メルクマニュアル18版 日本語版
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脱毛症(禿頭)

脱毛症の原因は多い。毛髪を肉眼的および顕微鏡的に調べれば,ときに原因を診断できる。治療は,根底にある原因の治療である。

大部分の脱毛症は,美容的および精神的な理由で問題になるが,脱毛症がときに重要な全身疾患の初発徴候のこともある。

病因

脱毛症は,非瘢痕性でびまん性,非瘢痕性で局所性,瘢痕性で局所性のいずれであってもよい。

非瘢痕性びまん性脱毛: 原因には,男性型脱毛,女性型脱毛,休止期脱毛,成長期脱毛,一次性毛幹異常,先天性疾患がある。

男性型脱毛(アンドロゲン脱毛)はよくみられ,家族性で,アンドロゲンの作用による。脱毛は側頭部および/または頭頂部に始まり,びまん性に毛髪が薄くなったり,ほとんど完全に毛髪がなくなったりする。女性型脱毛では,前頭部,頭頂部,脳天部の毛髪が薄くなる。女性型脱毛もアンドロゲンの作用による。

休止期脱毛とは,毛髪サイクルが同調した結果多数の毛髪が同時に休止相すなわち休止期に入るために生じる頭髪の脱落をいう。通常原因となった出来事があってから数カ月後に休止相が終わるが,この時期に著明な脱毛の増加に気づかれる。薬剤は原因としてよくみられ,特に抗増殖作用をもつ化学療法薬,ワルファリン,H2-ブロッカー,経口避妊薬,ACE阻害薬,β-ブロッカー,リチウムが挙げられる。休止期脱毛を誘発することがある他の薬剤には,フルオロブチロフェノン,クロフィブラート,ベザフィブラート,トリメタジオン,バルプロ酸,カプトプリル,ペニシラミン,イブプロフェン,インターフェロン,ラニチジン,スリンダク,タモキシフェン,テルフェナジン,チアムフェニコールがある。休止期脱毛は,栄養不足,生理学的または精神的ストレス後(手術,全身疾患),病的(甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症)または生理学的(出産後,閉経)な内分泌変化でもよくみられる。

成長期脱毛は,成長相(成長期)に生じる頭髪の脱落をいう。最も多い原因は放射線照射および化学療法薬であるが,水銀中毒,タリウム中毒,ホウ酸中毒,ビタミンA 中毒でも生じることがある。

一次性毛幹異常(毛髪異栄養症)には,くせ毛や異常な縮毛を生じたり毛幹が折れるに至る様々な疾患がある。陥入性裂毛では,ボールとカップ状に毛髪が陥入する(竹状毛)。この毛髪異常は,まれな常染色体劣勢遺伝疾患であるネザートン症候群で,魚鱗癬とともに生じることがある。空胞毛は毛幹に空胞を認めるもので,ヘアドライヤーの過度な使用で生じることがある。結毛症すなわち毛髪に結び目が生じる状態は,過度の摩擦または掻破で生じる。連珠毛はまれな常染色体優性遺伝疾患であり,毛髪がビーズ状になって非常に脆い。

他の毛髪の先天性疾患には,縮毛母斑(密な縮毛が頭皮全体または一部に存在),櫛不能毛症候群(どんなに櫛で梳かしたりブラシをかけようと努力してもそれが難しい頭髪),結節性裂毛(毛幹が容易に折れ,折れた端が頭皮の広い範囲に存在),トリコチオジストロフィー(イオウ代謝の欠損による脆い毛髪)がある。

非瘢痕性局所性脱毛: よくみられる原因には,牽引性脱毛症,頭部白癬,抜毛狂,円形脱毛症 (毛髪の障害: 円形脱毛症を参照 ) がある。まれな原因には,梅毒,一次性毛幹異常がある。

牽引性脱毛症は,三つ編み,ローラー,ポニーテールで毛髪を牽引するために主として前頭部および/または側頭部に生じる脱毛である。トリコフィトン-トンズランスが毛幹に感染している頭部白癬は真菌性皮膚感染症: 頭部白癬で考察;頻度は下がるが,その他頭部白癬の原因菌としてよくみられるものにミクロスポルム-カニスM. オーズイニT. シェーンライニがある。抜毛狂-毛を引っぱったり,捻ったり,もてあそんだりするために生じる局所性脱毛-は,強迫性障害の症状である(不安障害: 強迫性障害を参照 )。

