|
Paul H. Tanser, MD
僧帽弁狭窄(MS)は左房から左室への血流を妨げる僧帽弁口の狭窄である。最も一般的な原因はリウマチ熱である。一般的な合併症は肺高血圧,心房細動,血栓塞栓症である。症状は心不全の症状と同じであり,徴候には開放音および拡張期雑音がある。診断は身体診察および心エコー検査により行う。予後は良好である。薬物治療には利尿薬,β遮断薬または心拍数を制限するカルシウムチャネル拮抗薬,抗凝固薬があり,より重症の場合の外科的治療にはバルーン弁切開術,交連切開術,弁置換術がある。
MSでは僧帽弁が肥厚して動かなくなり,交連部の癒合により僧帽弁口が狭窄する。最も一般的な原因は,ほとんどの患者は罹患の記憶がないものの,リウマチ熱(リウマチ熱を参照 )である。ややまれな原因に,先天性MS,細菌性心内膜炎,SLE,心房粘液腫,RA,心房の右-左シャントを伴う悪性カルチノイド症候群,メチセルジドがある。弁が完全に閉鎖できない場合は,MSに僧帽弁逆流(MR)が併存している可能性がある。リウマチ熱によるMSを有する多くの患者は大動脈弁閉鎖不全も有する。
僧帽弁口の正常な面積は4〜6cm2である。1〜2cm2の面積は中等度から重度のMSを反映し,しばしば労作性の症状を引き起こす。1cm2未満の面積は危機的な狭窄を表し,安静時に症状を引き起こしうる。MSを代償するために左房(LA)のサイズと圧が次第に大きくなり,肺静脈圧と毛細血管圧も上昇し,続発性の肺高血圧を引き起こして右室(RV)心不全ならびに三尖弁および肺動脈弁閉鎖不全をもたらしうる。進行の速度は様々である。
左房拡大に伴う弁の変化は,血栓塞栓症の危険因子である心房細動(AF)の素因となる。
症状と徴候
疾患は潜行性に進行し,患者は自覚することなく活動を減らすため,症状は疾患の重症度とはあまり相関せず,多くの患者は妊娠するか心房細動が発現するまで無症状である。最初の症状は通常は心不全の症状(例,労作性呼吸困難,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難,疲労)である。これらは典型的にはリウマチ熱のエピソードの15〜40年後まで現れないが,開発途上国でははるかに若年の小児が症状を呈することもある。心室拍数のコントロールが不良なとき,発作性または慢性の心房細動は現存する拡張機能不全を悪化させ,肺水腫および急性呼吸困難を誘発する。心房細動は動悸も引き起こし,抗凝固療法を受けていない患者の最大15%で脳卒中または脚の虚血の症状を伴う全身性の塞栓症を引き起こす。
ややまれな症状には,特に血液量が増加する妊娠中における,肺の小血管の破裂および肺水腫による喀血;拡張した左房または肺動脈による左反回神経の圧迫による嗄声(オルトナー症候群);肺高血圧(肺高血圧を参照 )および右室不全(心不全および心筋症: 病態生理を参照 )の症状がある。
視診および触診で触知可能な第1(S1)および第2心音(S2)が検出されることがある。S1は心尖部で,S2は胸骨左縁上部で最もよく聴取される。S2の肺動脈弁成分(P2)が拍動の起源であり,肺高血圧の結果生じる。肺高血圧が存在し右室拡張機能不全が生じているとき,胸骨左縁部で触知可能な右室の拍動(隆起)が頸静脈怒張に伴うことがある。
聴診所見に,“タッキング”時の帆のような,突然閉鎖する狭窄した僧帽弁の弁尖により生じる大きなS1(M1)があり,心尖部で最もよく聴かれる。正常に分裂し,肺高血圧のためにP2が強調されたS2も聴かれる。最も著明なのは弁尖が左室(LV)側に膨らむ際の拡張早期の開放音であり,これは胸骨左縁下部の近くで最も大きい;これに続いて低調の漸減-漸増性の拡張期ランブルが起こり,患者が左側臥位のとき,呼気終末時に心尖部(または触知可能な心尖拍動上)で聴診器のベル部により最もよく聴かれる。開放音は,僧帽弁が硬化,線維化,または石灰化している場合,弱いか認められないことがあり,MSがより重度になり左房圧が上昇するに従いP2
に近づく(雑音の持続時間が長くなる)。拡張期雑音は,バルサルバ手技の後(血液が左房に流入するとき),運動の後,および蹲踞やハンドグリップに反応して大きくなり,右室拡大により左室が後方に偏位するときや他の疾患(肺高血圧,右心系の弁の異常,心室拍数の増加を伴う心房細動)が僧帽弁を通過する血流を減少させるとき,弱いか認められない。前収縮期の漸増性雑音が左室収縮時に僧帽弁口の狭窄により引き起こされ,心房細動においてそのまま持続するが,左房圧がまだ高い,短い拡張期の終盤のみである。
