メルクマニュアル18版 日本語版
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クッシング症候群

クッシング症候群は,血中のコルチゾルまたは関連するコルチコステロイドの慢性高値によって引き起こされた一群の臨床異常である。クッシング病は下垂体のACTH過剰産生に起因するクッシング症候群で,通常は下垂体腺腫に続発する。典型的な症状には,満月様顔貌および痩せた四肢を伴う体幹肥満がある。診断はコルチコステロイド使用歴または血清コルチゾルの上昇によってなされる。治療は原因によって異なる。

病因

副腎皮質の機能亢進には,ACTH依存性の場合とACTH非依存性の場合とがある。ACTH依存性の機能亢進は,下垂体からのACTH過剰分泌,肺小細胞癌もしくはカルチノイド腫瘍といった下垂体以外の腫瘍からのACTH分泌(異所性ACTH症候群),または外因性ACTHの投与などに起因することがある。ACTH非依存性の機能亢進は,コルチコステロイドの治療投与,副腎腺腫や副腎癌などに通常は起因するが,まれな原因として原発性色素性結節性副腎異形成(通常は青少年にみられる)および大結節性過形成(高齢患者にみられる)が挙げられる。

クッシング症候群という用語は原因を問わずコルチゾルの過剰がもたらした臨床像を表すのに対して,クッシング病は下垂体ACTHの過剰による副腎皮質の機能亢進を指す。クッシング病患者は通常下垂体に小型の腺腫を有する。

症状と徴候

臨床症状には,多血性の外観を伴う満月様顔貌,鎖骨上および頸部背側への顕著な脂肪沈着(“バッファローハンプ”)を伴う体幹肥満,通常はきわめて細い遠位四肢や指などが挙げられる。筋肉はやせて筋力低下が認められる。皮膚は薄く萎縮して,傷は治りにくく皮下溢血を起こしやすい。腹部に紫紅色の皮膚線条が現れることがある。高血圧,腎結石,骨粗鬆症,耐糖能障害,感染に対する抵抗力の低下,および精神障害は一般的である。小児では直線的成長の停止が特徴的である。女性では通常月経不順が生じる。副腎腫瘍ではアンドロゲンの産生が亢進するので,多毛症,側頭部の脱毛,およびその他の男性化徴候が女性に出現する。

診断

診断は通常,特徴的な症状および徴候に基づいて疑われる。診断確定および基礎にある原因の調査には一般にホルモン検査や画像検査が必要である。

検査は,尿中への排泄をみる最良の定量法である尿中遊離コルチゾル(UFC)測定から始める(基準範囲20〜100μg/24時間[55.2〜276nmol/24時間])。UFCは上昇して全クッシング症候群患者で120μg/24時間(331nmol/24時間)を上回る。しかし,UFCが100〜150μg/24時間(276〜414nmol/24時間)に上昇している多くの患者では,肥満,抑うつ,多嚢胞性卵巣はみられるがクッシング症候群は認めない。クッシング症候群が疑われUFCが著明に上昇している(基準上限の4倍を上回る)患者は,ほぼ確実にクッシング症候群に罹患している。2〜3回の採尿結果が基準範囲内であれば,診断は実質的に除外される。わずかな濃度上昇は,一般にさらなる調査を必要とする。

古典的にはさらなる調査はデキサメタゾン試験によって完遂されるが,この試験ではデキサメタゾン1mg,1.5mg,または2mgを午後11〜12時に経口投与し,翌朝8〜9時に血漿コルチゾルを測定する。大半の健常者ではこの薬物が朝の血漿コルチゾルを1.8μg/mL以下(50nmol/L以下)に抑制するが,対するクッシング症候群患者では事実上常にこれよりも高値となる。これより特異度が高いが同等の感度を示す検査として,デキサメタゾン0.5mgを6時間毎に2日間経口投与する方法がある(低用量)。一般に,低用量デキサメタゾンに反応して濃度抑制が明らかに生じなければ診断が確定する。

これらの検査が確定的でない場合には,患者を入院させて午前0時に血清コルチゾル測定を行うと,これが決定的となる可能性が高い。コルチゾルは,正常では早朝(午前6〜8時)には5〜25μg/dL(138〜690nmol/L)あり,徐々に低下して午前0時には1.8μg/dL未満(50nmol/L未満)になる。クッシング症候群患者で朝のコルチゾルが基準範囲内ということもときにあるが,日中のコルチゾル産生減少は正常に起こらず,その結果午前0時の血漿コルチゾル濃度は基準範囲を上回り,24時間の総コルチゾル産生は増加する。代わりに,コルチゾール測定用の唾液検体を採取して家庭の冷蔵庫に保存することもある。先天的にコルチコステロイド結合グロブリンが増加している患者またはエストロゲン療法中の患者では血漿コルチゾル値は見かけ上高値を示すが,これらの患者では日内変動は正常である。

