メルクマニュアル18版 日本語版
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はじめに

甲状腺は前頸部の輪状軟骨直下に位置し,峡部によって連結された2つの葉からなる。甲状腺濾胞細胞は,テトラヨードサイロニン(サイロキシン,T4)およびトリヨードサイロニン(T3)の2種の主要甲状腺ホルモンを産生する。これらのホルモンは,核内受容体に結合して幅広い遺伝子産物の発現を変化させることによって実質的に全身のあらゆる組織の細胞に作用する。甲状腺ホルモンは,胎児や新生児では脳および身体の組織の正常な発育に必要とされ,あらゆる年齢層で蛋白,糖質,および脂肪の代謝を調節する。

T3は最も活性が高く,T4にはわずかなホルモン活性しか認められない。しかし,T4は長時間保持されて(大半の組織で)T3に変換されるので,T3の貯蔵庫として働く。3つ目の甲状腺ホルモン,リバースT3(rT3)は代謝活性をもたないが,ある種の疾患ではrT3濃度が上昇する。

さらに,傍濾胞細胞(C細胞)はカルシトニンを分泌し,高カルシウム血症に反応して放出されるこのホルモンが血清カルシウム濃度を低下させる(水分と電解質代謝: カルシウム代謝の調節を参照 )。

甲状腺ホルモンの生合成と放出

甲状腺ホルモンの合成にはヨードが必要である。飲食物からヨウ化物として摂取されるヨードは甲状腺で活発に濃縮されて,濾胞細胞内で甲状腺ペルオキシダーゼによって有機ヨードに変換される(有機化)。濾胞細胞はコロイドで満たされた空間を取り巻いており,このコロイドは,基質内にチロシンを含む糖蛋白サイログロブリンからなる。濾胞細胞の細胞膜に接したチロシンは,1カ所(モノヨードチロシン)または2カ所(ジヨードチロシン)でヨード化されて,互いに結合して2種の甲状腺ホルモンを形成する(ジヨードチロシン+ジヨードチロシンT4;ジヨードチロシン+モノヨードチロシンT3)。

濾胞細胞がコロイド小滴としてサイログロブリンを取り込むまでは,T3およびT4は濾胞内のサイログロブリンに組み込まれたままである。甲状腺濾胞細胞内に一旦入ると,T3およびT4はサイログロブリンから切断される。続いて遊離T3および遊離T4は血流中に放出されて血清蛋白に結合して輸送されるが,主要な血清蛋白の1つにT3およびT4に対する親和性は高いが容量は小さいサイロキシン結合グロブリン(TBG)がある。TBGは,正常では結合甲状腺ホルモンの約75%の担体である。その他の結合蛋白としては,T4に対する親和性は高いが容量は小さいサイロキシン結合プレアルブミン(トランスサイレチン),およびT3やT4に対する親和性は低いが容量は大きいアルブミンがある。血清T3全体の約0.3%および血清T4全体の0.03%は遊離型で,結合ホルモンと平衡を保っている。遊離T3および遊離T4のみが末梢組織での作用に利用できる。

T3およびT4の形成,放出に必要な反応は全て甲状腺刺激ホルモン(TSH)の調節を受けており,これは下垂体のTSH産生細胞によって分泌される。TSH分泌は下垂体のネガティブフィードバック機構で調節されている:遊離T4濃度および遊離T3濃度が上昇するとTSHの合成,分泌は抑制され,低下するとTSHの分泌は増加する。TSH分泌は視床下部で合成される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の影響も受けている。TRHの合成や放出を制御する詳細な機序は不明であるが,甲状腺ホルモンからのネガティブフィードバックが何らかの役割を果たしている。

循環血液中のT3の大半は,T4が1カ所脱ヨード化されて甲状腺外で産生される。循環血液中のT3のわずか1/4が甲状腺から直接分泌される。

甲状腺機能の臨床検査

TSH測定が甲状腺機能不全を明らかにする最良の方法である。検査結果が正常であれば甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症は基本的に除外されるが,下垂体が甲状腺ホルモンに抵抗性を示す患者や,視床下部および/または下垂体の疾患による中枢性甲状腺機能低下症の患者などまれに例外がある。きわめて重篤な患者では,血清TSHが偽低値を示すことがある。血清TSH濃度によって無症候性甲状腺機能亢進症(血清TSH低値)や無症候性甲状腺機能低下症(血清TSH高値)も確定するが,いずれも血清T4,遊離T4,血清T3,および遊離T3の濃度が基準範囲内にあるという特徴を示す。

