メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

はじめに

医師は常に口腔を検査し,口腔内の病状認識ができるようにすべきである。しかしながら,歯の問題や口腔乾燥症(鼻,口腔,および咽頭症状のある患者へのアプローチ: 口腔乾燥症を参照 ),または口腔,顔面あるいは頸部に説明不可能な腫脹または疼痛を有する患者には歯科医師の診察を必要とする。顔面異常の小児(矯正が必要な歯科異常も伴う可能性がある)も歯科医師の評価を受けるべきである。FUO(原因不明熱)や原因不明の全身感染においては,歯の疾患が考慮されるべきである。歯科の診察は頭頸部の放射線療法施行以前に必要で,化学療法施行以前が賢明である。

全身疾患が疑われる場合,患者が特定の薬物(例,ワルファリン)を服用している場合,患者が全身麻酔や広範囲にわたる口腔外科手術に耐えうるかどうかを評価しなければならない場合,歯科医師は医師に相談すべきである。心臓弁に異常がある患者は典型例では,特定の歯科処置を行う前に抗生物質の予防的投与を必要とする。

「一般的な歯牙の疾患」は一般的な歯牙の疾患で考察されている。歯痛などの「歯科救急」は歯科救急で考察されている。

解剖と発達

歯: 歯は切歯,犬歯,小臼歯,および大臼歯に分類され,慣習的に右上顎第3大臼歯から番号がつけられている( 歯科患者へのアプローチ: 歯の同定。図 1: イラスト参照)。

図 1

歯の同定。

歯の同定。

ここに示した番号による命名法は米国で最も一般的に用いられる方法である。

それぞれの歯には歯冠と歯根がある。犬歯の歯根は最大で最強である。歯髄内は血管,リンパ管,神経を含み,硬いが多孔性の象牙質で囲まれており、歯根より上は非常に硬いエナメル質で,通常歯肉によって覆われている歯根は骨様のセメント質で覆われている(歯科患者へのアプローチ: 犬歯の断面。図 2: イラスト参照)。 20本の乳歯は通常,6カ月齢近くで現れ始め,30カ月齢までに全て適所に生えているべきである(身体的成長と発達: 歯の萌出時期を参照 表 1: 表)。これらの歯の後には,32本の永久歯が6歳頃までに現れ始める。6歳から11歳までの期間は混合歯列期と呼ばれ,乳歯と永久歯の双方が存在する。歯の萌出の時期は骨年齢のひとつの目印であり,成長遅延の同定,または法医学上の目的のため年齢を証明できる。

図 2

犬歯の断面。

犬歯の断面。

支持組織: 歯肉は歯冠の底部で歯を取り囲んでいる。歯槽堤は歯のソケットを含む骨梁である。歯周組織は歯を支持する組織(歯肉,上皮付着物,結合組織付着物,歯周靱帯,歯槽骨)から成る。下顎骨と上顎骨は歯槽堤を支持し,歯を収納する。唾液腺からの唾液は歯を洗浄し,保護する。舌は咬合面の間に食物を導き,歯を清潔にするのに役立つ。上顎骨は三叉神経(第Ⅴ脳神経)の第2枝である上顎神経から神経支配を受ける。三叉神経の第3枝で最下枝の下顎神経は下顎を支配する。

高齢者,または一部の歯周病症例においては,歯肉の後退は歯冠に近接した歯根を露出させ,根面齲蝕をよく起こさせる。もし歯の崩壊が生じると,健全な骨を維持するために必要な機械的刺激は止んでしまう。その結果,歯槽堤の萎縮(老年性萎縮)が歯の喪失の直後に始まる。

評価

最初の歯科定期健診は1歳まで,または最初の歯の萌出までに実施すべきである。その後の評価は6カ月おき,または症状の発生時に随時実施すべきである。

病歴: 重要な歯科の症状には出血,疼痛,不正咬合,新生物および咀嚼の問題がある。

歯磨きの際の出血または疼痛は通常,歯肉炎または,まれではあるが急性壊死性潰瘍性歯肉炎など,局所の歯周の問題を示唆する。しかしながら,容易に誘発される歯肉出血は出血性素因または白血病を示唆することもある。

顔面,頭部,または頸部の疼痛は,感染,不正咬合,不適合な義歯,顎関節疾患,イーグル症候群(頭部を曲げる際に疼痛を生じる茎状突起の伸長または茎突舌骨靭帯の骨化),咀嚼筋群の攣縮(顎関節疾患: 筋筋膜痛症候群を参照 ),または骨にまで広がる軽度の嫌気性感染の潜在性病変を示唆する。耳へ及ぶ疼痛は,一部が萌出している下顎第3大臼歯周囲の炎症(歯冠周囲炎)を起こした歯肉弁,または下顎大臼歯を抜歯した後の局所の骨炎(ドライソケット)によって発生することがある。

