メルクマニュアル18版 日本語版
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嗅覚と味覚の障害

個別の風味は嗅覚化学受容体を刺激する芳香に左右されるので,味覚と嗅覚は生理学上,相互依存し合う。嗅覚,味覚いずれか一方の機能不全はしばしば他方にも障害を来す。嗅覚と味覚の障害が人の生活や生命を脅かすことはまれなので,嗅覚と味覚が生活の質に及ぼす影響は重大であるのに,しばしば十分な医学的注意が払われない。高齢者における嗅覚および/または味覚の消失は食物の摂取量を減少させ,患者の衰弱を促進することがある。ガスまたは煙のような特定の嗅素を探知する能力が欠如すると危険な場合もあり,こうした症状を無害なものとみなす前に,いくつかの全身性および頭蓋内疾患の可能性を除外すべきである。脳幹の疾患(孤束核の障害)が,嗅覚および味覚の障害を引き起こすかどうかが不明であるのは,通常は他の神経学的症状が優先するからである。

おそらく最も一般的な異常は,嗅覚消失(嗅覚の欠如)である(後述参照)。嗅覚過敏(嗅覚の感受性増大)は通常,神経症的またはヒステリー性人格を反映するが,発作性疾患に伴って間欠性に出現しうる。嗅覚異常(他人には感知できない匂いを感じたり,実際とは違った匂いと感じる)は,鼻腔の感染,嗅球の部分的損傷または心理的抑うつにより生じうる。嗅覚異常の中で,異常な味覚を伴う一部の症例は,歯の衛生不良に起因する。てんかんの鉤発作により,短期的に鮮明で不快な幻臭を来すこともある。嗅覚鈍麻(嗅覚の低下)と味覚鈍麻(味覚の低下)は,急性インフルエンザに続発することがあり,通常は一過性である。

タバコの吸いすぎ,シェーグレン症候群,頭頸部の放射線療法,または舌の落屑などに由来する口腔粘膜の乾燥は,味覚を損ない,様々な薬物(例,抗コリン作用薬およびビンクリスチン)が味覚を変える。いずれの場合にも,味覚受容体が広く障害される。味覚消失(味覚の欠如)が舌の片側に限局する場合(例,ベル麻痺)は,気づくことはまれである。

まれに,特発性味覚異常(味覚の歪曲),味覚鈍麻および嗅覚異常は,亜鉛の補充に対して反応する。

嗅覚消失

嗅覚消失は嗅覚の完全欠如である。

嗅覚障害は鼻腔内腫脹またはその他の閉塞により嗅素が嗅脳へ到達できない場合,嗅上皮の破壊(ウイルス性感染,萎縮性鼻炎または肉芽腫症および腫瘍による慢性鼻炎による),嗅神経系,嗅球,嗅索または中枢神経路の破壊(例,頭部外傷,頭蓋内手術,感染または腫瘍による)などの場合に生じる。若年成人においては,頭部外傷が嗅覚消失の主な原因であり,高齢者においてはウイルス性感染およびアルツハイマー病である。先行するURI,特にインフルエンザ感染は,嗅覚鈍麻または嗅覚消失の全症例の14〜26%に関与する。

大部分の嗅覚消失患者は,塩味,甘味,酸味,苦味の物質を正常に知覚するが,嗅覚によって大きく左右される風味の識別能力が欠如する。そのため,患者はしばしば味覚の欠如(味覚消失)を訴える。片側性の嗅覚消失は,しばしば認識されない。

原因が不明である場合は,診断は,鼻腔内と頭蓋内疾患の徹底した評価,脳神経(神経疾患患者へのアプローチ: 脳神経()を参照 )と上気道(特に鼻と鼻咽頭)の診察を必要とする。腫瘍および想定外の前頭蓋窩底部の骨折を除外するために造影剤を用いた頭部CTが行われる。嗅覚と味覚の識別の精神生理学的評価,および閾値の測定も実施する。

アレルギー性または細菌性の鼻炎および副鼻腔炎の治療または鼻ポリープや良性腫瘍の切除により,嗅覚が回復することがある。嗅上皮またはその中枢伝導路の破壊を引き起こす病態に対する有効な治療法はないが,これらの組織の再生後に自然治癒することがある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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