血清総T4は結合ホルモンおよび遊離ホルモンを測定している。甲状腺ホルモン結合血清蛋白の濃度が変化するとそれにつれて総T4も変化するが,生理学的に活性を示す遊離T4の濃度は変化しない。したがって,患者は生理的には正常であるが,異常な血清総T4値を示すことがある。血清中の遊離T4は直接測定可能で,総T4濃度を解釈する際の落とし穴を回避できる。

遊離サイロキシン指数(遊離T4指数)は,様々な量の甲状腺ホルモン結合血清蛋白が総T4測定時に及ぼす影響を考慮して総T4値を補正し,遊離T4を推定するための計算値である。甲状腺ホルモン結合率,すなわちT3レジン取り込み率を用いて蛋白の結合を推定する。遊離T4指数は簡便で,遊離T4の直接測定に匹敵する。

血清総T3および遊離T3も測定できる。T3は(T4よりも10倍弱いものの)強固にTBGに結合するので,血清総T3濃度は血清TBG濃度の変化やTBGへの結合に影響を及ぼす薬物に左右される。血清中の遊離T3濃度は前述のT4に対する直接法および間接法(遊離T4指数)と同様に測定され,主に甲状腺中毒症の評価に利用される。

TBGも測定可能であり,妊娠,エストロゲン療法,経口避妊薬,感染性肝炎の急性期などで増加する。また,TBGは伴性異常でも増加する。TBGは,最も一般的には蛋白同化ステロイドおよび過剰なコルチコステロイドによって減少する。フェニトイン,アスピリン,およびこれらの誘導体などある種の薬物を大量に投与すると,T4がTBGの結合部位から分離してしまい,見かけ上は血清総T4濃度を低下させる。

橋本甲状腺炎患者のほぼ全て,およびGraves病患者の大半に甲状腺ペルオキシダーゼに対する自己抗体が存在する(一部の橋本甲状腺炎患者はサイログロブリンに対する自己抗体も有する)。これらの自己抗体は自己免疫疾患のマーカーであるが,恐らく疾患は引き起こさない。しかし,甲状腺濾胞細胞表面のTSH受容体に対する自己抗体はGraves病の甲状腺機能亢進症の原因である。T4およびT3に対する自己抗体は自己免疫性甲状腺疾患患者に認められ,T4およびT3の測定値に影響を及ぼすこともあるが,臨床的意義はほとんどない。

サイログロブリンは唯一甲状腺から供給され,健常者の血清中で容易に検出でき,非中毒性および中毒性の甲状腺腫患者では通常上昇している。血清サイログロブリン測定の主な用途は,甲状腺分化癌に対して(131Iによる破壊を併用して,または併用せずに)甲状腺の亜全摘または全摘を行った患者の評価である。基準範囲内または上昇した血清サイログロブリン値は,TSH抑制量のL-サイロキシンを投与されている患者やL-サイロキシン中止後の患者で正常または悪性の甲状腺組織が残存していることを示す。しかし,サイログロブリン抗体がサイログロブリン測定を阻害する場合がある。

その場合には,放射性ヨード取り込み率を測定する。微量の放射性ヨードを経口または経静脈的に投与し,甲状腺に取り込まれた放射性ヨードの総量をスキャナで検出する。選択すべき放射性ヨード同位元素は123Iで,患者の被曝量はごくわずかである(131Iよりもはるかに少ない)。甲状腺の123I取り込み率はヨード摂取量により大幅に変動するが,過剰のヨードに曝露した患者では取り込み率は低い。この検査は甲状腺機能亢進症の鑑別診断に有効である(Graves病では取り込み率は上昇,甲状腺炎では低下―甲状腺疾患: 診断を参照 )。また,甲状腺機能亢進症の治療に必要な131Iの用量を算出する上でも役立つであろう。

放射性同位元素(放射性ヨードまたは99m過テクネシウム酸塩)投与後の画像をシンチカメラで撮影して同位元素の取り込みを画像化する。取り込みが亢進した(ホット)または低下した(コールド)局所領域は,癌が疑われる領域の鑑別に役立つ(甲状腺癌はホットな結節の1%未満に存在するが,これに対してコールドの結節では10〜20%に認められる)。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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