晩期二期梅毒では,限局型から全頭型までの脱毛が生じる。梅毒性脱毛は,先行する皮疹の分布に従うことがある。梅毒血清反応は常に陽性である。診察すると,局所性に,蛾に食われたような黄色がかった赤色の部位が明らかとなる。

瘢痕性局所性脱毛: 瘢痕性とは,毛包がなくなり線維化で置き換えられた状態をいう。瘢痕性脱毛で最も多い原因は,毛孔性扁平苔癬(頭皮の扁平苔癬),脱毛性毛包炎(特発性の瘢痕性脱毛症で,膿疱および“房状”に密集した非罹患毛を伴う),萎縮性脱毛症(瘢痕性脱毛症の特殊型)などの珍しい疾患に続発する脱毛である。他の原因には,熱傷,外傷,放射線治療,重症の一次性(禿瘡)または二次性(梅毒)感染症,サルコイドーシス,エリテマトーデス,皮膚悪性疾患がある。

症状,徴候,診断

脱毛以外の症状はしばしば欠如するが,もし症状(例,かゆみ,ほてり感,ピリピリ感)があっても,原因に特異的ではない。円形脱毛症(毛髪の障害: 円形脱毛症を参照 ),感染症の一部(禿瘡,梅毒),扁平苔癬,頭部解離性蜂巣炎(膿瘍性穿掘性毛包炎)を除き,脱毛の徴候は診断的価値がない。もし瘢痕化が認められれば,全身疾患に合併する病変を検出するため,全身の皮膚と粘膜を含めた診察を行うべきである。

男性型脱毛は,一般に検査の必要がない。家族歴がないのに男性型脱毛が若い男性に生じた場合,医師は蛋白同化ステロイドをはじめとする薬剤の使用に関して患者に尋ねるべきである。脱毛が著明で男性化の徴候がある女性では,テストステロンおよびデヒドロエピアンドロステロン硫酸の濃度を測定すべきである。

“牽引”試験はびまん性頭髪脱落の評価に役立つ;少なくとも頭皮の3カ所で40〜60本の毛髪を穏やかに引っぱって抜けた毛髪を数え,顕微鏡で観察する。正常では,抜ける休止相の毛は6本未満である。休止相の毛が6本以上抜ければ異常で,休止期脱毛が疑われる。

“引き抜き”試験はよく似ているが,毛髪を急に引き抜いて疼痛を伴う点が異なる。引き抜き試験は休止期もしくは成長期の異常,または潜在している全身疾患を診断するのに役立つ。

いずれかの試験で採取した毛髪,またはハサミで切って採取した毛髪を顕微鏡で観察すれば,参考になることが非常に多い。成長期毛は毛根に鞘が付着している;休止期毛は毛根に鞘がなく小球がある。正常では毛髪の85〜90%が成長相である;約10〜15%が休止相である;1%未満が退行相である。休止期脱毛では休止期毛のパーセントが増加しているが,成長期脱毛では休止期毛が減少しており毛髪が容易に折れる。退行相(成長相と休止相の間にある移行相)にある毛髪のパーセントが高いことおよび毛軟化を認めることは,抜毛狂の特徴的所見である。陥入性裂毛や連珠毛などの一次性毛幹異常は,毛幹を顕微鏡で観察すれば通常明らかである。

頭皮の生検は,脱毛症が持続し,診断が疑わしい場合に適応となる;生検により瘢痕性脱毛と非瘢痕性脱毛を鑑別できることがある。生検材料は炎症の活発な部位から採取すべきであり,理想的には脱毛斑の境界部から採取する。真菌培養および細菌培養の有用なことがある;免疫蛍光試験を行えば,エリテマトーデス,毛孔性扁平苔癬,全身性硬化症の同定に役立つことがある。

牽引試験が陰性のときは,脱毛を定量化するため,患者が毎日脱落した毛髪数を数えてもよい。シャンプー後を除いて脱落した頭髪数が100本以上なら異常で,シャンプー後なら脱落した頭髪数が250本までは正常と考えてもよい。毛幹および毛球を顕微鏡で観察するため,患者が毛髪を持参してもよい。

