呼ばれる。収縮期に中隔は肥厚し,ときに心室の形が異常なため既に偏位している僧帽弁前尖は,亢進した血流速度によるベンチュリー効果によって中隔側に吸い寄せられ,流出路がさらに狭窄して心拍出が減少する。その結果生じる障害は閉塞性肥大型心筋症と呼ばれることがある。頻度は低いが,心室中部の肥大は乳頭筋レベルで心腔内圧較差を引き起こす。いずれの病型でも,左室遠位部は最終的に菲薄化して拡張する。心尖部の肥大も起こる可能性があり,これは収縮期に左室心尖部を閉塞することはあっても,流出路狭窄は来たさない。

収縮性は全般的には正常であり,そのため駆出率(EF)は正常となる。その後,心室が容量低下を呈し,心拍出を維持するためほぼ完全に心室の血流が駆出されることにより,EFは上昇する。

肥大の結果,拡張期充満に抵抗する硬くてコンプライアンスの低下した心腔(通常は左室)が生じ,これにより拡張終期圧が上昇して肺静脈圧が増大する。充満抵抗が上昇すると心拍出量は低下し,存在する流出路圧較差によってこの作用は悪化する。頻拍になると充満時間が短縮するため,症状は主に労作中または頻拍性不整脈中に発現する傾向がある。

冠血流が障害され,心外膜冠動脈疾患(CAD)の不在下で狭心症,失神,または不整脈が起こりうる。筋細胞の大きさに対して毛細血管密度が不十分となったり(毛細血管/筋細胞不均衡),心筋内冠動脈の内径に内膜および中膜の過形成や肥大により狭窄が生じるため,血流が障害されることがある。また,労作は末梢血管抵抗および大動脈起始部拡張期圧を低下させるため,冠灌流圧が低下する。

一部の症例では,恐らく毛細血管/筋細胞不均衡が慢性びまん性虚血を引き起こすため,心筋細胞は徐々に死滅する。心筋細胞が死滅すると,これらの細胞はびまん性の線維化により置換される。その後,拡張機能不全を伴う肥大心室は徐々に拡張し,収縮機能不全も生じる。

僧帽弁異常,および収縮早期に流出路を通過する速い血流が原因となって,感染性心内膜炎がHCMに合併することがある。ときに末期合併症として房室ブロックが生じる。

症状と徴候

典型的には,症状は20〜40歳に発現し,労作性である。症状には,胸痛(通常,典型的な狭心痛に似る―冠動脈疾患: 狭心症を参照 ),呼吸困難,動悸,および失神がある。患者は1つまたは複数の症状を呈する。失神は,通常労作中に前兆なしに起こり,心室性または心房性の非持続性不整脈によるものであり,突然死のリスク増大の指標である。HCMによる突然死は,心室頻拍または心室細動から生じると考えられる。収縮機能は保持されるため,易疲労性はほとんど報告されない。

血圧および心拍数は通常正常であり,静脈圧上昇の徴候はまれである。流出路が狭窄すると,頸動脈波は急峻な上昇,二峰性ピーク,および急激な低下を示す。心尖拍動は左室肥大による持続的な突出を呈する。第4心音(S4)がしばしば認められ,拡張後期でのコンプライアンスが低下した左室に対する強力な心房収縮に関連する。

中隔肥大は,頸部に放散せず,第3または第4肋間胸骨左縁で聴取されうる収縮期駆出性雑音をもたらす。僧帽弁装置の変形による僧帽弁逆流雑音が心尖部で聴取される。右室流出路が狭窄している場合,収縮期駆出性雑音がときに第2肋間胸骨左縁に聴取される。HCMの左室流出路駆出性雑音は,バルサルバ手技(静脈還流量および左室拡張期容量を減少させる),大動脈圧低下法(例,ニトログリセリン),または期外収縮後収縮(流出路圧較差を拡大させる)により増強できる。手を握ると大動脈圧が上昇し,その結果雑音の強度が減少する。

診断

本症は,典型的な雑音および症状に基づいて疑われる。若年運動選手の原因不明の失神では常に疑うべきである。HCMは,大動脈弁狭窄やCADなど似た症状を呈する疾患と鑑別しなければならない。心電図および二次元心エコー検査(最良の非侵襲的確定検査)を行う。胸部X線はしばしば撮影されるが,心室が拡張しないため通常は正常である(ただし,左房は拡大することがある)。失神または持続性不整脈を呈する患者は入院させて評価するべきである。運動負荷試験およびホルターモニタリングは,高リスクとみなされる患者に有用な場合があるが,このような患者の同定は困難である。

