メルクマニュアル18版 日本語版
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はじめに

赤血球は正常な寿命(約120日)が尽きると,循環血液から取り除かれる。溶血には早発性の崩壊およびそれによる赤血球寿命の短縮(120日未満)が関与する。貧血は,骨髄での産生が,短縮された赤血球の寿命を埋め合わせることができなくなった時に生じる,この状態を溶血性貧血と呼ぶ。骨髄による埋め合わせができている場合,その状態を代償性溶血性貧血と呼ぶ。

病因

溶血は赤血球に対する外因性障害または内因性赤血球異常の結果として起こる( 溶血による貧血: 溶血性貧血表 1: 表参照)。

表 1

溶血性貧血

機序

障害

内因性赤血球異常

先天性赤血球膜異常

先天性赤血球生成性ポルフィリン症

遺伝性楕円赤血球症

遺伝性球状赤血球症

後天性赤血球膜異常

低リン酸血症

発作性夜間血色素尿症

有口赤血球症

赤血球代謝障害

エムデン-マイヤーホフ経路障害

G6PD欠損

ヘモグロビン合成障害

ヘモグロビンC症

ヘモグロビンS-C症

ヘモグロビンE症

鎌状赤血球症

サラセミア

赤血球に対する外因性の問題

細網内皮系の活動亢進

脾機能亢進症

免疫異常

自己免疫性溶血性貧血:

温式抗体

冷式抗体

発作性寒冷血色素尿症

感染因子

プラスモディウムバルトネラ

機械的外傷

弁膜性心疾患,骨格外傷,行軍ヘモグロビン尿症

G6PD=グルコース-6-リン酸脱水素酵素。

赤血球に対する外因性障害には,細網内皮系の活動亢進(脾機能亢進症―脾臓の疾患: 脾機能亢進症を参照 ),免疫異常(例,自己免疫性溶血性貧血,同種免疫による溶血性貧血),機械的損傷(外傷性溶血性貧血),感染因子などがある。感染因子は,毒素(例,クロストリジウム-パーフリンジェンスαまたはβ溶血性レンサ球菌,あるいは髄膜炎菌に由来する毒素)の直接作用や,微生物(例,プラスモジウムおよびバルトネラ種)による赤血球への侵入と破壊により,溶血性貧血を引き起こす。赤血球に対する外因性障害による溶血では,赤血球は正常であり,ドナーの赤血球も自己の赤血球も崩壊する。

溶血を引き起こす赤血球の内因性障害には,遺伝性および後天性赤血球膜異常(低リン酸血症,発作性夜間血色素尿症,有口赤血球症),赤血球代謝障害(エムデン-マイヤーホフ経路障害;グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠乏などの6炭糖1リン酸側路障害),異常ヘモグロビン症(鎌状赤血球障害およびサラセミア)などがある。特定の赤血球膜蛋白の量的および機能的異常(αおよびβスペクトリン,蛋白4.1,Fアクチン,アンキリン)は,不明な機序により溶血性貧血を引き起こす。

病態生理

老化した赤血球は細胞膜を失い,大半は脾臓,肝臓および骨髄の食細胞により循環血液中から除去される。ヘモグロビンは,主としてヘムオキシゲナーゼ系によってこれらの細胞および肝細胞内で分解され,鉄の保存(およびその後の再利用),一連の酵素学的段階によるヘムのビリルビンへの分解,および蛋白の再利用が行われる。

非抱合型高ビリルビン血症(高間接ビリルビン血症)および黄疸は,ヘモグロビンのビリルビンへの変換が,ビリルビングルクロニドを形成して胆汁中にビリルビンを排泄するという,肝臓の能力を上回るときに生じる(胆嚢および胆管疾患: 胆汁生成も参照 )。ビリルビン異化は,便中のステルコビリンの増加と尿中のウロビリノーゲンの増加,そして時に胆石の原因となる。

大半の溶血は血管外性で,脾臓,肝臓および骨髄の食細胞内で起こる。脾臓が通常貢献しており,軽度に異常な赤血球や温式抗体に被覆された赤血球を破壊することで赤血球寿命を短縮する。腫大した脾臓は正常な赤血球でも捕捉する。高度に異常な赤血球,または冷式抗体や補体(C3)に覆われた赤血球は,循環血中や肝臓の中で破壊され,肝臓は(大量の血流があるために)損傷赤血球を効率よく取り除くことができる。

血管内溶血はまれである;血管内溶血では,血漿中に放出されたヘモグロビンが血漿結合蛋白(例,正常では血漿内に約1.0g/Lの濃度で存在するグロブリンであるハプトグロビン)のヘモグロビン結合能を上回る際に,ヘモグロビン尿が生じる。非結合ヘモグロビンは腎尿細管細胞に再吸収され,そこで鉄がヘモジデリンに変化し,ヘモジデリンの一部は再利用のために同化され,一部は尿細管細胞がはがれ落ちて尿に達する。

