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Ian M. Chapman, MBBS, PhD
汎下垂体機能低下症は,部分的または完全な下垂体前葉機能の欠損による内分泌欠乏症候群を指す。欠乏している特定のホルモンによって多様な臨床像が生まれる。診断には,画像検査,ならびに下垂体ホルモンの基礎濃度および様々な誘発刺激後の濃度の測定を行う。治療は原因によるが,一般に腫瘍切除およびホルモン補充投与が行われる。
下垂体機能低下症の病因を
下垂体障害: 下垂体機能低下症の原因表 1: に多数列挙する。
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表 1
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下垂体機能低下症の原因
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下垂体が主たる原因
(原発性下垂体機能低下症)
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下垂体腫瘍
腺腫
頭蓋咽頭腫
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出血性梗塞(下垂体卒中)
ショック,特に分娩後(シーハン症候群),または糖尿病もしくは鎌状赤血球貧血におけるもの
血管血栓症または動脈瘤,特に内頸動脈のもの
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髄膜炎(結核性,その他の細菌性,真菌性,マラリア性)
下垂体膿瘍
サルコイドーシス
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浸潤性疾患
ヘモクロマトーシス
ランゲルハンス細胞肉芽腫症(ヒスチオサイトーシスハンド-シュラー-クリスチャン病)
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単独または複数の下垂体ホルモンの特発性欠損症
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放射線照射
外科的摘出
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視床下部が主たる原因
(二次性下垂体機能低下症)
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視床下部腫瘍
脳室上衣腫
髄膜腫
転移性腫瘍
松果体腫
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単独または複数の視床下部神経ホルモンの欠損症
外傷(ときに頭蓋底骨折に関連)
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症状と徴候
症状および徴候は,基礎にある原因や,欠乏または欠如している特定の下垂体ホルモンに関係する。発症は通常潜行性で患者に認識されない場合もあるが,ときに急性または劇的である。
最も一般的には,まずゴナドトロピンが欠乏し,次に成長ホルモン(GH)が,最後に甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびACTHが欠乏する。しかし,ときにTSHおよびACTHが最初に欠乏する。ADH欠損は原発性下垂体疾患ではまれであるが,下垂体茎や視床下部の病変では一般的である。全てのホルモンが欠損するときには(汎下垂体機能低下症)あらゆる標的内分泌腺の機能が低下する。
黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)が小児で欠乏すると,思春期の発現遅延につながる(下垂体障害: 低身長を招く小児における下垂体機能低下症を参照 )。閉経前の女性では,無月経,性欲減退,第二次性徴の退行,および不妊が生じる。男性では,勃起機能不全,精巣萎縮,性欲減退,第二次性徴の退行,および精子形成低下とそれに続く不妊が生じる。
成人では,GH欠損症はエネルギー減退の一因となることがあるが,通常は無症候性で臨床的には検出されない(小児での影響については下垂体障害: 症状,徴候,診断を参照 )。GH欠損症が動脈硬化を促進するという説は立証されていない。TSH欠損症は甲状腺機能低下症をもたらし,顔面腫脹,嗄声,徐脈,耐寒性低下などの症状が認められる。ACTH欠損症は副腎機能低下症をもたらし,倦怠感,低血圧,ストレス不耐性,易感染性などが付随する。ACTH欠損症では,原発性副腎不全に特徴的な過度の色素沈着は生じない。
視床下部病変は下垂体機能低下症につながることがあり,食欲中枢を障害して神経性食指不振症に類似した症候群をもたらすことがある。
シーハン症候群は分娩後の女性が罹患し,周産期に生じた血液量減少およびショックによる下垂体壊死のことである。乳汁分泌が出産後も始まらず,患者は倦怠感および恥毛や腋毛の喪失を訴えることがある。
下垂体卒中は,正常下垂体,またはより一般的には下垂体腫瘍のいずれかの出血性梗塞に引き起こされる症候群である。急性症状には,重度の頭痛,頸部硬直,発熱,視野欠損,および動眼神経麻痺がある。結果として生じた浮腫が視床下部を圧迫して,傾眠および昏睡をもたらす恐れもある。様々な程度の下垂体機能低下症が突発することがあり,ACTHおよびコルチゾルの欠乏が原因で血管虚脱が出現する場合もある。CSFはしばしば血性で,MRIで出血が立証される。
診断