心電図は通常,左室肥大の電位基準を示す(例,V1誘導のS波とV5またはV6誘導のR波との和が35mmを超える)。第Ⅰ,aVL,V5,およびV6誘導では,非常に深い中隔性Q波が非対称性中隔肥大に伴ってしばしば認められる;HCMではときにV1およびV2に陳旧性中隔梗塞に類似したQRS波が生じる。T波は通常,異常である;最も一般的な所見は,第Ⅰ,aVL,V5,およびV6誘導における深く対称性のT波逆転である。同じ誘導におけるST低下もしばしばみられる。第Ⅱ,Ⅲ,およびaVF誘導ではP波はしばしば幅広でノッチがあり,V1およびV2誘導の二相性P波も伴い,左房肥大が示唆される。ウルフ-パーキンソン-ホワイト症候群型の早期興奮現象は動悸を引き起こすことがあり,この現象の発現率が増加する。

2-Dドプラ心エコー検査で,心筋症の病型(心不全および心筋症: 心筋症の病型。図 2: イラストを参照)の鑑別や流出路の狭窄の程度の定量ができ,これには狭窄部位の圧較差および断面積が含まれる。これらの測定は,内科的または外科的治療の効果のモニタリングに特に有用である。流出路狭窄が重度の場合,収縮中期の大動脈弁閉鎖がときに起こる。

心臓カテーテル法は通常,侵襲的治療が考慮される場合にのみ行われる。通常は冠動脈に有意な狭窄を認めないが,代謝試験では心筋内動脈内径の縮小,毛細血管/筋細胞不均衡,または心室壁応力異常による心筋虚血が検出されうる。高齢患者はCADを呈することもある。

予後と治療

全体として,年間死亡率は成人で1〜3%であるが,小児ではより高い。死亡率は,症状出現時の年齢と負の相関を示し,頻発する非持続性心室頻拍もしくは失神を呈する患者,または突然の心停止後に蘇生された患者で極めて高い。突然死の家族歴を有する若年患者および狭心痛や労作性呼吸困難を呈する45歳を超える患者の予後は不良である。死亡は通常突然であり,突然死が最も一般的な続発症である;慢性心不全の発生はそれよりも少ない。非対称性中隔肥大は思春期に進行すると考えられ,患者には遺伝カウンセリングを行うことが望ましい。

治療は,主に拡張期コンプライアンスの異常に向けられる。β遮断薬,および心拍数低下作用があり動脈拡張能の低いカルシウム拮抗薬(例,ベラパミル)の単独投与または併用投与が治療の基本である。これらの薬物は,心筋収縮性を低下させることで心臓を拡張させる。また,心拍数を減少させることで拡張充満期を延長する。どちらの作用も流出路狭窄を軽減し,これによって心室拡張機能が改善する。重症例では,ジソピラミドがその陰性変力作用のために追加される。

前負荷を軽減する薬物(例,硝酸薬,利尿薬,ACE阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は心腔の大きさを縮小させ,症状および徴候を悪化させる。血管拡張薬は流出路圧較差を増大させ,心室拡張機能をさらに悪化させる反射性頻拍を惹起する。強心薬(例,ジギタリス配糖体,カテコールアミン類)は流出路狭窄を悪化させ,拡張終期圧上昇を改善せず,不整脈を誘発しうる。

失神や突然の心停止を起こした場合,もしくは不整脈が心電図または24時間携帯型モニタリングにより確認された場合は,植え込み型除細動器または抗不整脈薬を考慮すべきである。HCM患者には,感染性心内膜炎に対する抗生物質の予防的投与が推奨される(心内膜炎: 予防を参照 )。突然死の多くは労作増強中に起こるため,競技スポーツは避けるべきである。

HCMの拡張型うっ血期の治療は,収縮機能不全が主である拡張型心筋症のそれと同様である。

もし内科的治療にもかかわらず中隔肥大および流出路狭窄が顕著な症状を引き起こすならば手術が必要である。アルコールアブレーションの効果は一様ではないが,より広く使用されるようになってきている;外科的な中隔心筋切開術または心筋切除術は,症状をより確実に軽減するが,延命はしない。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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