ACTH濃度を測定してクッシング症候群の原因を明らかにする。基礎濃度も,特に副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)に対する反応濃度も検出不能であれば,原発性の副腎異常が原因として示唆される。高値であれば,下垂体が原因であると示唆される。ACTHが検出可能であれば(ACTH依存性クッシング症候群),クッシング病と,それよりもまれな異所性ACTH症候群との鑑別に誘発試験が役立つ。高用量デキサメタゾン(2mg,6時間毎に48時間経口投与)に反応して,大半のクッシング病患者では午前9時の血清コルチゾル値が50%よりも低下するが,異所性ACTH症候群患者ではそれはまれである。逆に,ヒト配列またはヒツジ配列のCRH(100μg静注または1μg/kg静注)に反応して,大半のクッシング病患者ではACTHが50%,コルチゾルが20%を超えて上昇するが,異所性ACTH症候群患者ではこれはきわめてまれである(副腎障害: クッシング症候群の診断検査表 2: 表を参照)。局在決定の代替手段として,両側の錐体静脈(下垂体を灌流する)にカテーテルを挿入し,100μgまたは1μg/kgのCRHをボーラス投与してから5分後にこれらの静脈でACTHを測定する方法がある。

表 2

PDF クッシング症候群の診断検査

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ACTH濃度および誘発試験が下垂体性の病因を示唆する場合は下垂体画像を撮影する;ガドリニウム増強MRIが最も正確であるが,一部の微小腺腫はCTでも確認できる。検査が非下垂体性の原因を示唆する場合は,画像検査には肺,膵臓,および副腎の高分解能CT,放射線標識オクトレオチドを用いたシンチスキャン,およびPETスキャンも含める。

クッシング病の小児では下垂体腫瘍はきわめて小さく,通常MRIでは検出できない。錐体静脈洞からの採血はこのような状況で特に有用である。胎児の放射線被曝を避けるために,妊婦にはCTよりもMRIが望ましい。

治療

まず,高蛋白摂取および十分なカリウム投与によって患者の全身状態を支持する。臨床症状が重篤な場合は,メチラポン250mg〜1g,1日3回経口投与,またはケトコナゾール400mg,1日1回経口投与(最大で400mg,1日3回まで増量)でコルチコステロイド分泌を阻害する方法が合理的である。ケトコナゾールの方が容易に入手できるが,発現が遅く,ときに肝毒性を示す。

過剰なACTHを産生する下垂体腫瘍は,外科的に切除するか放射線で破壊する。画像上腫瘍が立証されないが下垂体に原因がありそうな場合,特に高齢患者では下垂体の完全切除を試みる。若年患者では通常下垂体に超高圧放射線を照射し,45Gyを投与する。しかし,小児では,放射線照射が成長ホルモンの分泌を減少させ,ときに性的早熟の原因となる。特殊な施設では約100Gyを投与する重粒子線照射がしばしば奏効し,単回照射として行われる単一集束ビーム放射線療法つまり放射線手術も同様である。放射線療法に対する反応が得られるまでには,ときに数年を要する。

両側副腎摘出術は,下垂体試験切除(可能であれば腺腫摘出術)や放射線照射に反応しない下垂体性副腎皮質機能亢進症患者に対してのみ使用される。副腎摘出術ではコルチコステロイド補充が生涯必要となる。

ネルソン症候群は,副腎摘出術後に下垂体が腫大を続けるときに生じ,ACTHおよびその前駆体の分泌が著明に増加して重度の色素沈着がもたらされる。これは副腎摘出術を行った患者の50%以下にみられる。下垂体照射が実施されれば,リスクは恐らく低下する。放射線治療が下垂体の持続的な成長を阻止することもあるが,多くの患者は下垂体切除術も必要となる。下垂体切除術の適応は下垂体腫瘍と同様で,腫瘍が周囲構造を圧迫して視野欠損,視床下部圧迫,その他の合併症をもたらすほど腫大した場合である。過去に放射線照射が行われていなければ,ルーチンの放射線照射がしばしば下垂体切除術後に行われる。標準的な放射線外照射療法がすでに実施されているときには,病変が視神経および視交叉から十分離れている限り,放射線手術,すなわち集束ビーム放射線療法を単回照射で行う場合がある。

副腎皮質腫瘍は外科的に切除する。患者には術中および術後にコルチゾルを投与しなければならないが,それは副腎皮質の非腫瘍部分が萎縮し抑制されているからである。良性腺腫は腹腔鏡で摘出できる。多結節性副腎過形成では,両側副腎摘出術が必要となる場合がある。副腎の全摘が推定された後でさえも,少数の患者では機能の再生が起こる。

異所性ACTH症候群は,ACTHを産生している非下垂体腫瘍を切除することによって治療する。しかし,一部の例では腫瘍が播種しており切除できない。メチラポン500mg,1日3回経口(総量6g/日まで)またはミトタン0.5g,1日1回経口(最大3〜4g/日まで増量)などの副腎阻害薬は,通常は重度代謝障害(例,低カリウム血症)を制御する。ミトタン使用時には,低用量のヒドロコルチゾンまたは高用量のデキサメタゾンが必要となる場合もある。コルチゾル産生の測定は信頼性が低く,重度の高コレステロール血症が生じることもある。ケトコナゾール(400〜1200mg,1日1回経口)もコルチコステロイド合成を阻害するが,ケトコナゾールは肝毒性をもたらす恐れがあり,さらなる症状を引き起こしうる。代わりに,ミフェプリストン(RU 486)でコルチコステロイド受容体を阻害することもできる。ミフェプリストンは血漿コルチゾルを増加させるが,コルチコステロイドの作用を阻害する。ときにACTH分泌腫瘍が長時間作用型ソマトスタチンアナログに反応するが,軽度胃炎,胆嚢結石,胆道炎,黄疸,およびビタミンB12吸収不良が発生する可能性があるので,2年を超える投与では慎重な経過観察を必要とする。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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