顔面のしびれや感覚異常は,骨洞や鼻咽頭の腫瘍,脳卒中,脳幹に及ぶ腫瘍,ウイルス感染,または多発性硬化症によって生じる。下唇の感覚異常は,下歯槽神経に損傷を起こす下顎大臼歯の抜歯が原因で生じることもある。まれに,それは口腔腫瘍を示唆する。

咀嚼筋疲労は若年者における先天性の筋肉または神経筋の疾患によって,または高齢者における不適な咬合の義歯によって起こる。それは,重症筋無力症の主症状である。咀嚼筋の疼痛(顎跛行)は,リウマチ性多発性筋痛症または巨細胞(側頭)動脈炎を示唆することがある。

体重の減少は口腔または歯科疾患から生じることがある。例えば,非常に動揺していたり,非常に少なかったり,または疼痛があったりする歯;不適合な義歯;口内炎;または顎関節症が原因で食物をよく噛むことができないことがある。

身体診察: 歯肉と粘膜を含む口腔内の軟組織(鼻,口腔,および咽頭症状のある患者へのアプローチ: 身体診察を参照 )の検査は,局所または全身の疾患の証拠として炎症,滲出液,水疱,腫瘍,潰瘍または紅斑や白斑を示すことがある。

歯の検査は,形態,配列,欠損,動揺,色調,付着しているプラークや,マテリアアルバ(死滅した細菌,食べかす,剥離した上皮細胞)や歯石の存在について観察する。圧痛を評価するために(打診感受性),舌圧子または歯科用鏡の柄で軽くたたく。

打診に対する圧痛は,根尖周囲膿瘍または重症の歯周病を伴う壊死性歯髄を引き起こしている深在性の齲蝕を示唆している。打診感受性または咬合痛は,歯の不完全破折も示唆する。多数の近接する上顎の歯における打診による圧痛は,上顎洞炎に起因することがある。歯の根尖周囲の触診に対する圧痛は,膿瘍を示唆することもある。

動揺歯は通常,重症の歯周病を示唆するが,歯周組織を傷つける歯ぎしりや外傷によっても生じる。まれに,潜在性の腫瘤(例,エナメル上皮腫,好酸球肉芽腫)によって歯槽骨が侵食されると歯が動揺する。歯が動揺しており,多量の歯垢や歯石がない場合,腫瘍または歯槽骨の欠損の全身性素因(例,真性糖尿病,副甲状腺機能亢進症,骨粗鬆症,クッシング症候群)が疑われる。

歯石は石灰化した細菌性のプラーク(カルシウムやリン酸塩とともに生じる細菌,食物残渣,唾液と粘液の結石)である。歯の清掃後,ムコ多糖体の被膜(菌膜)がほぼすぐに沈着する。約24時間後には,細菌のコロニー形成により菌膜がプラークへと変化する。約72時間後には,プラークは石灰化し,歯石になる。もしある場合は,歯石は,顎下腺管と舌下線管開口部(ワルトン管)の近くの下顎前歯の舌側(内側または舌側)表面,耳下腺管開口部(ステノン管)近くの上顎大臼歯の頬側表面とに非常に多く沈着する。

齲蝕(歯の腐食―一般的な歯牙の疾患: 齲蝕を参照 )は,歯のエナメル質における欠損として現れる。齲蝕は最初に白斑として出現し,その後,茶色くなる。

咬耗(咬合面の磨耗)は,固い食物またはタバコを噛むこと,または加齢に伴う磨耗が原因のこともあるが,通常は歯ぎしり(食いしばりまたは歯のすりあわせ,歯科患者へのアプローチ: 歯ぎしりを参照 )を示唆する。もうひとつの一般的な原因は,近接するエナメル質に対するポーセレン冠の磨耗である。咬耗は咀嚼の効果を弱め,エナメル質の侵食により被覆されている象牙質が露出すると,齲蝕のない歯に疼痛を引き起こす。象牙質は触覚や温度の変化に敏感である。歯科医師はこのような歯の知覚過敏を軽減したり,または重度に磨耗した歯にクラウンやオンレーを装着することによって歯科解剖的構造を修復できる。

