メルクマニュアル18版 日本語版
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サラセミア(遺伝性標的赤血球症;地中海貧血;サラセミアメジャーとサラセミアマイナー)

サラセミアは,ヘモグロビン合成障害を特徴とする先天性小球性溶血性貧血の一群である。サラセミアは,地中海,アフリカ,東南アジアに祖先をもつ人に特に一般的である。症状と徴候は,貧血,溶血,脾腫,骨髄過形成,および,輸血を複数回経験している場合は鉄過剰に起因する。診断はヘモグロビンの定量分析に基づく。重症型に対する治療には,輸血,脾摘出,キレート化,および幹細胞移植がある。

病因と病態生理

サラセミア(異常ヘモグロビン症―溶血による貧血: 異常ヘモグロビン症を参照 囲み解説 1: 囲み解説)は,最も一般的な先天性ヘモグロビン産生障害の1つである。それは,正常グロビンのポリペプチド鎖(βαγδ)のうち少なくとも1つの産生低下によるアンバランスなヘモグロビン合成の結果として生じる。

βサラセミアは,βポリペプチド鎖の産生低下の結果生じる。遺伝は常染色体性である:ヘテロ接合体はキャリアであり,無症状の軽度〜中等度の小球性貧血を有する(サラセミアマイナー);ホモ接合体(βサラセミアメジャー,またはクーリー貧血)は重度の貧血および骨髄の造血亢進を起こす。β-δサラセミアはβサラセミアのより頻度の低い型であり,β鎖とδ鎖の産生が障害され,やはりヘテロ接合性とホモ接合性が存在する。

αサラセミアはαポリペプチド鎖の産生の減少によって生じるが,α鎖合成の遺伝子制御は2組の遺伝子(4つの遺伝子)が関わっているために,より複雑な遺伝パターンを示す。遺伝子欠損が1つだけのヘテロ接合体(αサラセミア-2[サイレント])には,通常臨床的に正常である。4つの遺伝子中の2つに欠損があるヘテロ接合体(αサラセミア-1[トレイト])は軽度〜中等度の小球性貧血を起こすが症状は伴わない傾向にある。4つの遺伝子中の3つに欠損があるとα鎖産生がより重度に損傷され,その結果過剰のβ鎖が四量体を形成したり(ヘモグロビンH),乳児ではγ鎖が四量体を形成したりする(ヘモグロビンバート)。α鎖を欠いたヘモグロビンは酸素を運ばないため,4つ全ての遺伝子の欠損は子宮内で致死的な条件である。黒人では,αサラセミアの遺伝子出現頻度は約25%である;3つ以上の遺伝子に欠損を有するのは10%のみである。

症状と徴候

サラセミアの臨床像はいずれも同様だが,重症度は様々である。βサラセミアメジャーは1〜2歳までに重度の貧血の症状と輸血または吸収亢進による鉄過剰を発現する。患者は黄疸を示し,下肢潰瘍と胆石症が生じる(鎌状赤血球貧血と同様)。脾腫はしばしば大きく,一般的である。脾臓による赤血球捕捉が進行し,輸血された正常赤血球の崩壊が促進される。骨髄の造血亢進は頭蓋骨の肥厚と頬の隆起を引き起こす。長管骨の病変により病的骨折を起こしやすく,成長を障害し,思春期を遅らせるか妨げる可能性がある。鉄沈着が心筋に起こると,心不全を引き起こすことがある。肝シデローシスは典型的で,機能障害と肝硬変を引き起こす。ヘモグロビンH症の患者は,しばしば症状を呈する溶血性貧血と脾腫を有する。

診断

サラセミアは,家族歴,示唆的な症状または徴候,あるいは小球性溶血性貧血を有する患者において疑われる。サラセミアが疑われた場合,小球性および溶血性貧血に対する臨床検査とヘモグロビンの定量検査が実施される。血清ビリルビン,鉄,およびフェリチンの値は高くなる。

βサラセミアメジャーでは,貧血は重度でしばしばヘモグロビンが6g/dL以下となる。赤血球は非常に小球性であるため,赤血球数はヘモグロビンと比較して高い。血液塗抹標本は実質的に診断に役立ち,多数の有核赤芽球;標的細胞;小型蒼白赤血球;および点状とびまん性の好塩基性亢進がみられる。

ヘモグロビンの定量検査では,ヘモグロビンA2の上昇はβサラセミアマイナーの診断に役立つ。βサラセミアメジャーではヘモグロビンFが通常増加してときには90%にものぼり,ヘモグロビンA2も通常3%を超えるまで上昇する。ヘモグロビンFとヘモグロビンA2のパーセンテージはαサラセミアでは一般に正常で,遺伝子欠損が1つまたは2つのサラセミアの診断はしばしば小球性貧血の他の原因を除外していく方法でなされる。ヘモグロビンH症は,ヘモグロビン電気泳動で移動の速いヘモグロビンHやヘモグロビンバートの分画を証明することで診断される。特異的な分子欠損を特徴づけることも可能であるが、それにより臨床的アプローチが変わることはない。遺伝子マッピングに組換えDNAを使うアプローチ(特にPCR法)は,出生前診断と遺伝相談の標準になっている。

貧血に対する骨髄検査を実施する(例,他の原因を除外するため)と,著明な赤血球過形成を認める。βサラセミアメジャー患者において他の理由で実施されたX線は,慢性的な骨髄の活動亢進による変化を示す。頭蓋骨は皮質の菲薄化,板間層の拡大,太陽光線様の骨梁形成,および顆粒状またはスリガラス状外観を呈する。長管骨は,骨皮質の菲薄化,骨髄腔の拡大,および骨粗鬆症の領域を示す。椎体は顆粒状またはスリガラス状外観を呈する。指節骨は,長方形または両凸形を呈する。

予後と治療

βサラセミアマイナーまたはαサラセミアマイナーの患者の寿命は健常者並みである。ヘモグロビンH症患者の見通しは様々である。βサラセミアメジャーの患者の寿命は短く,思春期かそれを過ぎる頃まで生きるのは一部の患者のみである。

αおよびβサラセミアマイナー患者は治療を必要としない。脾摘出は,ヘモグロビンH症により重度の貧血または脾腫が引き起こされている場合は有用なことがある。

鉄過剰が生じないようにするため,βサラセミアメジャーの小児患者は,輸血をできるだけ最小限に留めるべきである。しかしながら,定期的な赤血球輸血によって異常造血を抑制する方法は,重症患者では価値がある。ヘモクロマトーシスを防ぐまたは遅らせるため,過剰の(輸血による)鉄を除去しなければならない(例,継続的な鉄キレート療法)。脾腫を有する患者の輸血の必要性を減少させるのに,脾摘出は有益である。同種幹細胞移植は成功しているが,組織適合性に対する要件,手技による死亡および合併症,および生涯にわたる免疫抑制の必要性から,その有用性は限定されている。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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