メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

歯肉炎

歯肉炎は歯肉の炎症であり,腫脹,発赤,滲出液,正常な外観の変化,ときとして不快感を伴う出血が生じる。診断は検査に基づく。治療は専門的な歯の清掃と徹底した家庭での口腔衛生である。進行した症例では抗生物質または手術が必要なことがある。

正常では,歯肉は硬く,歯に密着し,先が尖った外観を呈する。歯冠近くの角化歯肉はピンク色で斑点状の組織である。歯肉は歯冠の間の全域を満たしていなければならない。歯槽粘膜と呼ばれる,歯冠からより離れたところにある歯肉は,非角化で,脈管が豊富で赤く,可動性があり,頬粘膜につながっている。舌圧子による診査で,正常歯肉からの出血や排膿があってはならない。

炎症または,最も一般的な歯肉の問題である歯肉炎は,歯周炎へと発展することがある。

病因

歯肉炎の最も一般的な原因は不良な口腔衛生状態である。不良な口腔衛生状態は,歯肉と歯の間に歯垢を蓄積させる(歯肉炎は無歯領域では起こらない)。歯垢による刺激は,歯と歯肉の間の正常な裂溝を深め,歯肉ポケットが形成される。これらのポケットは,歯肉炎と(根面)齲蝕の両方を引き起こす可能性がある細菌を含んでいる。不正咬合,歯石,食物陥入,不完全な修復,口腔乾燥症などの他の局所因子は,二次的役割を果たしている。

歯肉炎はまた,思春期,月経中,妊娠中,閉経期に一般に生じるが,これはおそらくホルモン変調が原因である。同様に,経口避妊薬が炎症を悪化させることがある。

歯肉炎は全身疾患の初期徴候のこともあり,特に感染に対する反応に影響する疾患で(例,糖尿病,AIDS ,ビタミン欠乏症,白血球減少症),特にもし最小限の歯垢しか認められない患者において発生する場合はそうである。一部のクローン病患者は,小腸の発赤が起きる場合,肉芽腫性の歯肉肥大を呈する敷石状の部位を認める。重金属(例,鉛,ビスマス)への暴露は,歯肉炎と歯肉縁に暗線を生じる原因となることがある。ナイアシンまたはビタミンCの重度の欠乏症は歯肉炎の原因となることがある。

症状と徴候

単純性歯肉炎は,最初に歯と歯肉の間の溝(歯肉溝)の深化を引き起こし,続いて1本以上の歯の歯肉が帯状に発赤し,炎症を起こし,歯間乳頭が腫脹し,出血しやすくなる。疼痛は通常ない。消失することも,何年も表在のままとどまることも,またはときとして歯周炎へ発展することもある。

歯冠周囲炎は,部分的に萌出した歯を覆う歯肉弁の急性で有痛性の炎症であり,通常第3大臼歯(智歯)周囲に認められる。感染は一般的で,膿瘍が発症することもある。歯冠周囲炎は,歯肉弁の下部に食物がつまると,しばしば再発する。歯肉弁は,歯が完全に萌出すると消失する。

剥離性歯肉炎は閉経期に起こる。剥離性歯肉炎の特徴は,出血しやすく,深い赤みを呈する疼痛性の歯肉組織である。水疱が剥離段階の前に生じることもある。食物片による擦過に抵抗する角化細胞がないために,歯肉は軟らかい。同様の歯肉病変は,尋常性天疱瘡,水疱性類天疱瘡,良性粘膜類天疱瘡,または萎縮性扁平苔癬に伴うことがある。

妊娠中は特に歯間乳頭に腫脹が生じやすい。有茎性歯肉の増殖は,妊娠第1トライメスター中,歯間乳頭にしばしば発生し,妊娠中持続することがあり,分娩後に消退することもしないこともある。妊娠腫は,組織学的には化膿性肉芽腫の,軟らかく赤みを帯びた腫瘤である。それらは急速に発達し,それから静止する。歯石や粗造な辺縁を伴う修復物のような,基礎となる刺激物が一般的にある。

管理されていない糖尿病は,歯肉への刺激の効果を過剰にし,二次感染や急性歯肉膿瘍がよくみられる。

白血病においては,歯肉炎は白血病潤滑巣を充血させ,浮腫,疼痛,容易な誘発性出血といった臨床症状を呈する。

壊血病(ビタミンC欠乏症)においては,歯肉は炎症を起こし,肥大し,充血し,出血しやすくなる。点状出血と斑状出血が,口腔内全体に現れることがある。

ペラグラ(ナイアシン欠乏症)においては歯肉は炎症を起こし,出血しやすく,二次感染を起こしやすい。さらに,口唇は赤みを帯び,ひびが入り,口には灼熱感があり,舌は滑沢で鮮紅色となり,舌と粘膜は潰瘍化することがある。