変形した歯は発育または内分泌疾患を示唆することがある。ダウン症候群においては,歯は小さい。先天性梅毒では,切歯は,切縁の1/3が縮小しており,切端中央部に切痕を伴った(ハッチンソン切歯)栓状の,またはねじ回しのような形態であり,第1大臼歯は小さく,小さな咬合面と,粗造で,分葉状で,しばしば形成不全のエナメル質(桑実状臼歯)を伴う。外胚葉異形成症においては,歯が欠損または円錐形のため,小児期より義歯が必要となる。象牙質形成不全症は常染色体優性疾患で,異常な象牙質を形成するが,それは暗い青みがかった褐色と乳白色を呈し,上に重なるエナメル質とのクッション役を適切に果たさない。このような歯は咬合圧に耐えることができず,急激に磨耗する。下垂体性小人症や先天性副甲状腺機能低下症患者の歯根は小さく,巨人症患者の歯根は大きい。先端巨大症では顎の肥大化と同様に歯根において過剰なセメント質が産生され,その結果,歯の間隙が広くなる。先天性の狭小側切歯は全身疾患なしで発生する。最も一般的な先天性欠如歯は第3大臼歯であり,次に頻度が高いのは上顎側切歯と第2下顎小臼歯である。

歯の色における欠損は 食物色素,加齢,最も顕著には喫煙により生じる黒ずみや黄ばみと鑑別しなければならない。通常は歯髄に到達した広範囲の齲蝕による歯髄壊死や,歯髄壊死の有無にかかわらず外傷後に象牙質に沈着したヘモシデリンが原因で,歯が灰色を呈することがある。小児の歯は,妊娠後半期の母親が,または歯牙発生期(歯の発達期),特に9歳まで続く歯冠の石灰化時期の小児が,テトラサイクリン系を使用すると,たとえ短期使用であっても見た目でそれとわかり,また永久的に黒ずみを起こす。成人においてはテトラサイクリン系が完全に形成された歯に永久的な変色をもたらすことはめったにない。しかしながら,ミノサイクリンは骨を黒ずませ,被覆している歯肉と粘膜が薄い場合,口腔内において見えることがある。罹患した歯は,服用した特異的なテトラサイクリンに対応する特徴的な色の蛍光を紫外線下で発する。先天性ポルフィリン症においては,乳歯と永久歯のいずれも,赤色または茶色がかった変色を示すが,象牙質における色素沈着により,常に赤色の蛍光を発する。先天性の高ビリルビン血症は黄色がかった歯の変色を生じる。歯は漂白可能である(歯科患者へのアプローチ: 歯の漂白処置表 1: 表 参照)。

表 1

歯の漂白処置

施術者

成分

コメント

歯科医師

   

歯科医院

高濃度の過酸化水素を歯に塗布し,光またはレーザーを照射

非常に効果的である。歯肉,皮膚,目を保護しなくてはならない

自宅

特注のトレーを使用し,患者は6%の過酸化尿素(使用時には3%の過酸化水素濃度となる)と,ポリアルキルポリエーテルによって架橋されたアクリル酸共重合体を含む増粘剤を加える。

非常に効果的である

患者

(一般向け製品)

   

市販の漂白用ストリップス

過酸化尿素でできている

非常に効果的である

漂白剤入り歯磨剤

通常,過酸化尿素または過酸化水素を含む

やや効果的である

漂白剤の塗布

通常,二酸化チタンでできている

あまり効果的ではない

歯のエナメル質の欠損は,くる病によって引き起こされ,エナメル質に粗造で不規則な帯をもたらす。歯の発生期における長期の発熱性疾患は,脆くて陥凹のあるエナメル質の永久的な狭い帯,または単に白い変色を形成しうるが,それは歯の萌出後に明白になる。したがって,この帯の位置と高さから疾患が起こった時期や持続期間を推定しうる。エナメル質形成不全症は常染色体優性疾患で,重度のエナメル質形成不全を引き起こす。慢性嘔吐と食道逆流症は,主として上顎前歯舌側表面の歯冠を脱灰する。 慢性的なコカインの吸引は,薬物が唾液中で塩基を塩酸塩に解離させるため,広範囲に及ぶ歯の脱灰を引き起こす。

過剰な塩素処理を施したプールで長時間過ごす泳者は,特に上顎切歯,犬歯,第1小臼歯の,外側顔面側(頬側)歯面からかなりの量のエナメル質を喪失する。pH調整のためプールの水に炭酸ナトリウムが加えられている場合は,茶色の歯石沈着物が形成されるが歯の清掃で除去できる。