臨床像はしばしば非特異的で,診断を確立した上で生涯にわたるホルモン補充療法を開始せねばならない。下垂体機能不全は,神経性食思不振症,慢性肝疾患,筋緊張性ジストロフィ,多腺性自己免疫疾患(下垂体障害: 汎下垂体機能低下症と他の特定障害との鑑別表 2: を参照),および他の内分泌腺障害と鑑別しなければならない。2カ所以上の内分泌腺の機能が同時に低下したときの臨床像は特に混乱を招く恐れがある。下垂体の構造異常やホルモン欠損の証拠を検索するとよい。
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表 2
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汎下垂体機能低下症と他の特定障害との鑑別
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障害
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鑑別点
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神経性食指不振症
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女性優位;悪液質;食物および肉体に対する異常な観念;無月経にもかかわらず維持される第二次性徴;成長ホルモンおよびコルチゾルの基礎濃度の上昇
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アルコール性肝疾患またはヘモクロマトーシス*
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肝疾患の証拠;臨床検査
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筋緊張性ジストロフィ
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進行性の脱力;若年性禿頭症;白内障;老化の加速を示す顔貌;臨床検査
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多腺性自己免疫疾患†
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下垂体ホルモン濃度
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*性腺機能低下症および全身衰弱をもたらす恐れがある。
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†障害の生じた内分泌腺が下垂体の標的腺である場合。
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画像検査:
患者には高分解能CTまたはMRIを実施し,(下垂体腺腫などの構造異常を除外する目的で)必要に応じて造影剤を使用する。PETは少数の専門機関で使用される研究手段であり,したがって実施されることはまれである。最新の神経放射線装置が利用できないときには,照射野縮小法を用いたトルコ鞍の側面単純X線像によって直径が10mmを上回る下垂体巨大腺腫を同定できる。脳血管造影検査が適応となるのは,他の画像検査からトルコ鞍周囲の血管奇形や動脈瘤が示唆されるときのみである。
臨床検査:
いずれの病態も生命を脅かす恐れがあることから,初回評価にはTSH欠損症およびACTH欠損症に対する検査を含めるべきである。その他のホルモン欠損症の検査については後述する。
遊離サイロキシン(T4)およびTSHを測定するとよい。汎下垂体機能低下症ではいずれの濃度も低下しているが,TSH濃度は基準範囲内で遊離T4濃度が低下しているパターンも生じうる。一方,TSH濃度の上昇と遊離T4濃度の低下は原発性の甲状腺異常を示す。
合成甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)200〜500μgを15〜30秒かけて静注すると,視床下部機能不全患者と下垂体機能不全患者の鑑別に役立つことがあるが,この検査が実施されることは多くない。血漿TSH濃度は,一般に注射後0分,20分,および60分の時点で測定する。下垂体機能が正常であれば,TSHは5mU/Lよりも上昇して注射30分後に最大値に達するであろう。視床下部疾患患者では血漿TSHの反応が遅延する可能性がある。しかし,原発性下垂体疾患患者の一部も遅延性の上昇を示す。
血清コルチゾル濃度単独では,ACTH-副腎系機能の指標としての信頼性は低い。数種の誘発試験のうち1種を実施するとよい。ACTH(およびGH,プロラクチン)の貯蔵量を評価する検査の1つが インスリン 負荷試験である。レギュラーインスリン0.1単位/kg体重を15〜30秒かけて静注し,ベースライン時( インスリン 負荷前)および負荷後20分,30分,45分,60分,90分に静脈採血を行ってGH濃度,コルチゾル濃度,血糖値を測定する。血糖値が40mg/dL未満(2.22mmol/L未満)に低下するか低血糖症状が生じたならば,コルチゾル値は7μg/dLを超える上昇を示すか,20μg/dLを上回るはずである。(注意:この試験は,すでに重症と診断が確定した汎下垂体機能低下症患者,糖尿病患者,および高齢者には危険であり,冠動脈心疾患患者またはてんかん患者には禁忌である。試験中は医療従事者が立ち会うべきである。)通常は,一過性の発汗,頻脈,および神経過敏症状のみが出現する。動悸,意識消失,痙攣発作が生じたならば,50%ブドウ糖液50mLを静注して速やかに試験を中止する。