治療

男性型脱毛: 男性型脱毛は非常に多いので,脱毛治療の大部分は男性型脱毛を対象に開発されてきた。

ミノキシジルは,成長相を延長するとともに毛包への血流を増加するようである;2%または5%の外用薬1mLを1日2回頭皮に外用すれば,男性および女性に生じた男性型脱毛における頭頂部の脱毛に最も有効である。しかし,毛髪の有意な成長を経験する患者は多くても30〜40%であり,ミノキシジルは一般に他の原因による脱毛には効果および適応がないものの,円形脱毛症には有効かもしれない。毛髪の成長は6〜9カ月目までみられないことがある;ふつうに行われている方法は,効果がある限り治療し続けることである。

フィナステリドは5-αリダクターゼという酵素を阻害してテストステロンがジヒドロテストステロンに変換されるのを遮断し,男性型脱毛に有用である。フィナステリド1mg,経口,1日1回投与は頭髪の成長を刺激する。副作用にはリビドの減少,勃起不全,射精障害,射精量の減少があり,約1%の患者でみられる。この薬剤は女性に適応がなく,妊婦では禁忌である。毛髪の成長は6カ月目までみられないことがある;ふつうに行われている方法は,効果がある限り24カ月間治療を続けることである。一旦治療を中止すれば,脱毛は以前の状態に戻る。

外科的療法には,毛包移植,頭皮皮弁,脱毛斑縮小術がある。その他科学的に検討が加えられた手技はほとんどないが,脱毛が気になる患者ではそのような手技を考慮してもよい。

他の原因: 根底にある原因を治療する。牽引性脱毛の治療は,物理的な牽引または頭皮に加わるストレスを除くことである。頭部白癬の治療は,抗真菌薬の外用または内服である(真菌性皮膚感染症: 診断と治療を参照 )。抜毛狂の治療は難しいが,行動変容療法,成人では25〜250mg,経口,1日1回または小児では3mg/kg(最大100mgまで)のクロミプラミン投与,および/または20〜40mg,経口,1日1回のフルオキセチン投与が有効な場合もある。

化学療法による脱毛は一過性であり,かつらで対処するのが最もよい。毛髪が再生した場合,その毛髪は元の毛髪と色調および質感が異なることもある。

円形脱毛症

円形脱毛症は,明瞭な皮膚疾患や全身性疾患をもたない患者に突然生じる脱毛斑である。

頭皮と鬚毛部に最も好発するが,有毛部ならどこでも起こりうる。脱毛は体の大部分または全身に及ぶことがある(汎発性脱毛症)。円形脱毛症は,遺伝的素因をもつ人が感染や情動ストレスなどの環境誘因に暴露したときに生じる自己免疫疾患と考えられているが,環境誘因に関しては明らかになっていない。本疾患はときに自己免疫性白斑または自己免疫性甲状腺炎に合併する。

診察は視診で行う。典型的な場合,円形脱毛症は散在性の円形脱毛斑として生じ,辺縁に短く折れた毛髪を認めるのが特徴で,この毛髪は感嘆符に類似する。爪はときに陥凹を生じたり粗造爪を呈したりするが,粗造爪とは爪が粗造な状態で扁平苔癬でもみられる。鑑別診断には,頭部白癬,抜毛狂,円板状狼瘡,二期梅毒がある。TSH,ビタミンB12,自己抗体の測定は,合併症が疑われる場合のみ適応がある。

治療はコルチコステロイドで行う。もし病変が小さければ,トリアムシノロン-アセトニド懸濁液(注射部位当たり0.1mLを超えない量,すなわち10mg/mLの濃度で1mgを超えない量で施行)を皮内注射してもよい。強力なコルチコステロイドの外用(0.05%ベタメタゾン,1日2回など)を用いてもよい;しかし,そのような薬剤は,しばしば炎症の生じている部位である毛球の深さまで浸透しない。コルチコステロイドの内服は有効であるが,治療を中止すると脱毛が再発し,副作用のため使用が制限される。アンスラリン(1日に0.5〜1%を10〜20分間外用して洗い流し,耐えられれば外用頻度を30分間,1日2回まで漸増する)および/またはミノキシジルを用いてもよい。機序は不明であるものの,ジフェンシプロンまたはスクアリン酸ジブチルエステルを用いてアレルギー性接触皮膚炎を誘導すれば毛髪が成長するが,この治療法はびまん性の円形脱毛症に罹患し他の治療に抵抗する患者用に残しておくのが最もよい。

円形脱毛症は自然消退することもあれば,慢性化したり,びまん性に拡大したりすることもある。慢性化の危険因子には,広範な罹患,思春期以前の発症,アトピー,頭髪の生え際の罹患(蛇行性脱毛)がある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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