フッ素沈着症は歯の発育期に1ppmを超えるフッ素を含む飲料水を摂取する小児に発生しうる斑状歯である。フッ素沈着症は,摂取したフッ素の量に左右される。エナメル質の変化は不規則で光沢のない白色斑から,歯冠表面が粗造で歯冠全体が重度の茶色に変色するものまで様々である。そのような歯は,齲蝕に対して非常に抵抗性である。

検査: 新患に対して,または広汎な治療が必要な患者に対しては,全口腔内X線撮影を行う。この撮影法は歯根と歯槽骨を示すための14から16枚の歯根尖端周囲のフィルムと,歯の間の齲蝕を検査するための4から7枚の咬翼フィルムから成る。最近技法は放射線暴露をほぼ無視できるほどの程度にまで低減している。齲蝕の危険性が高い患者(すなわち,診察中に齲蝕が発見されたことがある,修復物が多い,または以前修復した歯に齲蝕が再発)は,12〜18カ月毎に咬翼X線撮影を受けるべきである。それ以外の患者に対しては,2〜3年毎の咬翼X線撮影が適応となる。パノラマX線撮影は歯の発育,顎の嚢胞または腫瘍,矮小歯または先天性欠如歯,第3大臼歯の埋伏,イーグル症候群(頻繁ではない),付随的にだが,頸動脈斑に関して有用な情報をもたらす。

全身疾患患者の歯科治療

特定の病状(およびその治療)は歯科疾患を患者に生じやすくしたり,歯科治療に影響を及ぼす。

血液疾患: 凝固が妨げられる疾患(例,血友病,急性白血病,血小板減少症)の患者は,出血の原因となりうる歯科処置(例,抜歯,下顎ブロック)を受ける前に医師への相談が必要である。血友病患者は抜歯前,抜歯中,抜歯後に凝固因子の投与を受けるべきである。そのような口腔外科手術は血液の専門医と相談のうえ,病院で施行すべきである。全ての出血性疾患の患者は,抜歯を避けるために,清掃,充填,局所フッ化物と予防的シーラント療法を含むルーチンの定期的な歯科受診を一生涯続けるべきである。

心血管疾患: 心筋梗塞後,歯科処置は,可能であれば6カ月間は避けるべきである。歯科処置に吸入麻酔を要する肺疾患または心疾患患者は入院すべきである。

心内膜炎予防法は,心臓または大血管の先天的な欠損,心臓弁膜症(僧帽弁逸脱症を含む),肥大型心筋症,または人工弁を有する患者における歯科処置に対して必要である。慢性の歯科病態で発生する軽度の菌血症に対して,(予防を伴う)歯科治療を受けた方が,治療を受けない場合よりも心臓を良好に保護できる。おそらく有効性はわずかであるが,抗生物質の予防的投与はときに,血液透析のシャントを有する患者や大きな人工関節(股関節部,膝,肩,肘)の置換後2年以内の患者に対して推奨される。

エピネフリンやレボノルデフリンは麻酔の持続時間を延ばすために局所麻酔に加えられる。一部の心血管疾患患者においては,これらの薬物は不整脈,心筋虚血または高血圧を引き起こす。単独の麻酔法は60分以内に終了する処置に用いられるが,より長時間の処置または止血が必要な際は,エピネフリンを最高で0.04mg(1:100,000に希釈されたエピネフリン添加の歯科用麻酔カートリッジ2本分)が安全と考えられている。一般に,いかなる健康な患者に対しても1回の診察において0.2mgを超えるエピネフリンを投与すべきではない。(いかなる量であれ)エピネフリンに対する絶対的禁忌は,制御されていない甲状腺機能亢進症,褐色細胞腫,収縮期血圧が200超,または拡張期血圧が115超,薬物療法でも制御不能な不整脈,不安定狭心症,心筋梗塞または6カ月以内の脳卒中である。

電気メス,歯髄診断器,または超音波スケーラーのような,ある種の電動歯科治療器具は,旧式のペースメーカーを妨害する可能性がある。

癌: 歯肉,口蓋,または上顎洞の癌に近接している歯の抜去は,歯槽骨(抜歯窩)への癌浸潤を引き起こす恐れがある。したがって,歯は,癌の最終的な治療過程においてのみ抜去されるべきである。白血病や顆粒球減少症患者においては,抗生物質使用にかかわらず,感染が抜歯に続発することがある。

免疫抑制: 免疫不全患者は,真菌,ヘルペス,その他のウイルスおよび,頻度は少ないが細菌による重度の粘膜および歯周組織感染にかかりやすい。感染症は,出血,治癒遅延または敗血症を生じさせることがある。形成異常のまたは腫瘍性の口腔病変が,免疫抑制の数年後に発症することがある。AIDS患者はカポジ肉腫,非ホジキンリンパ腫,毛様白板症,カンジダ症,アフタ性潰瘍,または急性進行性歯周病を発症することがある。