溶血は急性,慢性または一過性である。慢性溶血は,骨髄無形成クリーゼ(一時的な赤血球産生障害)により悪化するが,通常は感染(しばしばパルボウイルス)が原因である。

症状と徴候

全身の症候は,他の貧血に類似する。溶血クリーゼ(急性の重度の溶血)はまれであるが、悪寒,発熱,背部と腹部の痛み,虚脱およびショックを伴う。重度の溶血は黄疸および脾腫を引き起こすことがある。

診断

溶血は,貧血および網赤血球増加を伴う患者において,特に脾腫または別の考えられる原因が認識されている場合に疑われる。溶血が疑われる場合,末梢血塗抹標本が検査され,血清ビリルビン,LDHおよびALTが測定される。これらの検査で結論が出ない場合は,尿中ヘモジデリンおよびヘモグロビンのほか,血清ハプトグロビンが測定される。

赤血球の形態異常が溶血の診断に資することはまれであるが,しばしば溶血の存在および原因を示唆する( 溶血による貧血: 溶血性貧血における赤血球の形態的変化表 2: 表参照)。球状赤血球症は活発な溶血に最も特異的な赤血球の形態異常である。末梢血塗抹標本上の赤血球断片(分裂赤血球)または赤血球貪食は血管内溶血を示唆する。球状赤血球症はMCHCを増加させる。正常なALTを伴う血清LDHおよび間接ビリルビン濃度の増加および尿中ウロビリノーゲンによって溶血が示唆される。血清ハプトグロビン値の減少は血管内溶血を示唆するが,ハプトグロビン値は肝細胞機能不全により減少し,全身性炎症により増加することがある。血管内溶血はまた,尿中ヘモジデリンまたはヘモグロビンにより示唆される。尿中ヘモグロビンは血尿およびミオグロビン尿と同様に,ディップスティック検査でベンジジン反応陽性となるが,尿の顕微鏡検査で赤血球がみられないことにより血尿と鑑別可能である。遊離ヘモグロビンは血漿を赤褐色化させることがあり,遠心分離した血液中でしばしば認められるが,ミオグロビンでは赤褐色化はみられない。

表 2

溶血性貧血における赤血球の形態的変化

赤血球形態

原因

球状赤血球

輸注された血液や温式抗体溶血性貧血;遺伝性球状赤血球症

分裂赤血球

微小血管症;血管内人工器官

標的赤血球

異常ヘモグロビン症(ヘモグロビンS,C症;サラセミア);肝機能障害

鎌状赤血球

鎌状赤血球障害

凝集した赤血球

寒冷凝集素症

ハインツ小体;咬傷赤血球(bite細胞)

酸化ストレス;不安定なヘモグロビン(例,G6PD欠乏)

有核赤芽球および好塩基性亢進

βサラセミアメジャー

有棘赤血球

有棘赤血球貧血

G6PD=グルコース-6-リン酸脱水素酵素。

溶血は通常は上述の簡単な基準で同定できるが,確定的な診断基準は赤血球寿命の測定であり,それには51Crのような放射性標識物質が好ましい。放射線標識した赤血球の寿命測定により溶血を確認でき,表面計測により捕捉の部位も確定できる。しかしながら,これが必要となることはまれである。

溶血が同定されたら,特異的疾患を探究する。溶血性貧血における鑑別診断の範囲を狭める1つのアプローチは,危険因子(例,地理的な位置,遺伝,基礎疾患)を検討し,患者に脾腫がないか調べ,直接抗グロブリン(クームス)試験および末梢血塗抹標本を入手することである;ほとんどの溶血性貧血では,これらの変数の1つに異常がみられ,追加の検査が方向づけられる。溶血の原因の識別に役立つ他の臨床検査には,定量的ヘモグロビン電気泳動,赤血球内酵素定量,フローサイトメトリー,寒冷凝集素,および浸透圧脆弱性,酸溶血とショ糖溶血試験がある。

いくつかの検査は血管内溶血と血管外溶血を鑑別するのに役立つが,ときに鑑別は困難である。赤血球崩壊の亢進中は,一般的にどちらの部位も関与しているが,程度は異なる。

治療

治療は,それぞれの特異的溶血機序に対して個々に行われる。ヘモグロビン尿症とヘモジデリン尿症には,鉄補充療法が必要となる。長期の輸血療法は過度の鉄蓄積を引き起こし,キレート療法を必要とする。特に脾臓による捕捉が赤血球崩壊の主要な原因である場合など,脾摘出が有益な状況がある。可能であれば,脾摘出は肺炎球菌,インフルエンザ菌,および髄膜炎菌のワクチンを用いた予防接種後2週間が経過するまで延期される。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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