MS雑音と併存する拡張期雑音は,グレーアム・スティール雑音(胸骨左縁に沿って最もよく聴取され,重度の肺高血圧に続発する肺動脈弁閉鎖不全により引き起こされる弱い漸減性の拡張期雑音)であり,リウマチ性心炎が僧帽弁と大動脈弁の両方を侵しているときはオースチン・フリント雑音(心尖部で聴かれ,大動脈弁の逆流の僧帽弁尖への作用により生じる,拡張中期から後期のランブル)である。MSの雑音に類似する拡張期雑音を生じる疾患には,MR(僧帽弁口を通過する大量の血流のため),大動脈弁閉鎖不全(オースチン・フリント雑音を生じる),心房粘液腫(典型的には心拍毎に大きさおよび位置が異なる雑音を生じる)がある。
MSは肺性心の徴候を引き起こすことがある(心不全および心筋症: 肺性心を参照 )。古典的な僧帽弁顔貌である暗紫色の頬部潮紅は,心拍出量が少なく肺高血圧が重度のときのみ起こり,原因は皮膚の血管拡張および慢性低酸素血症である。
ときに,MSの最初の症状と徴候は塞栓性脳卒中または心内膜炎のものと同じであるが,MRも存在するのでない限り,MSにおいて心内膜炎はまれである。
診断
本症は臨床的に疑われ,心エコー検査により確定される。2-D心エコー検査により,弁の石灰化および狭窄の程度ならびに左房のサイズに関する情報が得られ,ドプラ心エコー検査により,弁前後の圧較差および肺動脈圧に関する情報が得られる。経食道心エコー検査は,左房の小血栓,特にしばしば経胸的には認められない左心耳にあるものを,検出または除外するために用いられる。
通常,心電図および胸部X線を得る。心電図は左房拡大を示し,V1における,突出した陰性波(持続時間:>0.04ミリ秒;振幅:>0.10mV)を終末部に伴い0.12ミリ秒を超えて続くP波;Ⅱ誘導における幅広のノッチのあるP波;またはその両方として現れる。V1における低電位,QRSの右軸偏位,V1における高いR波は右室肥大を示唆する。
胸部X線では通常,拡張した左心耳のため左心縁がまっすぐになっているのが分かる。主肺動脈(動脈幹)が突出し,もし肺高血圧が重大ならば,右下行肺動脈の直径は16mm以上である。下葉の静脈が圧迫され,血液を上葉に押しやるため,上葉の肺静脈が拡張することがある。右心縁に沿って,拡大した左房の二重陰影がみられることがある。後下肺野に水平に走る線(カーリーB線)は左房圧上昇に関連する間質性浮腫を示す。
心臓カテーテル法は,外科的修復術前の冠動脈疾患(CAD)の周術期評価にのみ適応となり,左房圧,肺動脈圧,弁口面積のサイズが確認できる。
予後と治療
MSの自然歴は様々であるが,症状の発現から重度の障害までの間隔は約7〜9年である。転帰は手技前の患者の年齢と機能状態,肺高血圧,MRの程度に影響される。弁切開術と交連切開術の結果は同等であり,両方とも患者の95%において弁の機能を回復させる。しかしながら,ほとんどの患者で機能は悪化し,多くは繰り返し処置を必要とする。死亡の危険因子は心房細動および肺高血圧であり,死因は最も一般的には心不全もしくは肺または脳血管の塞栓症である。
無症状の患者には,25〜30歳までの再発性リウマチ熱に対する予防法(例,ベンザチンペニシリンG120万単位,3または4週間毎の筋注による)およびハイリスクの手技の前の心内膜炎予防(心内膜炎: 抗菌薬による心内膜炎予防を必要とする手技表 3: を参照)のみが必要である。
軽度の症状のある患者は通常,利尿薬および,もし洞性頻拍または心房細動が存在するならば,β遮断薬またはカルシウムチャネル拮抗薬に反応し,これらは心室拍数をコントロールできる。抗凝固薬は心房細動における血栓塞栓症の予防に適応となる。全患者に,労作性呼吸困難があっても少なくとも低レベルの運動を継続するように勧めるべきである。
より重度の症状のある患者および肺高血圧の証拠のある患者には弁切開術,交連切開術,または弁置換術が必要である。
経皮的バルーン弁切開術は,若年患者,より侵襲的な手技に耐えられない高齢患者,重度に石灰化した弁,弁下の歪み,左房血栓,重大なMRがない患者において選択すべき手技である。心エコーにより誘導するこの手技では,バルーンを右房から左房へ経中隔的に通過させ,バルーンを膨らませて癒合した僧帽弁尖を分離させる。転帰はより侵襲的な手技と同等である。合併症はまれであり,MR,塞栓症,左室穿孔,心房中隔欠損があり,心房中隔欠損は2つの心房間の圧力差が大きい場合のみ持続するようである。
重度の弁下の疾患,弁石灰化,または左房血栓を有する患者は,左房または左室を通過させた拡張器を用いるか(非直視下交連切開術),もしくは手で(直視下交連切開術)癒合した僧帽弁尖を分離する交連切開術の候補となり,両手技とも開胸術が必要である。手技の選択は術者の経験と線維化および石灰化の重度に基づく。
弁置換術は最後の手段だが,1.5cm2未満の僧帽弁口面積,中等度から重度の症状,他の処置の使用を妨げる弁の病理(例,弁尖の線維化)を有する患者には適用となる。
最終改訂月 2007年3月
最終更新月 2005年11月
|