内分泌疾患: ある種の内分泌疾患が存在すると歯科治療は複雑になる。例えば,甲状腺機能亢進症の患者はエピネフリンを投与されると,甲状腺クリーゼだけでなく頻脈と過度の不安を生じる。糖尿病患者においては,口腔感染の除去のためにインスリン必要量を低減することがあり,口腔外科処置後の疼痛のために食事摂取量が制限される場合,インスリン投与量の減少が必要となることがある。糖尿病の患者において,高血糖が原因の多尿症は脱水症を引き起こすことがあり,結果として唾液の分泌が減少し(口腔乾燥症),唾液中のブドウ糖濃度の上昇とともに齲蝕の一因となる。

コルチコステロイド投与中の患者や副腎皮質機能不全症の患者は大きな歯科処置中にはコルチコステロイドの補充が必要なことがある。クッシング症候群患者,またはコルチコステロイドを服用中の患者は,歯槽骨欠損,創傷治癒の遅滞,毛細血管の脆弱化が生じることがある。

神経疾患: 歯科装置が必要な発作性疾患患者は,嚥下したり吸引したりできないような非可撤式の歯科装置を装着するべきである。効果的な歯磨き,またはデンタルフロスによる掃除が不可能な患者は,朝と就寝時にクロルヘキシジン含嗽剤を使用する。

薬物: コルチコステロイド,免疫抑制薬,抗腫瘍薬などの特定の薬は,治癒と宿主防御を損なう。可能であれば,このような薬物の投与中は歯科処置を実施すべきではない。

ある種の抗腫瘍薬 (例,ドキソルビシン,5-フルオロウラシル,ブレオマイシン,ダクチノマイシン,シトシン,アラビノシド,メトトレキサート)は口内炎を引き起こし,既存の歯周病のある患者ではより重篤になる。そのような薬物の処方前には,口腔清掃は完了すべきであり,患者は適切な歯磨きとデンタルフロスによる清掃の指導を受けるべきである。

抗凝固薬は,術前に減量するか,または中止する必要がある。アスピリン,NSAIDまたはクロピドグレルを服用中の患者は歯科手術の施行4日前に服用を中止すべきであり,出血が止んだ翌日からこれらの薬物を再開しうる。ワルファリンは口腔外科手術の2〜3日前に中止すべきである。PT(プロトロンビン時間)を調べ,INR(国際標準率)が1.5であれば手術には安全である。血液透析患者に対しては,ヘパリン比が減少している透析の翌日に歯科処置を施行すべきである。

放射線療法: 注意放射線を受けた組織からの歯の抜去(特に,もし総線量が65グレイを超えたとき,とりわけ下顎において)は,一般的に顎の放射線骨壊死が続発する。これは,抜歯窩が崩壊し,骨と軟組織が頻繁に脱落する重篤な合併症である。それ故,可能であれば,頭頸部領域の放射線療法を受ける前には,治癒の期間も考慮した上で,患者は必要な歯科治療を完了しておくべきである。残存しえない歯は,抜去しておくべきである。必要なシーラントや局所のフッ素を塗布すべきである。放射線治療後は,可能であれば,歯の修復と根管治療を用い,抜歯を避けるべきである。

頭頸部への放射線治療はしばしば唾液腺を損傷し,齲蝕を促進する口腔乾燥症を引き起こす。それ故,患者は良好な口腔衛生を生涯にわたって実践しなければならない。フッ素ゲルとフッ素含嗽剤は毎日使用すべきである。もし耐えうるならば,朝と就寝時に0.12%のクロルヘキシジンで30〜60秒間含漱してもよい。口腔組織が敏感な患者は,粘性のリドカインにより,歯磨きや,デンタルフロスの使用,摂食が可能となる。前回の検査所見に応じて,3カ月,4カ月または6カ月間隔で歯科医師を受診させるべきである。義歯の下の照射を受けた組織は崩壊しやすいので,不快感に気づいた場合は常に義歯の点検と調整を受けるべきである。照射を受けた患者は,咀嚼筋の線維症による開口障害だけでなく口腔粘膜炎や味覚の減退を引き起こすことがある。開口障害は口を大きく開閉させる運動を20回ずつ,1日に3回または4回することにより最小限に抑えうる。もし放射線治療後に抜歯が必要ならば, 10〜20回の高圧酸素室治療が,放射線骨壊死を予防または阻止することがある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ

次へ: 歯ぎしり

イラスト
個人情報の取扱いご利用条件