診断と治療

歯肉線にある紅斑状のもろい組織の所見は診断を確定する。歯肉の疾患を早期に発見するために,各歯周囲のポケットの深さを頻繁に測定する歯科医もいる。深さが3mm未満であれば正常であるが,より深いポケットは歯肉炎と歯周炎の危険性が高い。

単純性歯肉炎は,抗細菌性含嗽の有無にかかわらず,適切な口腔衛生によって制御される。十分なスケーリング(鋭利な器具での専門家による掻爬)を施行すべきである。もし適切であれば,不良な外観の修復物は再形成され,または修復され,局所の刺激物は除去される。過剰な歯肉が,もしある場合は,切除することもある。歯肉増殖症の原因となる薬物は可能なら中止すべきであろう。妊婦腫は切除する。

歯冠周囲炎の治療としては,歯肉弁下部の壊死組織片の除去,洗浄(食塩水,1.5%過酸化水素,または0.12%クロルヘキシジンによる),特に症状が再発する場合には抜歯を行う。もし重度の感染を来すならば,抜歯の前日に抗生物質を投与し,治癒期間中も継続する。一般的なレジメンはペニシリンVK500mg,6時間毎経口投与,10日間である(または全ての炎症の消退後3日間)。歯冠周囲炎を伴う膿瘍は,局所の切開と排膿,歯周弁と根面デブリドマン,または抜歯が必要である。

全身疾患に由来する歯肉炎においては,治療は基礎原因に向けられる。閉経期の剥離性歯肉炎においては,エストロゲンやプロゲスチンの持続的投与が有効なことがあるが,この療法(閉経: ホルモン療法を参照 )には副作用があり,使用の推奨を制限している。尋常性天疱瘡(水疱性疾患: 尋常性天疱瘡を参照 )および類似の皮膚粘膜疾患に由来する歯肉炎には,全身性コルチコステロイド療法が必要なこともある。

予防

デンタルフロスと歯ブラシによる毎日の歯垢除去と,6カ月〜1年間隔の歯科医師または歯科衛生士による定期清掃は,歯肉炎予防に役立つ。歯肉炎に罹患しやすい全身疾患の患者は,より頻回の(2週間毎〜4回/年)専門家による清掃が必要である。

急性壊死性潰瘍性歯肉炎 (ANUG)

(紡錘菌スピロヘータ;塹壕熱口内炎;ヴァンサン感染またはアンギナ)

急性壊死性潰瘍性歯肉炎は疼痛を伴う歯肉の感染である。症状は急性疼痛,出血,口臭である。診断は臨床所見に基づく。治療は,慎重なデブリドマン,口腔衛生,含嗽,対症療法,もしデブリドマンの実施が遅れるならば,抗生物質投与である。

急性壊死性潰瘍性歯肉炎が最も頻繁に起こるのは喫煙者やストレスを受けて衰弱している患者である。他の危険因子は,不良な口腔衛生,栄養欠乏症,睡眠不足である。

症状,徴候,診断

通常,突発し,倦怠感または発熱を伴うことがある。主な症状発現は,急性疼痛を伴う歯肉出血,唾液分泌過剰,強く臭う息(口臭)である。特徴的な潰瘍形成が歯間乳頭や歯肉縁に認められ,これらは特徴的に打ち抜き像を呈し,灰色の偽膜によって覆われる。頬粘膜や扁桃上の同様な病変はまれである。嚥下や会話は疼痛を伴うことがある。領域リンパ節腫脹がしばしば認められる。

まれに,扁桃または咽頭の組織が影響を受けることがあり,ジフテリアまたは顆粒球減少症による感染を除外しなければならない。

治療

治療は,手用スケーラーまたは超音波装置を用いた慎重なデブリドマンである。デブリドマンは,数日間にわたって施行する。患者は軟らかい歯ブラシを使用して歯を磨く。温かい生理食塩水で1時間おき,または1.5%過酸化水素や0.12%クロルヘキシジンによる1日2回の含嗽は,最初のデブリドマン後の数日間は役に立つことがある。必要不可欠な支持的手段は,口腔衛生の改善(初めは慎重に行う),適切な栄養,多量の水分摂取,休養,必要に応じて鎮痛薬,刺激の回避(例,喫煙または熱い食物または辛い食物)である。通常24〜48時間以内に顕著な改善がみられ,その後デブリドマンを完了しうる。もしデブリドマンが遅れるならば(例,デブリドマンに必要な歯科医師または器具が得られない),経口の抗生物質(例,ペニシリンVK500mg,エリスロマイシン250mg,またはテトラサイクリン250mg,6時間毎投与)は迅速な緩和をもたらし,症状の消散後72時間まで継続してもよい。もし急性期に歯肉の外観が反転する場合(すなわち,もし乳頭の先端部分が消失する場合),続発する歯周炎の予防のため,手術が最終的に必要となる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ

前へ: 齲蝕

次へ: その他の歯肉疾患

イラスト
個人情報の取扱いご利用条件