メルクマニュアル18版 日本語版
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はじめに

エンテロウイルスは,ライノウイルス(呼吸器ウイルス: 感冒を参照 )とともに,ピコルナウイルス(pico,つまり小さいRNAウイルス)である。エンテロウイルスに属するのは,ポリオウイルス1〜3型,コクサッキーウイルスA1〜A22,A24,B1〜B6,エコーウイルス2〜9,11〜21,24〜27,29〜33,ならびにエンテロウイルス68〜71および73である。コクサッキーウイルスおよびエコーウイルス(Enteric Cytopathic Human Orphan)は抗原的に異なる。ウイルスは,口腔分泌物,便,血液,および脳脊髄液中に排出され,地理的にも広範囲に分布している。

エンテロウイルスは各種の症候群を引き起こす(エンテロウイルス: エンテロウイルスによって起こる症候群表 1: 表参照)。エンテロウイルス疾患/流行は米国では夏から秋にかけて発生する。流行性胸膜痛,手足口病,ヘルパンギナ,およびポリオは,ほぼ例外なくエンテロウイルスにより引き起こされる。エンテロウイルスによって引き起こされる他の疾患は,別の原因を併せもつことがある。

表 1

エンテロウイルスによって起こる症候群

症候群

最もよく関係する血清型

備考

無菌性髄膜炎

コクサッキーウイルスA2,4,7,9などとB2-5;ポリオウイルス1-3;エコーウイルス4,6,7,9,11,および低頻度ではあるがその他のウイルス

乳児および小児に最も一般的;経過は通常良好;発疹または脳炎を伴う可能性あり;ウイルスは咽頭,便,または脳脊髄液からしばしば同定される

結膜炎(出血性)

エンテロウイルス70(一過性の脊髄神経根障害またはポリオ様麻痺が結膜炎にまれに伴う);エコーウイルス7;コクサッキーウイルスA24(結膜下出血を伴う結膜炎の頻度は低い)

結膜下出血および角膜炎を生じる可能性あり;米国での流行はまれ;1-2週間以内に通常は回復

流行性胸膜痛(ボーンホールム病)

コクサッキーウイルスB1-6

どの年齢層でも起こりうる。胸部および上腹部痛

手足口病

コクサッキーウイルスA16;エンテロウイルス71

幼児に最も一般的;小水疱性発疹は通常,短期的で良性

ヘルパンギナ

コクサッキーウイルスA2,4-6,8,10;おそらくコクサッキーウイルス3など

乳児および小児に最も一般的;特徴的な口蓋および咽頭の病変

心筋心膜炎

コクサッキーウイルスB1-5;コクサッキーウイルスA4および16;エコーウイルス9および22

どの年齢でも起こりうる;出生時の疾患(新生児心筋炎)では発熱および心不全を引き起こし,死亡率も高い;他の形態ではしばしば完全に回復する;診断には心筋組織のPCRが必要なことがある

麻痺

ポリオウイルス1-3;コクサッキーウイルスA7など;エコーウイルス4,6など;エンテロウイルス71

無菌性髄膜炎を伴う一過性の軽い不全麻痺は,どの年齢でも起こりうる;年少の小児の方が疾患は一般により軽度である;ポリオウイルスを伴う場合は重度の麻痺が起こりうる

発疹

コクサッキーウイルスA9ならびにB1,3,4,および5;コクサッキーウイルスA4-6および16も関与;エコーウイルス9および16;エコーウイルス2,4,11,14,19および25も関与;無菌性髄膜炎を伴う発疹は,コクサッキーウイルスA9およびB4,エコーウイルス4および16,ならびにエンテロウイルス71から生じうる

発熱は一般的;発疹は通常,かゆみがなく,落屑せず,顔面,頸部,胸部,四肢に発生する;斑丘疹状,麻疹状,またときに出血性,点状出血性,小水疱性;経過は通常良好

呼吸器疾患

エコーウイルス4,8,9,11,20など;コクサッキーウイルスA21および24,ならびにB1および3-5

咽頭痛,鼻感冒,咳,および発熱が最も一般的;経過は通常穏やか;小児では胃腸症状が起こりうる

無菌性髄膜炎は,A群もしくはB群コクサッキーウイルス,またはエコーウイルスによって乳児および幼児にたびたび引き起こされる。年長の小児および成人においては,他のウイルスと同様に他のエンテロウイルス群が,無菌性髄膜炎を引き起こしうる。発疹がエンテロウイルスによる無菌性髄膜炎に併発しうる。まれに脳炎が起こり,重度になることがある。

出血性結膜炎の米国での流行はまれである。アフリカ,アジア,メキシコやカリブ海地域からのウイルスの輸入により流行がより一般的に発生しうる。眼瞼が急速に腫れる。合併症のない結膜炎とは異なり,しばしば結膜下出血または角膜炎が生じ,疼痛,流涙,および羞明を引き起こす。全身性疾患はまれであるが,出血性結膜炎がエンテロウイルス70型による場合は,数例の一過性の腰仙部脊髄神経根障害またはポリオ様疾患が認められている。通常,発症から1〜2週間以内に完全に回復する。コクサッキーウイルスA24も出血性結膜炎を引き起こすが,結膜下出血はそれほど頻繁に起こらない。

B群コクサッキーウイルスおよびいくつかのエコーウイルスにより引き起こされる心筋心膜炎は,出生後に感染(新生児心筋炎)またはまれに子宮内で感染した新生児において発生する。通常,生後数日で,新生児は突然,発熱,嗜眠,播種性血管内凝固,出血,および多臓器(心臓を含む)不全を伴う敗血症に似た症状を来す。中枢神経系,肝臓,膵臓,または副腎などの病変も同時に起こりうる。回復は数週間以内であるが循環虚脱による死亡,または肝臓が侵されていれば肝不全を来すことがある。年長の小児または成人においては,心筋炎がB群コクサッキーウイルスにより,また頻度はより低いがA群コクサッキーウイルスもしくはエコーウイルスにより生じることがある。完全な回復もありうる。

発疹は,ある種のコクサッキーウイルスおよびエコーウイルスによりしばしば流行中に起きる。通常,かゆみがなく,落屑せず,顔面,頸部,胸部,および四肢に現れる。ときに斑丘疹状または麻疹状であるが,出血性,点状出血性,または小水疱性のこともある。発熱がよくみられる。無菌性髄膜炎が同時に起こりうる。

呼吸器感染症がエンテロウイルスにより生じうる。症状には発熱,鼻感冒,咽頭炎があり,一部の乳児および小児では嘔吐および下痢がみられる。気管支炎および間質性肺炎が,ときに成人や小児に起こる。

診断と治療

エンテロウイルス性疾患の診断は臨床的である。臨床検査診断は通常,不要だが,ウイルスの培養,セロコンバージョンの実証,またはときに逆転写酵素-PCRによるウイルスRNAの証明などがしばしば実施される。無菌性髄膜炎を引き起こすエンテロウイルスは,咽頭,便,血液,または脳脊髄液から培養可能である。エンテロウイルス性疾患の治療は支持的であるが,抗ウイルス薬が開発途上にある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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