インスリン負荷試験のみでは原発性(アジソン病)と二次性(下垂体性)の副腎機能低下症の鑑別はできない。この鑑別を行い視床下部-下垂体-副腎系を評価するための検査については副腎障害: アジソン病で論じる。 実施頻度はかなり低いが代替となる誘発試験は,副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)試験である。1μg/kgのCRHを急速静注する。血漿ACTH濃度およびコルチゾル濃度を,負荷の15分前,ベースライン時,および負荷の15分,30分,60分,90分,120分後に測定する。副作用は,一時的な潮紅,口内金属味,および軽微な一過性低血圧である。
プロラクチン濃度をルーチンに測定する。巨大な下垂体腫瘍が存在するときには,この腫瘍がプロラクチンを産生していない場合でもプロラクチン濃度はしばしば基準値の5倍にまで上昇する。腫瘍は下垂体茎を圧迫し,下垂体でのプロラクチンの産生および放出を抑制するドパミンが下垂体に到達するのを阻害する。このような高プロラクチン血症を呈する患者は,しばしば低ゴナドトロピン症および二次性性腺機能低下症を呈する。
LHおよびFSHの基礎濃度測定は,外因性エストロゲンを使用しておらず,循環血液中ゴナドトロピン濃度が平時から高い(>30mIU/mL)閉経後女性の下垂体機能低下症を評価する上で最も有用である。ゴナドトロピン濃度は,その他の汎下垂体機能低下症患者では低い傾向にあるが基準範囲内に入ることもある。いずれのホルモンの濃度も,合成ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)100μgを静注するとそれに反応して増加し,LHはGnRH静注の30分後,FSHは40分後に最大値に達する。しかし,視床下部-下垂体系の機能不全では,GnRHに対する反応は正常,減弱,または欠如する可能性がある。GnRHに反応して生じるLHおよびFSHの正常な増加は多様である。さらに,外因性GnRH投与は原発性視床下部障害と原発性下垂体障害との鑑別に有用ではない。
GH治療が計画されているのでない限り,GH欠損症のスクリーニングは成人では推奨されない(例,下垂体機能低下症患者で説明不能なエネルギー減退および生活の質の低下が生じており,完全に補充する以外ない場合など)。その他に2種以上の下垂体ホルモンが欠乏していれば,GH欠損症が疑われる。1日のうちの時間や他の因子によってGH濃度は変化し解釈が難しいので,GHを反映するインスリン様成長因子1(IGF-1)の濃度を利用する;低値はGH欠損症を示唆するが,基準範囲内の濃度ではGH欠損症は除外されない。GH放出誘発試験(下垂体障害: 症状,徴候,診断を参照 )が必要となるであろう。
多数のホルモンを評価することが,下垂体機能を評価する最も効率的な方法である。成長ホルモン放出ホルモン(1μg/kg),CRH(1μg/kg),TRH(200μg),およびGnRH(100μg)を,15〜30秒かけてまとめて静注する。血糖,コルチゾル,GH,TSH,プロラクチン,LH,FSH,およびACTHを,続く180分間頻回に測定する。下垂体検査におけるこれら放出ホルモンの有用性は依然確立されていない。正常反応は前述した各検査の場合と同様である。
治療
本節の関連各章および本書の別の個所で考察されているように,治療は機能低下がみられる標的内分泌腺のホルモン補充である。最近では,GHの欠乏した50歳以下の成人に,ときにGHを0.002〜0.012mg/kg,1日1回で皮下注射する。治療の恩恵は,エネルギーの増加,生活の質の向上,体筋量の増加,および体脂肪量の減少である。GH補充はGH欠損に誘発された動脈硬化の進行を抑制できるという説は立証されていない。
下垂体腫瘍による下垂体機能低下症では,ホルモンの補充だけでなく腫瘍そのものに対する特異的治療も必要である。このような下垂体腫瘍の適切な処置に関しては議論がある。腫瘍が小さくプロラクチンを産生していなければ,大半の内分泌医は経蝶形骨的な腫瘍切除を支持する。ほとんどの内分泌医は,ブロモクリプチン,ペルゴリド,長時間作用型カベルゴリンなどのドパミン作動薬を腫瘍の大きさにかかわらずプロラクチノーマの初期治療に考慮する(下垂体障害: 乳汁漏出症を参照 )。2cmを超える巨大腺腫を有し血中プロラクチン濃度がきわめて高い患者では, ドパミン 作動薬投与に加えて外科手術または照射治療が必要となる場合もある。下垂体への超高圧放射線照射を併用,または単独で行うこともある。より大型の腫瘍およびトルコ鞍上への進展では,蝶形骨経由または前頭骨経由のいずれでも腫瘍の完全切除は不可能なことがあり,その場合は補助的な超高圧放射線照射が正当化される可能性がある。
下垂体卒中で,視床下部圧迫による視野障害や動眼神経麻痺が突然生じた場合や傾眠が昏睡へと進行した場合には,直ちに外科手術を行う必要がある。少数の症例では,高用量のコルチコステロイドおよび一般的な支持療法を用いた管理で十分であるが,通常は腫瘍の経蝶形骨減圧術を直ちに行うべきである。
外科手術および放射線照射に続いて他の下垂体ホルモン機能欠損が続発する恐れがある。放射線照射を受けた患者は内分泌機能を長年かけて徐々に失う場合がある。このため,治療後にはホルモン状態を頻繁に評価すべきであり,3カ月後,6カ月後,およびその後は年1回の検査が望ましい。このような評価には,少なくとも甲状腺機能および副腎機能の評価を含めるべきである。また,視交叉の線維化に関連する視覚障害が生じる可能性もある。特に腫瘍組織が残存する場合には,初めの約10年間は少なくとも2年毎にトルコ鞍の画像検査および視野検査を行うべきである。
最終改訂月 2007年2月
最終更新月 2005年11月
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